2016年6月18日土曜日

アウトバーン

(Collide)

 エラン・クリーヴィー監督・脚本による英独合作のクライム・アクション映画です。英国人俳優が多数出演しながら、ドイツを舞台にしております。
 背景に映るケルンの大聖堂が印象的ですが、専らアウトバーンを疾走する高級車の激烈なカーチェイスが宣伝されております。実際、劇中では高級車が何台も登場しては、盛大にクラッシュする場面もありますし。
 でもアウトバーン上のカーチェイスだけではなく、街中でもカーチェイスしますし、執拗な殺し屋の追跡や、派手な銃撃戦もありまして、カーチェイス一辺倒ではない。
 小技を効かせて緩急つけたサスペンス演出も見事なアクション映画の佳作でありました。

 邦題からはカーチェイス「のみ」であるかのような誤解を受けてしまいそうなのが心配デス。
 いっそ原題直訳の『衝突』でも良かったような気がします。ほら、『激突!』(1973年)とか『破壊!』(1974年)なんてアクション映画もありましたし(例えが古いデスカ)。本作も「!」を付けて、『衝突!』にすれば、ちょっとレトロな感覚が逆に新しいと云われたカモ。
 まぁ、『衝突!』でもやっぱりカーチェイスがメインだと思われますか。

 監督のエラン・クリーヴィーは、リドリー・スコットが製作総指揮を務め、ジェームズ・マカヴォイとマーク・ストロングが出演したクライム・サスペンス映画『ビトレイヤー』(2013年)の監督さんでしたか。残念ながらスルーしちゃっておりますが、割と評判は良さげですよね。
 本作ではジョエル・シルヴァーが製作に名を連ねております。大物が次々とプロデュースに回ってくれるあたり、監督の腕は信頼されておるのでしょう。実際、結構面白かったし。本作が良かったので、『ビトレイヤー』も観てみたくなりました。
 小難しいところは一切省きエンタメに徹して、きちんとまとめているのが清々しいです。

 主演はニコラス・ホルト。『X-MEN』シリーズではビースト/ハンク・マッコイ役でお馴染みですが、『マッドマックス/怒りのデス・ロード』(2015年)の白塗り山海塾メイクなウォーボーイズの一員であったのが忘れ難いデス。ひゃっはー。
 本作においては、頭の切れる犯罪者として登場し、相棒(マーワン・ケンザリ)と二人でヤバい仕事でも腕と度胸で華麗ににこなしているらしく、組織のボスから重宝がられています。久々に特殊メイクなしのイケメンなニコラス・ホルトが拝めます。
 劇中では「バート・レイノルズに似ている」と盛んに言及されていて、本来の役名よりも「おい、バート・レイノルズ!」と呼ばれたりもしておりました。似てるか?

 ヒロイン役がフェリシティ・ジョーンズ。『博士と彼女のセオリー』(2014年)ではホーキング博士の奥さん(最初の)でした。『テンペスト』(2010年)でヘレン・ミレン演じるプロスペラの娘役だったあたりから憶えております。
 本作ではあまり出番は多い方ではありませんが、主人公ニコラスが命を賭けるに値する女性であると描かれております。ちょっとヤクザな主人公が堅気の女性に惚れてしまい、惚れた女のために大それた事をしでかしてしまう──と云うのはよくあるパターンではあります。

 冒頭のアバンタイトル部分がクライマックスのサワリをチラ見せする演出になっていて、派手にクラッシュした車が横転する場面をスローで映しながら、主人公ニコラス・ホルトのモノローグが入ります。
 「バカなことをするにはそれなりの理由が必要だ。その理由が “愛” なら、それほど悪いものじゃないだろう?」
 壮絶なクラッシュも、意味なくやっているのではない──すべてはフェリシティ・ジョーンズの為なのだ──と云う前置き。いや弁解か。

