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2012年11月13日火曜日

ねらわれた学園

(School in the Crosshairs)

 眉村卓の『ねらわれた学園』がまた映画化されるとは、実に懐かしい。今度はアニメ化か。
 本作は筒井康隆の『時をかける少女』と並んで、古いSF者にはノスタルジックな作品ですよ(ラノベの御先祖様みたいなものですね)。

 しかしNHK少年ドラマシリーズとしてのドラマ化作品(1977年)よりも、薬師丸ひろ子主演の実写映画化作品(1981年)の方が有名ですか。
 あちらは大林宣彦監督が『時をかける少女』(1983年)に先駆けて映画化した作品でした。そう云えば、原田知世もまた二度目の実写ドラマ作品(1982年)に出演しておられましたね(でもそちらはあまり記憶に残ってないなあ)。
 映画化作品としても、本作は大林宣彦版、清水厚版(1997年)に続く、三度目の映画化で、監督は中村亮介です。アニメ版『魍魎の匣』の監督ですね。
 製作はサンライズですが、これはまたサンライズ製とは思えぬ柔らかな色調の作品です。

 タイトルに関して云えば、個人的には『ねらわれた学園』よりも『未来からの挑戦』と呼びたくなってしまいます(汗)。
 この調子でかつてのNHK少年ドラマシリーズのリメイクと云うかアニメ化が増えてくれると嬉しい。次は光瀬龍の『暁はただ銀色』とか、新田次郎の『つぶやき岩の秘密』あたりもお願いしたいデス。

 本作は原作の忠実なアニメ化というわけでも無く、かなり脚色されております。時代を現代(または近未来)に設定する為にはやむを得ませんか。
 細田守監督版『時をかける少女』(2006年)と同じく、かつての主人公達の次世代が主役になっている。
 原作では歴史改変を企んだ未来人、京極は「この時代では失敗したが、また別の時代で試そう。さらばだ」みたいなことを云って去って行った……ような気がする(どうも記憶が曖昧で)。だから、いつまた未来からの挑戦がやってくるかも知れないのだ。
 そして三五年が経過して──いや、基準となる旧作によっては十五年ぶり程度かも知れませんが──、ついに来ました。未来からの再挑戦(笑)。

 しかし今度の京極くんは、かつての京極とは違うようです。
 息子という設定になっている。
 あのクールな父親──峰岸徹の演じたエキセントリックな京極も忘れ難いが──とは随分と異なる印象で、物腰の柔らかいナイスガイ。演じる声優さんは小野大輔。
 「謎めいた転校生が超能力を使う未来人」で、声が小野Dとな。涼宮ハルヒが放っておかないような設定デスね(笑)。

 一方、主人公の関ケンジ役が本城雄太郎。実はあまり馴染みの無い方ですが──すいません。『エウレカセブンAO』はまだ観ておりません──演技もしっかりしておられる。
 かつての主人公、関耕児の孫という設定です。お祖父ちゃんが若かった頃より、ちょっと間が抜けているような感じですね。
 しかし、あの関くんが相当な高齢者であるように見受けられるので、やっぱり少しばかり未来の物語なのでしょうかね。
 本作は新たな世代の関くんと京極くんの物語であり、二人の少年と関わりを持つヒロインもまた二人います。

 主人公の幼馴染み(素晴らしいテッパン設定!)であるナツキ役を演じるのは渡辺麻友です。またAKB48のアイドルなんぞを声優に起用して。とんでもない大根だったらどうしてくれよう……と思っておりましたが(芸能方面にはてんで疎いので申し訳ない)、これが実に良い。
 渡辺麻友は歌手を辞めても声優として充分、やっていけるのでは。
 近年、AKB48のメンバーが配役されているアニメ作品を観ておりますが、不思議とハズレが無い。
 『紙兎ロペ』(2012年)の篠田麻里子とか、『メリダとおそろしの森』(同年)の大島優子とか。皆さん、実に達者です。ただのアイドルグループだと思っていた私の認識を改めねばならぬようです(ファンの皆さんごめんなさい)。

 もう一人のヒロイン、クラス委員のカホリ役が花澤香菜。こちらはもう何の心配もありません。
 ナツキがショートカットの元気娘であるのに対して、カホリはロングヘアの清楚な美少女という、いささか判り易すぎるのではないかとも思えるキャラクターデザインです。

 本作はこれら四人の少年少女による、実に甘酸っぱい青春ラブストーリーです。
 いや、ホントにこれが甘酸っぱい。近年稀に見るくらいの青春物語。「眉村卓のアニメ化だ、わーい」なんぞと寄ってきた年寄りのSF者がシネコンの座席の中で身悶えしてしまうくらい、甘酸っぱい。
 うひー。これはキツい。観ている方が小っ恥ずかしい。年寄りには毒です。
 こんなに身悶えしたのは新海誠監督の『秒速5センチメートル』(2007年)以来です。

 おかしい。元は歴としたSFだった筈なのに。
 一応、ちゃんと京極くんは仕事もしているのですが。ある部分だけ観ていると、ちゃんと学校の中で配下となる生徒を増やし、生徒会を牛耳り、無茶な校則を成立させて、違反者は厳罰に処す。疑いの眼差しを向ける生徒はいつの間にやら不登校となり、姿を見せなくなる。
 学園を支配する陰謀は着々と進行し、生徒会のシンパとなった生徒は、まるで人が変わったかのように振る舞い始める。
 ジャック・フィニィの『盗まれた街』──映画化名『ボディ・スナッチャー』──を思わせるサスペンス展開です。
 そういう、「ちゃんと原作に則った」展開があるにはあるのですが……。

