2013年2月1日金曜日

アウトロー

(Jack Reacher)

 〈ジャック・リーチャー〉シリーズはイギリスの作家リー・チャイルドによるハードボイルド小説のシリーズだそうで、日本でも講談社文庫から『キリング・フロアー』を始め、『反撃』、『警鐘』、『前夜』が翻訳され出版されておるのだとか(読んだことありませんでした。すんません)。
 特に第一作『キリング・フロアー』は一九九七年のアンソニー賞最優秀処女長編賞を受賞して、リー・チャイルドは「ニュー・ハードボイルドの旗手」とまで称されたそうな。
 年一冊のペースで執筆が維持されているので、既に一〇冊以上あるシリーズに成長しているそうですが、未訳が多いのですね。今般の映画化に当たって、やっと翻訳で五冊目が出版されたそうですが、これで翻訳が再開されるとファンには嬉しいことでしょう。

 ジャック・リーチャー、元エリート軍人。退役後はほぼ無職。家族も友人もなく、一ヶ所に定住することもなく、全米を放浪する天涯孤独の男。
 類い希な観察眼と、抜群の記憶力を併せ持ち、鋭い洞察と推理力を発揮する。明晰な頭脳で難事件を解決し、鍛え抜かれた鋼の身体で悪党共を退治する。
 彼は決して悪を許さない。でも遵法精神が薄く、法の裁きよりも自身の裁きを優先する男。正義に生きる無法者。
 財産と呼べるものは持たず、銀行口座もクレジットカードも持たないので、電子的な追跡も不可能なゴーストのような男。
 ついでに車も持っていないので移動手段はもっぱらバス。着替えも持ってないのでシャツを洗濯している間は、上半身は裸です。

 このホームレスな無敵のヒーローを演じるのが、トム・クルーズ。
 原作の方を読んでおりませんのでどの程度イメージ通りなのかは存じませぬが、これがなかなかハマッているように見受けられました。トムの今までの主演映画とはまた一線を画するヒーロー像になっております。ちょっとダーティでニヒルなところが新鮮です。
 映画化に際して、特に第一作から順番に映像化すると云うことはしないようですが(本作はシリーズ中の第九作目だそうな)、続編製作もあり得るようで、またトム・クルーズの代表作となる新たなシリーズとなりそうです。
 しかし製作を急がないとトム・クルーズがジャック・リーチャーを演じられる期間は限られるような気がするのですが、心配ないのでしょうか。でも五〇歳でなお、ちゃんとジャック・リーチャーを演じているのだからこの先も大丈夫か。
 実際、本作でも披露されるトム・クルーズの胸板と筋肉は大したものです。『ロック・オブ・エイジズ』(2012年)でも拝見しましたが、素晴らしいデスね。

 監督は脚本家でもあるクリストファー・マッカリー。脚本では『ユージュアル・サスペクツ』(1995年)が一番有名でしょうか。ベニチオ・デル・トロ主演の『誘拐犯』(2000年)の監督も務め、本作が二作目のようです。マッカリーは本作では脚本も兼ねています。
 トム・クルーズ主演の次期『ミッション:インポッシブル5』の監督にも決まっているとか。
 もうひとつ余談ですが、桜坂洋のライトノベルSF『All You Need Is Kill』(集英社)のハリウッド映画化企画は今でも進行しているらしく、本作と同じくトム・クルーズ主演、クリストファー・マッカリー脚本だそうで、実に楽しみであります。

 しかしここまで完全無欠なヒーローを描いて面白いのかと思うところはありました。男の夢が具現化したような存在ではありますが、ほぼ弱点なしですし、願望充足だけではドラマの間が保つのかと、ちょっと心配でした。
 ところがこれが結構、面白かったりします。
 実は主人公の内面などほとんど描こうとしておりません。常に周囲の人物が、ジャック・リーチャーと接した結果、変わっていくと云う描写になるのが巧いやり方です。
 一点だけ、孤独であることについて、内心を吐露する場面もありましたが、それでも自分の生き方を後悔するようなことはない。弱音は吐かず、あくまでカッコイイ男です。

 さて、ジョージアの田舎で殺人容疑で逮捕されたり、モンタナの田舎で民兵組織と戦っていたりしたジャック・リーチャーさん(翻訳された小説がそんな筋なんですよ)が、本作で訪れるのはピッツバーグです。『ミッシングID』(2012年)でも映ったPNCパーク・スタジアムに見覚えありますよ。
 ここで白昼堂々の無差別射殺事件が発生。
 直ちに警察は容疑者の身柄を確保するものの、男は頑として口を割ろうとしない。ただ一言、「ジャック・リーチャーを呼べ」とだけ答える。
 居場所も連絡先も判らない男をどうやって捜すのか、途方に暮れる検察の前に、ふらりと現れるのが主人公。さりげない登場シーンです。

