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2013年6月27日木曜日

アフター・アース

(After Earth)

 環境悪化により人類が地球を放棄し、他の恒星系への移住を図って千年。星間国家を築いた人類は敵対する異星人〈スカール〉と対立しながらも、生き存えていた。
 あるとき宇宙船が事故に遭い、とある惑星で遭難してしまう。生き残ったのは父と息子の二人だけ。不時着した惑星は、第一級の立入禁止惑星に指定されているかつての故郷〈地球〉であった。
 不時着した宇宙船は、二つにヘシ折れ、船首区画と船尾区画が別れて墜落している。遭難信号を発して救助を呼ぶには、船首区画から一〇〇キロ離れた船尾区画の墜落地点まで辿り着かねばならない。
 負傷した父親を残して旅立つ少年に、過酷な環境が襲いかかる。

 と云う、SF者なら「あるある」と肯く設定で始まるSFアドベンャー映画でありまして、予告編を見る限りでは、CG特撮もダイナミックな大作で、何やら面白そうな気配はしていたのですが。
 主演がウィル・スミスとジェイデン・スミスの親子共演と云うのも、話題ではありましたが。
 だが、シャマラン!

 監督はM・ナイト・シャマラン。いや、こんなSF大作映画に有名俳優起用しながら、監督の名前が一向に宣伝に上がってこないのはどうしたことかと訝しく思っておりました。どんなに無名の監督でも、名前くらいはポスターの隅っこに書かれるだろう。
 『オブリビオン』(2013年)だって、トム・クルーズや、モーガン・フリーマンの名前ばかり大きく出ていても、監督のジョセフ・コシンスキーが「『トロン : レガシー』(2010年)の監督である」くらいには宣伝されていたりしたのに。
 それほどまでに監督の名前を明かしたくなかった、という配給会社の気持ちはよく判ります。

 シャマランですから。
 ええ、もう、監督の名前が明らかになった途端に、二の足を踏む観客が大勢いるであろうとは予想に難くないことです。シャマランだもの。
 何と云うか、監督の名前がこれほどまでにネガティブに働くと云うのも、珍しいです。
 始まる前から「この映画を観るものは一切の希望を捨てよ」と劇場入口に書かれているような気すらいたしました。

 思い起こせば処女作──ブルース・ウィリス主演の『シックス・センス』(1999年)も遠い昔ですねえ──を除く、残りの作品全てがスカであったと云う、ある意味、誰にも真似の出来ない偉業を打ち立てている監督ですよ。
 私も『アンブレイカブル』(2000年)や、『サイン』(2002年)くらいまでは我慢していましたが、そのあたりで望みを捨てました。
 ところがシャマランは、予告編「だけ」は面白そうに見えると云う、実にやっかいなお方です。
 騙されてはイカンと思いながらも、たまに『ハプニング』(2008年)なんかは観てしまって、「やっぱり……」と打ちひしがれてしまうこともありました。

 私も最近は、残念な映画に当たってしまったときでも、何とか「如何に残念であったか」くらいは書けるようになりましたし、時にはそーゆー記事の方がよく読まれていたりするものですから、本作のように始めから〈地雷〉であることが明確な作品でも、「観ちゃおうかなー」と逆にウズウズしてきたりするようになりました。ビョーキだ。
 まぁ、ホラ、SFですしね。特撮とか、凄そうじゃないデスか(汗)。

 で、観て参りました。
 ええもう、いつものシャマラン監督作品でしたねえ。予告編だけは面白そうでしたが、やっぱりイマイチ。どうにも釈然としない。
 よくあるネタのSF映画としては、『オブリビオン』も同じ筈なのに、この差はどうしたことか。
 なんかもう、色々とツッコミたいが、どこから突っ込んでイイやら。迷っている内に更なるツッコミ処がやってきて、唖然としている内に終わってしまいました。うーむ。

 なんでしょうかねえ。SFとしては、ですね。下の下です。これはハッキリしている。
 如何にも素人が思いついたような設定を、見事なCGが全力で視覚化してくれておりまして、このアホな設定を視覚化する為にどれほどの予算が注ぎ込まれたのかと考えると、目眩がします。SF考証に誰か付いていなかったのか(いなかったんだろう)。
 クレジットには、「ストーリー原案がウィル・スミス」であると出ておりました。嗚呼。
 そりゃ、誰も修正できんか。

 一昔も二昔の前の、スペースオペラ的設定を持ち出してきているのに、肝心の敵性異星人が登場しないという点からして如何なものか。
 「千年後の地球」と云うのは魅力的な舞台でありますが、たった千年で生態系がガラリと変わるはずも無く、迫力ある怪獣を出したいが為にだけヒネリ出された設定であるのがあからさまです。
 SF愛が微塵も感じられません。

