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2012年10月8日月曜日

神秘の法

(The Mystical Laws)

 〈幸福の科学〉はいつも三年毎にアニメ映画を製作してくれておりましたが、今年は実写映画『ファイナル・ジャッジメント』(2012年)があったので、アニメ無しと思っておりました。
 しかし期待を裏切ることなくアニメ映画もちゃんと製作してくれるとは流石デス。
 ありがとう、ハッピーサイエンス。ありがとう、大川隆法。

 本作は云うまでもなく大川隆法の著作、〈幸福の科学〉の経典のひとつである『神秘の法』の映画化作品です。題名に「~の法」と付く法シリーズの第十巻目。
 宗教団体の経典がこんなにエイタテインメントであると云うのも凄いですね(読んだことありませんけど)。
 ちなみに〈幸福の科学〉のアニメ映画としては本作は六作目に当たります。

 監督が今掛勇であるので、アニメとして水準以上の品質は期待できます(中身がどんなにトンデモでも)。
 今掛監督は過去にも『太陽の法』(2000年)や『黄金の法』(2003年)の設定等に関わり、『永遠の法』(2006年)からは監督を務めるようになられている(『仏陀再誕』(2009年)は法シリーズじゃないからスルーしたんですかね)。『カウボーイビバップ』だけの方じゃありませんよ。
 脚本の方は〈「神秘の法」シナリオプロジェクト〉と云う、団体名になっているので、どなたの筆になるのかはよく判りませんが、観た者全てに「ツッ込みたい!」と強烈に思わせてくれる驚異の脚本です。
 云うまでも無く、本作はもうツッコミ処満載。ツッコミ処以外の要素無し。これがツッ込まずにおられようか。

 そして出演する声優さん達の豪華さに驚嘆を禁じ得ません(毎回そうだけど)。
 主演は毎度お馴染みのベテラン、安定の子安武人。
 そして共演する声優陣は藤村歩、平川大輔、柚木涼香、三木眞一郎、堀内賢雄、雪野五月、伊藤美紀、銀河万丈、家中宏、土田大……。
 特に三木眞一郎、堀内賢雄、銀河万丈と揃っているのが壮観デス。これだから〈幸福の科学〉アニメはやめられん(中身がどんなにスカタンでも)。
 もはや常連となった声優さんもいますし、中堅からベテランまで充実しまくりの配役です。

 さて、本作は『ファイナル・ジャッジメント』の姉妹編のような物語です。日本が強大な軍事独裁国家に占領されると云う設定が、ウリ二つ。でもトンデモ度は本作の方が上。
 近未来の二〇二×年、アジアに覇を唱える強大な東アジア共和国に於いて、突如としてクーデターが勃発し、帝国ゴドムが誕生する。
 初っ端からこれ。「東アジア共和国」に「帝国ゴドム」とな。やはり実名を使うと差し障りがあるのでしょうねえ。でも判りますよ、C国ですね(笑)。
 『ファイナル~』の「オウラン共和国」に輪をかけて破天荒です。全編、声優さん達は大真面目に「帝国ゴドムが」と云い続けておりますが、真面目に云えば云うほど笑いがこみ上げます。
 ていこくごどむ。「ゴドム帝国」ではないところに妙なコダワリを感じます。
 ゴドムは「赤地に白抜きの円と黒の鉤十字ぽいマーク」と云う、実に判り易い旗を堂々と掲げてくれます。もう少しデザインをヒネらないと、ナチスから「パクリだ」とクレームが来ますよ。

 そして帝国ゴドムの皇帝タターガタ・キラー(云い難い名前ですね)役が平川大輔。仮面で正体を隠した(でも美形)冷酷な悪の皇帝。
 意に沿わぬ部下は電磁ムチで容赦無く粛正です。八〇年代以前の悪役描写が笑えます。
 一体全体、ここまでフィクション丸出しにする必然があるのですかね。そのままC国でいいじゃなイカ(良くなイカ)。

