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2012年7月27日金曜日

ダークナイト ライジング

(The Dark Knight Rises)

 クリストファー・ノーラン監督による〈バットマン〉三部作の完結編です。「伝説が、壮絶に、終わり」ました。しかも実に見事に。
 三作揃って一本の作品であるかのように関係しておりますので、是非とも『バットマン ビギンズ』(2005年)、『ダークナイト』(2008年)と続けて御覧になることを強くお薦めします。でもマラソン上映はキツいか。
 元々、どれも尺が長めでしたが(『~ビギンズ』が 141分、『ダークナイト』が 152分)、遂に本作は 165分という大作になりました。どんどん長くなる。面白いのでそれは結構なことなんですけどね。

 本作でバットマンの敵となる悪役はベイン。
 実を云うと今までベインがあまり好きではありませんでした。個性的なバットマンの敵の中でも地味だし、ジョーカーとかトゥーフェイスと云った華のある悪役に比べると、どうしても見劣りしてしまう。
 大体、アイツは見た目が「只の覆面レスラー」ではないかッ。
 ベインは、かつてジョエル・シュマッカー監督の『バットマン&ロビン/Mr.フリーズの逆襲』(1997年)にも、チラリと登場しておりましたが(ユマ・サーマンの手下役として)、怪力無双だけでは印象薄いです。そんな奴にこの三部作のトリを飾ることが出来るのか。
 しかも前作のヒース・レジャー演じたジョーカーと、アーロン・エッカート演じたトゥーフェイスの後ですよ。ハードル高すぎで甚だ心配でした。

 結論から申し上げると、「すまん。俺が悪かった。疑って申し訳ない」です。
 デザインの変更と、優れた脚本、そして演じたトム・ハーディの名演技でベインは生まれ変わりました。
 ヒース・レジャーのジョーカーの対極を行くような、真剣で実直でストイックな悪党です。天才型ジョーカーに対する秀才型ベインと云う図式ですね。
 しかも「秀才はどんなに頑張っても天才の閃きの前には及ばない」というセオリーも踏まえての描かれ方が哀しくも美しいです(私の思い込みですかね)。
 マスクが口元の呼吸器だけになって、他の部分が露出しているのがいいですね。これが丁度、バットマンとは逆のデザインのように見受けられる。

 原作の方でも印象薄いベインの設定にはテコ入れが図られたようで、最初はただ「バットマンの背骨をへし折る」だけの悪役だったのが、実はそれなりに悲惨な出生の秘密があり、蝙蝠に対する異様な対抗心があることや、実は深い知性の持ち主だったとか、過酷な人体実験で筋肉は増強されたがドラッグの吸入を怠ると死ぬとか、ラーズ・アル・グールの娘タリアと婚約していたなどと云うエピソードが設けられました。
 特にタリアはかつてはバットマンの恋人でもあったというエピソードもある──それどころか、タリアの生んだ「バットマンの息子」というキャラもいる──くらいなので、ようやくバットマン悪役列伝の中でもそれなりの地位を獲得できたように見受けられます。
 本作でもそれらのエピソードを巧くアレンジしながら設定を取り入れています。

 特に出生の秘密と、ラーズ・アル・グールとの関係を取り入れたのが効いてます。
 だから本作は前二作のキャラまで動員しての完結編になりました。
 まずはレギュラー出演陣。クリスチャン・ベール、マイケル・ケイン、ゲイリー・オールドマン、モーガン・フリーマンは当然のことに皆勤賞。
 ラーズ・アル・グールも回想シーンでチラ見せ登場するので、リーアム・ニーソンがカメオ出演しています。これにはビックリ。
 まぁ、欲を云うなら、我らが渡辺謙にも出演してもらいたかったところですが、あの設定では無理か。ノーラン版バットマン唯一のクレームの付け処が渡辺謙の扱いですから。

 そしてノーラン監督作品のレギュラー俳優さんも本作に登場しています。まずはスケアクロウことクレイン博士役であったキリアン・マーフィもさりげなく皆勤賞ですねえ。
 そしてキャット・ウーマンことセリーナ・カイル役のアン・ハサウェイ。歴代キャット・ウーマンの中でも光ってますねえ(これは贔屓目か)。
 露出度は低いがあのスタイルで、バッドポッドにまたがって運転する姿がセクシーです。出来ればもっと背後からアップにするアングルで撮って戴きたかった。
 本作のキャット・ウーマンは『バットマン・リターンズ』(1992年)のミシェル・ファイファーに比肩しますよ。是非、アン・ハサウェイでスピンオフ作品を制作して、ハル・ベリーのアレを葬り去って戴きたい。
 その他にもマリオン・コティヤールや、ジョゼフ・ゴードン=レヴィットもいます。こうしてみると『インセプション』(2010年)とかなりカブってますねえ。

 ノーラン監督としては、半分以上をIMAXカメラで撮影したので、出来る限りIMAXシアターで鑑賞して欲しいというのが御希望のようですが、通常の劇場で鑑賞してしまいました。それでも迫力充分ですが。
 映像も迫力がありますが、もうハンス・ジマーの劇伴にテンション上げまくり。実に高揚感のある音楽です。ゾクゾクします。