 そして主役よりも脇役が豪華です。アンソニー・ホプキンスとベン・キングズレーですよ。実はこの二人の共演が観たくて劇場に足を運んだのです。
 劇中では、アンソニーとベンが対面する場面が二回ばかりありまして、もう主人公そっちのけでストーリーを進めてもらえぬものかと思ったりもしました。

 本作でのアンソニー・ホプキンスは、英国出身の大企業のCEOですが、裏稼業がドイツ最大の麻薬王。貴族らしい落ち着いた物腰で、教養に溢れ、和やかに上品に振る舞いつつ、にっこり笑って人を殺してしまうあたりが実に冷酷です。コワイ。
 もう、『羊たちの沈黙』(1991年)以降、アンソニー・ホプキンスの笑顔が信じられなくなってしまいましたが、やっぱりそうだったのだ。
 「君、モーツァルトは好きかね。そうかそうか。じゃあ、すぐに逢わせてあげよう」バーン。

 対するベン・キングズレーも楽しそうに麻薬密売組織のボスを演じております。これがアンソニー・ホプキンスの対極にいるようなキャラクターです。
 トルコからの移民で──今度はトルコ系か。相変わらず演じる役の人種を選ばない人です──、教養の欠片も無い下品なジョークを連発しているオヤジです。成金趣味でケバゲバしく着飾って、半裸のお姉さん達を横にはべらせて、酒とドラッグでハイになっている。
 冷徹なアンソニー・ホプキンスに対して、割と人情味に溢れていそうですが万事アバウトなので頼りになったりならなかったり。こちらは憎めない悪党ですね。

 そもそもがアンソニー・ホプキンスとベン・キングズレーの確執から始まったストーリーですし。当初、二人は仲良く連んでドイツで麻薬を売り捌き、巨額の利益を得ております。
 アンソニー・ホプキンスが貿易会社を営み、国外から麻薬を密輸すると、ベン・キングズレーがドイツ国内で売り捌く。二人の二人三脚体制は盤石であると思われたのですが……。
 あるときベン・キングズレーが、「そろそろ対等のパートナーとして事業を進めていかないか」と提案します。最初は、割と下請業者的なポジションだったことが伺えますが、ここまで成功を収めたからには認めてもらいたいと思ったのでしょう。
 しかしこの提案はアンソニー・ホプキンスによって、実に慇懃かつ無礼に却下されてしまう。
 「君の今までの功績には大変感謝しているし、立場も尊重するよ。だが君には人格や品性の面で問題があるだろう。私と対等のパートナーにはなれないよ」
 笑顔を絶やさず、穏やかな口調で壮絶にディスられて、呆気にとられるベン・キングズレー。無礼千万な台詞を真顔で口にするアンソニー・ホプキンスが傲慢すぎて笑ってしまいます。

 「口は災いの元」と申しますが、本作で起きる事件は全て、このアンソニー・ホプキンスの不用意な発言に端を発しております。自業自得と云うか何と云うか。
 このあたりの展開が、実にマンガ的です。まったくリアルではありませんね。実に判り易い。
 普通、そこまで拒絶したら相手がどう出るかくらい想像がついても良さげに思われるのですが、アンソニー・ホプキンスは全然心配していない。自信家であるにしてもやりすぎなのでは。
 それとも、本当に悪気はなかったのか(それもまたスゴイわ)。
 当然のことながら、プライドを傷つけられてハラワタ煮えくり返る思いのベン・キングズレーとしては、このままで済ますわけがない。一泡吹かせてやろうと腕の立つ手下を呼びつけるわけで、これがニコラス・ホルトとマーワン・ケンザリの二人組。