 ゴドムは超絶的科学技術で軍備を強化。兵隊さん達は当然のように光学迷彩装備。おまけに「六兆度の火の玉で全てを灼き尽くす」最終破壊兵器まで用意している。
 この他国の追随を許さぬハイテクぶりは、ただ一人の謎の女性、張麗華(ちゃん れいか)からもたらされたものだった。
 謎の女、張麗華を演じるのは藤村歩です。クールな正体不明のお姉さん。

 そして帝国ゴドムは圧倒的軍事力で周辺国を次々と占領。遂には日本も占領されてしまう。このコンセプトは最近の〈幸福の科学〉のお気に入りですね。
 日本が架空の帝国に占領されるという設定は、『コードギアス』でもお馴染みですが、どうにも〈幸福の科学〉的な演出は生々しい。

 戦闘機の領空侵犯に対して自衛隊機がスクランブル発進するものの、首相は迎撃の決断が出来ない。
 憲法九条を楯に「日本は何も出来ないのだ」と主張する議員(そんなこと無いでしょうに)。
 「抵抗せず占領されるのがもっとも被害が少ない途です」と云いながら「でも私は亡命しますけどね」などと云い放つ女性議員(誰のことやら)。
 フィクションだとしても、あまりにも情けない。趣旨は理解できるが、演出がド直球デス。
 骨のあるオヤジ議員もいることはいるが権限が無いので、ただ喚くしか出来ない。
 「首相、決断をッ。くそぉ、日本は本当は強いんだ! 政治家は腹をくくれッ」
 そこまで云われても首相は迷っている。挙げ句の果てに頭を抱えて「ダメだ~。私には決断できない~ッ」と泣き言垂れる。清々しいまでに無能です。

 かくして日本は占領され、巷の看板からは平仮名や片仮名が消え失せる。
 宗教は禁止され、全国の神社仏閣は閉鎖。インターネットの検索は制限されまくり。市民生活は監視され、不満分子は問答無用に検挙。小学校では日本の戦争責任をこれでもかと誇張して子供達に叩き込む。
 なんたる暗黒未来。実に判りやすいですね。

 おまけに国連は機能せず(いや、C国じゃないのだから、帝国ゴドムが常任理事国であり続けることは出来ないのでは……)、緊縮財政で国防費を削りまくっていたアメリカもお手上げ。太平洋上で合衆国海軍の空母が撃沈されているのに、何も出来ない(どうにも恣意的な脚本ですね)。
 オバマ似の大統領役が堀内賢雄です。カッコつけてますが、こいつもヘタレです(笑)。

 そんな状況下でゴドムに抵抗を続ける国際的秘密結社〈ヘルメス・ウィングス〉。最初は「国境なき医師団」のような医療団体かと思われましたが、実は諜報活動も行います。
 代表はただ「ジェネラル」とだけ呼ばれるナイスミドルな白人男性ですが(声は家中宏)、ゴドムによって暗殺される前に主人公(子安武人)を後継者に指名する。
 しかし、いきなり「キミには世界の希望の光となってもらいたい」と云われましても。主人公に過大な期待をかけ過ぎるあたりは『ファイナル~』と同じです。
 この主人公の名前は獅子丸翔(ししまる しょう)。いやぁ、素晴らしくヒーローぽい名前です。巨大ロボに乗り込むとか、改造人間となって変身してはくれないのか。

 おまけにインドのアジャンタ石窟で発見された「救世主再臨の予言」を伝える為に、仏教界の長老みたいな老僧まで現れる。明らかに地球外金属で作られた二五〇〇年前の壺(笑)に、「再誕の仏陀が東の国に現れる」と書かれてあったとか。
 どうして「東の国」と云うと、すぐに日本のことだと短絡してしまうんですかね。インドの東には他にもいっぱい国はありますよ。C国だって、インドの東の国だし。

