2013年5月1日水曜日

藁の楯

(わらのたて)

 コメディからホラーまで、いささか節操なさ過ぎでは思われるほど様々なジャンルの映画を片っ端から撮っていく三池崇史監督によるサスペンス映画デス。いつもながら仕事を選ばない人です。
 昨年(2012年)だけでも、『逆転裁判』、『愛と誠』、『悪の教典』と三本も公開されています。更にまた、『悪の教典』から半年も経たないうちに、もう次回作である本作が公開されるとは。仕事早すぎ。

 たまに『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』(2007年)とか、『ヤッターマン』(2009年)とか、ちょっとアレなものも撮っちゃったりしますが、多作なのでそういうこともあるか。
 個人的には、あまり三池崇史監督作品を観る方ではありませんが、本作はかなり巧く出来ているのではないかと思います。
 エンタテインメントなサスペンス映画でありながら、今年(2013年・第66回)カンヌ国際映画祭への出品作品に選ばれておりますし。社会的なテーマ性も伺えます。

 本作は木内一裕による同名の小説に基づく映画化作品ですが、作者はこれがデビュー作だとか。いきなり骨太な作品を書く人だなあと思ったら、『ビー・バップ・ハイスクール』の作者きうちかずひろ氏の本名でしたか。漫画家歴が長かっただけに、ストーリーテリングの腕はしっかりしておりますね。
 シンプルな命題から、非常に興味深いドラマが展開されています。
 原作未読の為、どの程度忠実に映画化しているのか判りませぬが、全編にわたって緊張感を維持する林民夫の脚本もお見事でした。

 金銭の為に人命を奪うことは犯罪です。勿論、やってはイカンことです。
 しかし対象が「死んだ方が世の為になるようなクズ野郎」で、「殺したら感謝された上に一〇億円ももらえてしまう」となればハナシは別か。
 単純な設定だけで、緊張感溢れる状況が現出するのが巧いです。高見広春原作で深作欣二監督の『バトル・ロワイアル』(2000年)を彷彿としました。

 七歳の少女を無残に殺害した凶悪犯に、遺族である祖父が殺害依頼の広告を打ち、一〇億円の賞金を掛ける。祖父は財界の大物であり、莫大な資産家である上に、大病を患い余命幾ばくも無い。例え全財産を注ぎ込もうと惜しくないという覚悟を固めている。
 インターネット上に削除不可能なウェブサイトを開設し、一〇億円の現ナマを並べて殺害を依頼する動画をアップする。現ナマの迫力ってのは凄いデス。
 その上、演じる山崎努の淡々と語る表情が、並々ならぬ決意を感じさせ、余命僅かな老人が寿命を削りながら語っている様子が鬼気迫ります。

 「私は何でも買える。七歳の女の子の命以外は」

 確かにそう豪語するだけあって、有名全国紙にも大々的に「この男を殺して下さい」と広告を掲載するなど、湯水のように資金を投じて宣伝しております。賞金のみならず、広告を掲載させる為の買収工作にも大金を注ぎ込みまくり。
 本気になった金持ちがどれほど怖ろしいか。殺人教唆に罪に問われることも承知の上か。

 こういう人に対して「亡くなったお孫さんがそんなことを望んでいますか」なんて言葉をかけても無意味ですね。
 逆に「人間、死んだらお終いだ。死んだ者は喋らない。喋った気がするだけだ」と平然と返される。自身の恨みを晴らすだけと割り切ってしまわれては、説得も難しいでしょう。
 アメコミの映画化作品にも、バットマンやアイアンマンといった大富豪の主人公が、底なしの経済力にものを云わせて活躍するストーリーがありますが、本作の場合は痛快と云うよりも悲壮です。

 知人のアパートに潜伏していた凶悪犯だが、まず真っ先に匿っていた知人に裏切られる。所詮、犯罪者仲間の絆なんて、あって無きが如しものか。
 しかし信頼していた相手が突然、「ごめんな」とバールを振りかざして殴りかかってくる図と云うのはなかなかに怖ろしいです。
 圧倒的金額の前に、人間関係が崩れ去るワケで、これでは人間不信になるのが当たり前。

 辛くも逃げ出した犯人は自ら福岡警察に出頭するが、それでも安全にならない。留置所でも警官に襲われ、もはや一刻の猶予も無く本庁への移送が必要になる。職業倫理すら破壊する経済力。
 例え殺人罪で逮捕されて有罪になろうと、残りの人生を保証されるなら、道を踏み外してもイイと思ってしまえるのがコワイ。
 まず、この誘惑をどうにかしないと、例え本庁に移送したところで、根本的な解決にはならないような気がするのですが……。

 移送に際して、警護課の腕利きSP二名が特例で選ばれる。
 金に目がくらんだ連中が、片っ端から襲撃してくることが予想されるが、彼らはそれを排して犯人を連れ帰らねばならない。これは「クズの弾よけ」になることを命じられたSPとその仲間達による、決死の犯人移送の物語です。

 主役の二人が、大沢たかおと松嶋菜々子。
 松嶋菜々子は家政婦のミタさんでしたが、本作のSP役もサマになっております。但し、テッパンすぎて、逆にちょっとステロタイプな感じがしなくもない。『SP』(2007~2011年)の真木よう子と、かなりイメージが重複しているようなのですが──射撃の名手で男勝りであるところなんかが特に──女性警護官はこれが普通なんでしょうか。
 大沢たかおの方は、岡田准一のように予知能力をもっていたりはしなかった(いや、そんなハナシではありません)。奥さんを亡くしてやもめ暮らしであるのが劇中で紹介されますが、家庭的な雰囲気は一切無く、愛妻亡き後は楽しみの少ない空疎な日々です。実はこれが大沢たかおが選ばれた理由の一端で、伏線にもなっています。

