2013年9月12日木曜日

サイド・エフェクト

(Side Effects)

 スティーヴン・ソダーバーグ監督が引退を表明されたと話題になっておりますが、本気なんですかね。まだ五〇代の筈ですが。宮崎駿監督くらいの年齢であればいざ知らず。
 本作はそのソダーバーグ監督による(今のところ)最後の劇場用長編作品と銘打たれております。日本公開ではまだもう一本、『恋するリベラーチェ』(2013年)が残っているようですが(平成25年11月公開予定)。

 まぁ、正直なところ、今までソダーバーグ監督作品をそれほど熱心に追いかけているわけではありません。近年も『インフォーマント!』(2009年)とか、『エージェント・マロリー』(2012年)とかスルーしておりますし。そういえば、『マジック・マイク』(同年)も観てなかったか……。
 毎回、様々なジャンルの作品に挑戦しておられるソダーバーグ監督ですが、個人的には「SF映画はイマイチな監督」と云う印象が強い。やはりSF者からしますと、あの『ソラリス』(2002年)がね……。

 でも『トラフィック』(2000年)とか、『コンテイジョン』(2011年)あたりの作品は割と好きです。
 本作はソダーバーグ監督作品の中では珍しいヒッチコックばりのサスペンス・ミステリ映画です。脚本は『インフォーマント!』や、『コンテイジョン』のときと同じく、スコット・Z・バーンズ。
 こういう映画も撮れたとは見直しました。引退宣言は撤回してくれぬものか。

 とある鬱病患者を担当した精神科医が主人公。患者に処方した新薬が、その副作用から夢遊病状態を引き起こし、殺人事件にまで発展する。
 患者自身に当時の記憶はなく、あらゆる状況証拠が患者の犯行であることを示している。裁判では患者は心神喪失であったことを主張するが、その場合は薬を処方した医師が責任を問われることになり、精神科医の方が追い詰められていく。
 果たして本当に薬の副作用(サイド・エフェクト)が事件の原因なのか。

 主人公の精神科医役が、ジュード・ロウです。ソダーバーグ監督作品では『コンテイジョン』以来です。
 ジュードはごく普通の良識ある精神科医を好演しておられます。追い詰められて行くに従い、ちょっと偏執的に目がぎらぎらしてくるのもイイ感じです。
 一方、ジュード医師の担当になる鬱病患者が、ルーニー・マーラーでした。何と云っても『ドラゴン・タトゥーの女』(2011年)の強烈なパンクファッションが印象的でしたが、本作ではごく真っ当な人妻の役です。強烈メイクが無いと、とても可愛らしいです。

 ルーニー・マーラーは、随分と女優としての貫禄を付けましたね。若いのに大したものです。
 本作でも『ドラゴン・タトゥーの女』と同様、潔い脱ぎっぷりで堂々と濡れ場を演じてくれたりもします。『ドラゴン~』でのダニエル・クレイグに続いて、本作ではチャニング・テイタムとの激しいベッドシーンがありまして、おかげで本作はR15+指定です。

 ジュードとルーニーの共演ばかりに気を取られていました。こんなところにチャニングが。
 やはりチャニングは『ホワイトハウス・ダウン』(2013年)のようなアクション映画より、ルーニー・マーラーとカップルになっている本作の方が似合ってる感じがします。
 但し、本作のチャニングは出番が少ないです。なんせ殺される亭主の役ですから、まずチャニングが殺されないとハナシが進みません。序盤で早々に御退場となります(惜しい)。

 重要な役としてはもう一人、ジュード・ロウと同業の精神科医役で、キャサリン・ゼタ=ジョーンズが登場しております。ソダーバーグ監督作品には『トラフィック』、『オーシャンズ12』(2004年)に続いて、これで三作目か。
 本作では、キャサリンはルーニーを最初に担当していた精神科医の役で、ジュードに色々と助言してくれますが、ナニやら隠していることがありそうな怪しい役です。

 本作は冒頭にまず殺人事件の現場が描かれ、異様な雰囲気で引き込まれます。
 静かな郊外のマンションの建物を映しながら、次第にひとつの窓に向けてカメラが寄っていき、室内の様子を映していく。人の気配がなく、床には血だまり。何者かが裸足で血だまりを踏んだらしく、血の足跡が廊下に転々と……。なかなか『CSI : 科学捜査班』でも観ているようなオープニングです。
 一体、ここで何があったのか──と、云うところで、時間は「三ヶ月前」に遡ります。

 とある刑務所にチャニング・テイタムが収監されており、ルーニー・マーラーが面会に訪れる。チャニングはインサイダー取引によって逮捕された証券マンであり、四年の刑期がもうじき明けることが判ります。献身的な妻であるルーニーは毎週のように面会に訪れているらしい。
 やがてチャニングは出所し、家に戻ってくる。表面上は妻であるルーニーも嬉しそうだが、どこか浮かない表情です。夫が再び証券取引のビジネスに戻ろうとしているからか。
 数日後、ルーニーは地下駐車場で運転する車ごと壁に向かって突進し、自殺未遂事件を引き起こす。

 一命は取り留め、搬送された先の病院でルーニーを診察するのがジュード・ロウ医師。鬱から来る自傷行為を疑うジュード医師は入院を勧めるが、夫が出所したばかりで入院は出来ないと、断るルーニー。しかし向精神薬を処方されて、毎週の診察を約束する。
 ここからジュード・ロウによるカウンセリングが始まるワケですが、最初の内は知らなかった事実が次々に明らかになっていきます。

