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2012年3月23日金曜日

シャーロック・ホームズ/シャドウゲーム

(SHERLOCK HOLMES : A Game of Shadows)

 ガイ・リッチー監督の『シャーロック・ホームズ』(2009年)の続編です。ロバート・ダウニー・Jr.&ジュード・ロウのコンビも復活です。ハンス・ジマーの軽快なテーマ曲も懐かしい。
 前作でモリアーティ教授を登場させたのに、はっきり見せてくれなかったので続編があるものと確信しておりましたが、ホントに制作できて良かった良かった。
 今般もまた一九世紀末ロンドンの薄汚れた背景がリアルに描かれ、雰囲気たっぷりな冒険活劇に仕上がっております。これぞまさに「シャーロック・ホームズの冒険」。

 満を持して登場するモリアーティ教授を演じるのはジャレッド・ハリス。『ベンジャミン・バトン/数奇な人生』(2008年)のマイク船長でしたか。『バイオハザード2/アポカリプス』(2004年)ではTウィルスを開発しちゃったアシュフォード博士の役でした。色々と観ている筈ですが、作品毎にイメージの変わる人ですね。
 今までモリアーティ教授と云えば、英国グラナダTV製作のシリーズに登場したエリック・ポーターの演じる教授が空恐ろしいまでに原作のイメージに沿っておりましたが、本作の教授はまた敢えて既成のイメージとは異なるキャラクターになっておられる。

 今回は更に、ホームズの兄マイクロフトも登場です。
 この弟にしてこの兄と云うか、弟に輪をかけた変人です。このあたりの描写は実に楽しい。
 しかしガイ・リッチー版ホームズは、既成のイメージによらない独自のキャラクター造形がポリシーであったと記憶しておりますが、何故かマイクロフトだけはシドニー・パジェットの描いた挿し絵にそっくりです。何故、マイクロフトだけ?
 これはこれで面白いのですが、頭脳明晰なところより奇人であることの描写の方が印象深い。あんた、それでも英国紳士かと苦言のひとつも呈したくなると云うものデス。レディの前で全裸はイカンじゃろ。

 時に一八九一年、ロンドンを始め欧州各地では爆弾テロが横行し、人々を恐怖に陥れていた──というところから始まり、その黒幕であるモリアーティ教授とホームズの対決が描かれるという趣向。
 暗雲垂れ込める欧州に忍び寄る戦争の影。自身の頭脳をも上回る天才を向こうに回し、「欧州戦争」と云う未曾有宇の危機をホームズは阻止できるのか。

 第一次世界大戦前という時代設定を巧く取り入れておりますが、ホームズもののパスティーシュには既に幾つか見受けられるネタですね。ビリー・ワイルダー監督版『シャーロック・ホームズの冒険』(1970年)も、戦争を前提とした英国海軍の軍備が描かれておりましたし、ハーバート・ロス監督版『シャーロック・ホームズの素敵な挑戦』(1976年)の原作の方もそうだったと記憶しております。

 本作は原典──聖典とも云う──では「最後の事件」として描かれるエピソードであり(かなり脚色されていますが)、クライマックスは例のライヘンバッハの滝まで描かれてしまうので、ファンとしては勿体ない感じがします。
 教授との決着は第三部くらいに延期しても良さげなものだと思うのですが……。

 欧州諸国の関係を悪化させて武器市場で大儲けを企むモリアーティ教授。それに対抗し、イギリス政府の密命を受けてライヘンバッハで欧州和平会談を主催しようというマイクロフト。
 ライヘンバッハを和平会談の舞台に用いよう云うアイデアが秀逸です。滝の上には本来は存在しない古城が描かれています。滝の水量も、文字通り水増しされて大迫力。

 モリアーティ教授の部下として、「空家の冒険」に登場するセバスチャン・モリス大佐(ポール・アンダーソン)も一緒に登場です。凄腕の狙撃手で、教授の右腕的存在という役は、原典以上にかっこいい。
 本作では大佐の狙撃の腕前が存分に描かれ、ホームズとワトソンを窮地に陥れます。

 ところが前作から登場していたアイリーン・アドラー(レイチェル・マクアダムス)については……。再登場してくれるのは嬉しいのですが、その扱いについては如何なものかと。
 前作でも教授の部下として登場しておりましたが、今回は出番が少ない。序盤でホームズにしてやられ、任務に失敗したことで早々に処分されてしまう。そんな扱いでいいのか。その程度の扱いなら、最初から登場させない方がまだマシだろうに。
 まさか第三部で華麗に復活するとか。やろうと思えば出来るのでしょうが、なかなか苦しい言い訳になりそうな(そもそもパート3まで制作されるのか疑問だし)。