 警護課の二名に加えて同行する捜査課の刑事二名が岸谷五朗と永山絢斗です。ベテランらしく感情を表に出さないストイックな岸谷五朗に対して、最初から敵意剥き出しの熱血若造刑事の永山のコンビが対照的で判り易いキャラクターでした。
 加えて逮捕した福岡警察からもう一名の刑事、伊武雅刀が同行することになり、この五人体制で移送が行われる。博多弁を喋る伊武雅刀がちょっと新鮮でした。

 そして命を狙われる凶悪犯役が藤原竜也です。ここまでゲスいサイテーな男を憎々しく演じる藤原竜也の演技力は見事です。凶悪な殺人犯であるくせに、時折ナイスガイかもと思いたくなるような人なつこさを見せるが、それを信じると痛い目を見るところが始末に悪い。
 絶対、死んだ方が世の為になると確信できるほどの悪党です。
 三池崇史監督作品に登場する悪党としては、『悪の教典』(2012年)の伊藤英明とか、『十三人の刺客』(2010年)の稲垣吾郎も相当なものでしたが、本作の藤原竜也もそれらに負けず極悪非道です。

 当初は大人数の機動隊に守られての移送だったが、これが却って危機を招来する。やはり人数が多ければ多いほど、中には腐ったヤツも混じっている可能性が高くなるものですね。大多数は真面目に職務を遂行していても、ほんの数人の不心得者が混じるだけですべてが御破算になる。
 しかも山崎努の大富豪は、殺人未遂に終わった連中にも報奨として一億円をくれてやり、しかもそれを大々的に公表するものだから事態は悪化の一途を辿っていきます。
 未遂に終わっても一億円もらえるなら……。

 かくして、移送手段を変更しながらの決死の行程となるワケですが、何故か行く先々で襲撃されます。やがて自分達の居所が常時ネット上に暴露されているのが判明する。
 関係者しか知らない移送計画がどこから漏れているのか。警察上層部か。それとも公安調査庁か。あるいは、一緒に行動している仲間の誰かが裏切り者なのか。
 互いに疑心暗鬼に陥る仲間達。誰も信じられない状況と云うのが、やはり『バトル・ロワイアル』に共通しているように見受けられます。
 ここで岸谷五朗よりも更にベテランかつ柔和な物腰の伊武雅刀が、柔和なタヌキ親父であるからこそ怪しく見えてくる演出が巧いです。

 護送車での移動を断念し、新幹線の車両を強引に一両丸ごとチャーターする一行に更なる困難が降りかかる。どんなに移送手段を変えても、常に居所が暴露されるので、その都度、周囲の中から誘惑に駆られた襲撃者が現れる。
 そして遂に仲間の中から殉職者まで出してしまう。
 五人の移送チームから、一人また一人と脱落者が現れ、そのたびに裏切り者の嫌疑は晴れるが後の祭り。このあたりはアガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』的な展開です。

 更に襲撃者の質も、次第に変わってくる。
 「リストラされて」とか「工場が破産して」を理由に襲ってくるのは、可哀想ではありますが、排除されてもやむを得ない。無論、「ギャンブルで首が回らなくなって」と云うのは論外です。
 しかし被害者遺族ともなればハナシは変わりましょう。
 劇中では、藤原竜也は何人もの少女殺害に関与しており、山崎努の孫娘もその中の一人に過ぎないと説明されているので、他にも被害者遺族がいることは判ります。そういう人は、もはや損得抜きに襲ってくる。
 「金はいらないから殺させてくれェ」と哀願する遺族を、それでもなお排除しなくてはならないのは辛いです。自分の方が悪いことをしている気になってくる。

 そして更に状況は悪化し、犯人の母親が自殺するという事件にまで発展し、それが大きく報じられる。ただ一人の肉親である母が、息子の境遇を悲嘆して死を選ぶのが痛ましい。
 ただでさえ犯罪者の身内は肩身が狭いものなのに、一人息子が幼女惨殺をしでかし、一〇億円の賞金首になって「国民の敵」扱いされるとは、とんだ親不孝です。

 さすがに母の自殺のニュースを聞いたときの藤原竜也の様子には哀れを催しましたが、これが自暴自棄になる引き金を引いてしまったように見受けられます。
 ここから先は、どうもわざと死のうとして行動しているように思われ、どこまでが本心で、どこから計算しているのか釈然としません。故意に神経を逆なでし、射殺してくれと云わんがばかりの行動です。
 それでも踏みとどまる大沢たかおの自制心は相当なものです。いや、普通の人間ならもう躊躇わない一線を越えていますよ。

 ラスト近くの藤原竜也と大沢たかおの激突には思わず拳に力が入ってしまうのですが、藤原竜也のキャラクターについては、判らないところもあります。
 死にたがっているようでもあり、まだまだ欲望に忠実に生きようとしているようでもあります。複雑な人間心理を巧みに表現しているのですが、エンタテインメントとしてはイマイチ判り辛かったでしょうか。
 最後の最後まで憎まれ口を叩き続けておりましたが、あれが芝居だったのか本心だったのかは、観た側の判断に委ねられているように思われました。
 まぁ、だからと云って情状酌量の余地など皆無なのですが。

 エンドクレジットでは、台湾での撮影もあったとされますが、どの辺が台湾だったのか一見したところでは判りません。実は列車での護送シーンが、そうだったようです。
 劇中での新幹線は、実は台湾高速鉄道だったのか。私は鉄道マニアではありませんが、思い返すとなかなか興味深い場面もありました。




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