 この冒頭の事件発生から、現場に到着した刑事が遺留品を発見し、容疑者の逮捕に至るまでの流れが無言劇であるのが素晴らしいデス。言葉ではなく、映像だけで何をやっているのかがちゃんと判る演出になっているのが巧いですね。
 本作は極力、説明セリフを排する方針のようです。トム・クルーズも自分から何かを説明するような親切な男ではない。もっとも頭がキレすぎるので、常人が推理の飛躍について行けなくなって、説明を乞う場面もあり、やむなく言葉少なに説明すると云うのがパターンのようです。
 本作では観客に代わって教えを乞うワトソン博士役になるのが、ロザムンド・パイクです。

 ロザムンドは容疑者の無罪を勝ち取ろうとする女弁護士役として登場。誰がどう見ても有罪な、負け戦必至の裁判に果敢に立ち向かおうとする。そして圧倒的に不利な立場をトムにサポートしてもらうことになる。
 一方、検察側の配役がリチャード・ジェンキンス。渋いです。
 本作ではロザムンド・パイクとリチャード・ジェンキンスは親子という設定になっており、父が検察官で娘が弁護士と云う図はなかなか面白かったデス。

 ところで本作がハードボイルドなサスペンス・ミステリであると思っていたら、初っ端から真犯人の顔が割れてしまっていたので拍子抜けしました。これは犯人を捜すミステリではない。
 最初から冤罪じゃないデスか。
 それでも「六発の銃声。五人の死体」と語られていたので、勘定が合わないところに何か秘密があるのかと思っていたら、そこにも秘密なんか全然なかったのがちょっと不満であります。少しは謎を残して下さいよ。
 銃声と死体の数が食い違うのは、一発だけ外して撃ったから。弾丸が形を損なわないように柔らかいものを撃ち、警察に証拠品として回収させる。弾丸の旋状痕から濡れ衣を着せる相手の銃を警察に特定させる為であり、一発余計な銃声はただのサンプル作りだったと云う、実に判り易い仕掛けでした。トリックでも何でもないですよ。

 本格的な謎解きがないのは、原作がそういうスタイルだからでしょうか。
 劇中でも実行犯に続き、中盤でもう黒幕までが堂々と登場してくれます。
 しかもこの黒幕を演じているのが、ヴェルナー・ヘルツォーク監督ですよ。昨年はドキュメンタリー映画『世界最古の洞窟壁画/忘れられた夢の記憶』(2010年)を観ましたが、こんなところでナニをしておられるのか。
 たまに役者になりたくなるときがあるんですかね(笑)。
 片眼が白濁し、指も何本か欠落しているという凄みのある風貌にメイクされ、実に無慈悲な極悪人を堂々と演じておられます(なんか楽しそうだ)。

 中盤展開がアクション映画にありがちであるのは、お約束か。トム・クルーズが事件の真相に迫ろうとするのを妨害しようとちょっかいを出し、チンピラを雇って襲わせたりするので、そこから逆に手掛かりを辿られて追い込まれていく。
 しかも登場するチンピラ共が、ヤラレ役とは云え、あまりにマヌケなことを連発してくれるので、ちょっと笑ってしまいました。アクションの中にも笑いありです。

 一話完結式のドラマみたいなものだから、トム・クルーズ以外は全員がゲスト出演みたいなものですが、脇役でロバート・デュヴァルまで登場してくれたのが嬉しいデス。結構、豪華キャストです。まぁ、あまり華のある配役ではないか。
 リチャード・ジェンキンス、ヴェルナー・ヘルツォーク、ロバート・デュバル。渋いジジイばかりなのが嬉しいデス。
 ついでに原作者リー・チャイルドもカメオ出演しております(こちらはまだお若いですね)。

 謎解きよりもカーチェイスや格闘シーンに力が入っており、トム・クルーズの自演癖が遺憾なく発揮されております。トムはスタントマンを使わないので、撮影現場は大変だったことでしょう。
 そしてクライマックスはお約束的パターン。
 警察内部に裏切り者がいて、敵はロザムンド・パイクを拉致して人質に取り、トム・クルーズを呼び出す。
 単身敵陣に乗り込むトムに、ロバート・デュバルが助っ人する展開ですが、デュバルがなかなか楽しい爺さんでトムの射撃の腕前を全然信じていないのが笑えます。事件がそもそも狙撃事件であるので、ラストの銃撃戦もスナイパー同士の狙撃戦になるのが玄人好みでしょうか。

 黒幕であるヘルツォークの動機も判り易いし、欲に駆られた人間の悪事には際限がないと云うのも判ります。一点だけよく判らないのは、警察内部にいた裏切り者の刑事が「自分が何故、警察を裏切ったのか」とロザムンドに語りたそうにしていたのに、語る場面がなかったところですね。
 尺の都合でカットされたのか、問答無用に退治されておしまい。黒幕の手下に尺は割けぬとは云え、そこだけ不自然でした(ちょっとだけね)。

 そして事件は解決し、トム・クルーズは去って行く(バスで)。
 長距離バスで去って行くヒーローというのも、なんか異色な感じデス。公共の交通機関しか使わないのがエコですね。
 いや、でも劇中ではチンピラから巻き上げた車や、ロザムンドの車を盛大にクラッシュさせていましたよ。してみると毎回、事件の度にジャック・リーチャーは他人の車をクラッシュさせてしまうのか。無法者ですねえ。




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