2015年4月29日水曜日

クレヨンしんちゃん
オラの引越し物語~サボテン大襲撃~

(Crayon Shin-Chan : My Moving Story : Cactus Large Attack!)

 『クレヨンしんちゃん』の劇場版第二三作目です。よもや劇場で『クレヨンしんちゃん』を観ることになるとは、私も初めての経験でした。
 昨年まではうちのムスメらも、あまり観たいような素振りは見せなかったのに。嗜好が変化しているのか。その割には『名探偵コナン』の劇場版の方は依然として見向きもしていません。ふーん。

 一体、ナニがムスメらの気を変えたのか。どうやらTVのスポットCMがツボにはまったようです。
 「サボが十個で……」「サボテーンッ!」
 え。それだけ? そんなダジャレだけで観たくなるなんて。

 お子様達に絶大な人気を誇りつつ、「ゾウさん」とか「ケツだけ星人」の所為で父兄からのウケはあまりよろしくないアニメでありますが、劇場版アニメの出来は素晴らしいとは以前から存じておりました(実はTVシリーズの方はほとんど……)。
 特に劇場版では、原恵一監督の『嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』(2001年)と『嵐を呼ぶ アッパレ! 戦国大合戦』(2002年)は傑作ですね(他にも色々ありますが)。後者は山崎貴監督の手で『BALLAD 名もなき恋のうた』(2009年)として実写リメイクもされております(まぁ、オリジナルの方がやっぱり良かった……と思うのはさておき)。
 原作者の臼井儀人が不慮の死を遂げられた後も(2009年9月11日逝去)、アニメは変わらぬ人気で継続されておりますね。もはや相当な長寿番組ですよ。

 劇場版でありがたいのは、毎回ほぼ完全に独立したエピソードであることですね。おかげで細かい部分を知らなくても、問題なく鑑賞できました。
 継続している設定としては「父ヒロシの足は猛烈に臭い」なんてのもありますが、別にそれは『オトナ帝国の逆襲』を観ていなくても判ります(そもそもオヤジの足とは臭いものだし)。

 しかも本作は全体がB級怪獣映画の体裁を取っておりまして、SF者はやはり観て損なしと申せましょう。もう、B級映画のお約束がテンコ盛りです。
 本作のタイトルは『クレヨンしんちゃん』でも、『オラの引越し物語』でもありません。もっと堂々と『サボテン大襲撃』の部分を大きくしないとイカンじゃろー。

 本作の監督は橋本昌和です。第二一作目の『バカうまっ! B級グルメサバイバル!!』(2013年)の監督でありましたが、本作で二作目になります。
 実は原恵一とか水島努の『クレヨンしんちゃん』は観たことありますが、ここしばらく遠ざかっていた所為で橋本昌和の『しんちゃん』には馴染みがありませんでした。

 ストーリーは単純明快。父ヒロシの転勤からメキシコに引っ越しすることになった野原一家が、とあるメキシコの寒村で人間を捕食するキラーサボテンの群れに襲われる……だけ。
 人食いサボテン。よもや『クレヨンしんちゃん』でこんな素晴らしいB級設定を目にすることが出来るとは。これは『トリフィドの日』か『人類SOS』か。
 当然、メキシコに行ったきりになってしまうと『クレヨンしんちゃん』が続かなくなりますので、ラストでまた埼玉県春日部市に一家は戻ってきます。だから尚のこと、独立したエピソードとして、本作だけを楽しむのがよろしいでしょう。

 一応、序盤にはTVシリーズからの登場人物達が沢山登場します。ここだけはしっとりと落ち着いたホームドラマの装いです。
 メキシコで発見された新種のサボテンの実を輸入しようと、双葉商事がメキシコ支店を開設することになり、父ヒロシ(藤原啓治)が抜擢されるが、単身赴任を良しとしない妻みさえ(ならはしみき)の言により一家総出で引っ越しすることに。
 みさえの「家族はいつも一緒よ」と云う台詞が、コメディ映画に似合わぬほどシリアスで、後半で野原一家が危機を乗り越える際にも感動的に使われていたりします。実は一本筋の通った家族のドラマでもあるのが素晴らしいデスね。