 それなのにナツキちゃんの片思いやら、カホリちゃんの淡い恋心の行方の方が気になってしまうとはどうしたことだ。
 もはや青春恋愛ストーリーの方が本筋なのか。
 恋愛メインなので、本作では悪の巣窟〈栄光塾〉は登場しません(尺も足りんし)。

 甘酸っぱいストーリーを更に印象的にする背景の作画が見事です。
 水彩画のような淡い色調の背景が実に美しく、春から夏にかけての季節が見事に描写されております。若干、冒頭の桜吹雪が派手すぎて、桜の花びらがアリエナイほどに宙に舞っているのは美しいけど、笑ってしまいました。
 併せて物語の舞台となる鎌倉の街のリアルな景観も印象的です。
 やはり鎌倉は絵になる街ですねえ。でも他の映画にもよく登場する街なので「また鎌倉かよ」と思わぬでもありませぬが。

 江ノ島、江ノ電、七里ヶ浜といった風景が随所に現れ、聖地巡礼も容易に出来そうです。
 しかし背景はリアルですが、学校の方もどこかモデルになった建物があるのでしょうか。劇中に登場する中学校のオシャレな建築様式があまりに美しく、リアルではありますが「そんな中学校があるかーっ」とツッ込まずにはおられません。
 なんか羨ましいなぁ(私の学生時代とはエラい違いだ)。

 ケンジの祖父(耕児)と京極くんの会話はオールドファン向けですね。
 孫が陰謀の存在に気が付いていない頃から、祖父ちゃんは薄々感づいているし、京極くんも感付かれていることを承知している描写があります。
 京極くんは人知れず関家の墓前に花束を置いていったりもしますが、このあたりの関係はアニメ版だけの設定でしょうか。原作の方では彼がお墓参りしなければならないほどの理由は無かったと思います。
 耕児の方も京極(父)の方にはそれほど悪感情を抱いている様子でもなく、今度は息子を送り込んできたことに対して「アイツも懲りないヤツだなぁ」などと呆れております。

 その会話の中で、やがて京極くんは未来へ帰らねばならないが、この時代に留まることが可能であるとも云われます。何故なら母親は「こちらの世界」の人間だから。
 そう云えばかつてのドラマの中で、京極(父)は未来へ帰還する際に、自分の配下にした人間を伴って帰って行きましたデスね。
 本作の劇中では、その名前を呼ばれることはありませんが、どうしても気になります。
 えーと。ひょっとして、キミのお母さんの旧姓は「高見沢さん」かな……?

 祖父ちゃんが未来からの歴史改変操作に危機感を全く抱いていないのは、孫のケンジが実は物凄い超能力者で、いざとなれば簡単に事態を解決できると知っているからなのですが、若干「そんなのアリかよ」とツッ込まずにはおられませんですね。
 原作では関くん側のキャラには超能力者はおりませんでした。でも実写版の方では薬師丸ひろ子が凄いパワーの持ち主でしたので、本作はそちらの方の流れを汲んでいるのか。

 ケンジ自身は幼い頃に封印された能力をまるで自覚しておりませんが、祖父ちゃんに封印を解かれるや、素晴らしいパワーを発揮する。
 おかげでドラマ全体にあまり悲観的な緊張感はなく、未来からの歴史改変操作自体、それほど大したことでは無いように見受けられます。そんなことよりも、やはり本作の見どころは四人の少年少女の恋模様の行方の方でありましょう。
 戦う場面はまったくなく、関くんと京極くんも麗しい友情で結ばれると云う流れです。随分と、旧作とは異なる雰囲気ですね。

 まぁ、旧作にあったような「激しい受験戦争」とか「思想の統一」なんぞ云うネタは、現代の物語にはあまりそぐわないですし。
 代わって語られるのは、人と人の繋がり、絆、想いといったテーマです。
 特にケータイをモチーフにして、「誰かと繋がっていたい」と云う現代の若者の病理を描いているところが興味深いです。ケータイと超能力(テレパシー)を対比させながら、「ケータイは不完全なツールだ」とか「他者の気持ちを本当に知りたいか」などと語られる。

 そして「本当に思いを届けるのは超能力などではない(ましてやケータイなんかでも無い)」とか「心と心が繋がらなくても、人は手をつなぐことが出来る」といった、非常に判り易いメッセージも描かれます。少年少女の青春恋愛ストーリーとしては、水準以上の感動的なドラマです。
 美しい映像に、ド直球な恋愛物語。SF要素が物凄く脇に追いやられておりますが、これはこれでよろしいのではないでしょうか。
 エンドクレジット後にもエピローグがありますので、最後まで観なければ判らない部分もありますが、あれではナツキは良いとしても、カホリちゃんの救済にはなっていないのでは……。

 主題歌は渡辺麻友「サヨナラの橋」と、supercell「銀色飛行船」ですが、どちらもなかなかイイ感じの曲です。でも個人的には松任谷由実の「守ってあげたい」の方が深く刷り込まれているのは……、まぁ仕方が無いデスよね。




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