2012年6月10日日曜日

ファイナル・ジャッジメント

(Final Judgment)

 律儀に三年おきにやってくる大川隆法の製作総指揮による〈幸福の科学〉の映画ですね。これで七作目か。前作『仏陀再誕』(2009年)までアニメが五本続きましたが、本作は久しぶりの実写映画。『ノストラダムス戦慄の啓示』(1994年)以来とな。
 アニメを期待していたので残念ではあります。でもきっとトンデモな映画であることには違いあるまい。ええ、その期待は裏切られませんでしたよ。

 しかし今までの〈幸福の科学〉映画を観ていると、仏教を題材にするのが大前提だと思いましたが、何故か今回は題名からして『ファイナル・ジャッジメント』。「最後の審判」ですか? それはキリスト教の概念なのでは。あっちは “Last Judgement” か。イスラム教にも「キヤマー」という最後の審判的概念がありましたが、仏教にもあったのかしら。
 いや、仏教では「誰かが誰かを裁く」なんてことはしないのでは。「因果応報」はもっと自動的なものだったと思いましたが……。
 まさかと思いますが、よもやの宗旨替えか。それはシャレにならん。

 ある日突然、祖国が侵略される。言論の自由や信教の自由がなくなり、反発する者は逮捕され、処刑される中で、一人の青年が地下組織と共に立ち上がる──と云うストーリーは、特に珍しいものではありませんです。ある種の近未来SFのようでもあるし。
 過去にはジョン・ミリアス監督の『若き勇者たち』(1984年)なんてのもありました。懐かしいなあ。パトリック・スウェイジも、チャーリー・シーンも若すぎる。C・トーマス・ハウエルもか。
 しかし本作はそんな国威発揚映画でもありませんデス(ある種の人は発揚されるのか)。

 架空の国家オウラン国──アジアにある強大な軍事独裁国家──が遂に日本にその魔の手を伸ばす。数年前に南アジア共和国を併合し、着々と領土を拡大してきたオウランの次のターゲットが日本だったのだ。
 いやぁ、判り易い。もうハッキリ云っちゃえばいいのに。C国(げふんげふん)。
 「南アジア共和国」というのも架空の国ですが、カンボジアやベトナムあたりを連想させる描写です。

 まぁ、云わんとするところは判りますけどね。
 自国の領土なのに他国に実効支配され、自国の領土なのに他国から領有を主張され、「誠に遺憾である」としか云えない政府。こんな奴らに任せておいたら国は滅びる。今こそ、自分の国は自分で守るべきである。
 誠にその通りであると思いますが、宗教がその解決手段になると云うのも如何なものか。

 こんな世界にしてしまったのは、人の心の所為だ。人の心を変えなければ、何も変わらない。
 うん。そこまでは何となく頷けます。
 暴力では何一つ解決しない、というのもいいでしょう。でもだからといって、祈ればいいというものでも無いと思うのデスがねえ。どうも云っていることの初めのうちは理解できますが、何故そんな結論に至るのかがさっぱり判りません。

 物語は、沖縄の領有を主張されても「遺憾である」としかコメントしない政府の情けない態度を見せておいて、急転直下にオウラン軍の首都侵攻となる。うわぁ。イキナリやね。
 とりあえず音響が凄いと云うのは判りました。これはもう劇場で観ないと判らんですね。
 東京上空に突如飛来するCGヘリの大軍団。抵抗らしい抵抗は描かれず、首都は制圧。
 国際情勢とか一切描かれぬままに日本は侵略されちゃったのでした。強引な。

 とにかく製作者の望んだシチュエーションを作り上げる為には、多少の強引さには目を瞑ろうという姿勢があからさまです。こういうツッコミ処のあるB級展開は大好きです。
 渋谷の大ビジョンに映るオウラン軍司令官ラオ・ポルト(名前が凄いやね)。コレを演じるのが天下の宍戸錠ですよ。うーむ。ジョー、仕事を選ばない人だなあ。
 他にも三浦孝太、海東健といった若手の人達もまた仕事を選ばないプロフェッショナルです。
 三浦孝太は主に舞台劇の役者さんだそうですが、映画初出演でいきなり主役です。
 これを支える親友役が〈海猿〉シリーズの海東健。
 田村亮もいます。『暴れん坊将軍』の大岡忠相として馴染み深い。

 オウランの徹底した宗教弾圧に、レジスタンス達は地下に潜伏して抵抗組織を結成する。
 その名も地下組織〈ROLE〉── Religious Organization for Liberty of the Earth (地球の自由を守る宗教的組織)。「地球の自由」とはまた大きく出ましたね。弾圧されている信者の皆さんが参加しているだけあって、アジトには様々な宗教、宗派の人達がそれぞれに祈りを捧げている。
 この組織の頭文字をつなげると「ロール」と読める(何故、英語を使うのかは謎ですが)。
 ロールとは役割のこと。人それぞれに生まれ持った役割があり、それは果たさねばならない。今こそ、あなたも自分の役割に気付くべきなのだ。

