2012年8月18日土曜日

巨神兵 東京に現わる

 東京都現代美術館で開催中の「館長 庵野秀明 特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技」展(H24年7月10日~10月8日)に行って参りました。いやぁ、実に懐かしいものが色々と展示してあり、感無量でありました。
 特に昔懐かしい特撮怪獣映画のミニチュアモデル(ほぼオリジナル)の展示が嬉しいデス。もう轟天号も、ムーンライトSY-3も、メーサー殺獣光線車もみんな展示してあります。ポーラボーラまであったのには笑いました。

 TVの特撮番組のミニチュア展示にも怠りなく、万能戦艦マイティジャック号はかなりデカかったです。それからSF者としてはE・ハミルトン原作の『スターウルフ』に登場したバッカス三世号もちゃんと展示してくれていたのが嬉しい。
 もちろんウルトラマン関連の展示もたっぷりですよ。『帰ってきたウルトラマン』のマットジャイロの模型を見ていると、米軍のV-22 オスプレイはどうしてマットジャイロのようにちゃんと飛べないのかと思っちゃいますね。
 興味深い展示がテンコ盛りで、しっかり見るなら半日は必要でしょう。展示会場内に、どこかで聴いたような効果音が片っ端から流れているのもいい感じでした。

 さて、この特撮博物館展の目玉と云えば、もちろん『巨神兵 東京に現わる』でしょう。たった十分に満たない短編映画(9分03秒)でありますが、最新のミニチュア特撮技術の粋を凝らした怪獣映画でありますから、見逃すわけには参りませんよ。
 タイトルからして往年のSF特撮映画『宇宙人東京に現わる』(1956年)へのオマージュです。まぁ、巨神兵はパイラ星人のように優しくありませんが。
 あえてCGを一切使用しないアナログ技術のみの特撮が素晴らしいデス。
 会場内の一角で繰り返し上映されていますので、好きなだけリピート観賞出来ます(笑)。

 しかしよもや巨神兵を御存知ない方はおられますまい。宮崎駿監督の『風の谷のナウシカ』(1984年)に登場したアレでございます。アニメ版では最初から不完全体として、ドロドロと溶けながら動いておりました。
 完全な形としては、アニメ公開後に原作コミックスで登場しましたが、これは映像化されることはありませんでした。それが実写版で映像化されるとは、世の中何が起こるか判りませんねえ。
 宮崎駿のキャラクターでありますので、この短編映画もスタジオジブリ制作となっております。ちゃんとトトロのロゴマークが出ます。これもジブリ映画か。
 しかもシネマスコープサイズのカラー作品です。

 企画・脚本は庵野秀明、監督は樋口真嗣。ナレーターとして林原めぐみが出演しておりました。
 たった九分ですので、筋書きなんぞあって無きが如し。タイトルどおり、巨神兵がやってきて東京を灰燼に帰す──だけ。その代わり、映像の迫力には並々ならぬものがあります。特撮ファンは一見の価値ありでしょう。

 林原めぐみの語りによって、ドラマは進行していきます。
 数日前から、東京が壊滅するとの噂がネットに流され、不穏な空気が漂い始めるが、漠然とした不安だけを根拠に避難するわけにもいかず、警告を無視した形でただ日々を過ごす者たちの前に巨神兵が現れる。
 どこからともなく街に影が差し、見上げると巨大な人影が光輪を背負って都市上空に浮かんでいる。
 どこからとか、何故とか、一切の説明抜きに現れる巨神兵は、まさに自然災害の擬人化したような存在ですね。怪獣映画的精神に則っております。当初は、どこぞの地下研究施設で作られている場面とかも考えられたそうですが、そのような人工的な背景説明は素っ飛ばして、いきなり空に浮かんでいる図の方が怖いデス。

 しかしどうもイメージ優先で撮影されたらしく、巨神兵の縮尺が登場シーンと、着地後の場面では若干異なるような感じがしました。
 最初に空に浮かんでいる巨神兵はとにかく大きい。もう身長が差し渡し十数キロはあるような感じでしたが(新宿から丸の内までが影に覆われているように見えましたが……)、着地後は数百メートルくらいの大きさに見えます(それでもゴジラの何倍も巨大ですが)。特に詳細な設定はしていなかったらしいです。

