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2012年5月24日木曜日

キラー・エリート

(KILLER ELITE)

 サム・ペキンパー監督最大の失敗作と云われているアレがリメイクされる日がやって来ようとは、世の中ナニが起きるか判りませんな……と思っていたら、リメイクじゃなかった。ちょっとガッカリです。
 ジェイソン・ステイサム主演と聞いた時点で、『メカニック』(2011年)と同様のリメイク作品を期待しておったのですが。
 本作はリメイクではなく、作者ラヌルフ・ファインズの経歴(元SAS隊員)に基づく実話ベースの冒険小説 “The Fether Men” を映画化したものでした(原作小説があったのか)。
 だからペキンパーとは無関係(ちぇっ)。
 ジェイソン・ステイサムやクライヴ・オーウェンが、怪しげなニンジャ軍団と戦ってくれるのだろうとか、ジェームズ・カーンやロバート・デュバルのカメオ出演があるのかもと期待したのに(だからリメイクじゃないってば)。
 しかし原作の題名が “The Fether Men” なのに、何故よりによって “Killer Elite” になってしまうのか謎ですね。だから邦題が『キラー・エリート』なのは正しいワケなのですが……。

 本作はイギリスや中東オマーンを舞台にしたアクション映画ですが、オーストラリア映画です。監督は北アイルランド出身のゲイリー・マッケンドリー。
 これが長編初監督作品とは思えぬくらい良い腕です。CM監督出身者は皆そうか。

 ステイサム主演作品なので、ちょっと荒唐無稽感のあるB級アクションものかと思いきや、意外にも骨太でシリアスな正統派でした。その上、カーチェイスや銃撃戦も迫力あるし、敵対勢力同士の虚々実々の駆け引きもリアルなサスペンス・アクション映画に仕上がっております。
 これは思わぬ拾いものをしました。

 主演は先述のジェイソン・ステイサムとクライヴ・オーウェンですが、オスカー俳優ロバート・デ・ニーロも競演しております。
 全体的にアクション・シーンはステイサムとオーウェンにお任せかと思われましたが、なかなかどうしてデ・ニーロ御大も頑張っておられる。
 さりげない動作で燻し銀のベテラン・オーラを放ち、少ないアクションで印象的な場面を見せてくれます。さすがデス。
 あとはドミニク・パーセルとか、エイデン・ヤングとか、ベン・メンデルソーンといった渋い人達ばかり。
 基本的に野郎ばかりが出てくる男達の映画なので、これといった女優さんは登場しません。
 ステイサムの恋人役がいるくらいか。イヴォンヌ・ストラホフスキーというオーストラリアの女優さん。出演作があまり日本で公開されていないのが辛いですね。

 時に激動の一九八〇年代。
 ステイサムとデ・ニーロはフリーの殺し屋稼業。長年の相棒同士であり、冒頭から息のあった連係プレイを見せてくれます。請け負ったのは中南米某国での要人暗殺。
 計画は順調に進行し、標的を仕留めたと思った瞬間、標的の要人は幼い息子を同行させていたことが判明。少年と目が合い、金縛りになってしまうステイサム。どうしても少年を撃つことが出来ない。
 一瞬の躊躇が原因でステイサムは逆に撃たれ、計画は成功するもののスマートには運ばなかった。デ・ニーロに救われ、九死に一生を得たステイサムは引退を決意する。

 一年後、オーストラリアで恋人と暮らすステイサムの元に、殺しのブローカーから連絡が入る。旧友であり恩人でもあるデ・ニーロが中東オマーンで囚われの身となっている。デ・ニーロを捕らえたオマーンの首長(シーク)は、ステイサムが殺しの依頼を請けることを要望しており、断ればデ・ニーロの命は無い。
 ステイサムは殺し屋稼業へのカムバックを強いられる。

 ステイサムがすんなり依頼を引き受けない反骨キャラだったり、依頼する側もそんなことは先刻承知だったりする読み合いが面白いデス。そしてシークの側にも複雑な事情がある。
 かつて彼はオマーンのとある一族を率いる首長だったが、一族が所有する土地に埋蔵された石油に絡んだ謀略で、三人の息子を失っていた。この汚名を雪ぎ、復讐の掟を果たせぬうちは一族の元に戻ることが出来ない(いまだにそんな因習が残っているのか)。
 しかもシークは末期癌で余命を宣告されている。ただ一人生き残った四男を一族の元に戻して地位を回復させる力は、自分にはもうない。
 ──と云うワケで、三人の息子を殺害した悪党を捕らえ、「自白させた上で事故を装って制裁を加える」仕事をその筋のプロフェッショナルに依頼しようという次第。かなり強引ですが、頼む側も切羽詰まってます。

