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2012年8月5日日曜日

メリダとおそろしの森 (3D)

(BRAVE)

 ピクサー制作のCGアニメです。今回はケルト民話風の冒険ファンタジーです。古風なお伽話を──オリジナル脚本ですけど──アニメにするのがピクサーとしては新機軸ですね。親会社のディズニーの企画だったのかしら(むしろディズニーなら好みそうな題材ですし)。
 監督は『ジョン・カーター』(2012年)で脚本を書いたマーク・アンドリュース(本作が長編初監督作品か)と、『プリンス・オブ・エジプト』(1998年)のブレンダ・チャップマン(途中で降板してマーク・アンドリュースに引き継いだとか。ピクサー初の女性監督だったのに)。

 舞台となる中世スコットランド、ハイランド地方の森や湖の描写が美しいです。同時にケルト民族の風習、音楽もしっかりリサーチされているようです。
 ケルト民謡な音楽が印象的で、パトリック・ドイルのサントラは聴きものでしょう。
 また、野郎共がキルトをはいて、顔に青くペイントしたり、渦巻きペイントしている様子が、『ハイランダー』(1986年)や『ブレイブハート』(1995年)を彷彿といたします。

 ケルトを束ねる王の娘が本作の主人公メリダ(ケリー・マクドナルド)。年頃になっても馬で野山を駆け巡り、弓矢が得意という活発な女の子です。女性が主人公なのもピクサー初か。
 当然、王家のしきたりや伝統を勉強するなど耐えられず、女性らしい優雅さを身につけさせたいと願う母と度々衝突する毎日。
 一方、父王はケルトらしい豪快な脳筋男で、細かいことは妃任せ。娘の教育も放任し、むしろ弓矢の腕前が上達することを喜んでいる。
 豪快なパパとしっかり者のママ、ついでに三つ子の弟達が超イタズラ好きの悪ガキ共という、絵に描いたような(アニメですが)一家です。

 日本語吹替版で鑑賞したので、メリダの声はケリー・マクドナルドではなく、AKB48の大島優子でした。またしても芸能人を起用してると、観る前は否定的な印象でしたが、これが思いの外に合っていました。よし、また一人AKB48で名前を覚えたぞ(この前は『紙兎ロペ』(2012年)で篠田麻里子を覚えたしな)。
 大島優子以外は洋画吹替でお馴染みのベテラン声優陣というのも安心です。パパは山路和弘、ママは塩田朋子、そして魔法使いのお婆さんが木村有里。
 目を瞑って聴いていればパパはウィレム・デフォー(またはジェイソン・ステイサム)で、ママはケイト・ブランシェット(またはダイアン・レイン)のように思えて……来ないか。ホントはビリー・コノリーとエマ・トンプソンですけど。

 ある日、ついにメリダは婿取りの縁談を仕組まれる。父王が束ねるケルトの各氏族が一同に集い、その族長の息子の中から一人を選ばねばならない。
 候補者は三人。
 こういう場合、誰かひとりくらいはイケメンで意中の人になりそうな男がいそうなものですが、三人そろって残念な野郎ばかり。選択肢が少なすぎる(笑)。
 この時点で、本作はヒロインが結婚してハッピーエンドを迎える物語ではないのだと確信できます。

 婿取りのイベントが、ハイランドゲームズ(またはハイランドギャザリング)と呼ばれるケルト的大運動会と連動しているという描写がいい感じデス。リサーチが徹底していますね。
 どうしても結婚を承伏できないメリダは、候補者に弓勝負を挑み、全員を打ち負かしてしまう。もうロビン・フッドばりの腕前です。
 当然、お妃様の怒りはただでは収まらず、メリダはプチ家出。森の中をさまよい、不思議な鬼火に導かれ、魔女の隠れ家にたどり着く。
 『スノーホワイト』(2012年)でも感じましたが、近年のファンタジー描写で「森の中の神秘なもの」を描くと、どうしても『もののけ姫』(1997年)の影響を免れないのかと感じてしまうのは、日本人としての贔屓目でしょうかねえ。でもピクサーはジブリと関係深いし、やはり少しは影響を受けているのかな。
 神秘的ではありますが「おそろしの森」とまで銘打つほどでは無いような気がしました(これは邦題だけのハナシですが)。鬼火もあまり怖くないし。むしろクリオネに似ている。

