2015年5月24日日曜日

パレードへようこそ

(Pride)

 サッチャー政権下のイギリスでおきた大規模な炭鉱労働者のストライキを支援したロンドンの同性愛者達の活動を描いた実話に基づくヒューマンドラマです。
 併せて、イギリスで同性愛者の権利が認められた法案は如何にして可決されたかにも触れられていて、歴史秘話的エピソードにもなっております。いや、秘話と云うほどでもないか。日本人だからあまりよく知らなかっただけか(いや、英国でもあまり知られていなかったような……)。

 あまりシリアスにならずに適度なユーモアを交えて描いていて、お薦めのドラマです。たった三〇年ほど前の出来事ですが、実に興味深い。
 劇中ではエイズがいかにも怖ろしい不治の伝染病であるかのように思われている描写もあって、時代を感じます(今、観るとかなりオーバーなところもあるし)。
 それを考えると、三〇年でこんなに意識が変わってしまうのかと、ちょっと驚きでもあります。

 イギリスに於いて同性愛は長らく犯罪であると見做されていたと云うのは、先頃公開されましたベネディクト・カンバーバッチ主演の『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』(2014年)でも描かれておりましたね。
 本作で描かれた法案の可決がもっと早ければ(五〇年くらいな)、アラン・チューリング博士を始めとした英国のゲイの皆さんも大勢救われたであろうに。

 また、大規模な炭鉱労働者のストライキと云うと、まさにマーガレット・サッチャー首相の半生を描いた伝記映画『マーガレット・サッチャー/鉄の女の涙』(2011年)にも描かれておりました。
 あちらでは英国経済立て直しの障害である労働組合との対決に、メリル・ストリープが断固として立ち向かい、遂に政府側が勝利した──と描かれておりましたが、今度はそれを労働者の側から見てみようと云う趣向です(同性愛者の視点からも)。

 炭鉱労働者のストライキが続いて、炭鉱が次々に閉鎖されていった頃の物語というと、本作以外にも『リトル・ダンサー』(2000年)などが思い出されます。『ブラス!』(1996年)にも炭鉱労働者によるサッチャリズム批判が描かれておりましたので、併せて観ると興味深いかも。
 本作では更に、炭鉱労働者のストライキを支援した同性愛者グループ──LGSM(炭坑労働者をサポートするレズビアンとゲイ “Lesbians and Gays Support the Miners” )って、ネーミングがそのまんまやね──と、坑夫達との交流が描かれ、意外な繋がりがあとあとになって効いてくる演出なのが巧いです。

 本作の原題が “Pride” であるのに邦題では「パレード」になっているのは、同性愛者達が権利獲得を目指して行った社会運動が「プライド・パレード」とか「ゲイ・パレード」とか呼ばれていることに基づいているのでしょう。同じ用語の前半を取るか、後半を取るかの違いですが、意味するところは同じか。
 実際、同性愛者達を支援する人達がイベントに参加する様子も描かれておりますので、『パレードへようこそ』は内容としては合ってます。実際、行進しますし。
 ちなみに、イマドキの性的マイノリティは、「L(レズビアン)」と「G(ゲイ)」だけでなく、「B(バイセクシュアル)」と「T(トランスジェンダー)」も含めて、LGBTと呼ばれるのだとか。

 本作の監督はマシュー・ワーカス。舞台演出の多い方だそうで、映画監督作品としてはシャロン・ストーンやニック・ノルティ、ジェフ・ブリッジスが出演した『背信の行方』(1999年)に続く、二作目になるのだそうな。ほとんど舞台演出の方がメインですね。
 実は本作のミュージカル化も企画されているそうですが、やはり監督本人の演出でしょうか。
 本作には八〇年代当時のヒット曲が背景にガンガン流れております──カルチャー・クラブの「カーマは気まぐれ(Karma Chameleon)」とか実に懐かしい──ので、ロック・ミュージカルみたいになるのか。頑張ってトニー賞を目指して戴きたいです。

