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2015年12月15日火曜日

007 スペクター

(007 : Spectre)

 ダニエル・クレイグ主演の六代目ジェームズ・ボンドの第四作です(シリーズ通算では二四作)。前作『スカイフォール』(2012年)がシリーズ五〇周年記念でしたが、まだまだ人気は衰えませんね。
 ダニエル・クレイグも続投ですし、監督のサム・メンデスも続投になりました。意外と相性がよろしいようで。

 六代目ボンドのシリーズがそれまでのシリーズと違うのは、「リアルなアクション重視」であることの他に、「ストーリーが繋がっている」と云うのがあります。
 『慰めの報酬』(2008年)は『カジノ・ロワイヤル』(2006年)の完全な続編で、『スカイフォール』で一旦、流れが途切れたかに見えて、実は本作で四作品がすべて繋がっていると明かされる趣向です。
 もうオープニングからして、エヴァ・グリーンやら、マッツ・ミケルセンやら、ハビエル・バルデムさん達の顔写真がチラチラ見えたりしております。先代M役のジュディ・デンチも見受けられます。この辺りのファンへのくすぐりがニクいですね。

 だから今までずうっと気になっていた、「ミスター・ホワイトはどうなってしまったンだよう」と云う、私の疑問も本作で決着が付くことになりました。本作では、ミスター・ホワイト役のイェスパー・クリステンセンが再々度登場してくれます。素晴らしい。
 今まで悪役側で何度も登場したキャラクターは、ソビエト情報局のゴーゴル将軍役のウォルター・ゴテルとか、殺し屋ジョーズ役のリチャード・キールがいますが、イェスパー・クリステンセンも本作で三度目ですね。
 もっとも、本作でミスター・ホワイトは無残な最期を遂げてしまいますので、出番はここまでとなります。残念。
 でもきっちり決着が付いたので、個人的にはスッキリいたしました(ちょっと取って付けた感が漂っていたように思ってしまったことは内緒デス)。

 しかし亡くなった後もミスター・ホワイトの影はストーリー上に色濃く落ちております。本作に於けるヒロイン──いわゆるボンド・ガール──は「ミスター・ホワイトの愛娘マドレーヌ」ですからね。演じているのは、フランスの女優さんレア・セドゥ。
 レア・セドゥと云えば、アブデラティフ・ケシシュ監督の『アデル、ブルーは熱い色』(2013年)で、アデル・エグザルホプロスと共に俳優として初めてパルムドールを受賞しておりますね(ケシシュ監督も勿論ですが)。
 でも個人的にはフランス版『美女と野獣』(2014年)で主演のベル役だった方が印象深いです(ヴァンサン・カッセルが野獣役でしたし)。

 しかもレア・セドゥは、ヴェスパー役のエヴァ・グリーンに続いて「六代目ボンドが本気で愛した女性」となりますので、次作以降への出演も期待できそうです。ヴェスパーみたいに死なない限りは。
 この点については、かなり危うい気がするのですが。何しろ、本作のタイトルが『スペクター』ですから。

 「スペクター」と云えば、過去のシリーズに於いては、超有名な悪の秘密結社の名前デスよ。ジェームズ・ボンドの敵ナンバーワンであったと云っても過言ではない。
 その首領ブロフェルドのイメージは幾多の作品に影響を与えまくり、パロディも多数派生し、「敵の組織のボスがネコを抱いている」と云う定番過ぎるイメージの元凶となりました。
 そして過去シリーズでは、「ボンドの妻をブロフェルドが殺害する」と云うエピソードもあり、ブロフェルドとボンドの因縁も深い。
 そう云えば、ブロフェルドも悪役としては何度も登場した人ですが、俳優の方がドナルド・プレザンスだったり、テリー・サバラスだったりしましたね。マックス・フォン・シドーがブロフェルド役だったこともありました。

