2016年7月1日金曜日

アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅

(Alice Through the Looking Glass)

 ディズニー製作の実写版『アリス・イン・ワンダーランド』(2010年)の続編です。前作からして、かなりオリジナルでしたし、もはや原作のキャラクターを使った別物と割り切って観るのがよろしいのでしょう。邦題に「時間の旅」とあるとおり、今回はアリスが時間旅行します。
 「時をかける少女」ならぬ「時をかけるアリス」ですね。残念なことに本作のアリスは少女とは云えな(げふんげふん)。
 ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』と『鏡の国のアリス』がモチーフですが、アリスがタイムトラベルするストーリーですので、『時間の国のアリス』と呼んでもよろしいでしょう。日本語吹替版の主題歌は松田聖子にしてもらいたかった(若年層には通じないネタか)。

 前作で監督だったティム・バートンは今回は製作に回りまして、監督は英国出身のジェームズ・ボビンが務めております。この人は『ザ・マペッツ』(2011年)と『ザ・マペッツ2/ワールド・ツアー』(2014年)の監督さんですね。
 脚本は前作と変わらずリンダ・ウールヴァートンです。ディズニー作品の脚本を多く手掛けています。『マレフィセント』(2014年)もこの方の脚本でしたか。
 音楽も引き続きダニー・エルフマンですし、前作のままの世界観が継続されています。

 出演者も前作と変わらず、ミア・ワシコウスカのアリス、ジョニー・デップの帽子屋、ヘレナ・ボナム=カーターの〈赤の女王〉、アン・ハサウェイの〈白の女王〉といつものメンバーです。
 アリスの母であるキングスレー夫人役のリンゼイ・ダンカンや、元婚約者であるヘイミッシュ役のレオ・ビルといった、現実世界での配役も可能な限り元のまま。
 その他、ワンダーランドのCGキャラの方も、三月ウサギ、チェシャ猫、トゥイードルディーとトゥイードルダム等々、同じ声の配役であります。
 しかしジャバウォッキー役だったクリストファー・リーは既にお亡くなりですので(2015年6月7日逝去)、本作のジャバウォッキーは喋りません(吠えて火を吹くだけ)。まぁ、ジャバウォッキーにあまり出番はありませんが。

 そして、前作でイモムシのアブソレム役だったアラン・リックマンも、蝶々になって再登場してくれます(人相は変わりませぬが)。アラン・リックマンも既にお亡くなりですが(2016年1月14日逝去)、こちらは少しだけ台詞がありました。
 本作はアラン・リックマンの遺作になるようです(声だけですけど)。
 エンドクレジット時には「我らの友人、アラン・リックマンに捧ぐ」と献辞が表示されます。今後のティム・バートン作品はアラン・リックマン抜きになるのか。残念デス。

 そして本作の新キャラとなるのが、サシャ・バロン・コーエン演じる時間の番人〈タイム〉です。『ボラット/栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習』(2006年)のおかげでコメディアン要素が強烈に印象付けられましたが、近年では『ヒューゴの不思議な発明』(2011年)や『レ・ミゼラブル』(2012年)といった文芸作品にも出演するようになって、大分落ち着いてきた感があります(でもやっぱりコミカル)。
 個人的にはCGアニメ『マダガスカル』シリーズでキツネザルのキング・ジュリアン役である方が印象深いのですが(吹替の小木博明も好きデス)。

 時間が擬人化されて、自分で「時間ネタの諺」を引用したり、他人に諺を引用されて揶揄されなどと云う言葉遊びのようなシチュエーションに、ルイス・キャロルの原作に通じるものを感じます。
 一応、原作小説の一場面には「帽子屋が女王様から死刑判決を受けて以来、時間が云うことを聞かなくなった」云々というのがありまして、そこを最大限膨らませて本作のキャラクターが出来上がっているようです。
 劇中ではそれを映像化して、帽子屋や三月ウサギが〈タイム〉をからかった所為で「お茶会の一分前の時間に閉じ込められる」といったシチュエーションも出来します。しかし強制的な時間ループは原作とは随分と異なるような……。

 そして〈タイム〉はワンダーランドの裏の世界──いやでも、ワンダーランド自体が現実の裏にあるのでは──に巨大な城塞〈永遠の城〉を構え、そこで日夜時間を管理している。
 のみならず、ワンダーランドの住人の寿命まで司っております。広大な広間に無数に吊り下げられた時計が各々の住人の寿命を表しており、誰かが亡くなるとその時計が止まる。止まった時計はまだ動いている時計から区別され、止まってしまった時計専用の広間に移される。
 劇中では、寿命が尽きるから時計が止まるのか、時計を止めるから生命活動が停止するのかよく判らない描写でありました。
 この辺りの因果関係が逆転していそうなところが面白いです。似たような描写は、つい最近も『神様メール』(2016年)でやってましたね。

