2012年8月31日金曜日

セブン・デイズ・イン・ハバナ

(7 dias en La HABANA)

 キューバの首都ハバナの街を舞台に、七人の監督が撮った七本の短編をまとめたフランス・スペイン合作映画です。各短編はそれぞれ「月曜日」に始まり「日曜日」までの一週間の出来事となっていますが、基本的に独立しており、相互に関係はありません。
 若干、「土曜日」のエピソードが一部「水曜日」や「日曜日」とリンクしていますが、それほど深いつながりではありません。全編で一二〇分越えになりますが、一つのエピソードで約一五分から二〇分弱といったところでしょうか。
 『パリ、ジュテーム』(2006年)や『ニューヨーク、アイラブユー』(2009年)なんかと同様ですが、特に「愛をテーマにした」と云うような共通点はありません。

 どちらかと云うと、本作はテーマ的なまとまりよりも、描かれる題材のバラエティさや、背景となるハバナの街の景観──海岸通りに建つコロニアル建築がいい──、劇中に流れるキューバ音楽やダンスの方が印象的です。
 特に音楽がいいです。どのエピソードにも独特のラテン系音楽が使われキューバ音楽の見本市のようです。本作のサントラ盤は聴きものですよ。

 各エピソードと監督は次のとおり。

【月曜日 「ユマ」 監督 : ベニチオ・デル・トロ】
 俳優志望のアメリカ人青年(ジョシュ・ハッチャーソン)が垣間見るキューバ庶民の生活。スペイン語が話せない青年は、空港まで迎えに来てくれた親戚とも意志疎通が困難な有様。
 近所のお姉さんに国籍がアメリカだと云うと「ユマね」と云われて面食らう。
 家庭料理のフライドバナナにも馴染めず、ナイトクラブへ連れられて行くがナンパはサッパリ成功しない。酩酊しかけた頃、ようやく美人をゲットできた……と思いきや、彼女は「生物学的には男性」だった。

【火曜日 「ジャムセッション」 監督 : パブロ・トラペロ】
 セルビアの映画監督エミール・クストリッツァ(本人)は、ハバナ映画祭に招待されてキューバを訪れたが、奥さんと揉めており、セルビアまで電話をしても怒鳴りあいになる。
 昼間からバーでやけ酒をあおるクストリッツァ監督の面倒を見るのは雇われタクシー運転手(アレクサンダー・アブレウ)。式典当日も二日酔いでヘロヘロな監督を何とか出席させるが、監督は〈珊瑚賞〉を受賞しても浮かぬ顔。挙げ句の果てに式典後の公式ディナーまで欠席する始末。
 思いあまったタクシー運転手は、自宅のホームパーティに監督を招待する。趣味のジャズ仲間が集って奏でるセッションに、監督はすっかり魅了され、鬱々とした気分はすっかり晴れるのだった。

【水曜日 「セシリアの誘惑」 監督 : フリオ・メデム】
 ハバナのクラブで歌うセシリア(メルヴィス・エステベス)は、スペインから来たクラブ経営者レオナルド(ダニエル・ブリュール)と情熱的な一週間を過ごした。明日、マドリードに帰るというレオナルドは、是非一緒にスペインに来て、自分の経営するクラブで歌ってもらいたいと申し出るが、実はセシリアには同棲する野球選手の恋人ホセ(レオナルド・ベニテス)がいた。
 「お前さんはスペインで歌うべきだ」と雇用主のクラブ・オーナーからも助言を受けるが、セシリアの心は千々に乱れる。

【木曜日 「初心者の日記」 監督 : エリア・スレイマン】
 パレスチナの映画監督エリア・スレイマン(本人)は、キューバのある指導者──誰がどう見てもカストロ本人(笑)──のインタビューを行う仕事でハバナにやってきた。演説の後でならインタビューを受けるとアポを取ったのはいいものの、カストロ議長の演説はさっぱり終わらない。
 手持ち無沙汰な監督はハバナの街を見て回る。ブラブラしてホテルに戻ってきて、TVを点けても、演説はまだ続いている。
 どうにもすることが無いスレイマン監督は、孤独な異邦人となって人々を傍観し続ける。

【金曜日 「儀式」 監督 : ギャスパー・ノエ】
 真夜中のハバナのビーチで、若者達が音楽とダンスを楽しんでいる。情熱的なダンスの雰囲気に流された一人の少女は、その場の勢いで見知らぬ女性と一夜を過ごす。
 翌朝、少女の両親は娘が別の女と裸でベットに寝ている様を目の当たりにして大激怒。
 ふしだらな娘を清めるべく、両親は娘を呪術師のもとへと連れて行き、キューバ古来の宗教〈サンテリア〉の清めの儀式を受けさせる。

【土曜日 「甘くて苦い」 監督 : ファン・カルロス・タビオ】
 ハバナのとある一家では、母親(ミルタ・イバラ)が家計を支えていた。彼女の本職は精神科医であり、TV番組に出演するほどに活躍する一方で、手作りのお菓子作りもしている。
 ある日、地元の呪術師がパーティを開くからと、大量のお菓子とケーキを頼まれるが、材料が足りない。アル中気味で失職中の亭主にも手伝わせ、大量の卵を調達させようと奔走する。果たして材料は集まるのか。
 その一方で長女セシリア(「水曜日」に登場)が、何やら思い悩む様子を見せるが……。

