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2013年1月14日月曜日

LOOPER/ルーパー

(LOOPER)

 タイムマシンが実用化された未来──それは三〇年以内に到来する──から送り込まれる標的を始末する殺し屋が、未来の自分自身を殺さなければならない羽目になる、と云うSFサスペンス・アクションです。
 時間テーマSFは原因と結果が逆転する描写に、いかに尤もらしい辻褄合わせが出来るかがポイントだと思うのデスが、本作は割とその辺りがユルめです。しかもSF的な背景設定にツッコミを入れ始めると際限なさそうな大穴があるように思われますが、だからと云って嫌いなわけじゃないですよ。
 楽しくツッ込めるSF映画は大好きだ(笑)。

 云うまでもなく、本作はB級SF映画です。ブルース・ウィリスが出演していると云う点にも、ジョナサン・モストゥ監督の『サロゲート』(2009年)と似たテイストを感じます(最近のブルースはやたらと色々な作品に顔を出しておられますが)。
 本作の監督は、これが長編三作目のライアン・ジョンソン。脚本も自らが書いておられる。

 『サロゲート』は「遠隔操作する身替わりロボット」と云うネタだけから、ストーリーをひねり出しておりました。
 同様に本作は、「未来の自分を殺さねばならない」と云うワンアイディアだけから作られたストーリーであるように思われます。
 SF者にはお馴染みの「親殺しのパラドックス」をちょっとヒネった設定ですね。本作に於いて、殺さねばならないのは自分の親じゃなくて自分自身。
 西暦二〇四四年の近未来に生きる主人公ジョセフ・ゴードン=レヴィットが、更に三〇年後(二〇七四年)の未来からやって来た自分(こっちがブルース・ウィリス)を殺さねばならないと云うシチュエーション。
 どちらの俳優も好きなのですが、同一人物を演じる設定には無理があるような……。

 劇中には、頑張ってジョセフがメイクしながら三〇歳老けていく時間経過が描かれる場面があります(ジョセフが少しずつハゲていく)。その一方でブルース・ウィリスもちょっと若作りしている場面もあったりして、二人の俳優が双方歩み寄ろうとしている努力は認めてあげたい。
 でも、やっぱり苦しいものは苦しい。

 冒頭から、主人公ジョセフのモノローグが長々と続き、台詞で状況説明を済ませてしまおうとする傾向が見受けられ、ちょっと如何なものかと思われました。
 その中で語られる基本設定へのツッコミ処──もちろんタイムマシンに関する設定──をスルー出来るか否かで評価が分かれる気がします。どの程度、心が広いかを試されているような。

 三〇年以内にタイムマシンが実用化されるが、歴史改変を怖れて世界中で使用禁止になる。したがって未来世界でタイムマシンを運用しているのは、犯罪組織だけとなる。うーむ。
 出発点からして、如何なものか。それを取り締まる時間警察くらいあるだろうと思われますが、そこはスルー。
 基本的に「対象物を過去にしか送れない」らしい点も、よく判らないですねえ。

 未来世界では個人の所在や身元照会が厳格である為(人々は体内にナノマシンを仕込まれているそうな)、犯罪組織は死体を始末できない。だからタイムマシンで殺したい奴を過去の世界に送り込み、まだ死体を簡単に始末できる世界の連中に殺してもらおう。うーむ。
 生きたままタイムマシンで送り込むことに意味があるのでしょうか。もうちょっと親切に、先に殺してから死体だけを過去に送ればいいのでは。
 殺す側だって、出現時間を待ち構えて、今か今かと神経すり減らさなくて済みますし。
 標的が出現した瞬間に、間髪入れずに鉛玉をブチ込むなんて事をせずに済むわけで、死体処理だけさせればもっとお手軽なのでは。

 それに「何故、三〇年なのか」と云う設定も、特に説明されません。
 色々な設定が「過去の自分が未来の自分を殺さねばならない」と云うシチュエーションを実現化するためだけに用意されており、それに反するようなツッコミは端から無視されているように見受けられます。
 他にも細かい点を挙げていくとキリがないデス。幾つツッコミを入れられるかで競ってみるのも一興でしょうか。
 個人的には、未来から送り込まれた殺し屋の元締めエイブ(ジェフ・ダニエルズ)と未熟な若造キッド(ノア・セガン)の関係にも言及してもらいたかったです(てっきり此奴らも同一人物だと思っていたのに)。

 そうは云っても、丸きりダメダメと云うワケでもなく、描写によってはなかなか怖ろしい演出もあったりして、それはそれで面白いのですが。
 そのひとつに「過去の人物」の身体を傷つけると、「未来の人物」に影響が現れると云う描写があります。
 標的が逃げ出すのは、ナニもブルース・ウィリスが最初ではなく、撃ち損じて逃がしてしまうケースが無いわけではない。そういう時には、若い方の標的を捕らえて、拷問にかける。
 すると逃亡中である老人の標的の方に影響が出る。若い方の指を切り落とせば、老いた方の指が消え失せる。二本、三本と、自分の身体が消失していくのを目の当たりにすると云う描写がえげつないです。しかもラストへの伏線になってますし。

