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2013年5月24日金曜日

ジャッキー・コーガン

(Killing Them Softly)

 監督がアンドリュー・ドミニクで、主演がブラッド・ピット(以下、ブラピ)の犯罪ドラマです。『ジェシー・ジェームズの暗殺』(2008年)のコンビですね。作風もやはり似ておりまして、銃撃戦満載のアクション映画を期待して観に行くと肩透かしを食らいます私は喰らいました。またしても。

 ブラピが主演だからと云って、エンタメ作品とは限りません。と云うか、『ツリー・オブ・ライフ』(2011年)とか、『ベンジャミン・バトン/数奇な人生』(2008年)なんて文芸作品も多い人ですよ。犯罪映画に出演しているからと云って、アクションだとかサスペンスだと思い込んではイカン……と云う見本のようなものです(と云うか、ブラピのアクション映画って、実は少ないですよね)。
 今年は『ワールド・ウォー・Z』(2013年)の公開が控えているから、これも一緒にとか思われてしまったのでしょうか。

 本作は、どうにも奇妙な映画でありまして、ライアン・ゴズリング主演の『ドライヴ』(2011年)のような、渋いハードボイルドとも違います。
 どちらかと云うと、犯罪者達のグダグダトークが全開になるあたりが、クエンティン・タランティーノ監督の『レザボア・ドッグス』(1992年)のような感じがしました。グダグダなところだけを取り出して、もっと拡大したような感じ。

 原作がありまして、ジョージ・V・ヒギンズの犯罪小説であるそうですが、未読です。そもそも作家でヒギンズと云えば、ジャック・ヒギンズしか知らないし(同姓なだけか)。
 映画公開に伴ってハヤカワ文庫から同じ題名で出版されておるのですが。ちらりと立ち読みしたところ、何だか最近のラノベのように会話主体の小説でしたが、内容それ自体がイマイチ理解できませんでした(そりゃ立ち読みですから)。
 やはりグダグダトークがメインの作品でありましたか。

 大体、犯罪映画のくせにカンヌ国際映画祭(2012年・第65回)に出品されるところあたりで、既に期待している内容ではないと判っても良さそうデス(尤も、『ドライヴ』もそうでしたけど)。
 ちなみにその時のパルムドールは、ミヒャエル・ハネケ監督の『愛、アムール』ね。

 原作は七〇年代でしたが、本作では時代背景を二〇〇八年に変更されております。ビミョーに過去の時代にするのは、この年にアメリカでは大統領選挙があったからで、本作の背景には、これでもかと民主党のバラク・オバマ「候補」と共和党のジョン・マケイン「候補」の選挙演説が挿入されます。
 量的には、もっぱらオバマの演説がかなり引用されていて、犯罪ドラマのくせに妙に政治的な背景が描かれているのも、違和感を感じるところですね。
 しかも特にポリティカル・サスペンスになるとか、政治的陰謀が絡むような展開にはならず、本当に大統領選挙が「只の背景」として描かれております。アクション映画好きの期待を片っ端からハズしまくり。
 実はミニシアター系の文芸作品ですよねえ。シネコンで上映するような代物ではありません。逆にこういうのが好きな人には堪らないのかも。とにかく、万人受けは絶対にしません。

 二〇〇八年のアメリカ、ニューオーリンズ。二人のチンピラ強盗が、マフィアの経営する隠れ賭博場を襲い、大金を強奪する。この賭博場は以前にも襲われたことがあり、仕掛け人は、ここがまた襲われても自分達が疑われることは決してないと計算しての計画だった。
 案の定、「前科」のある男が疑われるが、自分ではないと頑として譲らない。
 犯人を特定できない組織は苛立ち、事件解決を殺し屋ジャッキー・コーガンに依頼する。

