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2016年4月13日水曜日

仮面ライダー1号

(Kamen Rider)

 仮面ライダーシリーズ生誕45周年記念作品であり、藤岡弘が主演の仮面ライダーの劇場版です。ついにこの時が来たか。
 『平成ライダー対昭和ライダー/仮面ライダー大戦スーパー戦隊』(2014年)で藤岡弘が登場してくれたときにはまだ共演でしたが、今度はもう堂々の主演ですよ。
 本郷猛が主役の劇場版。年寄りのファンとしては嬉しいデス。

 しかしイマドキの子供らにはどうなんでしょね。以前からうちのムスメらは「昭和ライダーはシンプルすぎるわ」と否定的でした。
 なので今回ばかりは「渋い系のライダーはちょっと……」とあまり食指が動かない様子。ぬう。ムスメがつき合ってくれないなら、パパだけで観に行くわい。

 やはり1号を前面に押し出しすぎた宣伝では子供にはウケないのか。もっとゴーストやスベクターも活躍するストーリーであることを強調しないとイカンです。
 劇中では、平成ライダーたちの〈眼魂〉を使ってゴーストとスペクターが次々にゴーストチェンジする場面がありまして、やはりこのあたりの場面をもっと予告編に取り入れていれば、あるいはムスメらの反応も違っていたかも知れません。
 まぁ、その歴代ライダーの〈眼魂〉はどこから手に入れたのかという説明が一切ないまま使用しておりますが、お祭り映画と割り切るのがよろしいのでしょう。

 劇中ではゴーストが、鎧武、ウィザード、ドライブへとチェンジしてくれます。
 そしてスペクターは、ダブル、オーズ、フォーゼとチェンジします。
 目まぐるしくスピーディに姿を変えつつ、クロスオーバー的に必殺技を連発するアクション場面なら、小さなお友達も楽しめると思うのですが。
 しかしマコト兄ちゃん(山本涼介)が「さぁ、お前の罪を数えろ」とダブルの決め台詞を口にするのはクールで決まっておりますが、フォーゼの「宇宙キターッ」は似合わないですね。

 全体的に仮面ライダー1号を主役にするために、タケル(西銘駿)もアカリ(大沢ヒカル)も御成(柳喬之)も、コメディ・リリーフな場面が多いデス。御成はいつもそうですが。
 仙人のおっちゃん(竹中直人)もギャグ場面が濃いです。全くストーリーに関係の無い、序盤のカラオケ熱唱シーンは強烈でした。
 総じて、『仮面ライダーゴースト』でお馴染みのメンバーのコメディ場面でお子様たちを引き留めつつ、昔懐かしい「仮面ライダー1号」を主役にしたシリアスなストーリーを展開したいという製作サイドの意向は理解出来るのですが……。
 お子様向けの映画ではないが、さりとて完全に大人向けでもないと云う印象です。この中途半端なところが残念でした。せっかく藤岡弘の主演映画なのに。

 でも藤岡弘が主演であるのを有り難がるのは年寄りだけなんでしょうねえ。
 劇中では、ドスの効いた藤岡弘の台詞を堪能できるのはよろしいのデスが、妙に説教臭くなる場面があって、如何なものかと思われました。
 シルベスター・スタローンが還暦を過ぎたロッキーを演じて、教訓的な台詞を口にするようなものですが、ちょっとストーリーに無理があるというか、いきなり高校生たちを前にして「生命とは」と説教垂れる場面はあからさますぎやしませんか。
 『仮面ライダーゴースト』のテーマに沿った説教と云えなくも無いのでしょうが。

 一方、その「仮面ライダー1号」のビジュアルには大幅な変更が加えられました。今までのクラシックなスタイルからかけ離れた重厚なシルエットです。
 当初、妙にガチムチ系になった1号のビジュアルに違和感を覚えましたが、藤岡弘がライブアクションもこなしながら変身もする演出上、これはやむを得ないことなのだと納得しました。
 なにしろ藤岡弘の体型がね……恰幅良くなってしまって、これは仕方ない。あの体型から、昔のスリムな1号に変身するのは無理がありすぎます。『平成ライダー対昭和ライダー』では目立ちませんでしたが、本作でソレをやると不自然ですね。
 まぁ、ガチムチ系の1号でも、それなりにカッコいいです。「闇夜に赤く目が光る」と云う、昔ながらの演出も踏襲してくれていますし。

 重厚なシルエットを強調するように、あまり派手に立ち回らずに、最小限の動作で敵を倒していく演出も巧いです。達人ぽい。その分、年輪を感じてしまうのですけど……。
 平成ライダーのCGエフェクト全開な必殺技に見劣りしないよう、シンプルなライダーパンチやライダーキックにもエフェクトを付けて、頑張っています。
 アクション場面にはあまり無理している感じはしません。

 無理があるのは、本郷猛のラブストーリーも描こうという脚本の方でしょう。
 本作のヒロインを演じているのは岡本夏実ですよ。「立花藤兵衛の孫娘マユ」という役どころですが、ストーリー上では女子高生な上に、これが本郷猛と恋人同士という設定。
 御丁寧に「城南大学附属高校」ですし。大学を卒業した先輩と、まだ在学中の後輩の恋人関係として描こうとしているようデス。
 しかしこれは「歳の離れた恋人」どころではない。
 「藤兵衛の死後、孫娘マユを置き去りにして、海外に戦いに行ってしまった」ことについて「タケシのバカ!」と劇中で責められていました。どうやら三年間も音沙汰なしだったらしい。

 え。たった三年? いや、それは無理あり過ぎなのでは。
 どうやら本郷猛の年齢設定を二〇代の青年に戻したいという意向が働いているようです。大人の事情なんですかね。
 でも劇中では仙人のおっちゃんから「この世に誕生した最初の仮面ライダーだ」なんて解説もされています。竹中直人の口調が実に重々しい。
 それにそもそも「昭和ライダー」とも呼ばれていたハズでは。

