2012年6月5日火曜日

ミッシングID

(ABDUCTION)

 ある日、社会学のレポートに出された課題で「失踪児童」について調べ物をしていると、自分の幼い頃の写真をインターネット上で発見する。自分は一体、誰なのか。両親は本当に自分の親なのか。
 信じていた世界が崩壊し、得体の知れない男達から命を狙われ始める。

 予告編の出だしから何となく『八日目の蝉』(2011年)みたいなものかと思いましたが、全然違いました。むしろ『ボーン・アイデンティティ』(2002年)でした。
 そもそも当初のコンセプトが、ティーンエイジ版〈ジェイソン・ボーン〉シリーズだそうで。本作はれっきとしたサスペンス・アクション映画デス。
 また原題が “ABDUCTION” ですが、UFO絡みのSFではないです。本来の意味の通りの「拉致・誘拐」です。どうにも題名にやっつけ仕事的なイイカゲンさを感じるのですが、中身はしっかりしております。大作ではありませんが、きちんとまとまってます。
 銃撃戦や爆発もありますが、撃たれた人間が血を流す描写はなく、ショッキングなバイオレンス・シーンよりも逃走と追跡に重きを置いたサスペンス映画の基本に忠実な演出は好感が持てますね。

 主演はテイラー・ロートナー。青春バンパイアもの〈トワイライト〉シリーズに出演していた狼男のカレシですね。結構、ハードなアクションもしっかりこなして頑張っております。
 テイラーと行動を共にするヒロインがリリー・コリンズ(ロック・ミュージシャンのフィル・コリンズの娘でしたか!)『しあわせの隠れ場所』(2009年)ではサンドラ・ブロックの娘役を演じておりました。眉毛の太い可愛い女の子は大好きです。

 他には、ジェイソン・アイザックス、ミカエル・ニクヴィスト、アルフレッド・モリーナといった個性的なオヤジ共が脇を固めております。シガニー・ウィーバーもいます。
 監督はジョン・シングルトン。『シャフト』(2000年)とか『ワイルド・スピードX2』(2003年)くらいしか存じませんですが、本作はそれらに比しても出来が良い。

 テイラーは悪友どもとバカやって、パーティで騒いで、親から大目玉を食らうという、アメリカにありがちなごく普通の高校生。悪友の一人はIDカードの偽造で小遣い稼ぎをしているという設定が、いかにもな伏線で微笑ましい(笑)。
 ごく普通の家庭のように思われるが、テイラーに対する父(ジェイソン・アイザックス)の態度には厳しいものがあって、格闘技の特訓は趣味の範囲を超えているように思われる。おかげでテイラーは高校ではレスリング部だし、それなりにマッチョで腕も立つ青年に育った。
 しかし自分でも覚えていない幼少時の記憶に苦しめられ、精神科医(シガニー・ウィーバー)のカウンセリングを受けている。テイラーが見る悪夢にはどんな意味があるのか。

 そして向かいの家には幼馴染みの女の子が住んでいる。なんとラノベ的な! アメリカでもラノベ設定はドキドキものなんですかね。さすがに朝、起こしに来てくれたりはしませぬが。
 そして学校で出されたレポートの課題を二人で片付けようとして、自分が失踪児童の一人であることに気付くわけですが……。

 最近、また映画でアップル社製品を見かけるようになりました。一頃、SONYのVAIOや、hpのパソコンが多かったような気がしますが、本作でテイラーとリリーが使うのは MacBook Air ですよ(二人揃っておそろいのパソコンか!)。もうワイヤレス環境は当たり前なんですねえ。
 ついでに偽造IDカード作りでバイトする悪友が使っているのが iPad です。高校の学食でさりげなくBluetooth キーボードをつけて、パチパチやっている。ぬう。恵まれてやがるなぁ。
 モバイル環境で Facebook にアクセスして顔写真を取り込み、ササッと偽造IDを作ってみせる。本筋には関係ないIT環境がちょっと羨ましいデス。

 失踪児童の真偽を確かめようとしたところ、司法省の役人と称する男達が家に押しかけてくる。顔色を変えてテイラーに「逃げなさい!」と警告する母。次の瞬間、母は射殺され、父もまたテイラーを守って命を落とす。
 両親は幼少時に自分を誘拐したのかと思われたが、どうやらそうではないらしい。異常な成り行きに呆然とするテイラー。更に仕掛けられた爆弾で家ごと吹っ飛ばされる。
 この爆発シーンは結構、気合いが入ってます。小品と云えど家一軒丸ごと爆破してますね。