 城の中心には、動力源である「クロノスフィア」なる球体が安置され、これが時間の運行を維持しており、同時に〈タイム〉の生命の源でもあるようです。
 〈タイム〉は時間の番人ではありますが、ビジュアルが「時計の化身」のようにデザインされ、身体の中では精巧な歯車が噛み合いながら動いております。一種のロボットのようです。少なくとも、〈タイム〉の配下である助手達は完全な時計仕掛けのロボット的キャラクターでした。
 小型ロボ「セコンズ」が合体して大型ロボ「ミニッツ」になり、更に合体して巨大ロボ「アワーズ」になると云う、SFちっくな描写です。日本のアニメの影響かしら。

 本作にはかなりSFぽい演出が随所に見受けられ、クロノスフィアもある種のメカニックのように描かれております。精巧な細工物のようであり、使用するときには一瞬で巨大化なリングが組み合わさったボール状の乗物となる。
 内部には座席と操縦桿と行き先表示の制御盤があって、誰がどう見てもタイムマシンですね。幾つものリングがぐるんぐるんと回りながら、時空の流れの中を飛んでいく様子は、H・G・ウェルズの『タイムマシン』にオマージュを捧げているようでした。

 更に、随所にテリー・ギリアム監督へのリスペクトも感じました。
 例えば、一九世紀的レトロな機械仕掛けの、かなりアバウトな操作で時間の流れを行ったり来たりするあたりがテリー・ギリアム風でしょうか。他にも、『バンデットQ』(1981年)や、『バロン』(1988年)ぽいところもありますね。
 特に、「帽子屋の気力が萎えると外見も変化する」といった場面が、『バロン』でジョン・ネヴィル演じるミュンヒハウゼン男爵の、気力が衰えると老化が促進され、気力を取り戻すと若返ると云う演出に通じるものを感じます。CGが自在に使えるようになったおかげで『バロン』より派手な演出になっています。
 やはりティム・バートンもジェームズ・ボビンも、テリー・ギリアムが好きなんですかね。

 SF者にはお馴染みのタイムパラドックスについても言及され、「過去の自分と相対してはならない」と警告されております。
 時間テーマSFに幾つかあるパターンでは、過去の自分と対面しても何も変わらなかったり、それすらも時間ループの一部であったりする場合もありましたが、本作に於いては時間の流れそのものが破壊されて破滅が引き起こされるという一番重大なパターンが採用されております。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985年)でもドクが同様の警告をしておりました。
 このあたりは『ドラえもん』なんかのお気楽な展開──過去と現在と未来の自分が一堂に会してワイワイやったりする──とは異なるようデス。

 さて、本作の冒頭では前作の流れを踏襲し、アリスの乗った商船が帰国途上にあるところから幕を開けます。初っ端から嵐の海を海賊船に追われて逃走中というアドベンチャーです。ほとんど本筋とは関係なさそうな場面ですが、『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズもかくやと云うくらい気合いの入ったアクション演出でした。
 海賊船から逃げ切るために、危険な浅瀬に突入し、転覆ギリギリまで船体を傾斜させて難を逃れる描写がスリリングです。
 ここでアリスが「挑戦しないうちから不可能と断じる」ことを好まない、チャレンジ精神に溢れた女性であることが強調されて、後の伏線となっております。

 無事に帰国したものの、三年間の不在中に実家の屋敷は抵当に入れられ、船を売却しないと立ちゆかなくなっている。加えて一九世紀当時はまだ「自立する女性」には理解がなく、風当たりの強い理不尽な状況であることが描かれております。
 現代的な価値観を巧妙にストーリーの中に混ぜてくるのがディズニーらしい。
 加えて、三年の間に先代のアスコット卿が亡くなり、息子のヘイミッシュが後を継いでいたりします。ヘイミッシュは婚約を破棄されたことをまだ根に持っているようです。
 序盤では「時の流れは残酷だ」とか「時間は人から奪っていくばかりの泥棒だ」などと言及され、今回のテーマが「時間」であることが強調されています。判り易い演出です。

 しかし苦渋の決断を迫られるアリスの元に蝶々となったアブソレムが訪れ、再びアリスはワンダーランドへ足を踏み入れることになる。今回はマントルピース上の鏡をくぐり抜けるところが、『鏡の国のアリス』的なシチュエーションですが、原作の雰囲気を残しているのはこの部分くらいでしょうか。
 再び懐かしい顔触れとの再会を喜ぶアリスですが、帽子屋だけがそこにいない。訊けば数日前から塞ぎ込んで家に閉じこもっているという。
 帽子屋の自宅を訪れると、彼は既に亡くなった筈の家族がまだ生きているのではないかという妄想に取り憑かれている。帽子屋の一族はかつてジャバウォッキーに襲われ、全員が命を落としたのではなかったのか。

