2015年6月7日日曜日

誘拐の掟

(A Walk Among the Tombstones)

 ローレンス・ブロックによるミステリ小説の映画化です。〈酔いどれ探偵マット・スカダー〉シリーズの久々の映画化ですね。
 かつて一度だけ、シリーズ五作目の『八百万の死にざま』が『800万の死にざま』(1986年)として映画化されたのを憶えております。あの時のスカダー役はジェフ・ブリッジスでした。公開時にスルーして、後日ビデオをレンタルして観たのですが、アレはイマイチ(タイトルはカッコ良かったのに)。
 『800万の死にざま』は、監督が『夜の大捜査線』(1967年)のハル・アシュビーで、オリバー・ストーンの脚色だったのですが。
 本作に於いて、マット・スカダーを演じているのはリーアム・ニーソンです。

 もう〈マット・スカダー〉シリーズはリーアム・ニーソン主演で固定にしてもらえないものでしょうか。出来れば本作のスコット・フランク監督とセットで『八百万の死にざま』もリメイクして戴きたい。
 スコット・フランク監督は、本作で監督二作目になる監督ですね。元は脚本家でありまして、「ハリウッドで最高の脚本家のひとり」とも賞されたことのある方です。勿論、本作の脚本もフランク監督自身。
 監督の経歴を眺めると、脚本を書いた作品には『マイノリティ・リポート』(2002年)とか、『フライト・オブ・フェニックス』(2004年)とか、『ザ・インタープリター』(2005年)とか、見知ったものが多いです。『ウルヴァリン : SAMURAI』(2013年)もこの方の脚本でした。

 それにしても今年はリーアム・ニーソン主演のミステリ&アクション映画を多く観ております。
 『96時間/レクイエム』(2014年)に、『ラン・オールナイト』(2015年)と来て、今年だけで三本。その前には『フライト・ゲーム』(2014年)もありましたし、もうめっきりミステリ&アクションが板に付いておりますね。
 本作は制作順だと『ラン・オールナイト』の前なのに、公開は後になってしまいました(ほぼ同時か)。
 近年のリーアム・ニーソン主演映画は皆、外れなしの感がありますが、中でも本作が出色でしょうか(『ラン・オールナイト』も良かったけど)。やっぱり脚本がいいからか(原作もな)。

 本作は〈マット・スカダー〉シリーズの一〇作目である『獣たちの墓』の映画化になります。原作小説の翻訳が先に出ているのに(二見文庫)、なんでまた『誘拐の掟』なんて邦題になってしまったのか。
 確かに、誘拐事件の解決が主に描かれるストーリーですが、別に誘拐犯達が何かの思想信条を守っているなんてストーリーではありません(一応、誘拐犯の犯行にはパターンがありますが)。
 きっと配給会社の担当者が望月三起也の『ワイルド7』のファンだったのでしょう。イマドキ『誘拐の掟』で『ワイルド7』とか云ってると歳がバレますか。

 本作は〈マット・スカダー〉シリーズの中でも、第八作『墓場への切符』、第九作『倒錯の舞踏』に続くもので、三作併せて「倒錯三部作」と呼ばれているそうな。シリーズの中でも猟奇的な犯罪が描かれているからか(三部作ですがストーリーに関連性はありません)。
 出来たら前二作も併せてリーアム・ニーソン主演で観てみたいものです。あるいは『八百万の死にざま』と同じくPWA(アメリカ私立探偵作家クラブ)賞の最優秀長篇賞に輝く『死者との誓い』でもイイです。

 でも実は私、本作を観るまでこれが〈マット・スカダー〉シリーズの映画化であるとは存じませんでした。確かにローレンス・ブロック原作であるとは紹介されていましたが、ローレンス・ブロックは他にも〈泥棒バーニイ〉シリーズとか、〈殺し屋ケラー〉シリーズとか、色々書いてますからね。単発の短編も多いし。
 『マイ・ブルーベリー・ナイツ』(2007年)では、ウォン・カーウァイ監督と一緒に共同脚本も書いているので、過去の小説ではなくてローレンス・ブロックのオリジナル脚本かとも思っておりました。
 だから冒頭で「酔っ払ったリーアム」が登場したときも、『ラン・オールナイト』に続いてまた酔っぱらいのオヤジ役かとは思ったものの、よもやコレが「マット・スカダー」であるとは思い至りませんでした。
 まぁ、すぐにバーに入って、店主から名前を呼ばれるシーンになるので気がつきますが。

