2015年9月27日日曜日

アントマン

(Ant-Man)

 マーベルコミックスの『アントマン』の実写化作品です。例によって〈アベンジャーズ〉のシリーズともリンクする「マーベル・シネマティック・ユニバース」のシリーズ第12弾。快調に飛ばしてますね。
 単体ヒーローものの作品を数作続けては、全員集合的〈アベンジャーズ〉で一区切り付ける、と云うのが傾向のようでして、本作は『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』(2015年)の後につながる作品で、次なる〈アベンジャーズ〉ものへの助走としての側面が見受けられました。
 勿論、単体ヒーローものとして独立していますので、〈アベンジャーズ〉を御存知なくても大丈夫(多分ね)。それに『アントマン』としても本作が第一作になりますので、色々と経緯の説明も判り易く作られております。

 原作の方の『アントマン』は、結構歴史も古くてスタン・リーとジャック・カービーによって六〇年代には登場しておりましたが、日本での知名度はイマイチでした。
 アメコミにはありがちですが、歴史が古いとヒーローも代替わりしていくようでして、アントマンも初代、二代目、三代目と代替わりしていきます。本作は二代目アントマンをメインに据えて、回想シーンで初代アントマンの活躍にも触れるという構成になっております。なかなか巧い構成の仕方です(三代目は新しすぎてスルーか)。

 本作の脚本はエドガー・ライト。ヒーローの出自をくだくだ説明せず、ドラマの随所に挿入する形でテンポを崩さないのはサスガです。
 エドガー・ライト監督作品は『ショーン・オブ・ザ・デッド』(2004年)の頃から大好きです。当初は本作の監督も務める筈でしたが、脚本だけ書いてあとはペイトン・リードにお任せしてしまったようで。
 ペイトン・リード監督作品は、ジム・キャリー主演の『イエスマン/ “YES” は人生のパスワード』(2008年)くらいしか存じませんです。アレも悪くは無かったが、それほど印象には残りませんでした。
 でも本作は実にド派手且つ楽しいヒーローものに仕上がっております。

 マーベルコミックスもヒーロー毎に特色出すのに苦労しているようですが、アイアンマンのようにカッコいいとか、ハルクのように悲壮だとか云うのでは無く、アントマンはちょっと笑える楽しいヒーローになりました。
 何よりも物体のサイズを大きくしたり小さくしたりするスケール感のギャップが笑いを誘うように演出されています。予告編にもありましたが、「きかんしゃトーマス」をネタにした戦闘シーンは、当事者達は決死の覚悟で戦っているのに、傍から見てるとチマチマしていて何がナニやらで笑えます。
 逆にトーマスが巨大化するシチュエーションに至っては、笑うなと云う方が無理。

 主役となる二代目アントマンを襲名するスコット・ラング役がポール・ラッド。
 コメディ映画によく出ておられるのですが、『俺たちニュースキャスター』(2004年)とか『40歳の童貞男』(2005年)とかスルーしておりまして、イチイチ馴染みがありませんデス。
 イケメンだしシリアスもコメディもこなすようで、これからはもっと注目いたしますデス。
 一方、物質縮小技術の発明者にして初代アントマンになるハンク・ピム博士役は、なんとビックリのマイケル・ダグラスでした。そんな大物まで出演してくれるとは。マーベルコミックスの入れ込みようが感じられます。

 マイケル・ダグラスの娘役で、ポール・ラッドの相手役を務めるのがエバンジェリン・リリー。トールキン原作の『ホビットの冒険』には登場しませんでしたが、映像化された『ホビット』三部作では、エルフのタウリエン役だった方ですね。
 アントマンの宿敵となるイエロージャケットがコリー・ストールです。ウディ・アレン監督の『ミッドナイト・イン・パリ』(2011年)でアーネスト・ヘミングウェイ役だったり(このときの髪の毛はヅラか)、『フライト・ゲーム』(2014年)でリーアム・ニーソンの邪魔していた警察官だったりしました。
 コリー・ストールは悪役ではありますが、マイケル・ダグラスを師と仰ぎ敬意も払いつつ、認めてもらえない屈辱から悪党になってしまうと云う、割と複雑な人物を演じておりました(まぁ、最後にはやられちゃいますけど)。

