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2012年9月20日木曜日

Virginia ヴァージニア

(Twixt)

 巨匠フランシス・フォード・コッポラ監督作品ですが、すごく久しぶりな感じデス。私が最後にコッポラ監督作品を観たのは『ドラキュラ』(1992年)だったか……。
 近年の『コッポラの胡蝶の夢』(2007年)や『テトロ/過去を殺した男』(2009年)をスルーしておりますので、随分と久しぶり。あれほどの大監督が、最近はミニシアター系の監督に方向転換しているというのも妙な感じです(色々と浮き沈みのある人生のようですから)。

 特にコッポラのファンであるわけではなく、本作がヴァンパイア・ムービーの一種であり、エル・ファニング(以下、エルたん)が出演すると知りましたので鑑賞いたしました。
 クロエ・グレース・モレッツは『モールス』(2010年)でヴァンパイア少女を演じましたが、今度はエルたんか。やはり美少女は一度はヴァンパイアを演じるべきでありますね。

 共演はヴァル・キルマー、ブルース・ダーン、ベン・チャップリン等。世間一般的にはヴァル・キルマーが主演な作品なのでしょうが、個人的には、本作はエルたん主役デス。
 個性的で味わい深い役者さんが多いですが、エルたんとヴァル・キルマー以外には馴染みが薄い人達ばかりなのが辛いか。
 ブルース・ダーンはどちらかと云うと、女優のローラ・ダーンのお父さんと云う方が個人的には通りは良いです。
 ベン・チャップリンも『ロンドン・ブルバード』(2010年)とかスルーしておりまして……(汗)。

 他の配役では、冒頭に入るドスの効いた声のナレーションが特に印象的でした。誰かと思いましたら、ロック歌手のトム・ウェイツでしたか。本作には声だけで、姿は見せておりません。
 近年、トム・ウェイツは『Dr.パルナサスの鏡』(2009年)や、『ザ・ウォーカー』(2010年)に出演しておられましたね。特に前者の「Mr.ニック」役を覚えております。
 トム・ウェイツなら、声だけで無く、何かの役で出て戴きたかったです。勿体ない。

 それからもう一人、印象的な役で登場する人がおりました。
 暴走族のリーダーの役で、アルデン・エーレンライクという青年。実は名前は存じませんでしたが、『テトロ/過去を殺した男』にも出演しているし、ソフィア・コッポラ監督作品『SOMEWHERE』(2011年)にもエルたんと一緒に出演しているそうな。割とコッポラ一族とは縁のある役者さんなんですね。
 でも『SOMEWHERE』は観たんですけどねえ。どこに出ていたのだろう……(まぁ、エルたんしか観ていないヤツには判らないか)。

 しかし、何を云うにしても、本作はヴァル・キルマーが実に、なんとも……忘れ難いと云うか……私の知っているヴァル・キルマーから随分とかけ離れてしまっていたので、大変にショックを受けました。
 パッと思い浮かべると、彼は『トップガン』(1986年)でトム・クルーズのライバル〈アイスマン〉役として登場しておりました。私の中のヴァル・キルマーはこれが基本形でして。あの頃はトム・クルーズよりもカッコ良かった。
 人間、「最初に見たものがスタンダードになる」ものですね。
 その後も『ウィロー』(1988年)、『ドアーズ』(1991年)とあまり変わらぬイメージです。『バットマン フォーエヴァー』(1995年)や『レッドプラネット』(2000年)でも、まだ大丈夫。『アレキサンダー』(2004年)のフィリポス二世役でも特に問題は無かったと云うのに……。

 いつの間にあんなに肥えてしまったのだ、ヴァルよ!
 最初、この「肉の付いた人」がヴァル・キルマーであるとは判りませんでした。数分考え、どうやらこれが主役らしいとまでは見当が付きましたが、それでも、この肉がヴァル・キルマーであるとは……信じたくなかったデス。
 役作りで無理に体重を増やしたのだ、きっと(いや、そんな作品ではありませんヨ)。
 なんであんなに肥えているのか(泣)。
 ジェラール・ドパルデューほど酷くは無いのがせめてもの救いか……。

 トニー・スコット監督がお亡くなりになって、『トップガン2』の企画が流れたのは、トムには気の毒ですが、ヴァルには幸いでしたかねぇ(いや、出演する予定だったのかは存じませんが)。
 今、トム・クルーズと並んだら、絶対確実に見劣りします。あれは酷い。あんまりだ……。
 してみると、今でも『ミッション:インポッシブル』シリーズで活躍しているトム・クルーズの若々しい肉体が奇蹟のように思えます。日々、鍛錬しているのですね、トム。

 あまりにもヴァル・キルマーが変わり果ててしまっていたので、ややもするとエルたんの可愛らしさを鑑賞するという当初の目的を忘れてしまいそうになりました。
 いや、でもやっぱりヴァンパイア少女役は可愛らしい。歯列矯正のブリッジをしている笑顔が素敵です。
 それが牙が伸び始めると、ブリッジのワイヤーがピシピシと切れていく演出がなかなか良かったです。細いワイヤーが切れる際の音がいい感じ。
 ほのかな月明かりの下を白いドレスを着てそぞろ歩くエルたんの姿は、実に儚げで美しい。
 本作にヴィジュアル面での問題はまったくありません。