 共演は、ダン・スティーヴンス、ボイド・ホルブルック、デヴィッド・ハーバー、セバスチャン・ロッシェといった方々ですが、馴染みのない方が多いです。皆さん色々な作品にバイプレーヤーとして出演しておられるのですが。
 ただ一人、見覚えがあったのがボイド・ホルブルック。と云うか、つい最近もリーアム・ニーソンと一緒の映画に出ておりましたよ。『ラン・オールナイト』では、悪逆の限りを尽くしてリーアムに射殺されちゃうエド・ハリスの息子の役でした。
 今回は事件の依頼人の役でしたので死なないか、と思ってたら……。うーむ。

 シリーズものの映画化ではありますが、本作だけ観てもまったく差し支えはございません。それどころか、そもそもスカダーが「酔いどれ探偵」になる馴れ初めの事件の経緯まで描いてくれるという親切な演出です。
 まぁ、マット・スカダーを「酔いどれ探偵」と呼んでいいのはシリーズの前半までで、自分がアル中であると認識した『八百万の死にざま』以降は「禁酒探偵」となり本作に至りますので、リーアム・ニーソンも回想シーンでは自堕落な酔っぱらいですが、それ以外ではアルコール依存症を脱して自分を律する男として登場します。
 また、事件の捜査と並行して、依存症克服のグループ・セラピーに出席している場面も何度か挿入され、まだ完全に立ち直ってはいない様子も描かれています。

 それから、スカダーの相棒となるTJ少年との出会いも併せて描かれていて、本作一本で一通りまとまっている仕様になっております。原作小説では別々の作品で描かれている様々な場面を、ストーリーに巧く組み込んで設定紹介にしていますね。脚本が巧いと全く不自然に感じられないのが見事です。
 でも代わりに恋人エレインの存在が削られてしまい、本作ではスカダーとTJ少年しか登場しません。そこは仕方ないか。
 アナクロなオヤジ探偵に、ハイテク面をサポートする少年のコンビがイイ感じです。でも、TJ少年もあまり出番が多くならないように配慮されていて、リーアム・ニーソンの単独捜査がメインです。

 さて、アバンタイトル部分でスカダーのトラウマになる過去(1991年)──酒場強盗との銃撃戦──を描いたあと、おもむろに舞台は八年後のニューヨーク(1999年)となります。
 巷で「二〇〇〇年問題」が話題にされていたりするあたり、ちょっと笑ってしまいますね。リーアム・ニーソンも「年が明ければ文明が崩壊するから、先の事なんて心配しても無駄さ」なんて嘯いております。
 アバンタイトル部分では髭を生やした酔っぱらいでしたが、八年後には髭を剃ってこざっぱりしています(それに素面だ)。それだけで過去より現在の方が好感の持てる人物になって見えます。
 既に警察を辞職しており、フリーの探偵稼業の身ですが、許可証がないモグリの営業です。
 あるとき、断酒会での知り合いに「弟を助けてくれ」と頼まれて断り切れず、とりあえず「話だけでも」と引っ張り出されて、そのまま事件に巻き込まれていく流れです。

 知り合いの弟は表向きはビジネスマンのようですが、裏の稼業はドラッグのディーラー。稼ぎが良くて良い暮らしなのも裏稼業のお陰のようですが、そこを悪党につけ込まれたのか、奥さんが誘拐されてしまう。
 その上、四〇万ドルもの身代金は支払ったのに妻は戻らず、惨殺されて発見されたのだった。
 回想シーンで顛末が描写されますが、奥さんの死体を発見する場面が実にエグいです。車のトランクの中に閉じ込めていると告げられ、開けてみると奥さんの姿は無く、麻薬を小分けに詰めたような袋がトランクにぎっしりと並んでいる。