 当然、しんちゃん(矢島晶子)もふたば幼稚園を去ることになり、かすかべ防衛隊の仲間達ともお別れです。このあたりは短い尺ではありますが、風間くん(真柴摩利)やネネちゃん(林玉緒)達とのやりとりも丁寧に描かれておりました。
 家具類を運び出して殺風景になった家の中の様子や、御近所さんとの挨拶の場面もきちんと描かれています。保育園の先生達と一緒に、園長先生がちゃんと登場して、しんちゃんと挨拶を交わす場面もありました。
 園長先生役の納谷六郎は既にお亡くなりの筈ですが(2014年11月17日逝去)、過去の台詞の音源から使える台詞を組み合わせて「ライブラリ出演」しております。これは巧く会話を成立させていました。

 別れが辛くて姿を見せられない風間くんが、夕日の差す土手の上を電車を追いかけるように走って最後の別れを告げる場面とか、なかなか感動的とも云える場面もありました。何となくデヴィッド・リーン監督の『旅情』(1955年)のパロディのような気もしますがキニシナイ。
 まぁ、『クレヨンしんちゃん』はそういうの多いデスし。

 そしてしんみりしたホームドラマ的展開はここまで。
 メキシコ到着後はバスで目的地モウクエンカ州マダクエルヨバカの町(どこだよ)を目指します。当初、メキシコ到着後は華やかな外国の様子にはしゃいでいた一家も、気がつくと長距離バスで人里離れた僻地に放り出されて途方に暮れる。
 出迎えてくれたただ一人の現地社員(うえだゆうじ)は調子が良いだけでさっぱり頼りにならず、豪華だと聞いていた社宅も、実はまだ建築途中で自力で作らねば野宿も同然の状態。

 ここからは完全B級映画ノリで、登場人物も野原一家以外は全員ゲスト。
 マダクエルヨバカのドゥヤッガオ・エラインデス町長が平田広明だったので笑ってしまいました。
 他にも、女たらしのマリアッチが浪川大輔、臆病者のルチャリブレ・レスラーが堀内賢雄、幼稚園のカロリーナ先生が坂本真綾と、なかなか豪華な顔触れですね。
 しかもこのマリアッチ、どう見てもアントニオ・バンデラスに激似のキャラクターなんですけど。お子様には判らないですねえ。こーゆーのは、パパだけがニヤニヤできればいいのか。どうせならギター・ケースからロケット弾を発射して欲しかった。

 メキシコ美人のカロリーナ先生は本作のヒロインとも呼べるキャラですが、しんちゃんとは普通に会話しております。それどころか、野原一家は全員がメキシコ人の皆さんと問題なく意思疎通できている。スペイン語混じりの日本語もなし。
 まぁ、しんちゃんの一人称「オラ」が、メキシコでは挨拶の言葉になるくらいか。
 このあたりは適当にコメディ感覚で誤魔化しておりますが、B級映画らしくてイイ感じです。

 時事ネタ的なキャラとして、日本エレキテル連合のお二人も登場しております。ちゃんと御本人が声を演じており、「ダメヨ~ダメダメ」も劇中で聞かせてくれます。何故、日本エレキテル連合がメキシコにいるのか、理由は説明されません。
 また、何でも解説してくれる便利なサボテン研究家のイケガミーノさんなるキャラもおります。田村健亮が頑張ってジャーナリストの池上彰氏の物真似を披露してくれておりますが、さすがに御本人をお呼びすることは出来なかったか。
 ちゃんとイケガミーノさんは、全ての質問にまず「いい質問ですねえ」と返してくれます。

 マダクエルヨバカは僻地でありますが、新種のサボテンが話題になって、人の出入りは妙に増えているようです。サボテン・フェスティバルなるイベントが準備されており、サボテンのテーマパークも建設中で、サボテンによる町興しが急ピッチで進められております。
 そして町のど真ん中に、巨大なサボテンがそそり立っている。三階建ての小さなビルくらいはありそうなサボテンです。このサボテンがどこから来たのか、何故いきなりそんなところに生えているのかとか、数々の疑問には一切、答えはありません。
 そして赤い実を幾つも付けていますが、これが食用として大層美味であるらしい。