 ところで前作のラストで、モリアーティ教授がブラックウッド卿から奪った遠隔操作システム──電波によって離れた場所から機械を操る、ホームズ自身も「未来の技術だ」と云っていたアレ──については、スルーでしたね。せっかく前作をDVDで復習してから臨んだのに。
 爆弾はごくフツーの時限爆弾でしたねえ。
 まぁ、前作を知らなくても楽しめるように製作されているのでしょう。
 前作を知っていれば、笑えるネタも伏線になっていて、相変わらず飼い犬が色々と実験台にされていたりします。

 早々に退場してしまうアイリーンに代わって登場するのがジプシーの占い師シム。演じるは〈元祖リスベット〉なノオミ・ラパスですよ。
 レイチェル・マクアダムスとはまた一転してワイルドなヒロインになりました。行方不明の兄を探してフランスから渡ってきた女性ですが、これが事件の鍵となる。どうやらシムの兄はモリアーティ教授と行動を共にしているらしい。

 事件を追って、舞台はイギリスからフランス、さらにドイツへと移動するわけですが、災難なのはワトソン博士。新婚旅行をホームズに邪魔された上に、酷い目に遭います(笑)。
 しかもこれには捜査を口実に、相棒の新婚旅行を邪魔してやろうというホームズの悪意が見え隠れしている。ワトソンの結婚式の場面で垣間見せる寂しげなホームズの表情がイイ感じです。ロバート・ダウニー・Jr.の名演技ですね。
 自分の相棒を女に取られたので、取り戻そうとしているようにも見受けられる。ひとつ間違うとゲイになりかねませんが、ギリギリ男同士の友情に踏みとどまっている(よね?)。
 このときのホームズの変装がまた素晴らしい。ロバート・ダウニー・Jr.が堂々と女装して見せてくれます。濃すぎるアイシャドウがまたキョーレツですわ。前作の「全裸手錠」よりもインパクトある場面でした。

 ドタバタやりながらも謎を追ってパリへ。ロンドンだけで無くパリの描写もまた凝ってます。背景美術がいい仕事しています。
 他にも序盤のベイカー街の描写で、地下鉄工事が進行中であったりする描写も巧い。
 ただ、街を行き交っているのが馬車だけで無く、自動車も混じっている。本作のホームズは自動車を運転するのです。でも「自動車とホームズ」と云うと、アレしか思い浮かびませぬ。
 アレね。宮崎駿のアニメ『名探偵ホームズ』ですよねえ。
 まさかガイ・リッチーともあろうお方が、ジャパニメーションをパク……いやいやいや。オマージュ捧げたんですよね。

 爆発、銃撃、格闘という従来のホームズものには無かった──主に予算の都合から──活劇要素をふんだんに取り入れながらも、推理ものとしての要素も忘れず描かれています。
 特にホームズの鋭い観察眼を細かいカット割りでセリフ抜きで描く演出は前作以上でしょう。
 格闘前に脳内シミュレーションするという演出も前作から踏襲されておりますが、今回は相手がモリアーティ教授なので一筋縄ではいかない。
 教授もまた脳内シミュレーションの達人だったのだ。もはや達人クラス同士ともなれば、一歩も動かず脳内だけで決着が付いてしまうと云う描写は、ギャグなのか。
 余人には計り知れない高度な戦いデス。

 そして原典に則り、ホームズとモリアーティの壮絶ダイビング(でもバリツは披露してくれなかった……)。戦争の危機はひとまず回避されはしたものの、遂に二人の遺体は発見されなかった──と、云うところでエンドです。
 けどまあ、ホームズが三年後には復活することは判っていることですし、最後までお茶目なホームズ先生でした。
 どこまで新婚生活を邪魔しようと云うのか(笑)。

 一説によると空白の三年間の期間中、ホームズはアイリーンと幸せに暮らしていたとか、マイクロフトと英国政府の密命でチベットくんだりまで出かけていたとか、仏教に帰依して麻薬依存症の治療と療養に励んでいたとか──諸説あるそうですが、ガイ・リッチー監督はそのあたりを次回作で描いてくれるのでしょうか。
 それにモリス大佐も生き残っていますからねえ。少なくとも「空家の冒険」を下敷きに、また冒険活劇を描いていただかないことには。ねえ?


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