2014年6月13日金曜日

世界の果ての通学路

(Sur le chemin de l'ecole)

 小学生の子供達が学校に通学する過程をカメラで追っていくだけのドキュメンタリ映画ですが、今年(2014年・第39回)のセザール賞(フランスのアカデミー賞ですね)のドキュメンタリー部門で受賞しました。本作を観ると、世界は広いと云うことを痛感いたします。
 学校に通うだけで何故、こんな危険な目に遭わねばならないのか。
 日本の子供達は本当に恵まれております。是非、親子で鑑賞して戴きたいデスね(そして学校に行くのは疲れるなどと泣き言を云うのは止めてね)。

 本作の監督はパスカル・プリッソン。『MASAI マサイ』(2004年)で、本物のケニアのマサイ族を役者に起用したドラマを撮った方ですが、残念ながらスルーしておりまして、二作目となる本作が初めてになります。
 アフリカに縁のある方らしく、本作も野生動物の映画を撮影中に得た着想が元になっているそうで、本作にはケニアの小学生も登場いたします。
 それにしても、ものすごい通学路もあったものです(一部、道では無いところもあります)。

 本作に登場する小学生は四組。
 ケニアのジャクソン&サロメ兄妹。モロッコのザヒラちゃん。アルゼンチンのカルロス&ミカイラ兄妹。インドのサミュエル、ガブリエル、エマニュエルの三兄弟。皆、一一歳から一三歳までの年齢です(当然、弟や妹はもっと年下)。
 どの小学生も困難な通学路を通って学校に通っております。
 監督のインタビューによると、企画時には他にもオーストラリア僻地と中国奥地の子供達も候補になったそうですが、諸般の事情からボツになりました。特に中国政府は「通学に支障を来すような子供は国内にはいない」と云うタテマエを貫き、撮影時にだけ通学に便宜を図ったそうでドキュメンタリにはならなくなったとか(どんな環境だったのかちょっと見てみたかったです)。

 まずはケニアから。ジャクソンくんは朝の五時半に家を出ます。サバンナを一五キロ駆け抜けて二時間で登校するのだそうな。もうジョギングの域を遥かに超えております。帰路も同じだけ走って帰るのか。
 出発時にお父さんが「ゾウには気をつけるんだぞ」と注意しております。日本じゃ「ゾウ」ではなく「クルマ」とか「トラック」とかでしょう。所変われば品変わるものデス。
 特に今回、長男ジャクソンくんは学校の朝礼で国旗掲揚係になっているので、遅刻は許されないのだそうな。前日には気合いを入れてサンダルを修理し、制服を洗濯しております。
 自分でサンダルを修理する他は無いと云うのも凄いですが、制服を洗濯するやり方に驚きました。

 冒頭に、砂地を素手で掘るジャクソンくんが映ります。手で砂をかき分けていくと、すぐに湿り始め、泥水が湧き出してきます。しばらくすると水が澄んできて、おもむろに服を洗い始める。簡単に水が湧くので井戸がないのか、井戸がないから手でその都度掘っているのか判りかねますが、日本人には奇異に映ります。
 洗濯前には、湧き水を少し飲んだりします。衛生的に大丈夫なのか。
 湧き水は割れたポリタンクみたいな容器にも入れて持ち帰ります。あとで判りますが、このポリタンクが水筒代わりで、通学に持参します。妹の分もちゃんとあります。
 特に不満そうにも、辛そうにも見えず、当たり前のこととしてやっているのが凄い。

 次がモロッコ。ザヒラちゃんが殺風景な部屋でコーランを読んでおります。イスラム教の国では女性の教育に制限があるのか、学校は週に一日だけだそうな。
 それでも、お祖母ちゃんから「しっかり勉強して人生を切り開きなさい」と諭されております。お祖母ちゃんの世代はモスクにしか通えず、教育も宗教的に偏っていたが、今は時代が違うと語られます。両親からも祖父母からも「しっかり学べ」と応援されていますが、学校までは石ころだらけの険しい山道を越えていかねばならない。
 二二キロを四時間かけて通学します。何故か、カバンには教科書と一緒に「生きたニワトリ」が一羽入っています(ニワトリの使い途はあとで明らかに)。
 まだ雪の残るモロッコの山々が背景に映り(あれがアトラス山脈かしら)、美しいけれど厳しい通学路です。途中で友達二人と合流し、三人で山道を踏破していきます。

 更に、アルゼンチンのパタゴニア。カルロスくんは馬で登校しております。まだ幼い妹を鞍の後ろに乗せて、一八キロの道のりを一時間半かけて通学します。小学生だというのに、馬の手綱さばきが堂に入っております。
 実家が畜産関係というか、牧場を経営しているらしく、毎日ヤギやヒツジと暮らしておりますが、おかげで隣の家がどこにも見当たりません。なんだか天候もすっきりしない曇り空に、荒涼とした草原が広がり、やけに風がビュービューと吹いています。
 パタゴニアは年間を通じて風の強い地域だそうで、「嵐の大地」とも呼ばれるそうな。
 アルゼンチンの草原と云えば、もうちょっと穏やかなものと思っておりましたが──ほら、『母を訪ねて三千里』とかあるでしょ──、「パンパ」と呼ばれる草原地帯とはちょっと違うようです(あれはもっと北寄りの地域か)。南米大陸も南極寄りの地方まで来るとこんな感じか。
 馬に乗って岩だらけの山の斜面を下り、川を越えて、荒涼たる草原を越えていきますが、人家がさっぱり見えません(と云うか、道がない)。

