2012年5月2日水曜日

孤島の王

(Kongen av Bastoy)

 ノルウェー映画は侮れぬ──とは『トロール・ハンター』(2010年)を観たときにも感じたことですが、本作もなかなかの出来映え。峻烈な風景も美しい、緊張感にあふれるサスペンス映画です。

 しかし今まで馴染みがないものだから、監督がノルウェーの俊英マリウス・ホルストであると云われても全くピンと来ません。ノルウェーの皆さんごめんなさい。
 しかし北欧の名優ステラン・スカルスガルドは存じておりますぞ。ここ最近、『ドラゴン・タトゥーの女』(2011年)や『メランコリア』(同年)に出演されています。息子は『バトルシップ』(2012年)にも出ていました。覚えにくい名前ですが、もう覚えました。完璧に。

 スカルスガルドさんは隣国スウェーデンの俳優なのにノルウェー映画にも出演するのか(本作はノルウェー・スウェーデン・ポーランド・フランスの合作です)。ノルウェー語も堪能なようで。
 いや、喋っているのが英語ではないと判るだけなのですが、あれがノルウェー語でしょう。
 ノルウェー語は、デンマーク語やスウェーデン語と近縁だそうで(過去にデンマークがスカンジナビア半島一帯を征服しまくったおかげで)、特に意志疎通に不自由はないみたいですね。

 そう云えばデンマーク映画『未来を生きる君たちへ』(2010年)でも、会話中に「お前、スウェーデン人か」と国籍を指摘される場面がありましたが、ビミョーに発音だか文法が異なる言語なのでしょうか。
 歴史的には色々と複雑な事情があるのでしょうが、隣の国の俳優でも問題なく起用できるのは羨ましいです。

 これは実話に基づく物語。
 一九〇〇年から一九五三年にかけてノルウェー沖の孤島、バストイ島に存在した未成年犯罪者専用の更正施設で発生した暴動事件を描いた作品です。この事件が起きたのは一九一五年。
 北欧と云えばおしなべて社会福祉が充実しまくった国々であるという印象があるのですが、そのノルウェーに未成年者の人権を無視しまくった強圧的で情け無用な施設が存在したというのは存じませんでした。歴史の暗部とはどこにでもあるものだなあ。

 バストイ島は島全体が施設の敷地になっているので、特に塀に囲われた建物があるわけではない。
 監視はどうやら船着き場にしかないらしい。それ以外はボート小屋の管理が厳重なだけ。
 逃げ出したければかなり自由に出ていけそうですが、見るからに水温の低そうな北海を泳いで渡ろうとすれば、間違いなく溺死しそうです。まさに天然の監獄。
 また、規律を乱す者には容赦のない罰が科せられる。

 過酷な自然と閉鎖的な施設。島を支配する高圧的な所長(これがスカルスガルドさん)。
 あるとき、そこに一人の反逆児エーリング(ベンヤミン・ヘールスター)が送られてくる。
 何となくノルウェー版の『暴力脱獄』(1967年)とか『アルカトラズからの脱出』(1979年)といった趣です。喩えが古いですか。イマドキは『プリズン・ブレイク』あたりにしておかねばダメなのか(汗)。

 バストイ島の施設では、少年達は寮生活を強いられる。棟毎の名前が味も素っ気も無く、A寮、B寮、C寮と呼ばれている。エーリングはC寮と決められ、以後はC19と呼ばれるようになる。
 到着早々、所持品を取り上げ、衣服を取り上げ、その上に名前まで取り上げる。一旦、全裸にひん剥いて屈辱を舐めさせるあたりからして、相当な非人間的扱いです。

 C寮をとりまとめる模範生オーラヴ(トロン・ニルセン)はC1と呼ばれ、卒院が近く、問題を起こさぬよう気を配っている。バストイでは誰かが問題を起こすと連帯責任で処罰が下るので、オーラヴとしてはエーリングのような問題児の配属はまったく有り難くない。
 卒院の日が来るまで波風立たないように面倒を見てやるが、それでエーリングが少しでも感謝するかと云うと、そんなことは全く無いワケで、早々に色々と悶着を起こし始める。

 反抗的なエーリングは特別に目を付けられ、無意味な重労働を課せられたりします。
 瓦礫の山をあちらからこちらへ素手で運搬する。終わったら、また元に戻す。ここはシベリアの収容所か(あまり変わらないか)。
 おまけに食事は残飯のみ。これがまた酷い。バケツに入れた、生魚の頭とか野菜クズばかり。人間の食べ物じゃありませんよ。それでもこれを貪り食う図というのは結構エグいです(DVD化されても食事中には観ない方がいいですね)。
 個人的にはバケツの中からギョロ目を剥いた魚の頭がこっちを見ているのがイヤだ(泣)。

