2015年12月29日火曜日

ガールズ&パンツァー

(Girls und Panzer)

 近年、ミリタリ系の萌えアニメが隆盛を極めておりますね。特にTVシリーズとして放映され、後に新作劇場版となるのがパターンなようです。
 既に『ストライクウィッチーズ』(2012年)や『蒼き鋼のアルペジオ』(2015年)の新作が劇場公開されておりますが、遂に『ガールズ&パンツァー』も来ましたね。あと残るは『艦隊これくしょん』がありますが……。でも『艦これ』は……うーむ(あれは期待してはイカンのか)。

 本作は、水島努監督による同名のTVアニメ(全12話)の完全新作劇場版です。TVシリーズで尺が足りずにカットされたエピソードは、OVA版『これが本当のアンツィオ戦です!』(2014年)で補完されておりますので、それも視聴した上でないと理解しづらい部分もあると思われますが──登場キャラクターがオールスター・キャストですし──、劇場に足を運ぶのは全て古参の古強者ばかりだから心配は要りませんか。
 それにしても熱狂的ファンが多い所為か、公開当初は劇場がかなり混んでおりました。結構、リピーターも多いようで、なかなか混雑が解消されません。
 かく云う私も、この記事を書く前に三回鑑賞しておりますが、毎回ほぼ満席状態でした。やはりガルパンはいいぞ。

 本作は完全にTVシリーズの続編になりますので、始まる前に大まかなストーリー紹介が入ります。古参兵には不要な部分ですが、たまに付き合いで劇場に来てしまった新兵同然の観客もいるだろうと云う配慮ですね。
 そのような新兵でも、この世界には女性の嗜みとして茶道、華道と並び戦車道があるのだという大前提さえ飲み込めれば大丈夫です。ついでに戦車内は「特殊なカーボン」で覆われているので危険は無いと云うことも納得してくれ。
 ここで戦車道の試合についても軽く解説され、試合の形式にはフラッグ戦と殲滅戦の二種類があるのだと説明されます。続く本編ではその通りに、フラッグ戦と殲滅戦が行われます。
 ぶっちゃけ本編は、この二回の戦車戦しか描かれておりません。

 TVシリーズでは、学校を廃校の危機から救うために戦車道全国大会での優勝を目指し、見事に優勝して凱旋するところで終わっておりました。本作はその後日談。
 優勝後のエキシビション・マッチが行われたところに、文科省から非情の通知が下ります。廃校撤回の約束は反故にされ、オマケに廃校時期まで前倒しになる。
 戦車道連盟に直訴し、何とか廃校撤回を認めてもらうように奔走する中で、文科省が科した更なる高いハードルが、大学選抜チームとの試合。社会人チームにも勝つほどの強豪に勝たねば廃校撤回は無い。
 と云うところで、本作の見所は前半のエキシビション・マッチと後半の大学選抜チーム戦となります。前者がフラッグ戦で、後者が殲滅戦となり、併せて戦車道の試合形式が漏れなく描かれると云う寸法です。

 尺が一二〇分もあるのに、そのほとんどが戦車戦を二回描くだけに費やされております。実に清々しい構成です。
 中盤のドラマ部分が、夏休みのキャンプみたいでそれなりに楽しいのですが、あまり長々と引っ張らない演出なのが好ましいですね。
 実は私がつき合わせてしまった新兵同然の知人は、「全編戦闘シーンばっかりだった」と呆れておりました。しかし呆れてはいたが文句は云わなかったところを見ると、それなりに楽しんでもらえたのでしょう。某かの教訓も得られたのではないか。
 「戦車道には人生に大切なことが全て詰まっている」のですから。

