2012年6月12日火曜日

ソウル・サーファー

(Soul Surfer)

 サーファーとして将来を嘱望されながらも、サーフィン中に鮫に襲われて左腕を肩の下から喰いちぎられた少女ベサニー・ハミルトン(13歳)。一命を取り留めた彼女は、家族に見守られ、困難を克服し、片腕サーファーとして再起する。
 これは実話に基づく感動の物語です。

 主役のベサニーを演じるのは、アナソフィア・ロブ(以下、アナたん)。彼女の出演作を観るのは『ウィッチ・マウンテン/地図から消された山』(2009年)以来です。もはや子役ではなく、立派に女優への道を歩んでおられるが『テラビシアにかける橋』(2007年)の頃の面影もしっかり残っています。
 アナたんの両親役として、デニス・クエイドとヘレン・ハント。
 他にロレイン・ニコルソン──あの名優ジャック・ニコルソンの娘ですと──が親友役で競演しております。

 冒頭は、アナたんのナレーションによる主人公の自己紹介。オープニングから流れるハワイアンもいい感じデス。カウアイ島在住のサーフィン一家に生まれ、幼い頃からサーファーこそが天職であると思い定め、両親からも「お前は人魚のようだ」と評されるほど波を愛するサーフィン好きの少女。
 実際にアナたんがサーフィンをしている場面もあります。実に見事です(まさかアレがCG合成ということはあるまい)。
 一家揃ってサーフィン好きなので、家族皆がサーフィンをする。でもデニス・クエイドのサーフィンだけは代役と合成臭い感じが……。

 人生は冒険の連続だ。人は時として荒波にのまれてもがく。

 実話に基づく物語ですから、これから起こることを予感させるようなナレーションが不気味。
 何が起きるか判っているのだから、早いところズバーッとやってくれればいいのに、序盤はじっくり丁寧に家族の様子や、親友との関係を紹介していきます。地元のサーフィン大会にも出場し、スポンサーになりたいと企業が申し入れしてくるという、順風満帆な展開です。
 必要な段取りとは云え、あとで不幸になることが判っているのに、持ち上げているのがありありと判ります。

 「鮫が人を襲う」と云うシチュエーションが、モロに『JAWS』(1975年)なので、水中から海面の様子を見上げるショットが何度も挿入されるのですが、これがもうドキドキものです。なんか心臓に悪いです。判ってやっている演出が憎い。
 ここでヤラレるのかと思わせて、ちょっとタイミングを外す。もうホラー映画みたい。
 そしてあるところで、いきなりザバーッと来ます。
 水面にサメの鼻面が飛び出してくるというのが、ユニヴァーサル・スタジオのアトラクション並みでイキナリです。

 晴天の波が穏やかな波打ち際で襲われる。海の色が美しいだけに、いきなり血に染まる海面がショッキング。ホラーではないので切断面を克明に活写したりはしませんが。
 救急搬送、緊急手術。報せを受けた家族の深痛。そして奇蹟的にアナたんは一命を取り留める。

 そこから先は、すべて左腕をグリーンに塗りつぶして撮影し、CG処理された画面になるのですが、もう全然、判らないですね。知らない人がこの場面だけ見たら、最初から片腕の女優なのかと見紛うばかりです。また片腕になったことを隠そうとしない演出に、真摯なものを感じました。
 病院の診察で、肩の傷口を抜糸する場面があり、付き添いの母親が顔を背けること無くそれを直視している表情が厳しい。ヘレン・ハントはさすがオスカー女優です。
 女性としての魅力に乏しくなったことを嘆く娘を、母が励ます場面もいいです。母はインターネットで画像検索した「美の頂点にある彫刻」を見せてやる。それは〈ミロのヴィーナス〉。
 「あなたにはまだ片方、残っているでしょ」

 そしてハンディキャップを背負いながらも、海を諦めない。まさに不屈の精神です。当初は期待していた技手の装着も、思うように動かせないとあって、すべて片手で行うことを決意する。
 それをまた家族が全員でサポートする姿勢が感動的です。
 そして二人の兄貴はビデオカメラでリハビリの様子をすべて撮影していく。昼は海で練習し、夜は撮影した映像を家族全員で研究し、モーションの改善を重ねていく。
 アナたんが初めて片腕でもサーフボードの上に立った瞬間は、本人よりも撮影していた兄貴の方が嬉しそうで、「全部撮ったぞ!」と快哉を叫ぶシーンが印象的でした。