 ここで登場する魔法使いのお婆さんが、出番は少ないのに実に印象的です。しかも悪役ではない。ただちょっと人とズレているだけ(笑)。
 本職が魔法使いなのか、木彫りの彫刻は副業なのか。
 「あなた、魔法使いなのね?」と問いつめられても、「違うよ。あたしゃ木彫りのお婆さんよ~」とシラを切ろうとする態度が笑えます。
 つまり魔法によって不幸な事態に陥るのは、魔法使いの悪巧みではない。むしろお婆さんは、シラを切って逃れようとするのに、メリダの方が無理矢理、魔法をかけさせる。
 誰がどう見ても、メリダの自業自得な展開です。
 しかも相手が魔法使いだと云うだけで、その能力を疑いもしないというのが迂闊です。
 「(結婚を強要する)お母様の気持ちを変えて欲しい」という願いが、どんな事態を引き起こすかと云うと──。
 ええ、まあ、確かに「お母様は変わりました」けどね。

 熊になってしまうというのが、何ともケルト的なのか。
 身体はクマ化しても、精神は人間のものという描写がなんともユーモラスでギャグっぽい。しかしケルトの男達にとって熊は狩猟の対象であり、その上、父王は冒頭で凶悪な大熊モルデューと戦い、片足を喰いちぎられたエイハブ船長状態。
 「その熊はお母様なの!」などと云う娘の言葉なんぞ聞いちゃいねー。
 条件反射的に「熊=獲物」となるのは自然の流れ。更に集まった氏族の戦士達からもこぞって追われる羽目になる。果たしてメリダは母親を元の姿に戻せるのか。

 しかしメリダがあまり反省しているようには見えないのが、ちょっと気になりました。
 自業自得が明白であるのに、「魔女の魔法の所為よ」と口にする場面が数回ありました。事態の解決に奔走するのは良いとしても、その前に反省しないのか。お前の所為だろ。
 ヒロインが気の強い女性なのはいいとしても、少しは謙虚であってもらいたいと感じるのは日本的なのでしょうか。海外ではヒロインの性格はこれでいいのか。
 問題が解決できるなら、特に反省は必要無いのか。どうにも違和感を感じる演出でした。

 伏線として、古代王国滅亡の伝説や、凶悪な大熊モルデューの存在、魔法使いのお婆さんがかつて頼まれた仕事などが散りばめられ、それがひとつに収束していく脚本はなかなか巧く出来ていると思います。出来れば主人公の精神的な成長も明確に打ち出してくれれば云うこと無しだったのですが。
 ついでにメリダの弓矢の腕前がクライマックスで役に立つ演出であれば尚良かったのに。
 結局、魔法使いのお婆さんは何をどうしても「人間を熊に変身させる魔法」しか使えないと云うのがギャグでしたねえ。道理で副業の木彫りで生計を立てざるを得ないワケだわ。

 それほど波瀾万丈の冒険物語と云うわけではありませんが、伏線はきちんと回収され、家族の絆や、女性の自立といった(いささか現代的すぎるようではありますが)テーマも描かれ、それなりに楽しい物語でありました。制作途中で監督が交代したのが響いたのかなぁ。
 名作・傑作とは呼べずとも、良作・佳作ではありましょう。悪くは無いと思いマス。
 個人的にはケルトの文化が色濃く描写されていたので、結構気に入っているのですが。

 本作も『ジョン・カーター』と同じく、エンドクレジットで「スティーブ・ジョブズに捧ぐ」旨の献辞が出ます。ジョブズはピクサーのCEOだったのだから、むしろ本作での献辞の方が自然ですね。


 本作には同時上映の短編が付いているのも、いつものピクサー映画らしいです。
 今回は短編も二本ついていて、ちょっとお得な感じ。

 まずは『トイ・ストーリー』の番外編「ニセものバズがやって来た」。
 ファーストフード店の販促グッズ──マクドナルドのハッピーセットに付いてくるアレね──に、バズ・ライトイヤーのデフォルメされた人形があって、これが本物とすり替わってしまう。あからさまな偽物が帰ってきたので、ウッディ達はバズ救出に向かうが、その頃、本物はファーストフード店の片隅で「捨てられたオモチャ達の支援プログラム」のミーティングに強制参加させられていた。アメリカ人はグループ・セラピーが好きですね。
 いかにも捨てられそうなビミョーなオモチャ達の設定が絶妙でした(笑)。

 もう一本は『月と少年』。台詞の無い短いドラマですが、実にファンタスティックでした。
 さすがアカデミー賞短編アニメ部門ノミネート作品です。
 少年、パパ、お祖父ちゃんという三世代の一家の家業は、お月様のお掃除。しょっちゅう降ってくる流れ星を掃除しないと、月が満ち欠けしないという設定が微笑ましい。重力の描写がなかなかトリッキーでした。


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