 本作は通常の劇場公開仕様の他に、特別に大音響で上映してくれる「極上爆音上映」での公開もあります。一般劇場での鑑賞もよろしいが、お薦めはこの極上爆音上映ですね。
 本作の音響は、音響監督である岩浪美和が命名した「センシャラウンド方式」と称されるそうで、これを爆音上映でガンガン鳴らす鑑賞はビリビリ来ます。素晴らしいデス。
 しかしこの命名は、元ネタの「センサラウンド方式」を御存知ない方にはピンと来ないのではないか。私は懐かしかったですが。
 もう、『ミッドウェイ』(1976年)や『ジェット・ローラー・コースター』(1977年)を劇場で観たときの記憶がまざまざと蘇りましたですよ。
 センサラウンドは、七〇年代にちょっとだけ流行った音響システムでしたが、『大地震』(1974年)に始まり、『宇宙空母ギャラクティカ』(1978年)を最後に途絶えてしまいましたねえ。たった四作だけでした。

 最近、立川シネマシティでは本作に限らず、音響に自信のあるアクション作品を爆音上映しているようで、『マッドマックス/怒りのデス・ロード』(2014年)もこの方式で上映されていたのを記憶しております。でも私は諸般の都合で観に行けませんでした(無念)。
 他には『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(2015年)も立川では爆音上映対象作品だったので、これもちょっと観てみたい。
 やはりこの低周波はクセになりますねえ。厳密には、この爆音上映はセンサラウンドとはビミョーに違うようではありますが(もっと低周波を効かせても良いのよ)。

 とにかく本作はストーリーやキャラクターの魅力もさりながら、効果音が素晴らしいです。TVシリーズ放送時から、超重戦車マウスのキャタピラ音が印象的でしたが、劇場版はあんなもんじゃないですねえ。
 一般劇場での音響でも、戦車の立てる音が臨場感に溢れているのですが、爆音上映になると更に凄い。やはり特筆すべきは砲撃音と着弾時の爆音でしょう。
 また、単にデカい音を立てているだけでなく、ちゃんと登場人物のセリフが聴き取れるように配慮されているのも感じます。まぁ、砲撃戦の最中に喋る人はあまりいませんが。

 ただ、どんなに凄い音響も観ているうちに慣れてくるものではあります。
 開幕早々に、大洗の街で行われるエキシビション・マッチの音響にビリビリ来ますが、その後はちょっと静かなシーンが続くので、あまり爆音上映であることを意識しなくなります。
 それでも登場人物のセリフは、かなり大きくハッキリ聞こえるのですが。
 それが後半に入って大学選抜チームとの試合が開始され、カール自走臼砲の砲撃が始まった途端に、また爆音の世界に引き戻されます。眠気も一変に覚めるでしょう(いや、私は寝てませんよ)。
 やはりこのカール自走臼砲の砲撃音は本作音響の中でも白眉ですね。

 砲撃音だけでなく、楽器の音もかなり印象的に演出されております。
 劇中では、TVシリーズ中には登場しなかった「知波単(ちはたん)学園」と「継続学園」なる新たな高校の戦車道チームも登場します。知波単学園が日本の戦車で、継続学園がフィンランドの戦車(マニアックです)。
 知波単学園が無謀な突撃を繰り返しては玉砕する校風であると云うのが自虐的デス(笑)。

 そしてもう一方の継続学園の戦車長ミカ(能登麻美子)が劇中で爪弾いているのが、フィンランドの民族楽器カンテレ。一種独特な音色でした。
 カンテレを奏ながらフィンランドの戦車BT-42がアクロバティックな走行を見せるシーンがまた凄い。何故、女子高生がそんなテクニックを持っているのか説明は無いですが(そんな野暮なツッコミは入れ始めたらキリが無い)。
 『ストライクウィッチーズ』もそうでしたが、本作に於いても妙にフィンランドが目立っております。本作もまた駐日フィンランド大使館から把握されているのでしょうか(笑)。
 フィンランドの人に本作の感想をちょっと訊いてみたいところです(まぁ、ドイツやイタリアの人にも訊いてみたいけど)。