 『オブリビオン』ばかり引き合いに出すのは恐縮ですが、あちらにはSF愛が感じられました。あのネタ、このネタ、色々と過去の遺産のパッチワークな設定でも、まぁまぁ許せるのは辻褄が合っているからです(それなりに)。「この設定だとこうなるだろう」的な展開をちゃんと用意しているので、あまり無粋なクレームはこちらも控えようと思ってしまうのですが。
 本作にはそういう部分が、見受けられません。

 「やりたいこと」は判りますが、その為に「都合のいい設定」だけ持ち出して、フォローがない。人類と敵対する異星人がいるのに──劇中でも戦いに備えた演習が描かれていますが──さっぱり登場しない。同じ惑星上に居住区画を分けて棲んでいるらしいのに、人類側の都市は平和そのもののように見受けられます(タマに襲撃されるようですが)。
 異星人が放った「対人類用生物兵器アーサ」なる怪獣が登場するのですが、あまり強そうでない(少なくとも『エイリアン』のように凶悪でもない)。見た目は凄そうデスが、突いたり斬ったりして倒せる程度の猛獣です。

 何故か、未来の人類は銃器を一切使用せずに、古風に刀剣ばかり使って戦っていますが、その理由が判りません。そりゃ、「絵になる」のは判りますよ。
 少年が巨大なモンスターと一対一で向き合い、刀剣だけでこれを倒す。何やら『300 〈スリーハンドレッド〉』(2007年)を思わせるような、古代スパルタ的通過儀礼な光景ですが……そのシチュエーションが生じる必然性があったのかしら。

 「刀剣しかない状況」なら判りますが、最初の説明時からウィル・スミスは銃を撃っていません。移住先の惑星でも皆、銃器を使っておりません。
 多分、ツッ込めば説明的な設定はあるのでしょうが、本筋には関係ないからと省略されたのでしょうか(いや、そういう態度が問題なのでは)。
 種の存続がかかった生存競争の中で、敵異星人に対して火器を使用しない文化、と云うのが説得力を持って描かれておりません。

 また、千年後の地球と云う、過酷な環境で主人公をサバイバルさせたいのは判りますが、植物の生い茂る原生林が、「夜間だけ氷点下に凍結する(そのままでは生存できないほどに)」と云うのが、製作者にはあまり不自然に感じられないらしいです。バリバリに不自然な設定だと思われるのですが。
 ここに生息する野生動物達はどうやって生き延びているのか。
 しかも火山活動によるホットスポットが随所に点在しており、夜間はそこでしのぐ……のは、いいとしても、都合よく行く先々にあるのがよく判りません。
 アクション・ゲームの感覚でしょうか。夜までに次のセーブポイントまで進めというタイムアタック的な演出がやりたいのでしょうが、あまりにも御都合主義と云わざるを得ません。
 「ワシの恩返し」に至っては、もう何をか云わんや(ここだけファンタジー)。

 ビジュアルのデザインには、ところどころ観るべきものがあるように思われるのが、もどかしいです。特にバイオ技術が発展したような、有機的なメカデザインは面白いのですがねえ。宇宙船の内装が妙に生物的に曲線で構成されていて、「鯨の腹の中にいる」ようなデザインであるのは、本作中の数少ない見どころでありました。
 総じて背景美術のスタッフはいい仕事をしております。

 SFであるところから離れると、基本的には父親と息子の物語でありまして、そこはオーソドックスな展開でした。
 無骨な軍人で、息子に厳しく接するが、愛していることは伝えられない不器用な父。偉大な父親と比較され、抑圧されている未熟な息子。
 親と子のドラマとしては、不自然なところはなかったのが救いでした。荒唐無稽な背景設定に比べれば、なんとマトモな。感動的な少年の成長物語であると云えます。

 そこはもう、ウィル・スミス入魂の演技が炸裂しているので、親子の情愛だけはしっかりと描かれています。危機を乗り越え、少年は成長し、父との絆も回復する。
 その所為か、本作はシャマラン監督作品にしては、比較的マトモであると認めねばならないでしょう(SF設定は必要無いのでは)。
 ジェームズ・ニュートン・ハワードの劇伴も感動的に盛り上げてくれますし。

 親子共演であることが大きく宣伝されていますが、実は本作の主人公はジェイデン・スミスくんの方です。本作のクレジットは、「ジェイデン・スミス」の方が先に表示され、「ウィル・スミス」はその次です。
 主演はジェイデンくんですね。実はウィル・スミスの出番はそんなに多くないです。

 本作はウィル・スミスが息子をフィーチャーしたいが為に製作した、完全なる親バカ企画でありますが──ウィル・スミスの方からシャマラン監督にハナシを持ちかけたそうな──、そんなことしなくてもジェイデンくんは立派に俳優として一本立ちできるのではなかろうかと思いマス。
 色々とツッコミ処満載のトンデモSFアドベンチャーではありますが、俳優ジェイデン・スミス「だけ」は、この先、楽しみであると思わせてくれる演技でありました(早く彼が独立できますように)。




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