 だから劇中ではアカリから「本郷さんは何年くらい戦い続けているんですか?」と尋ねられるのに、はっきりと答えないという場面もありました。
 いや、四五年でしょ? 「仮面ライダーシリーズ生誕45周年記念作品」であると堂々と銘打たれていますし。
 でも「四五年戦い続けている男が、現役女子高生と恋人同士」というのはマズいわな。
 本郷猛の年齢は引き下げたいが、藤岡弘にも出演して貰いたいという二律背反。

 結果、堂々と藤岡弘が岡本夏実とデートすると云う場面が出来上がりました。二人で仲睦まじくゲームセンターや遊園地で平和な一時を楽しんでおります。
 うーむ。しかしこれは、本郷猛が援交しているようにしか見えませぬぞ。
 不自然極まりない。
 「オジサマ」でもキツい年齢差なのに、互いに「タケシ」「マユ」と名前で呼び合っています。

 本作にラプストーリーは必要だったのか? もっと年相応の大人の女性との恋愛にすればマシだったかも知れませぬが、ますますお子様にはソッポ向かれてしまいますか。
 この不自然な展開に比べれば、ショッカーが内部抗争の末にノバショッカーに分裂するなんてのは些細なことです。
 と云うか、ノバショッカーの方がリアルに感じられます。

 「世界征服は経済から」を掲げ、自らの活動を「ビジネス」と云い放つノバショッカーの方がイマドキらしい。エネルギー供給を主軸戦力にして日本政府と契約しようとするのも今までにない展開ですね。
 まぁ、ちょっと展開が短絡に過ぎるキライはありますが、尺の短い劇場版ではやむを得ないと割り切りましょう。
 分裂したノバショッカーに大半の戦闘員を引き抜かれてジリ貧になる元祖ショッカーの図が笑えました。

 今回のショッカーの怪人は、昔懐かしい毒トカゲ男、ガニコウモル、シオマネキングと云う面子です。幹部として地獄大使も登場します。
 地獄大使役は『仮面ライダーディケイド/オールライダー対大ショッカー』(2009年)と同じく大杉漣が演じております。今度はシリアスな役です。ダジャレでガラガンダに変身したりは致しません。

 対するノバショッカーの方は、ウルガ(阿部力)、イーグラ(長澤奈央)、バッファル(武田幸三)と云う新怪人三人衆。
 ウルガはTVシリーズの『仮面ライダーゴースト』のエピソードにクロスオーバー的に出番がありましたハイエナ怪人ですね。バッファルの方はリニューアルされたゲバコンドルのような外見です。
 でもイーグラは変身しません。最後まで長澤奈央がライブアクションをこなしています。フェンシングのサーベルで戦うあたり、蜂女かなぁと思っていたのですが変身しません。長澤奈央のファンには嬉しいのでしょうが、ここにも大人の事情を感じます(まさか予算が足りなくなったわけではありますまい)。

 『仮面ライダーゴースト』のストーリーとリンクするように、「地獄大使が甦ったのは〈眼魔〉の差し金であった」とか、「立花マユが狙われているのは英雄の〈眼魂〉を宿していたからだ」と説明されます。
 本作で登場する英雄は、アレクサンダー大王。劇場版らしく史上最強な英雄ですね。
 レオナルド・ダ・ビンチよりも英雄らしいし。
 しかしあまりにも強力な〈眼魂〉の為、争奪戦の末に手に入れたウルガは身体を乗っ取られてしまう本末転倒な事態に。

 クライマックスはウルガ=アレクサンダーに戦いを挑むゴースト、スペクター、1号と云う図になります。ここに地獄大使も加勢する流れです。
 新たな敵の出現に、かつての仇敵同士が共闘すると云う実にお約束な展開です。
 「勘違いするな。貴様を倒すのはこの俺だ」とツンデレな地獄大使が微笑ましい。

 大杉漣の地獄大使が割とカッコいいだけに、もっと本郷猛と地獄大使の関係を描けば良かったと思うのですが、ますますお子様向けにはなりませんね。
 そして激闘の末にノバショッカーは壊滅、アレクサンダー大王の〈眼魂〉も「制御できないパワーなど不要」と破壊されて一件落着。
 あとは地獄大使と本郷猛の因縁に決着を付けるのみですが、戦いの最中に地獄大使が重傷を負ってしまい止めを刺すのは忍びない。

 「ま、待て。俺との決着をゲホゲホッ」
 「ふ。身体をいたわれ地獄大使」
 「待て、行くな。俺と戦え、本郷ッ」

 うーむ。地獄大使を放置しておくと、またショッカーが再生してしまうと思うのですが、ヒーローものの演出としてはド定番なんですかね。
 ちょっと笑ってしまいました。

 そして再び恋人を残して世界平和のために旅立つ本郷猛です。しかし今度は「命は繋がっている。どこで戦っていても、タケシは私を守ってくれている」と理解を得られたようです。
 タケルも初代から「君も立派なライダーだな」とお墨付きを貰ってハッピーエンド。
 「本郷猛は、俺の永遠の英雄です!」なんてのは、パパ世代を代弁してくれる台詞ですね。
 懐かしの主題歌をバックにネオ・サイクロン号(やっぱりガチムチ系になったバイク)で去って行きます。エンドクレジットにメイキング映像を流してくれるのはサービスでしょうか。
 仮面ライダーはいつも君と共にいる──とメッセージを映しておしまい。いや、やっぱり本作はパパ世代の為の映画でしょう。もう少し大人向けに作り直してもいいのよ。




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