 主演はビル・ナイ、イメルダ・スタウントン、ドミニク・ウェスト、パディ・コンシダインといった英国俳優の皆さん。
 ビル・ナイは英国俳優の大御所ですねえ。イメルダ・スタウントンもそうか。このお二人はあちこちでお見かけします。おかげでドラマがかなり安定しております。
 ドミニク・ウェストは『300 〈スリーハンドレッド〉』(2007年)のスパルタの議員役だったり、『ジョン・カーター』(2012年)の悪の皇帝役だったりしますが、個人的には悪役が多い印象です。本作では、〈LGSM〉のゲイの一人として登場し、劇中で見事なダンスを披露してくれます。チョイ悪なイケメン・ゲイです。
 パディ・コンシダインは、炭鉱労働者の組合員の役です。エドガー・ライト監督の『ワールズ・エンド/酔っぱらいが世界を救う!』(2013年)ではサイモン・ペグに振り回されてパブ巡りにつき合わされる旧友の一人でしたね(そう云えばアレにはビル・ナイも共演しておりました)。

 一九八四年、イギリスでは炭鉱労働者の大規模なストライキが四ヶ月目に突入しており、ニュースでも社会問題として取り上げられ、サッチャー首相が「強いリーダーとして断固たる態度で臨みます」と語る当時の映像が引用されております。さすが鉄の女(ちょっと懐かしいぞ)。
 一方、ロンドンでは同性愛者達が権利を求めるデモ行進を行っておりましたが、警官隊による強硬な取り締まりが無かったことを訝しく思っていると、その原因は地方で多発する炭鉱労働者達の暴動の為に、警察の人手がそちらに割かれている所為だと判明する。
 これを知った同性愛者達のリーダーの一人、マーク(ベン・シュネッツァー)は「弱者同士、共闘するべきだ」と主張し、支援組織〈LGSM〉を立ち上げる。

 「弱者同士の共闘」と云うフレーズで思い出した作品がありました。ガス・ヴァン・サント監督の『ミルク』(2008年)。そこで同性愛者の地位向上を目指した実在した議員ハーヴェイ・ミルクを演じたショーン・ペンが語っておりました。
 同性愛者を排斥しようとする社会は、決してそこでは止まらないだろう。次々に標的となる弱者を変えながら排斥を続けていくのだ。今はゲイだけかも知れない。しかしゲイを排斥し終わると、次は身障者や貧困層や高齢者が排斥の対象になるかも知れない。だからここで退いてはならないのだ、と云う旨の台詞があったと記憶しております(記憶が朧で恐縮です)。
 本作ではふたつの社会的弱者──同性愛者と炭鉱労働者──が団結して困難に立ち向かっていきます。

 まぁ、ショーン・ペンほど感動的にストーリーは進行しません。どちらかと云うと、もっとユルユルとですが、〈LGSM〉は募金活動を開始します。街頭に立って募金を呼びかけるだけで「ヘンタイ!」と罵られますが、ゲイ達の方も毎度のことなので軽く流してしまっております。
 しかしようやくある程度の金額が集まってきたところで、これを寄付しようとしても受け付けてくれる団体が見つからない。
 各地の炭鉱労働組合に電話しますが、どの組合も〈LGSM〉の名称を説明したところで断ってしまう。「ホモのカネは受け取れないのか!」と怒るメンバー。
 ようやく見つけたのが、ウェールズ地方の小さな炭鉱町の組合。
 ここからウェールズの人達と〈LGSM〉のメンバーの交流が始まっていきます。

 義援金を受け取りにロンドンに派遣されてきた組合の代表者パディ・コンシダインが、同性愛者の集まるゲイバーでスピーチします。周囲が全員ゲイである中にノーマルが一人混じっている状況がなんか可笑しいデス。
 しかし真摯に、街を代表して感謝の意を伝え、ゲイ達から拍手喝采を受けます。バディの真面目な人柄が伺えます。特に、組合のシンボルである「握手する二つの手」の説明がいいですね。
 「炭坑夫に勝利を!」と盛り上がるゲイ達。

