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2016年8月3日水曜日

ターザン : REBORN

(The Legend of Tarzan)

 エドガー・ライス・バロウズ原作による冒険小説の映画化です。何度目の映画化になるのでしょうか。もはや原作者バロウズの名前を知らずとも、主人公「ターザン」の名前を知らない人はいないと云っても過言ではない。
 バロウズ原作の冒険小説の中では最も有名なシリーズですね。個人的には「火星」シリーズや「地底世界」シリーズも好きなのですが、ターザンもの以外の映画化にはイマイチなものが多いのが残念です。『ジョン・カーター』(2012年)もなぁ……。
 モノクロの無声映画時代に始まり、カラーになり、TVシリーズにもなり、アニメ化もされております。

 ターザン役で最も有名な俳優というと、やはりジョニー・ワイズミュラーでしょう。あまりにも有名で、ワイズミュラー以外にも沢山いるのに歴代ターザン役者の名前がさっぱり思い浮かびません。
 ちょっと調べると、レックス・バーカー、ゴードン・スコット、ジョック・マホニー等々といった俳優が名を連ねておりますが、全く存じません。でもきっと全員マッチョな俳優に違いない。
 あのキャスパー・ヴァン・ディーンも『スターシップ・トゥルーパーズ』(1997年)と同じ年に『ターザン 失われた都市』に出演していたとか(リコ、ナニしてるンすか)。

 個人的には、ジョニー・ワイズミュラーは別格として、印象深いのはヒュー・ハドソン監督による『グレイストーク/ターザンの伝説』(1983年)のクリストファー・ランバートですね。劇中に登場する猿たちのリアルな特殊メイクも忘れ難いです。流石はサル師、リック・ベイカーです。
 それからディズニー製アニメ映画の『ターザン』(1999年)もありました。

 本作でターザンを演じているのは、アレクサンダー・スカルスガルドです。あの北欧の名優ステラン・スカルスガルドさんの長男ですね(弟達も皆、俳優か)。
 SF者としては『メランコリア』(2011年)や『バトルシップ』(2012年)への出演で記憶しておりますが、『メイジーの瞳』(2012年)といったドラマでもお見かけしております。
 親父のステランさん並みにビッグになって戴きたいと常々思っておりましたが、まさか「ターザン」役に抜擢されるとは。予想以上ですわ。
 特にターザンとしての容貌が、クリストファー・ランバートを彷彿するのが気に入っております。彫りが深くて、額と眼の高低差があるところがいい。

 一方、相手役のジェーンを演じているのがマーゴット・ロビーです。近年では『フォーカス』(2015年)でウィル・スミスと共演しておりましたね。『フランス組曲』(同年)でもお見かけしております。
 しかしマーゴット・ロビーで一番強烈な役と云えば、『スーサイド・スクワット』(2016年)のハーレイ・クイン役でありましょう(いや、まだ公開されてませんけど、予告編だけで今からワクワクしております)。
 本作では既にターザンの妻となったジェーンを演じており、英国で窮屈な貴族暮らしをするよりもアフリカでの自由な暮らしに戻ることを望んでおります。夫から身を案じられていても、それをはね返すタフな女性です。

 本作は時代が一八八五年と明確に示され、ベルギーがコンゴを植民地化している背景が描かれています。ベルギー国王の名代として現地に派遣され、逼迫した王室財政の為に莫大なダイヤの鉱脈を手に入れようとする悪党を名優クリストフ・ヴァルツが演じております。
 一見、なよなよして部下の軍人達に守られているようで、実は腕も立つ悪党というのが判り易いキャラクターです。悪党のくせに敬虔なキリスト教徒であり、腕に巻いたロザリオで容赦なく敵の首を絞め殺しております。

 ダイヤの鉱脈と引き換えに、ターザンの身柄を引き渡せとクリストフ・ヴァルツに迫るコンゴ奥地の部族の族長ムボンガを演じているのが、ジャイモン・フンスーです。『ブラッド・ダイヤモンド』(2006年)や『テンペスト』(2010年)といった出演作が忘れ難いですが、社会派や文芸作品だけでなく、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(2014年)とか、『ワイルド・スピード SKY MISSION』(2015年)なんかのアクション映画でもお見かけしております(主に敵のヤラレ役としてですが)。
 本作ではターザンに敵対する部族と、ターザンに友好的な部族が登場します。一口にコンゴと云っても様々で、劇中では他にも幾つかの部族が登場します。