 観ている私も気付かねばならんのか。そういう運命論的な物言いはあまり好かんのですが。
 結局、組織を創設した田村亮に見込まれ、三浦孝太は組織のリーダーとなっていく。
 「我々は待っていたのだ。全地球的レベルの救世主の到来を!」
 そんな重すぎる期待を背負わせてプレッシャーかけないで。

 かくして三浦孝太の修行が始まるという次第。宗教のことなど何も知らない門外漢が、一から真摯に勉強しようとする姿勢は、まぁ立派ですけどね。でもその勉強は、どこから手を付ければいいのだろう……と迷っていると、本棚にある宗教関連書籍の中で『八正道』の本が光っているという演出は、かなり恣意的であると云わざるを得ないです。
 本を読んで勉強し、結跏趺坐して瞑想する三浦孝太。
 迷いを断ち切れずにいる三浦孝太の前に、亡き父の姿が現れ、甘言を囁くという演出は、なんかキリスト教ぽくありませんか。
 「世界から争いごとが無くならないのは、宗教とイデオロギーの所為だ」と指摘し、修行を辞めさせようとする父に邪なものを見抜く三浦孝太。なんと! その正体は悪魔だったのだッ。
 CGがスゴイ! 気合い入れまくりの悪魔のCGは迫力充分! ここがクライマックスか!

 もう仏教なのかキリスト教なのかよく判らぬデスが、とにかく悪魔を退け、悟りを開き、救世主として覚醒した三浦孝太は〈ROLE〉を率いて圧政に立ち向かおうと決意する。えらく短期間で覚醒しちゃうとか、悪魔の言い分にも一理あるのではなんてクレームはスルーです。
 地下組織のリーダーとして各地を回り、説法によって人々を勇気づけ、結束させる三浦孝太。オウラン側からは危険人物としてマークされ、指名手配される。

 説法だけで事態が打開できるのかとか、なんで話を聞いた人達は疑念ひとつ抱かずに信じてしまうのかとか、色々とツッコミ処があるのが楽しいデスが、極めつけは〈ROLE〉のアジトに、足の不自由な「車イスの少女」がいるという設定でして。
 どうして「奇蹟」を描こうとすると、「車イスから少女が立つ」になってしまうのか。安直すぎませんか。
 しかもこの映画の前に、『ルルドの泉で』(2009年)なんてのを観ていた所為もありまして、このシーンでは失笑してしまいました。
 そうそう。音楽で盛り上げて、ちゃんと光って、涙を流して抱き合う。実に判り易い。「奇蹟」の演出とは斯くありたい。安い奇蹟ですけどねー。

 このあと、オウラン側がアジトを急襲し、三浦孝太を逮捕し、処刑しようという展開になるのはお約束みたいなものです。そして一度は三浦孝太を裏切ってオウランの手先となった恋人が改心し、彼女の手引きによって脱出し、かねてから〈ROLE〉が用意していた説法の中継現場へと三浦孝太を連れて行く。
 序盤や中盤のCG描写に比べて、アクション演出がどうにもヌルすぎるのもB級的です。

 そして驚くべきクライマックス。
 実は戦闘シーンと呼べるものがこの映画にはありません。オウラン兵はガンガン撃ちますが、レジスタンスは撃ち返さない。暴力が否定されているわけで、代わりに何をするのかと云うと、説法です。
 ひとたび三浦孝太が話し始めるや、オウラン兵達は次々に銃口を下げ、指揮官の命令に従わなくなっていく。その説法は全世界に中継され、配信され、それを観た人々も感動に打ち震える(日本語の説法なのに)。
 宍戸錠は為す術も無くそれを眺めているだけ。
 そして人々は立ち上がった──と、ラストに字幕で説明される。

 そんなんでいいのか。
 理想が実現するのは感動的でしょうが、その過程にリアリティがカケラも感じられませんよ。これではあまりに御都合主義な。寓話としても如何なものか。
 それに暴力を否定するなら、序盤の日本政府の姿勢もそうだったのでは……。

 今、世界は大きな危機を迎えています。信仰心の欠如が原因です。共通に信じるものが必要なのです。我々は皆、神の子供であり、親である神を信じる心が大切なのです。

 気安く「神」という単語を連発していますが、どんな神なのか判らないです。あらゆる宗教を統合することが前提になっているようです。宗教に大様な日本人的観念なんでしょうねえ。
 役者の演技に問題は無いが、脚本がトンデモでスカタンです。毎度の事とは云いながら、本作は今までになく脚本に中二病ぽいところが目立ちました。

 でも一番スゴイのは、劇場がほぼ満席だった事実の方か。〈幸福の科学〉信者の皆さんの中にはリピーターが続出しているようで。「今日で四回目よ」という声も耳にしました。うひー。


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