 音楽ついでに書いておくと、本作は(TVシリーズの頃から)やたらと往年の戦争映画へのオマージュ的描写が見受けられるのも年寄りの映画ファンには嬉しいところです。『バルジ大作戦』(1965年)やら『戦略大作戦』(1970年)のネタが楽しい。
 だから当然のように劇中歌として「パンツァーリート」やら「ジョニーの凱旋」やら「アメリカ野戦砲マーチ」などのメロディが流れます。「雪の進軍」もありましたね。
 本作ではとうとう、「秋の日の/ヴィオロンの/ためいきの/ひたぶるに/身に沁みて/うら悲し」なんてヴェルレーヌの詩の一節まで披露し、『史上最大の作戦』(1962年)にもオマージュを捧げております。本作の副題に「大洗女子学園の一番長い日」とか付けてもいいくらい。

 あと、スティーブン・スピルバーグ監督の『1941』(1979年)のパロディもありました。戦争やってる最中に、巨大な観覧車がゴロゴロ転がってくるなんぞと云うネタは実にマニアックです。
 ちゃんと試合の前日に一年生のウサギさんチームが『1941』を鑑賞している伏線も張っていましたが──アニメになったダン・エイクロイドはちょっと男前すぎるような──、出来ればもっと端的に観覧車の場面をアニメにした方が判り易かったような気がします(権利的にヤバいのかしら)。

 そのようなパロディやらオマージュを交えつつも、戦車戦そのものは非常に真摯で真面目に描かれております。CGも使ったカメラワークも雄大ですし。
 前半の大洗でのエキシビション・マッチなどは緻密な現地ロケの効果もあって、駆け足で大洗観光しているかのようです。大洗ゴルフ倶楽部に始まり、大洗マリンタワー、大洗磯前神社、鹿島臨海鉄道大洗駅、大洗シーサイドホテル、アクアワールド大洗とリアルな背景です。
 聖地巡礼に詣でるファンならば、あんこうチームを追撃するクルセイダー隊がどこをどう走って行ったか、きっと判りますよね(かなり縦横に走り回っているような)。
 大洗からちょっと離れますが、旧上岡小学校まで脚を伸ばされる方も当然おられるでしょう。

 後半の大学選抜チーム戦になると、更に大規模な試合が展開します。参加車両もグッと増えて、三〇両対三〇両の殲滅戦になるのですが、これを最終的に一両残して残り全部が走行不能になるまで描いていこうとするので、戦いの流れを把握するのが大変です。
 登場人物もオールスター・キャストで、TVシリーズで全国大会の相手校だった連中が次々に味方しに駆けつけてくるのは燃える展開ですが、作戦遂行中にキャラクターを立てつつ、やられていく過程も描かねばならない。
 誰がどこでどうやってリタイヤしていくのか、三回観てもちょっと把握しづらいです(そこまでこだわって観ていなくても大まかな流れは充分把握できますけど)。

 味方だけで七つの学校から成る混成チームなので、必然的に相手側の大学選抜チームは、とてもじゃないがそんなに大人数は出せません。
 大隊長の島田愛里寿(竹達彩奈)以下、中隊長クラスが三人のみで、あとはモブ扱い。
 これら新キャラとの関係の描写が若干、弱いような気もしますが、戦車戦の描写にこれでもかと心血注いでおりますので、そこまで求めるのは酷でしょうか。
 個人的にはクライマックスは戦車道の二大流派である「西住流」と「島田流」の対決になりますので、互いに幼年期から旧知であっても良かったような気もします。でも劇中では主人公の姉妹の関係についての回想も入りますからね。あまり回想ばかり入れるのもよろしくないか。

 単なる戦車同士の撃ち合いではなく、登場人物達の友情と努力、姉妹の絆といった青春ドラマに必須の事柄がきちんと描かれた上での決着は、ベタだと判っていても胸熱であります。
 誠に戦車道には──あるいは「『ガールズ&パンツァー』には」と云い換えても良い──、人生に於いての大切な諸々のことが詰まっておりますねえ。
 ガルパンはいいぞ。




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