 そして今度は〈LGSM〉のメンバーがウェールズ地方を訪れることになるわけで、ドラマはロンドンとウェールズを何度も往復します。
 劇中では大きな川に架かる橋を渡る場面が二度ほど映ります。この川はイングランドとウェールズの境界になるブリストル海峡に繋がるセバーン川ですね(海外旅行の経験は乏しいですが、個人的に行ったことのある場所が映るとちょっと嬉しい)。
 他にも随所に挿入される田園や遺跡といったウェールズ地方の風景が美しいです。

 しかし炭鉱町の方では同性愛者達がやって来ることで、騒ぎが持ち上がる。本作は、小さな田舎町の偏見が是正されていく過程がなかなか面白く描かれております。
 特に「よく知らないから偏見を持つのだ」という主張は明快で判り易い。直に会えば相手が思っていたような人物ではないのはすぐに判るハナシで、それでも尚、拒むのは己が狭量であるだけのことだと云う演出になっております(あるいは別のところに原因がある)。

 とは云え、大方の住民は割と簡単に打ち解け合ってしまいます。特に中高年の女性達の積極的アプローチにはちょっと笑ってしまいました。やはりオバチャンは強い。興味津々でゲイ達を質問攻めにしております。
 他にも、女の子にモテたいと云う切実な願望から、都会的なダンスが踊れるゲイの男に師事する若い者が出始め、偏見が打破されていきます。
 もはや歓迎の催しが異文化交流の様相を呈しているのが笑えました。
 また、警察とトラブルの絶えない同性愛者達から、法的な対処の仕方を教えてもらって炭鉱暴動で留置された旦那や息子を取り戻す家庭も現れ、異文化交流には実効的な側面があったことも描かれます。やはり恩恵を受けると偏見は簡単に覆りますね。

 印象的なのは、一人が「パンと薔薇」を歌い始め、やがて全員が合唱する場面でしょうか。元は、二〇世紀初頭のアメリカで起きた移民労働者たちのストライキに由来するスローガンだそうですが、歌で人々が団結することを表した本作中の名場面であります。
 人間には、パン(生活)もバラ(尊厳)も必要なのです。
 本作には劇中でメジャーなヒット曲が何曲も流れますが、一曲選べと云われたらこの曲でしょう。

 まぁ、ストーリー的にはそんなにとんとん拍子に進むわけでは無く、偏見を捨てられない人からの心ない中傷や、タブロイド紙に密告記事が掲載されたりして波風が立つ展開もあります。〈LGSM〉の活動がマスコミに取り上げられて、ゲイであることが親バレするものも出たりします。
 しかし基本的に中傷や弾圧にはユーモアで立ち向かおうと云う姿勢なのが好ましいですね。レッテルを貼られたら、そのレッテルを利用するのだ。

 でも史実として、炭鉱労働組合は敗北しますし(サッチャーめ!)、支援活動が苦い結末を迎えるのは避けようが無い。そこはちょっと残念なところです。
 しかしその時には人々の間には固い絆が結ばれていたのだと云うのが救いです。
 だから翌年の春、再び巡ってきた同性愛者達のプライド・パレードに、ウェールズから大勢の支援者がバスを仕立てて駆けつけてくるラストシーンが素晴らしい。
 「一九八五年のパレードでは、炭鉱労働者達がパレードの先頭に立ち、謝意を表した」と云うところでエンドです。

 そして字幕によって各登場人物達のその後が語られていくと云う、実話に基づく映画には定番の演出。長生きしてまだ存命しているものもいれば、エイズに倒れ、短い生涯を終えたものもいる。また、女性議員へと華麗な転身を遂げた人もいます。
 一方、翌年の英国議会では遂に同性愛者の権利を認めた法案が可決します。今まで同様の法案が何度も提出されては否決されていたが、この時ばかりは全国炭鉱労働者組合の後押しによって可決したのである、と云う解説が感動的でした。
 誠に「情けは人のためならず」ですね。




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