 一介の青年がワケも判らず世界的結社の後継者に指名される展開は『ファイナル~』と同じパターンですね。一応、素養はあるらしく予知能力を備えている描写があるにはあります。
 突然、後継者に指名されて悩みまくり、勉強しようと手に取る本が『八正道』。キターッ。
 そして徳島で悟りを開く。何故、徳島。
 〈幸福の科学〉的には「徳島は聖地」ですから。総裁の出身地ですし。劇中でも〈ヘルメス・ウィングス〉の日本支部がここにある(東京にもありますが、徳島にもあるんデス)。

 そして主人公に救世主としての覚醒を促す為に登場する霊的な人達(幽霊みたいなものか)。古代インカの王にして地球神となったリエント・アール・クラウド。〈幸福の科学〉アニメでは有名な王様です(他では知らんが)。
 また日本の霊的守護神として、木花開耶姫(このはなのさくやひめ)も登場します。声は柚木涼香。美しい桜吹雪と共に登場する萌え萌えなお姉さんです。
 木花開耶姫は、純白の神獣ヤマタノオロチを召還したりします。CGのオロチが見事です。

 本作には「法シリーズ」共通の設定が見受けられます。
 即ち、主人公には前世の姿、魂の分身がいる。エル・カンターレも、ラ・ムーも、トスも、リエント・アール・クラウドも、オフェアリスも、ヘルメスも、ゴータマ・シッダールタも前世の自分。
 〈幸福の科学〉アニメ的オールスター・キャストですねえ。
 更にUFOに乗って金星人まで現れます。五億年前に滅んだ古代金星文明人。既に肉体は無く、霊的存在だそうで、地球神リエント・アールにも仕えていたという。
 えーと。五億年前の金星人が古代インカの王様に……。時間の尺度がトビまくりで、クラクラします。実に爽やかなイケメン金星人を演じるのが三木眞一郎。

 更にまたハナシは壮大に広がっていき、金星のみならず、大宇宙に存在する幾多の文明にまで言及していきます。
 ここで帝国ゴドムにハイテクをもたらした謎の女性、張麗華の正体も明らかになる。なんと滅亡に瀕したベガ星のシータ姫だったのだッ(いやもう好きにして下さい)。
 しかしベガ星人が「外見は北欧系の美人である」と云うのはナンデスカね。人種的偏見?
 ついでにシータ姫の父親であるベガ王の役は銀河万丈ね。

 滅亡に瀕したベガ星人は、タターガタ・キラーと取引してしまい、ベガの科学技術を提供する代わりに、クーデターの片棒を担ぎ、地球への移住を許可してもらっていたのだ。
 いやもう、あまりにもツッコミのネタを振りまいてくれて、とてもここだけでは書き切れません。
 生身のベガ星人だけでなく、ベガの霊界も一緒に救うとか、地球人の受精卵にベガ人の魂が憑依して地球人として生まれてくるといった、「それって侵略じゃないの」的なシステムも披露されます。もっとダイレクトな「ウォーク・イン」と云うのもありますし。
 ウィンダムの『光る目』とか知らないのかな(二度ばかり映画化されてますけど)。

 なんちゅーか、壮大に風呂敷を広げたお陰で、前半の「日本が外国に占領される」物語が霞んでしまいました。
 日本がしっかりしていないとそのうちC国に占領されて暗黒未来になるぞと警鐘を鳴らしただけで満足したのか、日本が独立を取り戻すハナシはスルーです。
 前半と後半が別物と云うか、後半部分が解決すれば、自動的に前半も解決されるのか。

 もはや帝国ゴドムにとって最大の敵は米国ではなく、〈ヘルメス・ウィングス〉となり、その指導者を捕らえて処刑するのは至上命題となる。NPOまがいの団体をそこまで重要視しなくても、欧米諸国の方がよほど驚異だと思うのですが。
 捕らえた主人公を公開処刑するとか、土壇場で改心したシータ姫が反旗を翻し、主人公を助けようとするとか、お約束展開はしっかり外しません。
 一度は銃殺された主人公ですが、宗教的指導者ならば復活の奇跡はむしろ当たり前とも云えるでしょう。
 このあたりから霊的覚醒を遂げた主人公の周辺に霊界から守護霊が駆けつけ(なんか日本神話ぽいデザイン)、悪の皇帝が地獄から呼び出したハリーハウゼン式骸骨兵団と壮絶に激突する。多分、サイキックな戦闘シーンなので、一般人の目には見えていないのでしょう。