 最後がインドのベンガル。サミュエルくんは足が不自由なようで、お母さんが毎日、マッサージしながらリハビリに努めております。しかしかなり痛いらしい。
 どういう事情で不自由なのか詳しい説明はありませんが、移動には車イスを使うしかないようです。しかしその車イスがヒドイ代物。
 赤錆びだらけのリアカーを改造したような車イス。どこかの廃品を再利用したのか、プラスチック製のイスを取り付けて座席にしております。
 家はベンガル湾に面した海岸に建った家です。本作に登場する四組中では、地理的には一番温暖な地域で、通学には最も支障ないように見えます。学校までたった四キロですし。いや、今までの例が酷すぎるのであって、決して近いとは云えませんけど。
 しかし甘かった。

 サミュエルくんは小学校高学年。弟二人は年齢的には低学年でしょう。この弟二人で、兄ちゃんの乗ったオンボロ車イスを学校まで押していかねばならない。
 まず家の前の砂浜を車イスで越えるのが大変ですわ。
 ケニアでは通学途中に、ゾウやらキリンやらの群れに遭遇しては逃げながら通学する光景が紹介されますが、ベンガルだと牛になるようです。牛に遭遇して転倒したりしております。
 途中、川が流れており、浅い川だから近道しようとして泥に車輪がはまり込み、川の真ん中で立ち往生する場面もあります。
 更にまた、車輪が外れかかるわ、トラックが道を塞いでいるわと、トラブル続きの通学です。

 「毎日、学校に通える幸せを噛みしめて欲しい」とは、冒頭に表示される字幕の言葉ですが、その通りですね。
 まぁ、日本では登下校途中に突っ込んでくる車や、変質者が一番の危険でしょうが、それとて毎日遭遇するゾウの群れよりはマシか(キリンは襲ってこないが、ゾウは襲ってくるらしい)。我が子が毎日、登校する都度、安全を祈願し、お守りを授ける親御さんの気持ちはよく判ります。
 先生の方も出席を取って「よくみんな、無事に登校してくれた」と神に感謝したりもします。

 また、ジャクソンくんが無事登校後、朝礼で国旗を掲揚するシーンもちゃんとありますが、これがケニアだけでなく、アルゼンチンでも行われていました。生徒達が整列して国歌を斉唱しながら国旗を掲揚する場面。
 外国の小学校がしていることを、日本では何故か出来ないのだなぁと思うとチト哀しいものがありますね。

 本作では各国の子供達の通学の様子を、シャッフルしながら各場面毎につないで編集しています。特に章立てしているわけでもありません。
 しかし見ていると、カメラは子供達の後ろから付いて行くだけでなく、前から歩いてくる姿を捉えたカットや、遠景から捉えたカットが入り、時々子供達の表情がアップになったりもします。
 あまりドキュメンタリらしくない編集だと思っておりましたが、撮影に際しては、一組の子供につき一二日ほどの密着取材を行ったとパンフレットの解説記事に書かれておりました。
 通学路のコースを調べ上げてカメラの配置を念入りに設定してから撮影に臨んだのでしょうか。カットが切り替わっても、別の撮影スタッフが決して映り込まないように配慮されているようでした。
 しかし、編集についてはちょっと違和感を感じるところも無きにしも非ず。ドラマのようにカットを切替ながら見せてくれるので、判り易いのですが、厳密な意味での「記録映像作品」とは異なるようです。

 ケニアのジャクソンくんの通学パートに、案の定ゾウの群れに遭遇して命からがら退避する場面があります。土手の下に隠れて危険をやり過ごすわけですが、駆け出すジャクソンくんの後ろから妹のサロメちゃんも走っていき(カメラもその後ろから走って付いていく)、サロメちゃんが持っていたポリタンクを落としてしまう。
 その瞬間、倒れたポリタンクの口から貴重な水がゴポゴポと流れ出る短いカットが挿入されます。落としたポリタンクを拾いに行けず、声を潜めてゾウが通り過ぎるのを待つ兄妹。

 これはドキュメンタリとしてはどうなんでしょね。かなりドラマチックで、ちょっとヤラセぽく感じる場面でした。確かにゾウに遭遇はしたのでしょう。慌てて退避もしたのでしょう。走る途中でポリタンクを取り落としもしましたが。
 しかし「倒れたポリタンクのアップ」はあとで撮影した映像なのでは。いかにも緊迫した場面であり、流れる水は放置しても、安全を優先することが強調された場面でしたが、「ドキュメンタリ」としては如何なものか。若干、演出が入っているように見受けられます。

 そう考え始めると、他にも幾つか懐疑的な場面が出てきて興醒めでありました。
 インドの三兄弟が艱難辛苦の末、学校に辿りつくと、クラス中の子供達が駆け寄ってきて、車イスごとサミュエルくんを持ち上げて、校内に運んでくれる感動的な場面もあるのですが、ホントに毎日そうなのかしら。
 モロッコの女の子が山道で足を痛めた際に、ヤギを乗せたトラックが通りかかって乗せてくれたりするのですが、それすらも怪しく思えてきます。
 一瞬の「倒れたポリタンクのアップ」が入っただけで、どれもこれも妙に疑わしく思えてきたりするのは、私がひねくれているだけなのか。

 ──などと云う感想は伏せておいて、うちのムスメらには本作を鑑賞させ、ゾウに襲われることなく学校に通える幸せを噛みしめてもらいたいものデス。ここまでしないと勉強することができない子供も、世界には沢山いるのだから、オマエラちゃんと宿題やりなさい──と説教すると逆効果になりかねないので黙ってますけどね。
 本作は既に文科省選定作品ですが、必須鑑賞作品に指定して、生徒に感想文とか書かせてくれないものか。
 ラストで子供達に「将来の夢」を尋ねるシーンがあります。返ってくる答えがまた皆、志が高そうで、それもちょっと羨ましいところでした。


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