 筋書きだけ抜き出すと、いくらでもサスペンス溢れる映画になりそうなのに、絶対にそういう風には持っていきません。ハズそう、ハズそうとする演出が確信犯的です。
 強奪は計画的な犯行ですが、緻密とはとても云い難い。何とも頼りないチンピラ二人組による、おっかなビックリのグダグタ的押し込み強盗。あまりにも危なっかしくて、逆に妙に緊張感が漂っています。ある意味、これもサスペンスか。

 このヘボいチンピラを演じているのが、スクート・マクネイリーとベン・メンデルソーン。
 スクート・マクネイリーは、ガレス・エドワーズ監督のB級怪獣映画の快作『モンスターズ/地球外生命体』(2011年)に出演していた、あのカメラマンの人ですねえ。ベン・アフレック監督の『アルゴ』(2012年)では人質になる大使館員役でした。
 ベン・メンデルソーンは、『キラー・エリート』(2011年)や、『ダークナイト ライジング』(2012年)にも出演していますが、脇役が多いのでよく判りません。『アニマル・キングダム』(2010年)では犯罪一家の長男役でしたが、こちらはスルーしておりまして、やっぱりよく判らんデス。

 主役のジャッキー・コーガン役がブラピでありまして、その他の配役を並べていくと……。
 容疑をかけられる賭場の責任者が、レイ・リオッタ。
 賭場を経営する組織の幹部が、サム・シェパード。
 組織の代理人として、ジャッキー・コーガンとの連絡役を務めているのが、リチャード・ジェンキンスです。
 何とも華が無いというか──女優が全く登場しない、野郎ばかりの映画ですし──、渋い配役が続きます。実力派、演技派と云うのは判りますが。
 でもサム・シェパードの出番は少ないです。もっぱらレイ・リオッタと、時々リチャード・ジェンキンス。

 更に渋いのが、次の二人。
 賭場襲撃の仕掛け人が、ヴィンセント・カラトーラ。TVドラマの方が多い人で、海外ドラマ『ザ・ソプラノズ/哀愁のマフィア』ではルパータッチ・ファミリーの幹部ジョニー・サック役が一番有名ですね。
 そして、ジャッキー・コーガンが助っ人としてNYから呼び寄せるベテランの殺し屋ミッキー役が、ジェームズ・ガンドルフィーニです。『ゼロ・ダーク・サーティ』(2012年)ではパネッタ国防長官役でしたが、何と云っても有名なのは、『ザ・ソプラノズ』のトニー・ソプラノ役でしょう。
 なんで『ソプラノズ』から大物が二人も出演しているのか(笑)。

 しかもトニー……じゃなくて、ジェームズ・ガンドルフィーニは、鳴りもの入りで登場したくせに、何しに出てきたのか判らないと云う、本作ではもっともグダグタな役どころです。
 せっかくブラピが「助っ人が必要だ」と仕事を回してあげているのに、ホテルから一歩も出ることなく、世間話をダラダラと垂れ流しております。どうにも家庭の方が上手く行っておらず、離婚の危機を迎えて酒に溺れているようです。殺し屋も人生に色々と悩みを抱えているんですよ……って、『ザ・ソプラノズ』よりもヒドいッ。

 所帯じみた殺し屋、と云うのもアリかもしれませぬが、本作では殺し屋だけでなく、様々なところで所帯じみた、貧乏くさい、実にセコい描写が炸裂しております。
 組織の代理人であるリチャード・ジェンキンスも、一見すると「デキる弁護士」風ですが、ブラピが仕事の遂行に予算を計上すると、途端に値切り始めます。
 本作では殺しの場面よりも、値切り合戦の方に力を入れているかのように思われます。

 世の中不景気だからと云って、何もこんな裏社会までをしみったれた描写にしなくても良さそうなものです。
 これが冒頭から延々と背景に出てくる大統領選挙と候補者演説に重なってくると云う趣向で、マフィアの世界も人の世であるから、不景気なのよと云いたいのか。リーマン・ショックで裏社会も「経済危機」を迎えているようデス(笑)。
 それにしても、何とも華の無い社会派風の描写でありまして、せっかくニューオーリンズと云う華のある都市を舞台にしているくせに、背景に映るのは「空き家の並ぶ住宅街」だったり、「空疎なスローガンが書かれた選挙運動の看板」だったりします。