 「どこかで生きている家族を見つけ出して欲しい」と頼まれますが、「亡くなったものは帰らないのよ」などと常識的な返答をしてしまうアリスです。
 冒頭で「不可能だと諦めてしまうのは嫌いよ」と云っていたのに、ついつい常識に囚われてしまった所為で帽子屋の不興を買い、「キミは僕の知っているアリスじゃないッ」と追い出されてしまう。
 途方に暮れるアリスに、〈白の女王〉が「では時間を遡り、彼の家族を救い出せば良いわ」と提案します。ストーリーが脇目も振らずに一直線にタイムトラベルに向かって転がっていくのが清々しい。
 〈永遠の城〉まで、さしたる冒険もせずにあっと云う間に到着します。最初は穏便に、クロノスフィアの貸与をお願いしますが、断られた途端に強奪に走るアリス。なんと強引な。
 「過去は変えられない」と云う〈タイム〉の言葉にも耳を貸すことなく、歴史改変の旅に出発。

 実は本作における冒険の目的は、帽子屋の家族を救うことでありましたが、帽子屋の家族を救う為に、どんどんその原因となる事象を遡っていくことになります。
 帽子屋の家族はジャバウォッキーに殺された > それをジャバウォッキーに命じたのは〈赤の女王〉である > 〈赤の女王〉が自分を笑いものにした帽子屋の一族を逆恨みしたのが始まりで > 何故、〈赤の女王〉が笑いものになったのか > あの肥大したデカ頭が原因 > 何故、頭がデカくなってしまったのか。
 そして遂に、〈赤の女王〉と〈白の女王〉の、姉妹の不仲がどうして始まったのかにまで遡っていくと云う流れです。前作で、ヘレン・ボナム=カーターとアン・ハサウェイの姉妹間の葛藤がもっと見てみたかった私としては本作の展開はとても嬉しいデス。

 そして姉妹の少女時代に到着するわけですが、チェシャ猫もまだ子猫だし、帽子屋も紅顔の美少年だったりするので笑ってしまいます。イカレてしまう前が可愛すぎる。
 全ての原因である「転倒して頭を痛打したことでデカ頭になった」ことを防ごうとするアリスですが、やはり過去は変えられない。更に、そもそもの転倒も、少女時代の〈白の女王〉が原因だったと判明する。おやつのタルト一切れでそんな。

 どうやっても過去は変えられないと悟るアリスですが、その過程で帽子屋の家族が死んではいないことにも気がつく。執念深い〈赤の女王〉が、簡単に殺してしまう筈もなかったか。
 死んだと思われていた帽子屋の家族は、今でも〈赤の女王〉の城に幽閉されていたのだ。
 してみると最初から、帽子屋の直感の方が正しかったわけで、「亡くなった」と云う伝聞情報を鵜呑みにして常識的な回答を返していたアリスの方が間違っていたことに。
 やはり伝聞情報は裏付け確認が大事なのだなぁと云う教訓的なものを感じます。安易な拡散はイカンですね。

 そこからアリス一行による救出劇と、〈赤の女王〉の逆襲、クロノスフィアを奪われ、また過去に逆戻りしたりしているうちに、次第に時空の流れが歪み始める。長時間、クロノスフィアを持ち出していた影響で、〈タイム〉の機能にも変調を来しております。
 そしてとうとう〈赤の女王〉が、「やってはいけないこと=過去の自分と対面する」をやらかしてしまい、決定的に時空が破綻してしまう。〈タイム〉が警告したとおりの、時の流れが停止する破滅が、一大スペクタクルで展開します。
 なにもかもが「赤錆びて停止していく」表現が気色悪いです。

 破滅の波が〈永遠の城〉に到達する前に、クロノスフィアを元に戻せるかがクライマックスとなるわけですが、間一髪で回避されるのはお約束デスね(ディズニーだし)。
 そしてアリスは、〈タイム〉が悪党ではなかったと気付くわけで、主人公の認識が一変する演出が巧いです。時間は奪っていくばかりの泥棒ではなかった。奪う前に、まず与えていたのだ。毎日が時間からの贈り物なのだ。だからそれを無駄にしてはいけないのだ。
 コミカルな悪党演技を続けていたサシャ・バロン・コーエンが、急に穏やかな聖人君子に見えてくるあたりが役者ですわ。

 〈赤の女王〉と〈白の女王〉の和解も描かれ、万事めでたしのハッピーエンド。でも〈赤の女王〉のデカ頭は元に戻らない。過去はどうやっても変えられないのだから。
 しかしそこから学ぶことは出来る──と云うワケで、再びワンダーランドで得た教訓を元に、現実世界に帰還したアリスが、難局を乗り切るところまでが描かれます。
 この調子でいくと、三部作化もありそうですねえ。




▲ PAGE TOP へ

ランキングに参加中です。お気に召されたならひとつ、応援クリックをお願いいたします。
にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村

ランキングに参加中です。お気に召されたなら、ひとつ応援クリックをお願いいたします(↓)。

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村