2012年4月1日日曜日

ドライヴ

(Drive)

 ジェイムズ・サリス原作のハードボイルド小説『ドライブ』の映画化作品です(ハヤカワ・ミステリ文庫は映画公開に合わせて『ドライヴ』に改題しました。「ブ」でも「ヴ」でもあまり変わりませんケド)。
 本作は昨年の(2011年・第64回)カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞しております。
 監督はデンマーク出身のニコラス・ウィンディング・レフン。監督賞も納得の職人技です。

 監督がデンマークの人だからか、実にヨーロッパ映画的な犯罪サスペンス映画です。フランス語に吹替たら、立派なフィルムノワールになるでしょう。
 あるいは邦画の任侠映画のようでもあります。主人公が実にストイックで寡黙な上に、惚れた女の為には貧乏くじを引くことも厭わないところが似てるか。

 逆にアメリカ映画的であるとは感じられませんでした。カリフォルニアが舞台なのに。
 原因はあまり銃を撃たないことか。劇中でも発砲シーンはごく僅かで、もっぱらナイフでぶすぶすと地味に刺し合う場面の方が印象深い。
 ド派手な銃撃戦が無いとアメリカっぽく感じられないとは、難儀なことです。

 主演はライアン・ゴズリング(以下、ゴズりん)。
 『きみに読む物語』(2004年)の青年役と云われてもピンと来ませんでしたが、『ラースと、その彼女』(2007年)でダッチワイフを「俺の嫁」にしてしまう男の役と云われて思い出しました。
 『ブルーバレンタイン』(2010年)とか、『ラブ・アゲイン』(2011年)とかもスルーしております。いかんいかん。『スーパー・チューズデー/正義を売った日』(2011年)は観に行かねば。
 若手俳優の中では演技派ですねえ。もっと売れて戴きたい。

 ゴズりんは運転テクニック抜群のドライバー。その腕を活かして、昼は映画会社の撮影所でカースタント、夜は非合法なバイト──いわゆる「逃がし屋」──に勤しんでいる。
 強盗の幇助は絶対にしない。決められた場所で、決められた時間に乗った客を、何があろうと目的地まで送り届けるのが仕事。その際に、客が銃を持っていようが、覆面をしていようが、現金を詰めたバッグを抱いていようが、関係なし。無論、警察から追われていたとしても。
 ウォルター・ヒル監督の『ザ・ドライバー』(1978年)を彷彿といたします(主人公に名前が無いところも含めて)。

 冒頭で、早速にひと仕事こなすゴズりんの華麗なドライビング・テクニックを披露。猛スピードで走るだけが「逃がし屋」ではない、という描写が玄人好みです。
 警察無線を傍受しながら、時に早く、時にゆっくりと、パトカーをやり過ごし、ヘリの追跡をかわしていく。実に頭脳的な運転です。
 そして詰めは、地元の野球スタジアムの試合終了時刻に合わせて、スタジアムの駐車場に車を乗り捨て、観戦帰りの野球ファンの人混みに紛れて姿を眩ます。必要以上に喋らず、慌てもしないし騒ぎもしない。
 実にクレバーなプロフェッショナルの姿です。

 さて、そんなゴズりんの素性は皆目判らない。
 本名、経歴が一切不明という「名無しの男」。ある日、とある自動車修理工場にふらりと現れて職を求めたのがきっかけで、そこのオヤジ(ブライアン・クランストン)に雇われ、使ってみたら腕がいいので、そのまま居着いてしまった。
 カースタントの仕事も、裏家業のヤバい仕事も、雇用主のオヤジが紹介してくれたもので、友人と呼べる者はそのオヤジ以外、誰もいない。
 低賃金で黙々と働き、ハンドルを握らせればピカイチな謎の男。
 名無しだから適当に「キッド」と呼ばれています。原作小説でも只の「ドライバー」だし。
 爪楊枝を口にくわえてハンドルを握る姿がイカしてます(木枯らし紋次郎か)。でもサソリの紋章がついたジャケットはどうでしょ。あまりゴズりんにヤンキーな格好は似合わないと思うのデスが……。

 最初に設定だけ聞いたときには、ごくフツーのアクション映画と云うか、犯罪サスペンス映画の設定ので、そんな作品がカンヌで賞を取ったりするものかと疑問でしたが、観賞後には疑問も氷解しました。実に丁寧で落ち着いた演出で、風格のある味わい深い作品です。
 じわじわ効いてくる感じ。銃をガンガン撃ちまくって、パトカーが何台もクラッシュするようなド派手な展開はありません。
 その意味ではカンヌ向きと云うか、ヨーロッパでの方で受けがいいのも肯けます。