 まず、ルーニーが鬱症状を呈するのはこれが初めてではない。以前も別の精神科医にかかっており、それがキャサリン・ゼタ=ジョーンズ。連絡を取ったジュードは、ルーニーが四年前の夫の逮捕によって破産したことが原因で鬱になったことや、それが原因で流産したことなどを知る。
 同時にキャサリンは新たな抗鬱剤の投与をジュードに勧める。

 製薬会社が新薬を開発し、医師にモニター試験を依頼するというシステムが劇中で紹介されます。これによって医師は副収入を得て、患者も薬品の代金は無料になる。たまたまジュード医師は再婚したところで家族が増えて物入りだったことから、この新薬のテストを引き受けることに。
 事前に患者への説明も怠りなく済ませ、ルーニーへの抗鬱剤は新薬に切り替えられる。
 しかしそこから事態は思わぬ方向に転がっていく。

 新薬のお陰ですっかり明るくなったルーニーは夫との性生活も復活し、万事ハッピーになったと思いきや、時折、夢遊状態で彷徨うようになり始める。症状を懸念したジュード医師は抗鬱剤の処方を切り替えようとするが、新薬の効能を気に入っているルーニーが強硬に反対。
 だが新薬の服用を続けた為か、ルーニーが夢遊状態の際にチャニングは刺されて殺される。

 鑑賞前は、ルーニーが夢遊病状態の際の事件は直接の描写を避け、実は真犯人は他にいるのでは……と云う展開なのかなと考えておりましたが、そんなことありませんでしたね。
 もう、はっきりと「虚ろな目のルーニーが、チャニングをナイフで刺し殺す」場面が描かれます。まったくの無表情で何度もナイフで刺すルーニーが怖いッ。
 そしてそのまま血の付いた足跡をペタペタと残しながら、ルーニーはベットに戻って寝てしまう。これが冒頭の場面に至るまでの経緯です。
 目が覚めた後、驚愕の表情で警察に通報するが、全ては後の祭り。

 裁判になり、妻の犯行であることは確かだとされるものの、心神喪失が認められて無罪。
 だがジュード医師の方が只では済まない。危険な薬品を処方したとマスコミに叩かれ、評判はガタ落ち、患者も激減。製薬会社は新薬のモニター調査を打ちきり、副収入の道は断たれ、それどころか勤めていた医院も半ば強制的に退職させられてしまう。
 風評被害が軽視できないとは云え、「あなたはもうキズ物なのよ」と云い放ち、擁護するどころかクリニックのイメージを守る為にジュードを放り出す同僚医師達の仕打ちが惨いです。

 ジュード医師の立場はどんどん悪くなる一方。しかし、製薬会社のウェブサイトには新薬の処方に際しての注意事項が明記されているが、従前の担当医だったキャサリン・ゼタ=ジョーンズからは何の警告も無かったのは何故か。今更、問い詰めても虚しいだけだし、自分が迂闊だったと云われればその通りではあるが……。
 釈然としないものを感じてジュードは自力で調査を開始する。

 この事件があってから、製薬会社の株価に変動が起こり、件の会社の株は下落したが、他のライバル企業の株は上昇している。もし何者かが株価を操作する為に事件を仕組んだのだとしたら……。
 被害妄想だと云われながらも、ジュード医師は執念で調査を続けていく。当然、調査の為に家庭の時間は犠牲になり、経済的にも余裕が無くなり、再婚した妻との夫婦仲は悪化し、私生活でも追い詰められていくジュード。
 無精髭を生やしながら、目付きがギラギラしていく演技が巧いです。ひょっとして本当にジュードの被害妄想に過ぎないのでは、と云う疑念もチラリと浮かびます。

 しかし本作は、「ヒッチコック風のサスペンス」ですので、後半ネタバレするのもお約束です。ヒッチコック的なサスペンス・ドラマは、犯人捜しで終わったりしませんからね。
 確かヒッチコック監督は、「只の犯人捜しのミステリでは繰り返しの鑑賞に耐えられない」と云う旨の発言をしておられたと記憶しております。だから途中で自らネタをバラしてしまう。しかしそこからまた二転も三転もするのが見事でありまして、本作もそれを見事に踏襲しています。

 ぶっちゃけ、怪しいキャサリン・ゼタ=ジョーンズは本当に怪しかったわけで、ジュードはハメられていたのですが、この計画にはルーニー自身も一枚噛んでいたのが驚きでした。
 全部演技だったのだと判ってから、豹変するルーニーの悪女ッぷりには唖然としました。これだけでも本作は一見の価値ありでしょう。個人的にアカデミー主演女優賞にノミネートして差し上げたい。
 真相が判明すると、動機も明らかになるワケですが、それでは殺されたチャニング・テイタムが可哀想です。ひどい。あんまりだッ。

 さて、終盤はそこからジュード医師が反撃に転じるのですが、何もかも手遅れな状況からよくも鮮やかに逆転できたものだと感心してしまいます。「同じ罪で裁判は出来ない」、「トリックを暴いても自分のマヌケさを公表するだけ」と云われながら、知恵と機転で粘り勝ち。
 これは脚本の勝利でもありますね。お見事でした。
 本作は、この逆転劇があるからこそ、ネタバレしていようと何度でも観たくなる傑作になり仰せたのだと思いマス。逆に、判ってから観るとルーニーの演技に感心してしまいます。もう、人間不信になりそうですわ。




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