 本作を観ていて、ちょっと不思議なのは物語にはC寮しか登場しないことでしょうか。A寮とB寮の連中も登場しているけど目立たないだけなのか。
 まぁ、あまり沢山、キャラが増えると覚えにくくなりますが。ただでさえC寮の連中だけでも、見分けが付きにくいのが難点なのに(服装も同じだし)。
 はっきり判るのはオーラヴとエーリングの他には数名のみです。

 それでも何とか優等生と反逆児は打ち解け合っていく。
 特にエーリング宛てに届いた手紙を、オーラヴが読んであげるあたりから、二人の仲が深まっていく。実はエーリングは字が読めなかったのだった。
 しかし文盲でも文学的な素養はあって、エーリングは捕鯨船とその乗組員達を描いた物語を即席でひねり出し、オーラヴがその口述を書き取っていく。

 本作の冒頭でもモノローグとして朗読され、中盤で再度語られるのが、エーリングの創作する物語。
 厳しい北海で、何本もの銛を打ち込まれながらも泳ぎ続け、捕鯨船の乗組員達を翻弄する巨大な鯨。
 まさに現状を物語に託して語っているわけで、不屈の鯨は彼自身の象徴であることが容易に察せられます。イメージ的な映像もそこに加えられ、荒々しい海と鯨の映像が実に印象的です。特に鯨を反骨精神の表れとして表現しているのがいいです。

 二〇世紀初頭という時代背景もありますが、このあたりにノルウェー映画らしさを感じました。やはり「捕鯨」は文化ですよね。日本も映画を製作したら、さりげなく捕鯨のシーンを挿入してアピールしたいものです。
 いや、ホルスト監督がそこまで考えているかどうかは存じませぬが(汗)。

 所長の手先となって少年達を抑圧するのが寮長(クリストッフェル・ヨーネル)。虎の威を借る狐とはまさに此奴のことですね。
 おまけに変態野郎で、C寮の美少年イーヴァル(マグヌス・ラングレーテ)に性的虐待を繰り返している。
 最終的に耐えかねたイーヴァルは入水自殺してしまい、これが事件の発端となる。
 エーリングの影響を受けていた優等生オーラヴも遂にブチ切れ、なし崩しに暴動が発生。計画性はまったく無いのに、寮生達が呼応して決起していく様は、それまでの過酷な生活が如何に酷かったかという証左でもあります。

 しかし計画性も何もないので、所長と職員達を島から追い出しても、その状態は長くは続かないというのが哀しいです。
 「俺はバストイの王だ!」と粋がってみても、軍隊が出動してくれば為す術は無い。少年達は烏合の衆として兵隊達に各個制圧されていく。

 混乱の中でオーラヴとエーリングだけは奇跡的に島から脱出する。季節が冬だったことが幸いし、バストイ島とノルウェー本土との間の海が凍結していたのだった。
 果てしなく続く氷原に、二人の少年の逃亡は続く。
 しかしそのまま逃げ仰せるのかと思いきや、ノルウェーの大自然はそんなに甘いものではないと云う描写が厳しい。オーラヴを庇って歩いていたエーリングの方が先に力尽きてしまう。
 ただ一人生き延びたオーラヴだけが氷原の彼方に消えていくラストは実に幻想的です。

 エピローグとしてその後の様子や、バストイ島の施設も現在では人道主義的な刑務所として生まれ変わった旨が説明されますが、ちょっと蛇足ぽいか(実録ものだから仕方ないのか)。モノクロの記録映像がリアルです。
 秩序を押しつけ抑圧しても、人間の精神がそれで更生するわけでは無いという、誠に尤もな教訓話でした。ヨーロッパ映画らしい淡々とした物語が、ノルウェーの厳しい自然にマッチしておりました。

● 余談
 劇場内では、『孤島の王』公開を記念したオリジナルドリンクが販売されてました。
 ステラン・スカルスガルドの名にあやかった、その名も〈スカルピス〉&〈スカルピスソーダ〉! タダの駄洒落かッ!
 「カルピスにブルーベリーシロップ加え、孤島の混沌とした世界をイメージした」のだとか。
 何と云うか、作品とは全く関係ないし、そんな甘い物語じゃないんですけどっ。


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