 霊的に覚醒した主人公にとって、悪の皇帝などもはや敵ではない。皇帝に取り憑いていた悪霊も退治され、起動した最終兵器も、なんだかよく判らない地球意識の浄化作用で停止です。
 そして説法。キタコレ。
 これがないと〈幸福の科学〉アニメとは申せません。魅惑の子安ボイスが語りかけてきます。
 『ファイナル~』と同じく「親」だの「神」だの「愛の星」といったフレーズが多用されます。

 今回、地球が危機的状況に陥ったのは、信仰薄き罪が故である。
 地球を救うのは軍事力でも経済力でもない。信じる心である。どうか共に祈ってほしい。神仏が我々を見捨てる筈がない。
 地球は魂の修行の場であり、「神の子」であることが、真の民主主義なのである。
 愛の星に棲む人々よ、今こそ地球人としての意識に目覚めようではないか。

 感動的なオーケストラに乗せて、耳を疑うフレーズが連発されるのも、いつもの通り。根拠無く信じろと云われましてもねえ。

 この世界は目に見えるだけが全てではない。霊もいる。異星人もいる。我々がいるのは〈神秘の世界〉なのだ。それが真実なのだ。

 フツー、霊を信じるオカルト者と、エイリアンを信じるSF者は相入れない感じがしますが、分け隔てしないのが〈幸福の科学〉ですね。非実在的なナニカを信じたくなるのが人間の性であるという点に鑑みれば、一理はありそうですが、だからと云って「五億年前の古代金星人の霊」だとか「ベガ星人の意識が受精卵に宿る」とかトンデモなことを云われましてもねえ。
 まあ、一介のSF者には越えることの出来ない垣根を軽々と越えてみせてくれるのは、ある意味では驚異です。これもセンス・オブ・ワンダーなのかしら。
 さすがは大川隆法。俺たちに出来ないことを平然とやってのける。そこにシビレる、憧れるゥ!(嘘です)。

 どこかで観たような設定や、デザインが多いのも御愛敬としましょう。CGも駆使した高画質な画面です。背景美術も美しく見事です。音響にも手抜かりなし。勿論、声優さん達の演技には文句のつけようもない。
 ただ脚本だけがスカタンな上にトンデモであると云う「だけ」の、いつもの〈幸福の科学〉アニメでした。その点も期待通り。

 脚本以外の部分で難点を挙げるのは難しいのですが、モブシーンのCGがちょっと粗く感じられました。束の間の短いシーンですが、逃げまどう群衆や、霊体軍団の激突を俯瞰で捕らえたショットのCGが拙いです。ヘンに動かすせいで人形臭い。
 これは最近の日本のアニメに見受けられる悪しき流行でしょうかね。コスト削減にはやむを得ないのか。別に動かさなくても止め絵で充分なのでは。
 むしろ一瞬でもチープなCGを見せられる方が興醒めです。

 それから今回は子安武人が経文を詠唱する場面が無かったのがチト不満でありました。流れるようにスラスラ唱える魅惑の子安ボイスが聴きたかったのに。
 次回作では盛大にお経を唱えていただきたい。『成功の法』でも『希望の法』でもいいですから、有名声優さんもいっぱい起用しましょう。
 今回、堀内賢雄も起用できたので、次回は山寺宏一や関俊彦にも出演して戴きたい。林原めぐみも忘れずに。そして全員で唱えてもらうのだ。
 ナウマクサマンダラバザ(げふんげふん)。ナニ、宗派が違う?


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