 本作では、やっぱり「スペクター」とは秘密結社の名前であると明かされます。あれ、『慰めの報酬』で言及されたクォンタムはどうなったのかいな……と思ったら、クォンタムはスペクターの出先機関と云うか下部組織に過ぎなかったようです。まぁ、かなり無理矢理なこじつけが苦しいですが。
 前作『スカイフォール』に於いて、ハビエル・バルデムが個人の復讐にしては潤沢すぎる資金と装備を備えていたのも、スペクターが後ろ盾になっていたからだと説明されます。そこは納得。
 そして敵の組織がスペクターである以上、その首領はブロフェルドです。そうでないとイカン。
 勿論、また新たなブロフェルド像が確立されるわけですが、「白いペルシャ猫」もちゃんと登場させるあたり、過去作品へのリスペクトも忘れません。

 しかしブロフェルドが登場する一方で、「ボンドが本気で愛する女性」も登場すると云うのはどうなんでしょね。
 なんかもう、レア・セドゥの出番も次作でお終いになるような気がしてなりませんのですが。これが杞憂に過ぎないことを祈るばかりデス。

 ちなみに本作のオープニング曲はサム・スミスの「Writing's On The Wall」ですが、映像では蛸が扱われています。これはスペクターの紋章が蛸をデザイン化したものであるので、当然と云えば当然なのですが、「007でタコ」と云えば『オクトパシー』(1983年)だろうと云う気がしますね。
 この映像でリタ・クーリッジの「オールタイム・ハイ」が聴いてみたいデス(笑)。
 まぁ、蛸にそれほど嫌悪を感じない日本人ですので、ちょっと妙な印象のオープニングではありました。それに「女体に蛸の触手が絡む図」なんてのは、作り手が想定しないイメージを喚起しちゃいますよ(日本ではね)。

 ところで本作でブロフェルドを演じているのは、まさかのクリストフ・ヴァルツでした。最初は違う名前で登場したので、別人がブロフェルドなのかと思いましたが、堂々と「今はエルンスト・スタヴロ・ブロフェルドと名乗っている」と明かしてくれます。
 ちょっとイメージ的には悪の首領らしからぬ風体で、フツーのビジネスマンぽいのが拍子抜けでありますが、リアルな世界観を重視する六代目ボンドの世界では、こういうのもアリなのか。その点、一見常人ぽいが狂気を秘めた人物を演じるのに、クリストフ・ヴァルツは適任であると申せましょう。

 劇中では一度爆発に巻き込まれて死んだと思わせ、ラストで実は生きていたと六代目の前に現れたりします。その際に、右顔面に深い傷跡が走っている容貌になりました。何となくマックス・フォン・シドー寄りのブロフェルド像から出発して、ドナルド・プレザンス的なブロフェルド像に近づけようと云う趣向に感じられます。
 本作ではボンドとブロフェルドの因縁に決着は付かず──と云うか、六代目ボンドの世界では、ボンドとブロフェルドの因縁はまだまだこれからというように描かれますので、クリストフ・ヴァルツも再登場確定な感じです。
 でも「二人は少年時代から顔見知りだった」と云う設定はちょっと蛇足ぽい気がします。

 しかし「白いペルシャ猫」と「右顔面の傷跡」が再現されたとなると、次に登場するときには更にドナルド・プレザンスに近づいていくことになるんですかね。あるいはテリー・サバラスのブロフェルド像へのオマージュも用意されているとか。
 そうなるとクリストフ・ヴァルツは次に「耳たぶが欠損する」ことになり、最終的に「髪の毛が全損する」ようになってしまうワケですが、果たしてそこまでやってくれるのでしょうか(ドナルド・プレザンスとテリー・サバラスのどっちに傾いても、そうなっちゃう)。
 何となく嬉々としてスキンヘッドになってくれそうな気もするのですが。

 ブロフェルド像に限らず、本作には過去作品へのオマージュが炸裂しまくりであります。まぁ、シリーズ通算二四作目ともなりますと、描かれるアクションのネタもほぼ出尽くしている感がありますから。
 いつもの通りのカーチェイス、ガンアクション、高所からの落下、爆発、格闘とそつなくこなしておりますが、いずれもドコカデミタ感を感じてしまいます。
 何となく開き直ってやっているような気がします。勿論、それぞれのアクション演出は見事ですし、緊迫感は大したものだと思いますが、頑張ってド派手にやっても「007シリーズじゃフツー」とか云われてしまいそうなのがツラい。長く続くとハードルも自然に上がりますから。
 逆に、本筋とは関係の無い冒頭の「建物が崩れて隣のビルの屋根まで抜ける」なんて、お笑いのアクション・シーンの方に力を入れているように感じられました。いや、そこまでしなくても。