【日曜日 「泉」 監督 : ローラン・カンテ】
 日曜は安息日。だが海岸通り沿いのとあるアパートでは、呪術師のお祖母ちゃん(ナタリア・アモーレ)が突如として早朝から家族全員に号令を掛ける。
 夢枕に聖母様が降臨し、部屋に泉と祭壇を設置して、川の女神を奉るパーティを開くようにとお告げを下されたのだ。日が暮れるまでに祭壇を完成させよと、突貫のリフォームに駆り出される家族達。
 大家族であることが幸いし、壁の取り壊しから、レンガ、ペンキの調達まで、一族全員の土壇場パワーで難関をクリアしていく。大量のケーキとお菓子も発注し、リフォームとパーティの準備は着々と進行していく。

 各エピソードは簡単なものばかりですが、映画ネタがエピソード中に使われたりして、映画好きには楽しい部分もあります。
 例えば「月曜日」のエピソード。何故アメリカ人は「ユマ」と呼ばれるのかと、ジョシュ・ハッチャーソンが訊くと、バーにいた何人かが答えてくれる。
 「ナントカ云うアメリカの映画が由来さ。3時10分がどうこうって題名の……」
 「違う。合衆国のユナイテッドが訛ってユマになったのさ」
 「ユー・アー・マイ・フレンドの「ユ」と「マ」だ」
 なんかもう、どれも信憑性に欠ける説ばかりですが、特に映画ネタの回答がマニアックです。それは『3時10分、決断のとき』(2007年)のことか。原題は “3:10 to Yuma” ですから。勿論、劇中では「リメイクした方じゃ無くて、白黒映画の方な」と云う注釈も付きます(笑)。

 映画監督が登場するエピソードも二つあり、特に「火曜日」が強烈です。
 エミール・クストリッツア監督と云えば、カンヌでパルム・ドールを二回受賞し、世界三大映画祭(カンヌ、ベルリン、ヴェネツィア)すべてで監督賞を受賞している大物ですよ。劇中でも『アンダーグラウンド』(1995年)とか『黒猫、白猫』(1998年)といった作品への言及もあります。
 しかし酔っ払った監督本人が「映画祭には行きたくない。俺のクソみたいな人生や映画を喜ぶ奴らに会いたくないんだ!」と叫ぶという、自虐的なギャグをぶちかましてくれます。本人がノリノリで演じているから尚のこと可笑しいです。

 それに比べると「木曜日」のエリア・スレイマン監督のエピソードは実に静かです。何もせず、何もできず、ただ傍観するだけと云う静かすぎるエピソード。「カストロ議長の演説は長い」という予備知識が無いと、このエピソードはあまり面白くないでしょう。
 とにかく「いつTVを点けても何かしら喋っている」と云うのがシュールです(かつて党大会で十時間以上も喋り続けたこともあるとか)。

 先述したとおり、本作の見どころはストーリーそのものよりも、音楽でしょう。
 それは「月曜日」のナイトクラブでのダンスであったり、「火曜日」のジャムセッションの演奏であったり、「水曜日」の歌手のボーカルだったりします。
 特に「火曜日」のトランペット演奏が圧巻です。そりゃ、アレクサンダー・アブレウ本人の生演奏を目の当たりにすれば、クストリッツア監督の憂さも晴れると云うものでしょう。
 また、まったく台詞の無い無言のエピソード「金曜日」も印象的です。このエピソードでは音楽と云っても、キリスト教と西アフリカ系民俗信仰が混ざり合ったキューバの民間信仰〈サンテリア〉の低いドラムの音が延々と響いているだけなのですが、これもまたキューバならではですね(現代でも行われているのかしら)。

 お祖母ちゃんの為に、隣近所の迷惑を顧みない突貫リフォームを断行する「日曜日」が一番賑やかで楽しそうです。防水工事を怠り、階下の住民が水漏れを訴えてくると「聖なる水だから」と追い返すお祖母ちゃんが素晴らしいデス(ホントはただの海水ですが)。
 何とも大らかなラテンの国民性です(エエんかいな)。
 「土曜日」とリンクしているところを考えると、本当は「二つのエピソードは同じ一日の出来事なのでは」とも思えますが、気にしてはいけません(ラテン的に)。
 ここでもまた描かれる〈サンテリア〉の礼拝の様子が興味深いデス。

 陽光溢れる海岸と、パステルカラーの街並みは勿論、社会主義国であることや、野球が人気であること、庶民の経済的困窮、アメリカへの亡命(密入国)なども随所に描かれ、様々なハバナの顔が楽しめる幕の内弁当的作品でした。DVD化されたら台詞を抜いた音楽トラックだけ選んで、画面をBGV再生できるといいかも(イヤ、素直にサントラCDだけ聴いていればいいか)。
 エンドクレジットで、各エピソードをアニメ化してダイジェスト紹介する演出も楽しいです。


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