2012年8月7日火曜日

遊星からの物体X/ファーストコンタクト

(The THING)

 SF者としては、ジョン・W・キャンベル作『影が行く』の三度目の映画化、と云いたいところですが、世間的にはジョン・カーペンター監督の傑作SFホラー『遊星からの物体X』(1982年)の前日譚。でも私もカーペンター監督は好きですし、別にそれで全然構いませんデス(ハワード・ホークス監督版のファンからもあまり文句は出るまい)。
 当初はカーペンター監督版のリメイク企画だったと思われましたが、紆余曲折の末、前日譚として完成しました。
 別名、『遊星からの物体X/ビギニング』または『~物体X/エピソード0』。昔なら『新 遊星からの物体X』か。まぁ前日譚だし「ファーストコンタクト」でも間違いでは無い。でもフツーにただの『物体X』でエエやんと思うのデスが(原題もシンプルに “The THING” のままですし)。

 本作の監督は、マシーズ・ヴァン・ヘイニンゲン・Jr.。まったく馴染みがありませんが、これがこの監督の長編デビュー作だとか。初監督作品にしては結構、大掛かりだし、なかなか巧い監督です。CM畑出身の監督の作品は映像的には、まず間違いないので安心です。あとは脚本に問題がなければ良し。
 その脚本は『ファイナル・デッドブリッジ』(2011年)のエリック・ハイセラー。リメイク版『エルム街の悪夢』(2010年)の脚本にも名を連ねておられます。
 ロブ・ボッティンの芸術的クリーチャー造形は、今回は一部をCGで表現。時代の流れか。
 昔はストップモーション・アニメやアニマトロニクスだったものが、CGに置き換えられていくのは良いとしても、巧くやらないと全体的にお手軽感が漂ってしまうと思うのデスが……。
 案の定、本作でも数カ所、「ソレはないわー」的な残念シーンがありました。うーむ。「人の顔面が真っ二つに裂ける」場面は、CGの方が良いのか、それとも人形仕掛けの方が良いのか。どちらも低予算ではチープな絵になってしまいますけど。
 人間の変型シーンはCGを使い、でも正体を現した〈物体X〉はアニマトロニクスの実写映像で、と云うこだわりも伺えますが、もう少しCGは抑えて戴きたかった。

 カーペンター版の冒頭で、南極ノルウェー基地からのヘリが雪原を走る犬を追う場面がありました。皆様御存知の通り、犬は〈物体X〉で、ヘリの乗員はアメリカ基地の目の前で自滅&射殺(アメリカ人の前で、彼らに理解できないノルウェー語を喚き散らしながら銃を振り回していたら当然そうなるわな)。
 後日、カート・ラッセルらがノルウェー基地を訪れてみると、基地は破壊され、生存者は見当たらず、更に溶けて崩れたような異様な死体が転がっていた……。
 本作はノルウェー基地で本当は何があったのか、どうしてこうなったのかと云う理由を解明してくれるものです。
 もう全編が辻褄合わせの為にあるようなもので、製作スタッフの旧作に対するリスペクトには並々ならぬものが感じられました。最初に出てくるユニヴァーサル・ピクチャーのロゴからして、一昔前の古いロゴを使っているし。
 色々と新機軸の演出を持ち込みながら、最後にはちゃんと「そのように」なる。旧作で描写されていたとおりの状況に落ち着くのがお見事です。

 でも、ただの辻褄合わせだけにならぬよう、色々と配役や展開にも工夫が見受けられます。
 やはり配役では、女性キャラクターを登場させたのが旧作とは違う点でしょうか。本作では、主人公にメアリー・エリザベス・ウィンステッドが抜擢されております。『スコット・ピルグリム VS 邪悪な元カレ軍団』(2010年)のラモーナちゃんか。
 あとはジョエル・エドガートンとか、ウルリク・トムセンとか、アドウェール・アキノエ=アグバエといったオーストラリアやヨーロッパの俳優さん達が起用されております。ノルウェー基地なんだから、そうでないとイカンか。
 逆によく知らない人たちなので、誰がどんな末路を辿るのか判らないのがいいですね。
 でも最終的には全滅するワケですが……。

 旧作の冒頭で、ノルウェー基地の隊員が英語を喋らなかったことを受け、本作ではちゃんとノルウェー人はノルウェー語を喋ります。一応、客員研究者として主人公が招かれ、英国人もいる設定なので、劇中では英語、ノルウェー語、デンマーク語が飛び交うなかなか国際色豊かな演出になっています。
 ノルウェー語で会話されると、主人公にはちんぷんかんぷんであるという状況も、サスペンスを盛り上げる一助となっています。

