2013年3月14日木曜日

キャビン

(The Cabin in the Woods)

 古今東西のB級ホラー映画にはちゃんと意味があったのだ。サマーキャンプやリゾート地でバカップル共が殺人鬼に血祭りに上げられる事件の裏には、深遠な陰謀が隠されていたのだ。
 まさかそんな。
 本作は、よもやのメタ展開が大変愉快なB級ホラー映画の快作です。マニアであればあるほど劇中に仕込まれた小ネタの数々に気がついて笑えることでしょう。
 逆に本作に恐怖を感じる方は……少ないと思いマス。

 本作はJ・J・エイブラムスの『クローバーフィールド/HAKAISHA』(2008年)で脚本を担当したドリュー・ゴダードの初監督作品であるそうな。本作の脚本も自ら手掛けておりますが、共同脚本として『アベンジャーズ』(2012年)のジョス・ウェドンも名を連ねております。
 なんなもう、イカニモな人達が好みのネタを出し合いながら作っているように見受けられます。
 とりあえず基礎知識として、『13日の金曜日』(1980年)と『死霊のはらわた』(1981年)あたりは押さえておくべきでしょう。
 出来れば『ヘル・レイザー』(1987年)も観ておいた方がよろしいでしょうか。特に「ヘンテコなパズルボックスがセノバイトを呼び出すアイテムである」と云うのは、結構重要な知識です。

 メインのストーリーは、五人の若者が夏山にバカンスに来て、災難に遭うと云うテッパンな筋書き。
 そのメンバーはクリステン・コノリー、クリス・ヘムズワース、アンナ・ハッチソン、フラン・クランツ、ジェシー・ウィリアムズ……と云われましても、皆さんほぼ無名に近いので誰が生き残るのか判らないようになっています。いや、片っ端からヤラレていくのがお約束なのですが。
 体育会系、優等生、オタク、ビッチ、清純派の五人組というのが、見事なまでに型にはまっております。
 メンバー中で、唯一ビッグネームなのはクリス・ヘムズワースだけでしょう。何と云ってもマーベル・コミックスの映画化によりマイティ・ソー役として名が売れましたからね。『アベンジャーズ』にも出演した後になっても、こんなB級ホラー映画でバカップル共の一人を演じてくれるとは嬉しいデスね。
 ……と思ったら、本作の撮影は二〇一〇年までに済んでいたのだとか。『アベンジャーズ』どころか『マイティ・ソー』(2011年)以前ですね。どおりで他のメンバーと扱いが同じ筈です。

 本作は流行りの3D映画として公開されるべく、完成後に3D変換処理を施される予定だったそうです。とは云っても2D撮影を変換する疑似3Dですが。
 ところが資金難で変換処理が難航し、公開も遅れまくって遂に3D化を見送って、ようやく公開に漕ぎ着けたのだとか。変なところで曰くが付いてしまいました。
 そうと知って観ると、劇中の随所に3Dを想定したようなレイアウトが見受けられます。
 でも2Dでも充分面白いデスし、あまりモメずにサッサと公開して戴きたかった。

 ところで本作は、冒頭からしてちょっとネタバレなところがあります。
 五人の若者達よりも先に、ナニやら近代的な研究所の中で二人の職員が立ち話をしている場面から始まったりします。
 この職員の片方がリチャード・ジェンキンス。文芸作品にもB級映画にも、分け隔てせずに出演してくれる職人的な方ですねえ。
 本作のタイトルの表示の仕方が、B級ホラー映画らしからぬのは、ミヒャエル・ハネケ監督の『ファニー・ゲーム』(1997年)に対するオマージュになっているからだそうな(これまたマニアックな)。
 でも勘のいい人には、この時点でリチャード・ジェンキンスが仕掛人であると、バラしたも同然の演出なのでは(まだまだ序の口ですが)。

 ドラマはティーンエイジャー達がバカンスに出発する様子と、密かにそれを追跡し監視するリチャード・ジェンキンスらの秘密組織の様子を交互に映しながら進行していきます。モニターがずらりと並ぶ管制センターの映像では、衛星から追跡しているのが判ります。
 たかが大学生のバカンスの裏で進行する、相当に大掛かりなプロジェクト。彼らの目的は何なのか。
 途中で立ち寄る田舎のガソリンスタンドの従業員から、彼らが向かっている山荘のよからぬ噂話を聞き込んでしまうのもお約束。
 実はそのガソリンスタンドの従業員も、プロジェクトチームの一員であり、不吉な事件の起きる前兆が周到に演出されているのだと判ります。

 B級ホラー映画な展開が、予め仕組まれているというメタ展開。
 マイケル・クライトン原作・監督・脚本のSF映画『ウエストワールド』(1973年)を思わせるような演出です。そういえば謎の組織の施設内部が、七〇年代SF映画風の近未来的ビジュアルであるのも、作り手のコダワリなのでしょうか。
 コンクリート打ちっ放しの通路を、電気自動車のカートで移動していると云う様子が、ドコカデミタ感を醸し出しております。
 しかしどう見ても管制センターの連中の態度は、客を楽しませると云うよりも、むしろ罠に掛ける気満々なところが悪趣味です。