 物語はシンプルで、孤独な漢の恋の物語です。人妻である女性に向けた叶わぬ恋に殉じ、暗黒街の危険から彼女を守って戦おうとする。
 ゴズりんが想いを寄せる人妻役がキャリー・マリガン。『ウォール・ストリート』(2010年)の方はともかく、『わたしを離さないで』(同年)の演技が忘れがたい。そりゃ『17歳の肖像』(2009年)でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされたくらいですから(あのときは『しあわせの隠れ場所』のサンドラ・ブロックに持って行かれちゃったのでした)。

 キャリーは最初、シングル・マザーのように見えて、幼い息子と二人で暮らしている。ゴズりんはひょんなことからキャリーと知り合い、親しくなる。幼い少年も彼に懐いて、イイ感じで恋が進展していくのかと思いきや、キャリーには服役中の亭主(オスカー・アイザック)がおり、やがて出所してくる。
 この恋敵となる亭主が悪党ならハナシは簡単なのに、実はそれほど悪い奴じゃないから困ります。これでは略奪できん。
 あくまでも想いは胸に秘め、決して口に出さないゴズりんがストイックです。

 出所してきた亭主は真人間に戻ろうとするも、刑務所でのしがらみから再び悪事の片棒を担がされる羽目になる。一文の得にもならないのに、ゴズりんは亭主を助けて逃がし屋を引き受ける。
 計画は、単純な質屋への押し込み強盗の筈だったのに……。
 奪ってしまったのは、マフィアの活動資金四万ドル。おまけに亭主はゴズりんの目の前で射殺されてしまう。
 果たしてゴズりんは組織の追求からキャリーを守り切れるのか。

 暗黒街のボス役がロン・パールマン。いつ見ても強面のゴリさんです。
 面白いのはカリフォルニアを牛耳るボスも、マフィアは怖いという描写ですね。何とか金を取り戻して組織に返却し、身の安全を図ろうとする。地方の企業経営者が、全国的な大企業を怖れるようなものか(笑)。
 クリスティナ・ヘンドリクスもチョイ役で顔を見せてくれますが、出番少ないです。

 ところで実はゴズりん、腕は立つがさほど荒事には慣れていないらしい。
 「貴様、シロウトだな?」と足元を見られる場面もあります。しかし実はアマチュアほど怖いものは無かったのでした。
 キャリーの目の前で組織の手下を半殺しにしてしまう場面があります。彼女を守る為の咄嗟の行動とは云え、アマチュアは手加減が出来ない。
 結果として、相手がピクリともしなくなるまで叩きのめしてしまい、キャリーにドン引きされる。これは哀しい。

 他にも、ハンマーで悪党の腕を叩き折ったりします。容赦無し。地味に怖いバイオレンス。寡黙な男なので表情には出ないけれど、革のグローブをギリギリ握りしめる音で、冷静に見えて怒り心頭な様子が伺えます。
 キャラクターの描写と同様に、アクション演出にも美意識が貫かれています。
 単純な銃撃戦は極力避けようと考えているのは判りますが、おかげで渋いと云うか、華のないアクションが続いていきます。爆発もない。
 車が崖から落ちても、爆発炎上しない。演出もストイックです。

 金を持って逃走するなどと云うことは一切、考えないゴズりん。キャリーの身の安全さえ保証されれば、他には何も要らないなんて、あんたどこまでストイックなの。
 決着を付ける為の呼び出しに応じる際も、キャリーには一言も説明せずに別れを告げる。もう二度と戻って来ないのだと悟るキャリー。
 「あなたと会えた時間は人生で最も幸福な時間だった」
 クサい台詞ですが、ゴズりんが言葉を飾る男ではないのは明らかなので、本音なのでしょう。
 ちょっとお喋りしてドライブしただけなのに。そこまで不幸な男だったのか……。

 ラストは敵と壮絶に刺し合い、これを倒す。四万ドルはその場に置き去り。
 車に乗っていずこかへと去っていくゴズりん。
 まさに孤高のヒーローの姿なのですが……かなり刺されたように見えましたが死なないのかな? それともやっぱり出血多量で長くはないのか。

 実は原作には続編 “Driven” があるそうな。どうやらゴズりんは生き延びたようです。こちらも続けて映画化されないものか。勿論、主演も監督も同一で。

● 余談
 原作者ジェイムズ・サリスには他に『黒いスズメバチ』、『コオロギの眼』等の著作がありますが(いずれも早川ミステリアス・プレス文庫)、サンリオSF文庫にも短編が収録されている方だったとは存じませんでした。
 サンリオSF文庫はもはや絶版となって久しい状態ですが、この中にラングドン・ジョーンズ編『新しいSF』という短編集がありまして、ムアコック、バラード、ディッシュ、スラディック、オールディスといった錚々たる顔触れの中に、サリスの短編も混じっている。ひえー。ニューウェーブも書いていたのか。
 ──って、SF者にしか判らないハナシで恐縮です(汗)。




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