 商社マンとして頑張る父ヒロシですが、町長はなかなか商談に応じてくれない。そうこうするうちにフェスティバル当日を迎え、賑やかにイベントが開催される中、巨大なサボテンから株別れした小型サボテンの群れが独立して動き始めるのだった。
 やがて小型サボテン(それでも人間より少し大きい)が、あちらこちらでフェスティバルに浮かれる人間達をぱくりぱくりと飲み込み始める。
 『クレヨンしんちゃん』は簡潔な線で描かれたアニメですから、リアルに血飛沫が噴き出すとか、腕や足が食いちぎられるといったスプラッタ描写はありません。お子様達が笑って観ていられるように、人を丸呑みにしていきます。

 遂に異変に気がついた人々がパニックを起こし、人食いサボテン軍団も正体を現して一斉に人間達に襲いかかってくるわけで、賑やかなお祭りが一転して阿鼻叫喚の地獄と化す図はB級映画の王道を行く演出ですね。
 そして少人数の生き残りが、一軒のパブに立て籠もって籠城するという、ドコカデミタ感アリアリの展開が実に楽しい。サボテンの代わりにゾンビを持ってきても成立します。
 野原一家の他には、自分勝手な町長、軽薄なマリアッチ、臆病者のレスラーといった面々に加えて、何でも解説してくれるイケガミーノさんに、スマートフォンばかりいじっている人付き合いの悪い女子高生もいます。
 ちなみにこの女子高生スマホちゃんを演じているのは指原莉乃でした。アイドルを起用して大丈夫かと思いましたが、設定上無愛想であるので台詞が少なく、特に問題ありませんでしたね。

 ここからは如何にしてこの町から脱出するかと云うサバイバル展開になり、それが映画の最後までずーっと続きます。とても『クレヨンしんちゃん』とは思えぬ展開ですが、B級映画好きにはタマリませんですね。
 あの手この手で脱出の計画を練り、その過程で一人、また一人とサボテンの餌食になっていく。

 サバイバルの過程で、強突く張りの町長が実は誰よりも町の発展を願っていた人物だったと明かされるとか、勇気を出せなかった覆面レスラーが仲間を庇うために腹を括って立ち上がる等の、まったくよくある展開の連続ですが、奇を衒わずに丁寧に演出されていくので、ドラマとして筋が通っているのがお見事でした。
 そして脱出の手段を断たれ、万事休すとなってから明らかになるキラーサボテンの弱点。「水をかけると溶ける」って、定番過ぎるだろ。やっぱり、トリフィドかよ!

 雨期に備えて設置した山頂の貯水タンクのバルブを解放すると云う作戦に生存者が一致団結して挑むクライマックスはそれなりに感動的で、適度なギャグにアクションを交えつつ、伏線の回収も怠りない演出がお見事でした。
 まさか序盤の「かすかべ防衛隊バッジ」まで伏線だったとは(すると風間くんが皆を救ったのか)。
 結局、捕食された人達も全員無事で──『クレヨンしんちゃん』で殺人は出来ませんね──生還し、万事メデタシのハッピーエンド。輸入すべきものが無くなったので双葉商事メキシコ支店はあえなく閉鎖。風間くんの元に「もうすぐ帰るゾ」と絵はがきが届いてエンドです。

 但し、B級怪獣映画に忠実に描くなら、ラストシーンは「実はサボテンはまだ……」というオチがないとイカンのでは。劇中では町長がひとつだけ残ったサボテンの実を金庫にしまうシーンがちゃんとあったので、これはラストの伏線だろうと考えておりましたが、そこだけはスルーされてしまいました。
 本作は『クレヨンしんちゃん』の劇場版としては珍しく一〇〇分越えの長尺なのでカットされたのでしょうか。将来的にディレクターズカット版とかで追加されていると嬉しいのですが。




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