 一方、ターザンに同行し、クリストフ・ヴァルツとジャイモン・フンスーの悪党コンビにターザンと共に立ち向かう善人側のキャラクターとして登場するのが、サミュエル・L・ジャクソンです。本作では米国特使の役です。
 「コンゴ奥地で起きている奴隷労働の実態を暴きたい」とターザンに同行するわけですが、南北戦争(1861年-1865年)で戦った経験もあると豪語しつつ、ジャングルでは割と足手まといになってしまうのがお約束デスね。
 本作ではサミュエルのコメディ演技が一服の清涼剤デス。

 本作の監督はデヴィッド・イェーツです。『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』(2007年)以降の「ハリー・ポッター」シリーズ後半を全部監督した人ですね。今後公開予定の『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』(2016年)の監督も務めておられるし、もはやハリポタ監督が定着してしまった感があります。
 そんな中でガラリとイメージを変えて本作を監督しているのは、やはりタマには違うものも監督したいという気持ちが働いたのか。本作のアクション場面を観ていると、ハリポタから解放されて自由になったイェーツ監督が想像できて微笑ましい。
 本作の続編が製作されたら、またその監督を務め、いずれ「ハリー・ポッター」と「ターザン」の二枚看板状態になるのでしょうか。

 その他、序盤で英国首相役としてジム・ブロードベントが顔を見せておりました。『マーガレット・サッチャー/鉄の女の涙』(2011年)や、『クラウド アトラス』(2012年)で存じておりますが、「ハリー・ポッター」シリーズのスラグホーン先生役でも知られておりますね。
 これもまたハリポタつながりか。と云うか、英国人俳優で「ハリー・ポッター」シリーズに出演していない人の方が珍しいですか。

 さて、本作はディズニー製アニメとしての『ターザン』の続編を、『グレイストーク/ターザンの伝説』式にリアルな実写ドラマで描いたような印象です。もはやターザンとジェーンの馴れ初めなんか、いちいち描かなくても皆さん御存知ですよねと云わんがばかりに、いきなり英国貴族グレイストーク卿として登場するターザンの姿が気に入りました。
 しかし世間一般にはワイズミュラー式のイメージが流布して定着してしまったらしく、「ミー・ターザン、ユー・ジェーン」なんて台詞を引用されて辟易しているといった様子でいるのが笑えます。有名人は辛いよ。
 もはや本名の「ジョン・クレイトン」を知らずとも「ターザン」の名前だけは知られている。

 余談ですが、「ミー・ターザン、ユー・ジェーン」と云う台詞はバロウズの原作小説には登場ません。これはジョニー・ワイズミュラー主演の映画で有名になった台詞ですね。
 ワイズミュラーは演技が素人なので初期は片言の台詞が多かったそうな。でも実はワイズミュラーがそんな台詞を発した映画は一本も無いのだそうで、この台詞がどこから生まれたのかは今となっては判らないらしいが、伝説的な台詞ではあります。

 本人の与り知らぬところで勝手にターザン像が一人歩きしているのが伺えます。そもそもグレイストーク卿自身がフィクションの登場人物でありますが、それがまたフィクションの設定に悩まされていると云う二重構造が笑えます(台詞の由来も考慮すると三重かしら)。
 まぁ、熱烈なファンによってはシャーロック・ホームズと同様に、「グレイストーク卿ジョン・クレイトン=ターザン」は実在の人物であると信じている方もおられるのでしょう(いるのか?)。SF作家のフィリップ・ホセ・ファーマーは、グレイストーク卿の伝記なんてものも書いていますしね(その伝記、日本語訳されないものかしら)。

 そしてある日、ベルギー国王から「グレイストーク卿をコンゴへ招待したい」旨の招待状が届いたと、英国首相から呼び出しを受けます。これを英国のアフリカ進出の足掛かりとしたいと首相直々に招待を受けるよう要請されますが、本人にはアフリカに戻るつもりはない。
 観ている側としては、冒頭のクリストフ・ヴァルツとジャイモン・フンスーの密約を知っているだけに、この招待が罠であろうと容易に察せられます。
 当初は丁重にお断りするグレイストーク卿でありましたが、「アフリカで行われている不正を世界に訴えたいのだ」と云う米国特使サミュエルの真摯な説得もあって渋々承知します。しかし愛妻ジェーンまで同行するとなっては、心中穏やかではいられない。
 実はジェーンは一度、流産しており、英国での暮らしに馴染めないでいると語られます。アフリカへの帰郷はジェーンの療養の意味もあるようですが、危険が待ち受けていると判っているところへ愛妻を連れて行くことに釈然としないものも感じております。