 そして山道を抜け、遂に到着する湖畔の山荘。
 山荘のビジュアルが『死霊のはらわた』を彷彿とする(と云うか、そのまんまな)デザインなのが微笑ましい。ここまであからさまだといっそ清々しいと云うべきか。
 人里離れた森の中にある一軒家であり、近くには湖もあるロケーションは、『13日の金曜日』的でもあります。凡百のB級ホラー映画の最大公約数的なイメージとでも云うのでしょうか。
 そして様々な仕掛けによって、ティーンエイジャー達を誘導していく。自分達の意思で行動しているようで、まんまと仕掛人達の思惑にはまっていくのが怖い。

 一番、残酷なのは自分達に処刑パターンを選ばせようという趣向ですね。
 得体の知れない小物が満載の地下室を発見させて、そこで何を手に取るかで今後の展開を決定させようという演出。しかもそれを管制センターの職員達が賭けの対象にしているのが、趣味が悪い。
 どこかで見たような日記帳とか、どこかで見たようなパズルボックスとか、様々なアイテムが並んでおります。でも版権の都合からか、ビミョーにデザインを変えてあるような……。
 そこで今般の大学生らが選んだのは「日記帳に書かれた手記を読み上げてラテン語の呪文を唱える」こと。これによって直ちに「ゾンビの殺人鬼一家」の出動が決定します。

 ちなみに「ホラ貝を吹いたら半魚人」だったらしい。個人的にはあからさまに怪しい「謎のパズルボックス」を開けて戴きたかった(もうちょっとだったのにッ)。
 管制センターでは「狼男」や「殺人植物」や「ゴースト」に賭けた職員が失望の声を上げたりしている。
 何をどう選んでも対応可能なところが凄いです。全部用意されているのか。

 そしてバカップルと化した彼らを襲うゾンビ殺人鬼。ここでも仕掛人達が彼らの飲料に薬物を混入させたり、空気中にフェロモンを散布したりして、巧妙に行動を操作していたりします。
 つまり今までB級ホラー映画では定番の展開と思われていた行為は、周到に準備され、被害者達はフツーならやらないことを選択したり、大胆になるように仕向けてられていたと云う真相が明かされる。ホンマかいな。
 そうだったのか。全部、ヤツラの仕業だったのかぁ。

 その上、これは世界的なプロジェクトであるらしく、アメリカのみならず、スウェーデンや日本でも進行中であると明かされます。しかも各地の計画は軒並み失敗しているらしい。
 「スウェーデンは失敗した。残るは日本と我々だけだ」
 「いつもの通りだな」
 どうも仕掛人達は世界各地でB級ホラー映画を演出しては何事かを為そうとしているらしいのが伺えます。
 モニターのひとつに、「日本で進行中の計画」がチラリと映ります。なんだか『リング』(1998年)のような──少女達が「貞子っぽい幽霊」に襲われていたりする──Jホラー的映像なのが笑ってしまいます。製作スタッフのリサーチも怠りなしか。セリフもちゃんと日本語ですし(笑)。

 しかし被害者達が反撃に転じ、ゴーストや殺人鬼を撃退してしまうと「計画は失敗」となるらしく、なかなか全滅させることは難しいようです。
 果たしてそうまでしなければならない理由は何なのか。
 リチャード・ジェンキンスらが満足させねばならない〈クライアント〉とは何者なのか──と云うところで、遂にカラクリがバレてしまい、反撃に転じた生き残り組が施設の内部にまで侵入し、計画の全貌を目の当たりにします。
 このあたりはB級ホラー映画のファンであるほど笑えるようになっています。
 どこかの映画のアレや、コレや、ソレが大挙して登場するクライマックスは、著作権的に大丈夫なのかと、心配になるほどです(ビミョーにデザインを変えていたりするところに苦心の跡が伺えます)。

 更にサプライズで登場するリチャード・ジェンキンスの上司役が、シガニー・ウィーバーです。これは『宇宙人ポール』(2011年)と同じパターンですねえ。
 どんなアホな真相でも、シガニー・ウィーバーに真顔で説明されては信じる他ないか。うーむ。そうだったのか。知らんかったー。
 個人的にはもっと『マトリックス』(1999年)のように仮想現実ネタまで踏み込むのかと期待したのですが、それはナシ。代わりに持ってくる大トリのネタが〈クトゥルー神話〉。意外では無いが安定しておりますね。
 でも最後の最後に登場する邪神のビジュアルは如何なものか。〈古きもの〉なんだから、ソレではイカンじゃろー(何か映像化に際して不都合でもあったのかしら)。
 画竜点睛を欠いた感じがしないでもありませぬが、本作はB級ホラー映画ファンが集まって鑑賞すると、終わった後の一大ツッコミ大会が楽しいものになること間違いなしですね。




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