 メインの配役としては上記の四人がいれば『アントマン』としては成立しますが、〈アベンジャーズ〉シリーズへのリンクとして、色々と見知った人達がチョロチョロ登場してくれるのもファンには嬉しいデスね。
 まずは冒頭、一九八九年のシールド本部の場面で登場するのが、ハワード・スターク(アイアンマンの父)役のジョン・スラッテリーと、ペギー・カーター(キャプテン・アメリカの恋人)役のヘイリー・アトウェルがおりました。ヒーロー不在の時代でも脇役の皆さんはちゃんと活動していたという背景ですね。
 縮小技術は兵器には使用させないとピム博士がシールドと袂を分かつプロローグ。

 更に劇中では〈アベンジャーズ〉のメンバーとなったファルコン役のアンソニー・マッキーが出演しております。本作ではチラリとクロスオーバー的に、「ファルコン対アントマン」のアクション場面も描かれておりました。
 蟻サイズに縮小して姿を消したように見せかけても、ファルコンの鋭い目は誤魔化せない──主にゴーグルの性能が良い所為か──と云う細かい演出も嬉しいですが、今回はアントマンの引き立て役なのであっさりやられてしまいます。しかしここでアントマンとファルコンに因縁が生じて、次なるシリーズへとリンクしていく流れになるのが巧いです。

 『キャプテン・アメリカ』ではお馴染みの悪の秘密結社〈ヒドラ〉も登場しますし、エピローグではクリス・エヴァンスも顔見せしてくれます。
 劇場では上映前に「エンドクレジット後にも続きがある」旨の注意も出されているので御注意下さい。ホントに最後の最後まで席を立ってはいけませんですよ。
 恒例の原作者スタン・リー御大のカメオ出演も健在でした。今回はある登場人物の回想シーンに、バーテンダー役として顔見せしております。これもドラマのラストシーンと云うか、エピローグ的な最後の方になります。なかなかスタン・リーが出てこないので、今回は見逃したのだろうかと焦りだした頃になってようやくです。
 個人的には、『L.A.ギャングストーリー』(2013年)や『フューリー』(2014年)のマイケル・ペーニャが重要な脇役で登場してくれたのが嬉しいデス(しかもかなりコミカルな役だし)。

 さて、「物質を縮小する技術」と云うと、古いSF者としてはどうしてもリチャード・フライシャー監督の『ミクロの決死圏』(1966年)とか、リチャード・マシスン原作の『縮みゆく人間』(1957年)なんてところを思い出してしまいます。え、まぁ、ジョー・ジョンストン監督の『ミクロキッズ』(1989年)もそうなんですけど、やはり元祖は『ミクロの決死圏』な。
 あとはアニメの『ミクロ決死隊』──『ミクロマン』じゃないヨ──とか、サンリオSF文庫の『マイクロノーツ』とか、ハヤカワSF文庫の〈ミクロスパイ〉シリーズとか(これらのハナシをすると果てしなく脱線するので省略しますね)。
 まぁ、有名なのは手塚治虫の『ミクロイドS』とか、タカラトミーの玩具「ミクロマン」なのでしょうが。
 小さくなると普段は見過ごしているものが巨大になって、そのギャップが面白いというのが共通した演出ですよね。

 本作は『ミクロの決死圏』のように「血球サイズ」までにはならず、いいところ「蟻サイズ」なので、どちらかと云うと『縮みゆく人間』か『ミクロキッズ』の路線ですね。
 しかし物質縮小技術には限界はないらしく、そのつもりになれば血球サイズどころか、原子サイズを越えて小さくなることも可能なのだと、劇中でマイケル・ダグラスが語っております。だから理論上、アントマンには通り抜けられないものは無い。
 ドアの隙間や鍵穴どころではなく、鋼鉄だろうとチタニウムだろうと、原子の結合する隙間から侵入することも出来るのだ。しかし当然、リスクは伴う。原子サイズを越えて小さくなると量子力学が作用し、現実世界に帰還できなくなる可能性がある。
 ──と、マイケル・ダグラスがポール・ラッドに警告する場面がありますが、「やるな」と云われると、それをやらざるを得ないシチュエーションがクライマックスになって出来するのはお約束ですね。