 本作は前作から八年後のゴッサム・シティが描かれます。バットマンがハービー・デント判事殺害の汚名を着たまま姿を消し、成立したデント法のおかげで街に平和が戻った。ブルース・ウェインはバットマンを引退したのみならず、実業家としても一線を退き、会社の経営を人任せにして引きこもりな生活を続けていた。
 しかし南米某国から護送途中に脱獄した囚人ベインが、ある目的の為にゴッサム・シティに潜入する。地下に潜伏し、何事かを画策するベイン。今こそゴッサムはバットマンを必要としているのだった。

 派手に登場して悪の限りを尽くすジョーカーに対して、長い潜伏期間とそれなりの準備を行うベインが対照的ですねえ。やはりベインは努力型の悪党ですね。
 地味にこつこつと頑張り続け、タイミングを計って一気に行動を起こす。
 ゴッサム・シティの川にかかる橋を落とし、トンネルを崩し、街を孤立させる(ゴッサムはNYのような島の上の都市だったらしい)。ウェイン産業が開発中の核融合炉を強奪し、核爆弾に改造した上で、都市の孤立を宣言する。
 おまけにデント法によって捕らえられた凶悪犯を収監した刑務所を解放し、犯罪者らをゴッサムに解き放つ。
 強引に『ニューヨーク1997』(1981年)を実現化したワケですが、その狙いは何なのか。

 欲得では動かず、ただ「人が不幸になるのが見たい」という不条理なジョーカーも始末に負えませんが、最初からはっきりと目的を持ち、脇目もふらずに「ゴッサム・シティを壊滅させる」為だけに動くベインもまた処置なしです。
 八年のブランクを隔てて戻ってきたバットマンだったが、アルフレッドの危惧したとおりベインに敗北を喫してしまう。脊椎に損傷を受けるのが原作通りです。
 ベインはブルースを殺さずに、かつて自らが幽閉されていた南米某国の刑務所に放り込み、ゴッサムが滅亡するさまを見せつけようとする。
 刑務所の名前が「ペーニャ・ドゥーロ刑務所」ではなく、〈ピット〉であるあたり、ラーズ・アル・グールとの関係をほのめかすようでありますが、原作を知らなくても心配はないですね。

 原作エピソードでは、ベインに敗北し一時的に引退を余儀なくされたバットマンの留守中には、別人(アズラエルと云う別のヒーロー)が代役となってバットマンを務めるという展開があったのですが、そこはスルーでした。
 まさかジョゼフ・ゴードン=レヴィットがアズラエルなのか──と思ったのですが。実はジョゼフには、アズラエルどころか、もっと別の役目があったのでした。ベインだけでもマイナーぽいのに、この上、アズラエルまで登場させるとややこしくなりすぎですかね。
 ジョゼフの役は孤児院出身のジョン・ブレイク巡査という一介の警官ですが、観察眼が鋭くブルースがバットマンであることを見抜いてしまう。これはただの警官で終わる筈があるまいと思っておりましたが、名前がブレイクだから、アズラエルではないか(アズラエルの本名はジャン・ポール・ヴァレーだし)。

 今までバットマンの相棒ロビンは、映画版ではほとんど出番がなく、ティム・バートン版でも無視され、ジョエル・シュマッカー版でやっとクリス・オドネルがロビンを演じておりました。
 原作でのロビンは、実は何人もおり、初代から今は四代目まで数えるとか。
 有名なのは初代ロビンであるディック・グレイソン(クリス・オドネルが演じたのも彼)ですが、二代目ロビンのジェイソン・トッド、三代目ロビンのティモシー・ドレイクあたりが有名なところでしょうか。
 ジョゼフの演じる「ブレイク巡査」が、何となく三代目の「ドレイク」に似ていたので、よもや──と思ったりもしました。
 また、バットマンの影武者にならずとも、ナイトウィングと名乗ってくれるのか……とか、期待してしまいました(初代ロビンは相棒を「卒業」した後はヒーローとして独立し、ナイトウィングを名乗ることになっている)。

 そんなことを色々と考えているうちに、物語はどんどん展開し、結局はブルース・ウェインが弱点を克服し、再びバットマンとして復帰することになり、ブレイク巡査は本作では仮面のヒーローとなることは無かったです。仕方ないか。
 劇中ではバットマンが「戦うなら仮面を付けろ」と教えを垂れる場面もありましたけどね。
 劇中では半年近い年月が経過し、ベインの企む長い長い復讐計画が明らかになるワケですが、短期決戦にしておけば勝てたのにと思わずにおられません。
 愛するタリアの為に──ここまでタリアにベタ惚れのベインと云うのも珍しい──最後まで身体を張って戦い続けるベインにはもっと頑張って戴きたかったところですが、タリアが正体を現したところで、あっさり退場です。
 そしてゴッサム・シティ消滅のカウントダウンが始まる。

 ゴッサムを救う為に「全てを捧げて」戦うバットマンの勇姿には思わず泣けることでしょう。ここまで描いてしまうとは、ノーラン監督も思いきったことをするものです。
 エピローグがまた泣ける展開で、思わず「その続きはッ?」と問い質したい衝動に駆られますが、ここで綺麗に終わらせるのが潔いのでしょう(色々と解釈できるネタを散りばめてくれていますが)。

 次はまた、別の監督&俳優で、新たな物語を構築するのが宜しいのでしょう。
 原作の映画化なら『ハッシュ』、『ロング・ハロウィーン』、『ダーク・ビクトリー』あたりを基にしてお願いしたいです。




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