 序盤の説明パートもそこそこに、いよいよアフリカへ出発する一行です──といったドラマが進行していくのと並行して、回想シーンが随所に挿入され、ターザンの生い立ちも語られていきます。断片的な映像ですが、かなりドコカデミタ感のある映像ですし、理解出来ない方はおられますまい。
 私が本作をディズニー・アニメの『ターザン』の続編のようだと感じるのは、この断片的な回想シーンが、ほぼディズニー・アニメで観た場面を忠実に実写化しているように思われるからでして。ぶっちゃけ、かなり参考にしているのではないかと疑っております(笑)。
 特に、初めて自分以外の人間を見たターザンがジェーンにやらかす痴漢紛いの行為が、かなりアニメ版を彷彿いたしますデス。

 他にもアフリカに漂着した両親がサバイバルの過程で命を落とす下りや、孤児となった赤ん坊がゴリラの群れに拾われる場面もしっかり描かれています。昨今のCG技術はリアルな動物が演技する場面も簡単ですね。特殊メイクを施した役者が類人猿の演技をすることはもはや無いのか。リック・ベイカーの伝統の技も廃れてしまうのかと思うと、なんか哀しいデス。
 劇中では、ゴリラではなくてマンガニと云う似て非なる種であると説明される場面がありますが、見た目は完全にゴリラです。

 マンガニは架空の動物で、原作小説では類人猿と云うよりも、猿人──言語を持ち、個体に名前があり、部族を形成する──であると描かれておりますが、本作ではゴリラの亜種のような感じです。ディズニーのアニメ版では、完全にゴリラとして描かれておりました。
 バロウズの原作小説は二〇世紀初頭発行ですし、当時のアフリカには猿人が生き残っていたり、アトランティス文明の末裔が生存したりしていたと書かれても違和感はなかったのでしょうが、さすがに百年経ってリアルに映像化すると陳腐な設定になりますでしょうか。
 本作では折衷案として、見た目はゴリラだが、ゴリラほど穏和ではなく(かなり凶暴)、独自のコミュニケーションを行う不思議な動物として描かれております。

 アフリカ到着後はクリストフ・ヴァルツの罠を出し抜き、ベルギー領コンゴヘ潜入するターザン一行。このあたりから次第に「グレイストーク卿」ではなく「ターザン」の顔に戻っていきますが、やはり英国暮らしが長かった所為か、本調子に戻るには時間がかかるようです。
 その隙をクリストフ・ヴァルツに突かれ、不覚を取って捕らわれるターザンの図がちょっと意外でした。最初から無敵のヒーローには描きたくないのは理解出来ますが、逆に不自然に思われました(最初、わざと捕まったのかとも思ったくらいで)。

 サミュエル・L・ジャクソンの助力もあって脱出するターザンですが、妻ジェーンは人質として掠われてしまう。
 愛する妻を助け出し、クリストフ・ヴァルツの野望を挫くために、ようやく立ち上がるターザン。本気になった後は、もう完全に超人です。本能覚醒か。
 過去のターザン映画では定番の「蔓を使ってジャングル内をスイングして渡っていく図」もしっかり描かれます。しかもかなりスピーディになっている。
 過去のシリーズとは異なるリアルかつ派手なアクション描写も心がけながら、お約束の展開も再現したいというイェーツ監督の演出はかなり成功していると申せましょう。
 密林に轟く「例の雄叫び」もちゃんと発しますよ。

 西洋人がアフリカを植民地化して搾取しまくりであった──黒人の奴隷化や象牙の乱獲──という批判的な部分もしっかり描きつつ、昔懐かしい活劇調のアクション──走る列車の中での乱闘とか──も復活させております。
 かと思えば、CG全開で「水牛の群れの大暴走」を描き、白人達の植民街を壊滅させるスペクタクルも迫力たっぷり。
 総じて、忘れられていた原作設定をリスペクトしつつも、ターザン映画のお約束もきちんと踏襲していると云う、かなりバランスの取れた内容になっておりました。

 そして事件解決後は英国に戻ることなく、友好的な部族の元に留まるターザンとジェーンです。英国では流産してしまったジェーンも、アフリカの開放的な暮らしの中で再び身籠もり、無事に男児を出産すると云うハッピーエンド。
 そしてターザンは今日もジャングルの平和を守って駆け抜けるのであったという次第で、マンガニを従えて密林の中を高速スイングしていくアレクサンダー・スカルスガルドの勇姿でエンドです。
 アクション映画としての完成度も高いし、このリメイクと云うかリブートでもって、シリーズ化されたら嬉しいデスね。将来、アレクサンダー・スカルスガルドさんの代表作と云えば「ターザン」だと云われるようにならないものかしら。




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