 背景となるロケ地も、ドコカデミタ場所が多いです。世界中を飛び回るボンドさんですから、これは仕方が無いことなのか。
 冒頭のメキシコシティが一番、目新しくて、その後ロンドン、ローマ、アルプス、タンジールといずれも過去の作品に登場した場所でストーリーが進行します。懐かしいと云えば懐かしいし、同じ場所でも異なる状況が描かれるので、あまり問題はないのですが。
 それなら日本にも来て欲しい。前作で長崎の軍艦島をモチーフにした背景が登場したので、次ではもっと本格的に日本で……と期待していたら、とある国際会議が東京で開催されるという場面で、チラリと東京が映りました。でも来日したのはボンドじゃなくて、M(レイフ・ファインズ)だけでした。うーむ。

 過去作品へのオマージュの最たるものが、豪華な列車のコンパートメントでの殺し屋との格闘でありまして、プロレスラー出身の俳優デビッド・バウティスタは『ロシアより愛をこめて』のロバート・ショウと云うよりも『私を愛したスパイ』のリチャード・キールへのオマージュ的なキャラクターであります。これはオマージュのオマージュなのか。
 デビッド・バウティスタもまた、かなりしぶとくてなかなか死なない人ですので、あの「客車から放り出される」だけでは死ぬ筈も無いのは明かでしょう。
 この人も次作で再登場してくれると嬉しいデスね。

 過去作へのオマージュ全開にしてくれたおかげで、ダニエル・クレイグもやっと「歴代のジェームズ・ボンドに近く」なってきました(それは良いことなのか悪いことなのか)。
 本作ではリアル路線を踏襲しながらも、秘密兵器を駆使したり、正装をキメてくれたり、美女とラブシーンを演じてくれたりもします。本作では本命のレア・セドゥだけではなく、モニカ・ベルッチとの絡みも見せてくれます。
 個人的にはモニカ・ベルッチが前座扱いなのが寂しいところです。もっと早くに出演できていれば主役のボンドガールにもなれたものを。先代ボンドのピアズ・ブロスナンくらいの頃だったなら……。

 前作でようやくレイフ・ファインズのM、ナオミ・ハリスのミス・マネペニー、ベン・ウィショーのQという新体制が確立されたわけですが、本作では早くも組織の存続が危ぶまれております。遂に00課が廃止となる……と云うかMI6そのものが他の省庁と統合されるらしい。
 結局、それ自体がブロフェルドの企みだったりするわけで、いつになく英国諜報部が劣勢に立たされております。あまり派手な作戦ではないのですが、ここまでMI6が追い詰められるというのも珍しいですね。
 おまけに前作でド派手に爆破されたMI6本部ビルは、本作では再建されることなくそのままテムズ河岸に無残な姿をさらしております。そして更なる追い打ちがかけられる。
 ブロフェルドの陰謀により、MI6本部ビルはボンドの墓標となるべく、完膚なきまでに爆破されてしまうわけで、実在する建物をそこまで酷く描いてしまってエエんかいなと心配になります(逆に名所になるか)。

 クライマックスのMI6ビル壊滅から辛くも逃れ、反撃に転じたボンドは逆にブロフェルドを追い詰めますが、止めは刺しません。劇中ではレア・セドゥの言葉に迷いながら、人生の選択について悩む六代目ボンドの姿が描かれておりましたが、ここで決心が付いたようです。
 殺しのライセンスは返上し、諜報部も辞して、愛する女性と共に新たな人生を歩み始める六代目ボンド……となるのですが、果たしてそう巧くいくものやら。
 アストンマーチンに乗って去って行くボンドですが、ブロフェルドは生きているし(逮捕はされましたが)、ここで打ち止めにはなりますまい。エンドクレジットではちゃんと「ボンドは帰ってくる」と明示されます。
 ブロフェルド共々、なるべく早めの御帰還をお待ちしております。




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