 この謀略を仕掛けた組織というのが、何を隠そうSAS(英国特殊部隊)。石油の利権を英国に誘導しようという、汚い仕事だったわけです。
 SASの中でもごく一部の者しか知らない極秘任務に就いていた隊員を洗い出し、シークの仇を探し出す。しかしステイサム達の前に秘密結社〈フェザーメン〉──原作小説のタイトルがコレです──が立ちふさがる。
 〈フェザーメン〉は退役したSASの将校達から構成されており、SASに敵対する者たちから、現役・退役を問わず関係者の名誉と安全を守る為に結成された組織だった(なんか互助会みたいデスね)。勿論、現役SASの精鋭たちにも人脈がある。
 だから「殺し屋(キラー)の精鋭(エリート)」という映画の題名もあながち間違いではありませぬが……。
 そして〈フェザーメン〉の実行部隊の隊長が、クライヴ・オーウェン。頭のキレる凄腕です。

 本作はジェイソン・ステイサムの元に参集するフリーの殺し屋達と、クライヴ・オーウェンが指揮する元SASの猛者達とが激突すると云う図式になっております。
 しかしSASと云えば、世界最高水準の特殊部隊ですよ。アメリカにも〈グリーンベレー〉とか〈ネイビーシールズ〉とか〈デルタフォース〉とか、特殊部隊は色々あれど──勿論、他の国々にもありますが──、この手の物語では何故か、英国のSASこそが最高であると云われておりますな(元祖であり手本であるらしい)。そういうものなのか。
 とにかく強敵であることに違いは無い。ステイサムの側は慎重に準備を始めます。

 ステイサム達の標的は三人。これを事故を装って殺す為に、事前の準備をこなしていく姿がいかにもプロフェッショナルです。
 最初の一人が一番、すんなりいきますが(それでも結構、予測不能のアクシデントもある)、仕掛けられた〈フェザーメン〉の側もバカではないので、ナニかおかしいとすぐに察知したりする描写が、なかなかにスリリングです。
 オマーンでの極秘任務に就いていた隊員達が狙われているのではないか……。
 そして作戦も二人目、三人目と進行していくにつれ、相手のガードも堅くなり、仲間内にも犠牲になる者が出てくる。初めのうちは後れを取っていた〈フェザーメン〉側が逆襲に転じてきたりします。

 本作の見どころは、腕ききのプロフェッショナル達が互いの裏をかき合い、罠を仕掛け合うという一種の知恵比べの様相を呈してくるあたりですね。
 そして頭脳戦もスゴイが、作戦が決行された際に発生する突然のアクシデントへの即妙な対応が素晴らしい。
 誰も皆、スーパーマンではないと云う描写がリアルな上に、脚本が巧いので御都合主義的な部分は感じられません。
 また、カーチェイスや銃撃戦は当然、激烈ですし、主演ステイサムのアクションも半端ないです。ビルの屋上からの逃走劇では、御本人がジャンプしております。CGは使用しない本格アクションです。
 ステイサム、頑張ってます。
 もうB級アクション俳優とは呼ばせないと云う決意が漂っているように感じられます(いや、でもそれはそれで寂しいので今後もバカB級にはちゃんと出演し続けて戴きたいものですが)。

 そして目的が達成されたと思ったら、実はまだまだそこから続いていくと云う、二転三転する脚本の妙も巧いです。
 惜しむらくは、ステイサムの恋人が登場して、完全に漢の映画になり切らないことですかねえ。本作の場合、もう華が無くてもいいように思われるのですが。
 プロフェッショナル同士が知恵と体力を尽くして対決するのが面白いのに、そこに何も知らない素人の女性を登場させてもねえ。
 しかも設定上、恋人はステイサムとは幼少時からの知り合いですよ。「幼馴染みの彼女」なんてキャラは本作には不要であると、強く主張したい。特に相手役がステイサムである場合は、尚更デス(つくづくロマンス向きの展開が似合わない人ですねえ)。

 本作は実話ベースのフィクションであるので、何となく双方の陣営がテロの応酬を繰り返しているようにも見受けられ、「宣戦布告無き戦には終わりなど無い」のだという、二一世紀現代の暗い側面が伺えたりします(物語自体は八〇年代ですが)。
 一件落着後、エンドクレジット前に、一九九一年になって本作の原作小説が出版された旨が字幕で表示されます。
 ──しかしSASはオマーンへの関与を否定している(そりゃそうだ)。その後の彼ら(ステイサムやデ・ニーロ達)の消息は、杳として知れない。
 あまり実録ものであるという強調は必要無いのではないかと思われますが、硬派のアクション映画としては満足できる出来映えでした。




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