 訳が判らぬ事態に精神科医のシガニー先生が現れ、二人を助け出す。
 実はシガニーも両親とグルだったのだ。敵も味方も判らぬまま、テイラーとリリーは国際的陰謀に巻き込まれていく。

 テイラーを追う悪党のボスが、ミカエル・ニクヴィスト。『ミッション : インポッシブル/ゴースト・プロトコル』(2011年)でも悪役でしたが、オリジナル版の『ミレニアム/ドラゴン・タトゥーの女』(2009年)では善人役だし、どちらもサマになっておられる。
 一方、テイラー達を保護しようというCIA局員が、アルフレッド・モリーナ。個人的には『スパイダーマン2』(2004年)のドクター・オクトパスが印象深いです。何となくモッサリした風貌がメタボ気味だが人の良い捜査官という風情です。

 本作ではテイラーとリリーを追う敵も味方もが、やたらとITを駆使しているのが印象的でした。
 ケータイ一本から居所を逆探知なんてのは朝飯前。ハッキングも駆使して、CIAが情報を掴むと同時に敵の組織もまた同じ情報を入手する。そんなに簡単に察知されて良いのかCIA。
 もう凄腕のハッカーが登場したら何でも出来てしまうという描写に、ちょっと御都合主義な部分が無きにしも非ずですが、スピーディな展開にはこれくらいしないとイカンのでしょう。
 しかも悪党の組織の方が機材が充実していると云うか、CIAの方が国家的な組織の筈なのに、ややもすると遅れを取ったりします。まぁ、スパイ・アクションものでは「敵の方が良いものを使っている」というのはお約束デスけどね。

 しかしハイテクばかりかと云うとそうでもなく、身体を張ったアクションも見応えあります。
 特に狭苦しい列車のコンパートメントの中でテイラーが敵の殺し屋とドツキ合うというシチュエーションは、実に基本に忠実で、どこかで見た場面ですね。これもオマージュなのか。
 父ジェイソン──実は本当の父の親友だった──から厳しく仕込まれた格闘技は、決して無駄では無く、この日の為だったという演出はなかなか熱いものがあります。判り易い伏線(笑)。

 逃避行の中で次第に明かされていくテイラーの過去。幼少時の悪夢の真相。
 本当の父はCIAの敏腕捜査官で、国際的兵器密売組織から、ある重要情報を盗み出して追われていたのだった。
 それを取り返そうとする組織は、父の留守中に自宅を急襲し、幼い息子を庇った母は殺されてしまう。繰り返し見る悪夢はそのときの記憶だった。
 愛する妻を失った父は息子を親友夫婦に預けて非情な世界に身を投じ、重要情報は隠されたまま十数年が過ぎ去った。
 子供を託された親友夫婦は、いつの日か来るであろう組織との対決に備えて、テイラーを鍛え上げ、シガニー・ウィーバーも精神科医の役を演じて見守り続けていてくれたのだった。
 ネット上の失踪児童サイトは、テイラーを見つけだす為に敵の組織が仕掛けた偽サイトだった(気の長い罠を仕掛ける人たちですねえ)。

 でも十数年も前の情報にそれほど血眼になって追いかけるほどの値打ちがあるのかと考えると、どうなんでしょうねえ。
 まぁ、『裏切りのサーカス』(2011年)でも二重スパイは何十年も潜んでいたわけだから、重要と云えば重要なのか。このあたりは、あまりツッ込んではイカンですか。

 ロケは主にペンシルベニア州ピッツバーグで撮影されたようで、随所にピッツバーグの風景が挿入されるので、ピッツバーグ観光にはいいかも。現地の高校でもロケしたそうですし。
 クライマックスではメジャーリーグのピッツバーグ・パイレーツが本拠地とする野球場PNCパーク・スタジアムも登場します。このスタジアムの大観衆の中で行われる追跡劇は結構、スリリングでした。

 テイラーが敵のボスと対峙したそのとき、長年行方を眩ませていた実の父が帰還し、因縁に決着が付くのですが、最後まで父親ははっきりと姿を現さないという演出が巧いです。
 自分に父親の資格はないと自覚し、再び姿を消してしまう。テイラーとはケータイで短い会話を交わすのみ。
 「確かに私は父親(father)だが、父さん(dad)ではない」という台詞が厳しい。
 天涯孤独の身となったテイラーは、高校卒業までシガニー先生の保護下に置かれることになり、とりあえずはハッピーエンド。

 劇中、様々なミュージシャンの楽曲が流されておりましたので、サントラの方も割と豪華なメンバーのようです。
 基本に忠実なサスペンス映画の佳作でありましたが、シリーズ化はなさそうですね。
 多少のツッコミ処はリリー・コリンズの可愛さに免じてスルーしてあげましょう。




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