 ニコラスのことを「バート・レイノルズに似ている」と云うのは、ベン・キングズレーでして、劇中では専ら「バート・レイノルズ」呼ばわりしています。手下の名前を覚えるつもりが全く無いのか、相手を仇名でないと憶えられない人なのか。
 異議を申し立てようものなら、「貴様、バート・レイノルズをバカにするのか」と逆鱗に触れそうになる。お気に入りは、ジョン・ブアマン監督の『脱出』(1972年)のようです。劇中ではベン・キングズレーが、「『脱出』のバート・レイノルズは良かった」と褒めそやしています。
 確かに。でもそこまでバート・レイノルズを持ち上げるなら、ジョン・ヴォイドにも一言くらいほしいところです。まぁ、ニコラス・ホルトとジョン・ヴォイドは似ていませんけど。

 しかしニコラスは最近、ナンパに成功して恋人にしたフェリシティに堅気になることを約束しており、自動車解体業に就いている毎日です。堅実ではあるが、稼ぎは少ない。
 ヤバい仕事からは足を洗ったんですと、一旦はベン・キングズレーの元を辞するニコラスですが、突如としてフェリシティが倒れます。
 実は彼女は健康上に重大な問題を抱えており、臓器移植手術を受けねば命が危ないのだという。色々と事情もありまして、急に大金が必要になりますが、そのような貯えはない。
 ドラマの展開が無理なく──それとも御都合主義か──ニコラスが再びヤバい仕事を引き受けざるを得ないように転がっていきます。

 丁寧な描写ではありますが、ベン・キングズレーが待っていてくれるあたりが親分肌というか、ちょっとヌルいかも。自分の復讐計画よりも、手下の事情を優先してくれるとは。
 恋人を人質にして無理強いするのが定番展開かと思っていたので、ベン・キングズレーが戻ってきたニコラスを黙って迎え入れる描写に意表を突かれました。何か裏があるワケでも無いし、仕事を引き受けざるを得ないように策を巡らすワケでも無い。ちょっといい親分カモ。
 このあたりの本題に入るまでの序盤展開──二人のボスの確執や、主人公の動機付け──の描写が脚本の手抜きではないかとも思われますが、アクション主体の映画ですからそこまで難しいことを求めるのは野暮か。

 それにもうひとつ。ベン・キングズレーが提示するのが、アンソニー・ホプキンスが密輸している麻薬を、その輸送途中で強奪してこいと云う難題ですが、今までその仕事の片棒を担いでいた人が説明してくれるので、かなりの手間が省けております。
 標的のセキュリティや輸送ルートやその他諸々の事柄を探り出す必要がないのがお手軽です。本作の尺は九九分ですし、短い尺でアクションをメインに描くのだから仕方が無いですね。

 ついでにベン・キングズレーは、強奪計画に直接必要でないアンソニー・ホプキンスの麻薬ビジネスの全貌を語ってくれたりもします。
 どうやって密輸入しているかだけでなく、それを売り捌いて大量の現金にしたあと、どうやって国外に持ち出しているのかまで説明してくれる。貿易業として、高級車を輸出する際に、一台につき五〇〇万ドルずつ隠しているのだ。あからさまに伏線ぽい説明も御愛敬ですね。

 そして前半は強奪計画の遂行がヤマ場です。たった二人で作戦計画を練っているので、大丈夫なのかと心配になります。しかし本題に関しての描写には、手抜きがないのがいいです。
 ちゃんとこの場面から伏線が敷かれているのも、なかなかお見事でした。
 総じて、本筋に入るまでの理由付けや説明事項はあっさりと済ませ、本筋が始まったら気合いの入ったアクション描写や演出が続きます。監督の力加減がどこにあるのか明確すぎるのが清々しい。

 麻薬輸送トレーラーの強奪までは、多少はヒヤヒヤさせながらも巧くいきますが、そこから先は山あり谷あり。奪ったトレーラーはすぐに追跡部隊が編成されて、あっさり取り戻され、ニコラス・ホルトは敵に捕まってしまう。連行された先が、高級車輸出用の倉庫。ここでアンソニー・ホプキンスと御対面となります。
 「こんなバカなことをする奴の顔を拝んでおきたかった」と語るアンソニー・ホプキンスの笑顔が怖いですが、語り終えた後の処刑と死体の始末は部下任せであるのがお約束デスね。
 ボスが引き上げた後、機転を利かせて脱出したニコラスは高級車の一台を奪って逃走──と、長い前置きでした。