 最新のCG技術と、量子力学的科学考証も考慮した(と思われる)限界縮小のシーンは、ヒーロー映画にしては奇妙にシュールで、美術的には美しい場面でした。
 更に、「父と娘の絆」が主人公を救うのだという、理屈を越えたエモーショナルな展開が、クリストファー・ノーラン監督の『インターステラー』(2014年)ぽくて、私のツボでありました。
 まぁ、そもそも科学考証なんぞはヒーロー映画にはあまり必要ではないのですが。ハードSF的な理屈を捏ねていくと、アントマンの質量とか密度とか色々とややこしいことになりますからね(大体、質量は軽くなるのに、密度が倍化するというのがよく判りませんデス)。
 難しい理屈は考えず、スケール感のギャップを楽しむのが正しいのでしょう。

 物語としては、窃盗による刑期を終えて出所したポール・ラッドが、やむにやまれずかつての窃盗団の仕事を手伝い、マイケル・ダグラスの屋敷に忍び込むといった展開と、縮小技術の兵器転用を頑なに拒むマイケル・ダグラスを尻目に、弟子の科学者コリー・ストールが遂に再現実験に成功してしまうと云う展開が並行してテンポ良く語られていきます。
 ほぼなし崩しにアントマン・スーツを押しつけられて、二代目アントマンにされてしまうポール。ヒーローが活躍するまでには、過酷な(愉快な)特訓をこなさねばならないと云うお約束展開も、ノリの良い音楽とモンタージュ技法で華麗に乗り越え、警戒厳重な研究施設への侵入計画が準備されていく。

 本作はヒーロー映画でありますが、いわゆるドロボー映画の側面も併せ持っており、困難な目標に向かって、腕の立つ仲間達が協力しながら準備していく過程が楽しく描かれていきます。
 アントマンは一人では無く、仲間達の協力が必要不可欠というのがいいですね。特にお喋りなマイケル・ペーニャが良い味出してます。
 そしてマイケル・ダグラスのもう一つの発明品、昆虫との意思疎通を可能にする装置を駆使して、蟻の軍団を編成して施設に侵入していくアントマン。羽蟻に騎乗して飛んでいくアントマンのイメージが西部劇のようです。
 劇中では様々な種類の蟻が紹介され、用途に応じた蟻の部隊がアントマンを助けてくれます。ちょっとアカデミック(かも)。
 それにしても、クリーンであるべき最新のサーバールームに、無数の蟻の軍団が侵入していき、サーバーを破壊する場面は、システムエンジニアにとっては悪夢のような場面ですな。

 そして縮小技術の兵器転用をめぐってアントマンとイエロージャケットが繰り広げる戦いが描かれていきます。スピーディに大きさを変えながら目まぐるしく戦う様子が白熱しておりますが、よくよく考えるとスケールが大きいようで、実はかなり小さいと云うのがユーモラスです。
 玩具が巨大化したり、蟻さんも巨大化したりエラいことになります。昆虫は巨大化しても呼吸できないから生きていられないのでは、なんてツッコミは忘れましょう。
 イエロージャケットを倒し、更に限界まで縮小した量子世界の迷宮からも脱出して万事メデタシなハッピーエンド。

 しかし終わったと思ったらまだエピローグが用意されているのがお約束。
 マイケル・ダグラスが用意した最新の縮小スーツをエバンジェリン・リリーに託します。「アントマンには恋人であり相棒であるワスプがいる」と云う設定が二代目にも用意されて、ほぼ原作に沿った展開になります。
 しかしこれがエピローグだと勘違いして、早々に席を立って劇場を後にする人が少なからず見受けられました。実は長々したエンドクレジットの後に、更なるオマケも付いておったのですが。

 それがクリス・エヴァンスとアンソニー・マッキー、そしてセバスチャン・スタンが顔を揃える真のエピローグ。
 『キャプテン・アメリカ/ウィンターソルジャー』(2014年)を御存知ならば否が応でも期待せざるを得ない展開ですね。キャプテンとファルコンの前に、どういう経緯で捕らえられたのかバッキーがいますよ。
 バッキー、やはり帰ってきたのか(連れ戻されたと云うべきか)。
 「このことはトニーには知られたくない」と話すキャプテンに、「ある男を知っている」と返すファルコン。
 もはや次なる『キャプテン・アメリカ/シビルウォー』へのブリッジが明らかで、アントマンも巻き込まれてしまうのが予感されます。早く公開して下さい。頼んます。




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