2012年3月9日金曜日

戦火の馬

(War Horse)

 イギリスの小説家マイケル・モーパーゴが一九八二年に発表し、戯曲『軍馬ジョーイ』として舞台化もされた小説を、今度はスティーヴン・スピルバーグが映画化しました。舞台の方でもトニー賞五部門に輝いたそうなので、アカデミー賞六部門へのノミネートも当然でしょうか(でもすべて受賞を逸してしまったのが残念)。
 第一次大戦を背景としたヒューマンドラマの王道を行くような作品です(主人公は馬ですが)。
 監督が巨匠スピルバーグとくれば、音楽はジョン・ウィリアムズ。
 英国田園地帯の夜明けを空撮した冒頭のシーンから、実に美しい。そしてウィリアムズ・サウンドが壮大且つ「感動させてあげますよ」的に流れます。判ってはいますが巧いなぁ。

 主人公は馬のジョーイですが、飼い主である青年との絆を描くのが本作のメイン。その青年アルバート役を演じるのはジェレミー・アーヴァイン。無名の舞台俳優の起用ですが、実力派です。今後も頑張って戴きたいです。
 配役はヨーロッパの俳優で固められ、イギリス、フランス、ドイツの俳優が各々の国の人物を演じています。なかなかリアルではありますが、欲を云えばそれぞれの人物には、各国語で話してもらいたかったです。全部、英語の方が判り易いのでしょうが……。

 アルバート青年の両親役でピーター・ミュランとエミリー・ワトソン。父親は農耕馬を買いに行ったのにサラブレッドを衝動買いして帰ってくる愉快な人ですが、「男には決断を下す時があるのだ」と云い放つ割に、買った後のフォローが何もないという困ったオヤジさんです。そのオヤジさんを助けて家事を切り盛りする母親が実にしっかりしている。
 家計を逼迫させて苦労をかける亭主に「憎んでいるだろ」と訊かれて、「憎しみは増えても、愛は減らないわ」と応える良妻の鑑のような奥さんです。出番は少ないけどエミリー・ワトソンが印象的です。

 ジョーイと共に出征するニコルズ大尉役がトム・ヒドルストン。『マイティ・ソー』(2010年)では屈折したロキ神の役でしたが、本作の方が好感度高いです。
 本作は、第一次大戦に軍馬として徴用されたジョーイと、戦地で会う様々な国の人々とのエピソードが語られて進行していくワケですが、フランス人の農夫として、ニエル・アレストリュプが出演していました。この人、『サラの鍵』(2010年)でも似たような役をやっておられる。匿ってあげるのが馬か少女かの違いだけでは(笑)。
 アレストリュプの孫娘エミリー役がセリーヌ・バッケンズ。なかなか可愛い女の子でした。

 そしてやはり本作は、戦争のスペクタクルな見せ場が凄いデス。
 第二次大戦を描いた『プライベート・ライアン』(1998年)ではノルマンディ上陸の描写が凄まじかったですが、本作では第一次大戦の激戦地ソンムが圧倒的迫力で描かれます。情け容赦なしデス。
 スピルバーグが第一次大戦を背景に映画を撮るのは、これが初めてであるとか。
 はて。昔見たTVシリーズ『インディ・ジョーンズ/若き日の大冒険』の中のエピソードでは、ショーン・パトリック・フラナリーがインディ青年を演じて、ソンムの激戦の中をバイクで駆け抜けていたという記憶があるのですが……(あっちはルーカスの制作でしたかねえ)。
 何にせよ、塹壕と泥と毒ガスという悲惨な場面は、ヤング・インディ・ジョーンズでも見たソンムの戦場シーンに輪をかけて悲惨でした。
 おまけに戦車とか、大砲とか、あまりドラマに関係ないと思われるところまでリアリティに拘っているのが伺えます。ミリタリーに詳しい人には、このあたりの描写も堪らないのでしょう。専門の軍事監修がついていたそうで、考証は怠りなしという感じデス(軍事監修専門の会社がある、と云うのが凄い。色んな商売があるものですねえ)。

 もうひとつ、本作は馬が主人公ですが、馬と馬の友情まで描かれていたので、意表を突かれました。少しでも演出を間違えると、動物の擬人化でギャグのような場面になりかねませんが、何とかシリアスに留まっています。
 軍馬に徴用されたジョーイが、同じ部隊で出会うのが黒馬トップソーン。あからさまなライバル・キャラ登場という場面に、ちょっと笑ってしまいました。アニメのような演出デス(笑)。

 当初の乗り手であるニコルズ大尉が戦死した際に、ジョーイはトップソーンと共にドイツ軍に鹵獲されてしまうわけですが、そこから常に二頭一緒に行動している。
 ドイツ軍が大重量の大砲を曳かせて何頭もの馬を酷使し、次々に馬を使い潰していく中で、体調の芳しくないトップソーンを庇ってジョーイが大砲を曳く場面には泣けます。言葉を喋ることはありませんが、馬がちゃんと演技していると云うのが見事です。
 ドイツ軍撤退のドサクサの中で、遂にトップソーンが命を落としてしまった後でも、逃げ出すことなく亡骸の傍らに留まっている。リアルに馬同士の友情というものを見せられました。
 馬にそこまでの知能があるのか疑問ですが、賢い動物だし、やはりそういうこともあるのか。