 まず本作の冒頭では、如何にして「あの円盤が発見されたのか」が描かれます。
 雪上車がクレバスに落ち込み、クレバスの底に円盤が見えるというなかなかスリリングなオープニングシーンから、主人公がノルウェー基地に招かれ、発見された円盤を見せられ、少し離れた氷原で得体の知れない凍結した生物を発見するまでが段取りよく描かれていきます。
 ナニが起こるか予め判っているので、本作ではホラー色は薄めです。どちらかと云うとサスペンス色の方が強いか。
 凍結した〈物体X〉を周辺の氷ごと立方体に切り出して、基地に持ち帰る。氷が曇っていて、中身がおぼろげにしか見えない演出がいいですね。
 悪天候により基地が孤立するというのも定番展開ですが、あまり閉息感が強調されていないのは、全体的に明るい場面が多いからでしょうか。ちょっと惜しい。

 本作は非常にオーソドックスな演出が貫かれています。
 「来るぞ来るぞ」と思わせて、ちょっとタイミングを外し、外したところでドカーンと現れるのがお約束ですが、実に手堅い。
 氷塊が溶けてくると、中の〈物体X〉が息を吹き返して飛び出してくる。飛び出し方も旧作に則った演出なのが実に楽しい。
 即席の火炎放射器で追い回して仕留めるのもお約束。それにしても、どの国の南極基地にも火炎放射器がごくフツーに登場するのが可笑しいデス。ひょっとして私が知らないだけで、火炎放射器は南極越冬の常備品なのか(笑)。

 過去に骨折経験があり、骨にプレートが入っていた隊員が餌食になり、仕留められたときにはまだ体内で複製中だったと云う描写がグロいですが、ここに新たな設定が追加されました。
 即ち「取り込んだ生物をコピーする際に無機物は取り込めない」という設定。追加設定ですが、特に問題なく物語に馴染んでおります(むしろそれに気づかなかったカート・ラッセルの方が迂闊に思えるくらい)。

 ここから旧作とは異なる〈物体X〉判別法が編み出されます。
 まず〈物体X〉は人間を複製する際に、歯の詰物や義歯を吐き出すから、口腔内に虫歯治療の痕がない隊員が怪しい。
 しかしこの判別法は、本当に健康な歯の隊員と〈物体X〉の見分け方まで教えてくれないのが難点。おまけに確認する際には、相手に口を開けさせ、その中をのぞき込まねばならないのが、実にスリリング。
 相手が「あたり」だったら、その瞬間に口からナニか飛び出してくることは容易に想像できますものね。もうこのドキドキ感がたまらぬ演出でした。

 また同化吸収のプロセスもCGが使えるので明るい場所でじっくり見せてくれるようになりました。だから尚のこと怖くないのですが。
 噛みつかれて喰われていくだけでなく、肌が密着するだけで触れた部位から同化されていく。旧作で登場した「二人分の人体が溶けてくっついた」モノがどのように出来たのかが判ります。CG加工されているのが明らかな場面なので、ナニもそこまで克明に説明してくれなくてもいいのにと思うほどでした。
 やはりホラーじゃないか。エグい場面ではありますが。
 暗闇から襲ってくる恐怖よりも、正体を現してダイナミックに襲ってくる恐怖の方に重点が置かれているようでした。それでも結構、ドキドキハラハラものですが。

 ラストは円盤を起動させて逃亡を図る〈物体X〉と、クレバスの底の氷結空洞で対決です。なかなかに巨大な円盤のメカ描写は見事ですが、どうしてこんな精巧なメカニズムをあのグチャグチャな生物が建造できたのか判りませんです。B級SF特有のツッコミ処ですねえ(笑)。

 旧作とのリンクを重要視する演出方針では、ヒロインと云えど生き延びることは出来ないのだろうと思われましたが、相打ちになることなく勝利して生き延びてしまったのには驚きました。
 実は劇中では、アメリカ基地とは別にロシア基地について言及されており、ヒロインはそちらに避難したのだと察せられます。
 だからラストシーンはヒロイン不在のまま進行します。ほぼ無人と化したノルウェー基地に、悪天候で帰還できなかった隊員がヘリで帰ってきて、惨状を目の当たりにする。ただ一人の生存者がヘリを迎えたところで、犬が一匹、飛び出して駆けていく。
 ポカンと見送るヘリのパイロットを叱咤し、「アレは犬じゃないんだ。追えッ!」とヘリで追跡を開始する場面でエンドです。
 この二人がどうなったか──は、旧作の方を御覧ください。割とあっけない末路でしたね。

 本作の音楽はマルコ・ベルトラミで、『ソウル・サーファー』(2011年)や、『ダーク・フェアリー』(同年)等でお馴染みですが、このラストシーンでは旧作のテーマ曲(エンニオ・モリコーネですね)が流れてくれたのが嬉しかったです。
 この先は、更なる続編へと発展していくのでしょうか。ヒロインが避難した先のロシア基地はどうなってしまうのか。調子に乗った更なる続編を期待したいデス。




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