 今までの怪獣映画では、怪獣が街中に現れた際には大勢のエキストラが悲鳴を上げながら逃げ惑うモブシーンが定番の演出でしたが、本作では──短編ですし、エキストラを大勢動員出来なかったのか──真逆の演出をして見せたのが秀逸でした。
 誰も逃げない。それどころか皆、立ち尽くしてビルの向こうにそびえ立つ巨神兵に向かってケータイやスマホをかざして撮影し始める。
 最近の野次馬って、怖いなぁと思いました。実にありそうな光景です。まぁ、今更逃げ出したところで無事に済むはずがないのですがね。

 この巨神兵は前田真宏氏のデザインを元に、造形師の竹谷隆之氏が制作した雛形が元になっているそうですが、アニメや原作コミックスよりも遥かに細かく描かれ、実にグロテスクです。
 しかもこれは着ぐるみでは無い。人型なのに、人が入れるようなプロポーションになっていない。人形浄瑠璃の文楽人形のように、背後からロッドの繰演によって動く仕組みだったそうです。何かもう存在自体が日本の伝統芸能です。
 上映コーナーから更に展示コースをめぐっていくと、本作のメイキングが詳しく解説されているコーナーがあり、本編の映像がどのように撮影されたのかいちいち説明されています。これはなかなか興味深いです。
 巨神兵も三人の繰演者による巨大パペットだったと云うのが判ります。実物も展示されておりますし。

 ところどころのカットが、どこかで見たような構図になっているのが楽しいデス。特に「神社の鳥居の向こうに巨神兵が見える」場面は、もう特撮ファンには説明不要の構図ですね。
 短い映画ですが鳥居越し、電線越し、ビルの谷間から仰ぎ見たり、様々な手法で巨神兵を映してくれます。
 そしておもむろに口が開き、牙が展開して喉の奥から砲身が現れる。次いでプロトンビームの一撃。
 凄まじい破壊力です。アニメで王蟲の大軍を焼き払う「あの場面」の再現ですが、実にリアルです。ビームが薙いだ後に、ビルの切断面から高温で溶岩化した建材が吹き出すシーンは鳥肌ものです。
 立ち上るキノコ雲もミニチュアだったと云うのが驚きでした。

 本作ではとにかく今まで無かったやり方で都市の破壊を描こうと、特撮スタッフが知恵を絞って新しい表現を模索したそうですが、素晴らしい出来映えです。
 ビルの倒壊シーンも今までに無くリアルです。ミニチュア特撮のみで実現しているのが凄い。
 メイキングによると、企画時に特撮スタッフらによる「新しいビルの倒壊方法」のコンペティションが行われたそうで、発案者の名前を採って〈伊原式倒壊〉と〈関山式倒壊〉と名付けられた手法の両方が採用されております。どちらも素晴らしくリアルな倒壊を見せてくれます。

 五反田も高円寺も火の海、東京タワーも爆炎で薙ぎ倒され、増上寺も炎上します。やはり東京タワーを倒すのがお約束なんですかね。
 スカイツリーも盛大に叩き壊してくれるのを期待したのですが、本作ではそっちは描かれませんでした。スカイツリーは巨大すぎるのかなぁ。
 怪獣映画で壊されないと新名所として認められたとは云い難いと思うのですが……。
 近い将来、新たな怪獣映画が制作され、スカイツリーが華々しく破壊される場面を期待したいデス。

 さて、製作された巨神兵は一体だけですが、合成技術によってどんどん増殖します。いい加減に東京が火の海になったところで、更に巨神兵が何体も降下してくる。
 手に手に光る槍を持っています。
 そして一列横隊になって進撃し始める。これはもう『風の谷のナウシカ』の冒頭で描かれた「火の七日間」の場面の再現ですね。
 実写でこの場面が見られるとは思いませんでした。

 かくして、この日から始まる七日間で世界は滅亡するのである──と云うところでエンド。オチも何もない破壊シーンだけの短編映画ですが、それだけに各カット毎に作り手の情熱が感じられる作品でした。
 この短編を御覧になったら、そのあとに続くメイキングビデオの上映も御覧になることをお薦めします(本編とは別コーナーで上映しています)。
 樋口監督を始め、スタッフの皆さんが嬉々としてビルを並べ、ぶっ壊している姿が実に楽しそうでした。

 グッズ売場では色々と記念になるようなものが売られておりましたが、やはり一回五〇〇円のガチャガチャは人気でしたね。私も一回やって「鳥居と巨神兵」をゲットしました。
 巨神兵マグカップや、巨神兵Tシャツなんかも販売されております。
 しかしマグカップはいいとしても、あのグロい巨神兵がプリントされたTシャツは、買ったとしてもどこへ着ていけば良いのやら。




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