 総じて、ジョーイに関わる人々のドラマは短いし、戦場でもありますので、割とあっけなく登場人物が戦死したりします。また、優しくしてくれた人ともすぐに別れてしまうので、中盤は短いエピソードの羅列という感が強いです。
 中盤の見せ場は、トップソーン亡き後、独りになったジョーイが戦場をひた駆ける場面でしょうか。一切の台詞がないまま、馬が駆け抜ける場面は凄いデス。そして闇雲に戦場を駆け抜けた挙げ句、鉄条網に絡まって、身動きできなくなる(当然と云えば当然の成り行きか)。
 演技だし、作り物とは云え、この「泥の中で鉄条網にがんじがらめになった上に血だらけで身動き取れない」ジョーイというのが痛々しい。動物愛好家にはちょっと辛い場面デスね。

 ジョーイを挟んで、英独双方の塹壕の中から、馬を助けようと兵士が這い出してくる場面が感動的です。この間、どちらの陣営も発砲を控えている。
 狂気に支配された戦場の中で、僅かながらも人間の理性が垣間見える場面です。
 敵味方の塹壕から、各一名ずつ兵士が出てきて、協力しながらジョーイに絡まった鉄条網を切っていく。このときドイツ兵が「もっとワイヤーカッターが要る!」と叫ぶと、ドイツ側の塹壕から無言でワイヤーカッターが何本も飛んでくるシーンが微笑ましい。
 助けたジョーイをどちらの陣営に連れて行くのかも、コイントスで決める。この瞬間だけ、戦争が止まっているワケですが、戦争もそんな風にして解決できないものかと思わずにおられませんです。

 運良く、英国側の塹壕に連れてこられたジョーイは、そこでかつての飼い主アルバート青年と再会する。しかしアルバートはドイツの毒ガス攻撃で一時的に視力を奪われていた。
 あまりにもメロドラマ的展開にちょっと苦笑してしまいました。
 負傷兵となり、両目を包帯でぐるぐる巻きにされて寝かされているアルバートの傍らを、ジョーイが曳かれていくという、なんとも定番のすれ違いのシチュエーション。実に判り易い。

 目の見えないアルバートに戦友が「戦場にいた馬を助けたそうだ」と話す一方で、ジョーイを診察した軍医は「この馬は破傷風になりかけている。残念だが屠殺処分にするしかないな」と診断を下す。
 いやもう、観ている側としては、この「先の読めすぎる展開」は如何なものかと思うのですが、映画はヒネたファンだけのものではありませんから、そこはやはりハラハラドキドキしながら見守っている方もおられるのでしょう。
 ドラマの序盤で、アルバート青年がジョーイに教える「ある合図」が、ちゃんと伏線になっていたりして、丁寧に演出されているのは判ります。

 しかしジョーイが間一髪で屠殺処分を免れるのはお約束でいいのですが、ちょっと御都合主義的な部分も無きにしも非ずデス。
 野戦病院は人間の負傷兵で溢れかえり、馬の手当なんてやってる暇があるかと云っていた軍医が、いかに本来の飼い主が現れたからといって「出来る限りの手を尽くそう」なんて、掌を返したような態度になってしまうのが、ちょっと……。
 軍医殿、ホントにそれでよろしかったのデスか?
 最初は「この馬はもう助からんよ」と云っていた筈ですが、どうやってジョーイは一命を取り留めたのでしょうか。そのあたりの説明はありません(やはり愛の力なんでしょうかね)。

 感動のドラマではありますが、ちょっとあざとい部分もあることは否めませぬデス。
 その後も、終戦と共に軍の財産として競売にかけられそうになるジョーイを助けようというエピソードとか、かつてジョーイを匿ってくれたフランス人農夫と競売場での再会があったりとか、大河ドラマ的展開になったりして、二時間半近い長尺ながら、なかなか飽きさせない演出は見事でしょう。本作はどこを取っても、退屈することはありません。

 そして終戦と共に、青年と愛馬は帰郷するワケで、ラストシーンはなんだか『風と共に去りぬ』を観ているようでありました。
 夕暮れ時の畑に立つ両親。丘の向こうから馬を引いて歩いてくる人影。
 じっと目を凝らし人影を見つめていると、それはやがて戦地に出征した息子であると判る。駆けよって抱き合う母と息子。そして父とも堅く抱き合う。
 盛り上がるジョン・ウィリアムズのテーマ曲。
 素晴らしく定番で、黄金のパターンを堂々と衒い無く貫いたスピルバーグの姿勢に感服いたしました(いやホントに。勇気凜々、直球勝負! ですわ)。




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