 ベン・キングズレーの説明で、一台だけでも五〇〇万ドルが積み込まれていると判っているので、恋人フェリシティの手術代には充分。追跡してくるアンソニー・ホプキンスの部下達も高級車を運転しているのは、あの倉庫にはそれしか無かったからと云う理屈もとおります。
 この辺りはカーマニアではない私にはよく判らないところではあります。パンフレットの解説記事では、ベンツ、ジャガー、ポルシェ、アストンマーティン等々がズラズラ出てきていたそうですが、誰がナニに乗っていたのやら。とりあえずカッコ良くて速そうな車が沢山出ます。

 しかしいきなりアウトバーンに乗り入れたりはいたしません。やはりヨーロッパでカーチェイスするなら、狭い石畳の曲がりくねった路も爆走して戴きたい。
 まずは観光名所モンシャウの街中を駆け抜けます。モンシャウはドイツとベルギーの国境近くにある、オシャレで美しい木造家屋で有名な人気観光スポットだそうです。
 何故、そんなところをわざわざ通らねばならないのかよく判りませぬが、中世ドイツの雰囲気を漂わせた古い街並みですから、絵にはなりますね。観光名所を背景にするのはお約束。
 でもきっとドイツ人が観るとツッコミ処満載な移動になっているのでしょう。

 カーチェイス一辺倒ではないので、主人公もかなり頻繁に車を乗り換えます。激烈カーチェイスをやりながら、一台の車に乗り続ける方が不自然でしょうか。
 結果として、何度もクラッシュしながら車を乗り捨て、五〇〇万ドルの現金だけ抱えて、次の車に乗り換えることを繰り返します。したがってカーチェイスの合間には、狭い路地裏を走って逃げたりもしますし、なかなかバラエティに富んだ追跡劇が展開するのが面白い。
 行く先々でかっぱらう車に高級車が多いのは御愛敬でしょうか。
 狭い街並みの中での追跡を挟んでから、おもむろにアウトバーンに乗り入れます。しかし速度制限のない高速道路であると云う設定は……あまり活かせていなかったような。
 そしてアウトバーン上でのクラッシュが冒頭で描かれたファースト・シーンに繋がるという趣向です。

 更に、捕らわれた際に身元を特定され、恋人フェリシティの存在もバレてしまい、自分が逃走するだけではなく、ケルンの病院で治療中の恋人の身にも危険が及ぶ。
 カーチェイスと並行して、病院に殺し屋の別働隊が乗り込んでくる場面などもあり、色々と手を変え品を変えて盛り上げようとするサービス精神旺盛な演出です。
 最後はケルンまで戻ってきて、アンソニー・ホプキンスと直接対決となりますが、ここで更にベン・キングズレーまで乱入して来るので、ややこしくなる。と云うか、やっぱり二大巨頭に挟まれると主人公の影が薄くなってしまうのはやむを得ませんかねえ。

 紆余曲折ありまして、最後にはアンソニー・ホプキンスも当局に御用となり、恋人フェリシティはアメリカでの臓器移植手術の段取りも付くと云うハッピーエンド。ニコラスの相棒だったマーワン・ケンザリにもきちんと報いがあるのはよろしいのデスが……。
 ベン・キングズレーの方はどうなっちゃったんでしょうね。新聞の一面には「麻薬王逮捕」の大見出しとアンソニー・ホプキンスの写真がデカデカ載っておりましたが、ベン・キングズレーには言及されていなかったような。掴み所の無い人でしたから、どうにかして逮捕も逃れたのかしら。
 とりあえずニコラスが云うとおり、「愛の為にやらかしたバカな行い」ではありましたが、「それほど悪くは無かっただろ?」と訊かれたら、否定は出来ない幕切れでありました(実は割と気に入りました)。




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