 とは云え、ただ波に乗れるだけでは競技に勝つことは出来ない。退院後、初めて望んだ大会では惨敗を喫する。
 一時的に諦めムードが漂ったりしますが、友人に誘われて海外ボランティアに参加したことで、気持ちが変わる。実はボランティアに行った先が、スマトラ沖大地震で壊滅的被害を被ったタイのプーケット。
 津波ですべてを失った人々と接しているうちに、自分の不幸など小さな事に思えてくる。
 余談ですが、このプーケットの背景は実にリアルでした。津波被害の怖ろしさを改めて感じました。本作の公開時期が一年延びているのはこの所為なのかと邪推してしまいそうです(本作のアメリカでの公開は2011年4月8日)。

 そして気を取り直して帰国したアナたんに、世界中からファンレターが届けられる。
 惨敗したとは云え、果敢に挑戦した姿に心打たれた人々からの励ましを受け、アナたんは再度、大会への出場を決意する。

 今まで劇中にサーフィンが登場する映画はいろいろ観てきましたが──やはり主に青春映画が多い──、スポーツ競技としてのサーフィンがここまで面白く描かれているのを観るのは初めてのような気がします。サーフボードの長さ等で色々とクラスが分けられたりするそうですが、素人にはよく判りませんデス。
 とりあえず劇中での競技では、制限時間二五分の間に一〇回のプレイが認められ、波乗りの技を競う。得点は上位二回分のポイントの合計と云うルール。

 複数のサーファーが同じ波に乗ることは許されず、先にボードに立ったサーファーに優先権がある。ポイントを稼ぐには難易度の高い技を決めねばならず、その為には大きな波に乗る必要があり、サーファー同士で波を奪い合う。
 制限時間内に来るどの波に乗るのか、サーファー間での駆け引きと、「波の読み合い」が激しく火花を散らす。波の奪い合いで消耗すると、あとが不利になる。
 戦術のみならず、なかなかに高度な戦略も要求されるスポーツでした。傍目には波が来るまで沖合にプカプカ浮いているだけのように見えますが、実はその時点でサーファーたちは激しく戦っていたのです。いやぁ、知らんかった。

 この競技としてのサーフィンの演出が面白く、ハートウォーミングな家族の絆の物語だと思っていたら、終盤は熱血スポーツ映画のような趣になっていて意表を突かれました。
 もう大会前の特訓描写からして、完全にスポ根もののお約束なのが嬉しいデス。ランニング、腹筋、片手腕立てのメニューをこなしていくアナたん。音楽で盛り上げ、場面をモンタージュでつないで流していく。テッパンな演出ですね。
 そして特訓の末にハンディキャップを克服し、大会に出場するも、なかなか高得点を上げることが出来ずピンチに陥るアナたん。
 ライバルに波を奪われ、制限時間も尽きそうなとき、父デニスの助言が脳裏をよぎる。「お前は人魚だ。波を感じろ」
 アナたんは独り、エリアの外れに向かってパドリングしていく。
 観戦している両親の表情がいいです。心配そうなヘレン・ハントと対照的に鋭い眼光で見守るデニス・クエイド。

 「あの娘、どこへ行くつもりなの」
 「判らん。だが何かを感じている」

 父の教えに従った結果、絶好の大波の到来を間近で捉えるアナたん。ライバル達はもう間に合わない。
 このクライマックスの大波に乗ったアナたんが素晴らしいです。もはや競技のことなど念頭から消え失せ、大自然と一体化した喜びに輝いている。
 起死回生の最高のパフォーマンスに沸く観客と、エキサイトしまくりの実況アナウンサーの声がいい感じで、個人的に本作は熱血スポ根ムービーとして記憶されるでしょう。

 ベストを尽くし、最高のパフォーマンスを決めた後はもうポイントがどうだろうと、競技の勝敗がどうだろうと全く気にならないというのも爽やかです。
 そして相当にイヤな奴的な描写だった最大のライバルにも感謝の言葉を述べる。
 「あなただけが私を対等に扱ってくれた。だから頑張れた。ありがとう」
 ラストは共に表彰台の上から歓呼の声に応える。実に美しいスポーツマンシップでした。

 人生はサーフィンだ。波にのまれたら、また立て直せばいい。次は良い波が来る。

 エンドクレジットでは、本物のベサニー・ハミルトンの記録映像が流され、劇中の各場面が忠実に再現されていたことが判ります。
 やたらと兄貴達がビデオカメラを回して撮影していたのも、本当にそうだったからなんですね。
 感動的なストーリーを盛り上げるサントラも聴きものです。『ファミリー・ツリー』(2011年)とはまたひと味違うハワイアン・ミュージックが楽しめます。




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