 洋画でよくある場面ですが、ナイフで袋のひとつを刺して中身を確認しようとすると、白い粉では無く、赤い液体が漏れ出す。えー、つまり奥さんはバラバラにされて、麻薬の袋に小分けにされて詰め込まれていたと云うわけで、犯人の猟奇性が伝わりますね。
 惨殺死体を映すことなく、あまりにも残酷な所行が暗示される演出が巧いです。
 だから依頼の内容も「犯人を捕まえて、連れてきてくれ」となる。復讐の手伝いなら断ると云いつつも、その残酷な手口に断り切れず捜査を開始するニーソンです。

 ここから始まるリーアム・ニーソンの捜査が、なかなか地道な上に真っ当で、真面目なミステリーと云う趣です(そりゃ原作がそうだから)。アクション主体のサスペンス映画とは一線を画しております。
 現場周辺での聞き込みや、類似の事件の記録を当たるなどの活動が渋いです。その過程で、身寄り無いTJ少年とも出会います。
 更に、過去にもあった類似する猟奇殺人の記録から、その現場や関係者にも捜査の輪を広げていきつつ、共通する事項を見つけ出していく。
 実に地に足の付いた捜査活動です。まったく飛躍せずに探偵活動が丁寧に描写されていく演出が巧い。渋いハードボイルドですね。背景に描かれるニューヨークの景観も、色彩を押さえた陰鬱な雰囲気であるのがいい感じデス。

 しかしハードボイルド描写はあまり細かい説明をしないので、関係者への聞き込みの過程で、怪しいと目星を付けた奴が、何故怪しかったのかの説明が足りないような気がしました。ニーソン的には、自分の質問に対してあからさまに不自然な回答をしたので目を付けたのだと話していましたが、観ている側としては、先刻の会話のどこにそんな不自然な要素があったのか判りませんデス。
 ベテランの直感と云うのは凄いなぁと、ここは感心するべきなのでしょうか。

 本作は渋いハードボイルドなので、カーチェイスや爆発なんて派手な場面はありません。一応、クライマックス近くで銃撃戦があるにはありますが、アクション・シーンよりもサスペンス描写に重きが置かれています。
 そして本格ミステリでは無いので、誘拐犯も中盤から堂々と顔見せしてストーリーに絡んできます。犯人当てのストーリーではない。この辺りはヒッチコック的な王道サスペンス展開。
 リーアム・ニーソンの捜査活動と並行して、猟奇誘拐犯達が次なる獲物を求めて犠牲者を物色していく過程もスリリングに描かれていきます。

 誘拐の被害に遭う人達の共通点が、麻薬売買に関係した犯罪者であるのでうかつに警察に頼れないところにフリーの探偵が活躍できる余地があるのが巧いです。同時に、誘拐犯らしい怪しい奴等がいる……と思ったら、実は当局の麻薬捜査班だったというミスリードも巧みに使われております。
 しかし例え犯罪者でも家族を養い、妻子を愛するところは普通の人と変わらない──と云うところで、この捜査を最後まで続けて良いものか迷うニーソンの元に、次なる誘拐事件が発生したとの報せが入る。成り行きから誘拐犯とのネゴシエーションを務めることになるニーソンです。

 最大の山場は身代金と人質交換の場面ですが、ここから更に二転、三転とストーリーが続いていくのがスリリングです。人質の救出だけで終わらず、そこから誘拐犯のアジトを突き止め、再び対決するところまでが描かれていきます。
 終わりそうなのになかなか終わらないのがもどかしいですが、緊張を維持したままドラマを引っ張る演出はお見事でした。
 万事メデタシとは云えず、少々ビターな結末になってしまいますが、なんとか事件は解決し、疲れた身体を引き摺って帰還するニーソン。ラストにほんの少しだけ希望の光が見えるのも、ハードボイルドとしては充分な結末であると申せましょう。
 本作は、あまりにもリーアム・ニーソンがハマりすぎで、これ一作で終わりにしてしまうのが勿体ないです。シリーズ化を是非。




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