 しかしながら、怖ろしい描写ではありますが、それによる歴史改変がどんな風になるのか、なんてことには一切、無頓着であります。
 指を切り落とした時点で、そこから「指のない男が三〇年間生き続けた」ことによる歴史への影響がどんなだったか、なんて華麗にスルー。まして「若い方が死んでしまった」場合、「そいつが三〇年間生きた世界」がどんな影響を被るかもスルーです。
 また、身体に影響が出るなら、記憶にも影響が出るのではと思われますが、そこも省略されている。
 でも、未来から来たブルース・ウィリスが、自分に憶えのない行動を取り始めたジョセフの記憶に悩まされると云う描写もあったりします。どうにも御都合主義的な。

 時間はループするのか、螺旋を描くのか。
 いっそマルチユニバースな別の時間線の世界に移行するから、歴史に影響は出ないと云いきった方が潔いと思うのデスが、それなら過去と未来の自分の身体がリンクしていると云う描写は矛盾していますし。
 直感的に判りやすく視覚化してくれるセンスは巧いものだと思うのデスが……。

 視覚的に面白い描写がいろいろあると云うのが、本作の見どころのひとつでしょうか。
 近未来世界の自動車や、メカニックのデザインはなかなか面白く、ホバーバイクもピカピカのメカではなく、いかにもポンコツな未来メカになっているのが面白かったデス。
 生活感溢れるリアルで雑多な近未来という描写は巧く活写されていると思います。

 でも本筋の方はと云うと、実は『ターミネーター』(1984年)でした。
 ブルースの目的は、未来世界で愛する女性を殺した犯罪組織のリーダーを、まだ子供のうちに殺して歴史を変えよう──愛する女性を救おう──というもの(或いは仇討ちなのか)。行動パターンもそのまんまですし。
 如何に主人公であろうと、標的の可能性のある子供を皆殺しにしていこうと云う姿勢はどうなんでしょう。
 案の定、最初の標的は無関係な子供で、自分がしくじったことに心が折れそうになるブルースの描写は哀れですが、もう少し考えて行動できないものか。

 それからもうひとつ、本作にはタイムトラベルとは別のSF設定がありました。
 人類に念動力──テレキネシス(TK)──が備わり始めていると云う設定。特に原因が何であるのか説明されることもなく、TK能力に目覚めた人達が出現し始める。
 これが大して必要な設定ではないと感じられてしまうのが残念でした。タイムマシンよりも、こちらの方をもう少し何とかして戴きたかったデス。
 ジョンソン監督は、SF的設定をさりげなく扱うやり方を、村上春樹の小説『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』を参考にしたと語っておりますが、SF者としては村上春樹の小説を参考するのは止めて戴きたかった……。
 いや、ちょっと考えれば「微弱なTK能力」でも、社会に重大な影響を与えることになると思いますが(参考にするのを間違えてる……)。

 このTK能力の設定が本当に他愛のない描写だけかと思いきや、終盤でかなり重要に扱われたりします。
 なんと標的である犯罪王は、強力な念動力者だった。そしてその能力は幼い頃から身に備わっていたのである。
 子供の超能力者を描きたいのは理解できます。しかし、能力を制御できない少年が、感情の爆発と同時に人間をぐしゃぐしゃにして殺してしまうなんて場面は、本筋にあまり関係ないのでは。ビジュアル的には面白いとは思いますけど。
 しかも明らかに、大友克洋の『童夢』とか『AKIRA』へのオマージュですねえ。
 考えていくと、ジョンソン監督は本作のあちこちで色々な過去の作品へオマージュを捧げておられる。それはいいけとしても、やればやるほど独創性は失われていく気がします。

 この少年を演じるのはピアース・ギャニオンくん。子役とは思えぬ迫力の演技でした。
 極悪非道の犯罪王も、幼い頃は純真だった。能力を制御し、善人としての道を歩むことも出来る。
 善人になるよう育てていこうとする母親役がエミリー・ブラントでした。つい最近も『砂漠でサーモン・フィッシング』(2011年)にも出演しておられましたね。

 ジョセフはブルースの先回りをして、この母子を守ろうとする。ジョセフとエミリーのロマンスも描かれるのかと思いましたが、そちらはごくあっさりしたものでした。
 少年が未来で犯した犯罪の先制報復に現れるブルースと、それを阻止しようとするジョセフ。
 ここでまた因果関係の逆転に言及される。少年が犯罪者になるきっかけは、実はブルースの行為によるものなのでは……。

 そして銃を構えたブルースを阻止するジョセフの最終手段は、自分を撃ち殺すことだった。いや、そういう伏線もちゃんとありはしましたが、それでいいのか。
 むしろ自分の両手をショットガンで吹き飛ばすだけで目的は達成されたと思うのデスが……。咄嗟にそれは難しいか。
 それにTK能力の設定があれば、両手が失われても不自由はしないと云うオチにも使えるし、少年も非行に走らず、八方丸く収まったのでは……。
 ビミョーに見どころのあるSFなので、尚のことにアレコレ云いたくなってしまいます。惜しい。




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