 問題なのは脚本ですねえ。あまりにも幻想的すぎて、よく理解できませんでした。
 コッポラの頭の中では、ちゃんと筋が通っているのでしょうか。
 過去と現在が交錯する物語であるのは理解できるのですが、あまりにもキャラクターが簡単に時空を越えすぎるので、何がどうなっているのか次第に判らなくなってきます。過去と現在が交錯すると云うよりは、もはや錯綜している感じ。深く考えてはイカンのですかねえ。

 ホラー小説家であるヴァルは、絶賛スランプ中。数年前に出した著作のサイン会で地方を巡回しているが、人気はさっぱり。書店は閑散としており、針のむしろ状態。
 あるときヴァルは〈七つの盤面を持つ時計台〉がある小さな街にやって来る。何故かその時計台の盤面はすべてが異なる時間を指している。
 時計が狂っているのに、街の人間は誰も直そうとはしていない。そもそも時間があまり意味を為さないほどド田舎であるのか。

 そんな小さな街でも事件は起きる。
 数日前に、ひとりの少女が胸に杭を打ち込まれて殺されるという事件があったばかり。
 ヴァルが小説家であることを知った保安官(ブルース・ダーン)は、この事件をネタに自分と小説を合作しないかと持ちかける(どうも自分を主人公にして書いてもらいたいだけのような)。
 「杭を打たれて殺される」ことから、それは必然的に〈吸血鬼もの〉のストーリーになる。題名は『吸血鬼の処刑台』。いや、そんな先にタイトルだけ決めてもねえ。
 最初は乗り気でなかったヴァルだが、生活に困窮し、やむなく保安官のアイデアを拝借することに……。

 小さな街でも、それなりに由緒ある街らしく、郊外の森の中には、かの文豪エドガー・アラン・ポーも投宿して執筆活動したというホテルもある。尤も、今や営業しておらず、ただの廃屋と化しているのだが。
 更に保安官はヴァルに、かつてこの街でも大量殺人事件が起きたことなども教えてくれる。

 このあたりから、物語の時間が次第にあやふやになっていきます。作家が夢と現実の狭間を行き来すると云うのはよくあるパターンでしょう。
 キーボードを前に煮詰まっている内に、いつの間にやら森の中を歩いている。
 背景から色彩が失われ、モノクロのような淡い色合いになる演出はベタですが定番です。完全なモノクロにならず、ある箇所にだけ色が付いていたりする演出にも美意識が感じられます。
 森の中でヴァルは、一人の少女(エルたんです)と出会う。「V」としか名乗らない少女には、どんな秘密が隠されているのか……。

 ある程度、幻想の中でストーリーが進展すると、ヴァルは目を覚まして現実に帰還し、図書館で郷土史を調べて、夢の中の出来事の裏付けを取ったりします。
 そして夢の中で出会うもうひとりの人物こそ、エドガー・アラン・ポーそのひと。ポーの導きによって、作家は過去の事件の真相を追っていく。
 ベン・チャップリンの本物そっくりなメイクには思わず感心してしまいます。似てるわ。

 しかし過去の事件の真相を追っていくのと、数日前に起きた「杭打ち殺人事件」の関連が今ひとつ明確では無かったりします。どちらの被害者もエルたんが演じているので、同一人物のような錯覚に陥りますが、そんな筈はあるまい。
 関連性があるのも雰囲気だけな感じデス。時計台に象徴される「時間が意味をなさない街」と云うのも理解できますが、ちょっと自由すぎるのでは。
 その上、街の郊外の湖畔には、アナーキーな暴走族らしき若者達がたむろしているのですが、これが過去の事件の中にも登場したりして、虚構と現実の境が掴めなくなっていきます。保安官が殺人事件の容疑者として、若者達のリーダー(アルデン・エーレンライク)を逮捕するのですが、証拠があるわけでも無く、偏見と思い込みの末の誤認逮捕のように思われます。
 ストーリーのワケの判らなさは、デヴィッド・リンチ監督の作品を思わせるのですが──『インランド・エンパイア』(2006年)とか──、リンチの真似は誰にも出来ないと思いますねぇ。

 ポーの導きによって辿り着く過去の事件の真相や、作家がスランプに陥った真の理由といった様々なことが明らかになっていくのですが、どうにもスッキリ解決しませんです。
 作家の個人的な問題は片付いたけれども、「杭打ち殺人事件」はどうなったんですかね。あれでは迷宮入り確定のような。
 幻想的な美しい映像の中で、エルたんがひたすら可愛いので、まぁいいか。
 でも、あの肥えたヴァル・キルマーだけは、ネバーモアでお願いします。またとあらじ。


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