 本作の尺は割と短めの九七分ですが、全編こんな調子ですので、だんだんと観続けているのが辛くなってきます。このグダグダ犯罪ドラマはどこまで行くのか。
 しかし当初のファースト・カットは二時間半もあったそうで、何をどうすればこのドラマをソコまで引き延ばせるのか理解できません。アンドリュー・ドミニク監督は本作の脚本も自分で書いておりますので、きっと本筋に全く関係のないトーク場面が満載されていたのでしょう(そんなの絶対、寝ちゃうよ)。

 結局、助っ人までNYから招いたのに、これがサッパリ助けにならないので、ブラピが全部自分一人で片付けねばならない羽目になります。最初からそうしていれば良かったのに。
 本作では、真面目に仕事をするのはブラピ只一人です。
 昼間から酒を飲むこともなく、ドラッグもやらず、きちんと目標を立て、ストイックに矜恃を保って働く人です。但し、完璧を期する余り「事件に関わった者は皆殺しにする」と云うのが徹底していますが。濡れ衣を着せられたレイ・リオッタも殺されます(シロでなければ、全部クロ)。

 本作中で、一番のハイライトはブラピがレイ・リオッタを殺す場面ですね。雨の降りしきる晩に、交差点で停車したレイの運転する車の隣に自分の車を寄せて、運転席越しに問答無用にズドンとお見舞いする。
 画面がスローになり、砕け散るウィンドウの破片と、雨の水滴がキラキラと宙を舞い、実に美しい。本作中で最もスタイリッシュな場面です。
 逆に何故、ここだけこんなにカッコイイのか判りません。他は全部グダグダなのに。

 続いて仕掛け人であるヴィンセント・カラトーラも始末しに行きます。ブラピが動き始めたらサクサク進行していきます。胸のつかえが一気に取れるような急展開。
 ショットガンを構えたブラピのプロフェッショナルな姿は惚れ惚れしますね(これが本作のキービジュアルとしてポスターやパッケージに使われています)。
 まぁ、見せ場はここしかありませんから。

 最後に実行犯のチンピラも片付け、あっと云う間に事件解決。
 代理人であるリチャード・ジェンキンスに全部片付いたことを知らせて、報酬を受け取ろうとします。どこぞのバーで落ち合いますが、ここでも店のTVが大統領選挙の演説を流している。
 オバマが「人種や職業を越えた共同体としてのアメリカを」と訴えておりますが、ブラピの評価は辛辣です。「ひとつの共同体だと。笑わすな」

 自分の実力だけで生きているプロからすれば、お笑いぐさだと云うわけでしょうが、そこまで政治を風刺するドラマでもなかったように思います。それとも二時間半バージョンではそうなっていたのかしら。
 ここでもまた代金を値切ろうとするリチャード・ジェンキンスにブラピがブチ切れるところでエンドです。
 「アメリカは国家なんかじゃない。ビジネスなんだ。さあ、払えッ」
 不景気なのを人の所為にするな、他人に助けてもらおうと考えるな、自分の事は自分で何とかしろと、ブラピに説教されているようでありました。でも社会風刺するよりも先に、ドラマとして面白いものをお願いしたかったデス。

● 追記
 本作に於いて、グダグタな殺し屋ミッキーを演じておりました、トニー……じゃなくてジェームズ・ガンドルフィーニさんが心臓発作の為、急逝されました(2013年6月19日逝去)。
 味わい深い悪役だったのに、惜しいことです。
 遺作は本作……と云うよりは、『ゼロ・ダーク・サーティ』と云うことにしておいた方が宜しいでしょうか。




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