2014年12月20日土曜日

ホビット/決戦のゆくえ (3D)

(The Hobbit : The Battle of the Five Armies)

 遂に『ホビットの冒険』も完結です。ピーター・ジャクソン監督(以下、ピージャク)お疲れさまでした。本当に毎年一作ずつ年末に公開して、三年で終わらせてくれるとは素晴らしいです。日本では第二作だけ公開が翌春まで延びてしまいましたが、その分、完結編公開まで一年足らずになったのが嬉しいデスね。
 原作者のJ・R・R・トールキン先生も泉下でさぞお喜びでしょう。

 云うまでもなく、本作は『思いがけない冒険』(2012年)、『竜に奪われた王国』(2013年)に続く第三弾です。当初は題名も『ゆきて帰りし物語 “There and Back Again”』とされていたと思いましたが、三部作化してしまったのでクライマックスの大合戦の総称「五軍の戦い」となりました。邦題は『決戦のゆくえ』。
 まぁ、このピージャク版『ホビットの冒険』では「五軍」と云われても、いまいちピンと来ませんからね。
 確か、人間、エルフ、ドワーフ、オーク、ゴブリンの各軍隊が激突するので「五軍」だった筈ですが、この映画ではそもそもオークとゴブリンの見分けが付きませんし。
 第一作『思いがけない冒険』のブルーレイにある音声解説では、作り手達も「同じ種族のように描いている」と申しておりましたし。「山岳地帯に住む割と小振りなオークがゴブリンだ」程度の理解でよろしいようです。

 本作は字幕版で鑑賞しましたが、いつものように日本語吹替版も鑑賞するかどうかは、ちょっとビミョーなところです。
 私の好きな声優さんである家弓家正さんがお亡くなりになってしまいましたから(2014年9月逝去)。ご冥福をお祈りいたします。
 したがって本作のサルマン(クリストファー・リー)は、大木民夫が吹き替えているそうな。悪くは無いが、やはり最後まで家弓サルマンで通してもらいたかったところデス。
 まぁ、それを云い出すとガンダルフ(イアン・マッケラン)も、『ロード・オブ・ザ・リング(以下、LTOR)』三部作では有川博でしたが、こちらもお亡くなりになって(2011年10月逝去)、『ホビット』では第一作目からずっと羽佐間道夫になっておりますけど。
 個人的には二〇一四年の芸能人の訃報の中では、高倉健や菅原文太よりも、家弓家正や永井一郎の方がショックでして(他にも納谷六朗とか、仲村秀生とか、弥永和子とか……)。

 それはともかく。
 まずは初っ端から前作の続きでガンガンとトバして参ります。余計なダイジェストなんて付けません。只でさえ二時間半近い長尺ですし(144分)。
 湖の街エスガロスが火龍スマウグの襲撃を受ける場面。もはや怪獣映画です。スマウグが火を吹く前に、喉元から光り始める演出がいいですね。
 焼け落ちる家屋、逃げ惑う人々、そして只一人で火龍に立ち向かうバルド(ルーク・エヴァンス)。
 本作のポスターに「龍に立ち向かう弓矢を手にした漢」のビジュアルがありますが、これだけ見ていると主役はバルドかと思ってしまいそうです。少なくとも、ここがルーク・エヴァンスの見せ場であります。
 冒頭からクライマックス並みの展開ですね。そして前作で張られた伏線のとおり、「一本だけ残った〈黒の矢〉」と「一枚だけ剥がれている鱗」と来れば、これを外すわけには参りません。
 見事に射貫いて火龍スマウグも一巻の終わり。

 そして本作の題名がドーンと映る。アバンタイトル部分だけで一本の映画並みに濃密なのは、〈007〉シリーズのようデス。しかも割と尺を割いてます。
 前作のクライマックスからの引きが前座扱いですが、本作の本題はここから。
 龍は退治され、はなれ山はドワーフ達の手に戻る。万事めでたしかと思いきや……。
 莫大な財宝をめぐってトラブルが出来し、アーケン石に執着するトーリン(リチャード・アーミティッジ)が心を病んでいく。バルドがエスガロスの難民を引き連れドワーフ達を頼ってきたのに、約束を反故にして冷たく突き放すトーリンの態度がもはや別人であります。
 このあたりのリチャード・アーミティッジはさすが英国の名優だけあって、シェイクスピア劇でも観ているかのようでした。

 本作では、はなれ山周辺の地理的な状況が巧く描写されております。はなれ山(エレボール)とエスガロス、そして廃墟となったデインの街の位置関係が判り易いです。
 第一作の冒頭でエレボールが陥落するときに、はなれ山のふもとにあった人間の街デインもまたスマウグに破壊されたワケですが(デインの生き残りがエスガロスの住民達)、再びエスガロスから人間達がデインに戻ってくる。
 このあたりは〈五軍の戦い〉の主戦場でありますので、きちんと描こうというピージャクの意図は理解出来ます。でも、それ以外の地理は結構、おざなりでしたね。
 まぁ、原作のオールドファンならば説明不要。中つ国の地図はソラで描けるでしょうから、ドル・グルドゥアがどのあたりにあるのかとか、グンダバドがどこにあるのかとか、旧アングマール帝国の版図がどれくらいであったのかとか、御存知ですものね。ついでに、くろがね山がどこにあるのかも説明不要でしょう(笑)。

 そして前作に於いてドル・グルドゥアを発したオーク軍と呼応するように、グンダバドからも支援が出されると云う展開になりました。原作と異なりアゾグが生きているので、本隊の指揮はアゾグが執り、息子ボルグがグンダバドに援軍要請に行ったことになっております。
 原作ではグンダバドからの支援軍なんて登場しないのですが、そこは追補大好きなピージャクですから、トールキンの他の著作からガンガンと補完のための設定を引っ張ってきております。もっとやれ。
 そして前作に引き続き、エルフの王子レゴラス(オーランド・ブルーム)も登場するのですが、はなれ山で人間とエルフとドワーフが揉めている間に、レゴラスはグンダバドに偵察に出ていたと云う説明にもなっているのが巧いです。無理なくレゴラスの存在を滑り込ませるために腐心していますね。

 それにしても、グンダバドがあんな要塞化していたとは存じませんでした。まるでミナス・モルグル並みの大要塞ですよ。『LTOR』にはグンダバドなんて出てこないのにどうするのだ。これはもうスピンオフで何か作ってもらう他ないのではッ。
 一応、トールキン先生も『指輪物語』で描かれたゴンドールでの決戦以外でも、北方ではドワーフ達が戦っていたと書いておりますので、それはまた別のドラマとしてピージャクにスピンオフ企画で映像化して戴きましょう。
 まったく中つ国は広いですねえ。

 このあたりの地理的な距離感が本作では省略されているので、レゴラスとタウリエン(エヴァンジェリン・リリー)が、割と簡単にグンダバドに偵察に行って戻ってきたりして違和感を感じてしまいました。いや、そんな簡単に行き来できる距離だったかしら。まぁ、エルフだからいいか。
 それを云えば、くろがね山からもドワーフ軍が突然、援軍に現れたりしております。はなれ山奪還の報せが届いてから数日を経ずして到着したことになりますが、ここは原作通りか(劇中での時間経過は巧妙にぼかされているようですし)。
 そして、出番が無いかと危惧していたトーリンの従兄弟ダインもちゃんと登場してくれます。ピージャクがそこを端折るわけがないですよね。
 ダインを演じているのはビリー・コノリー。『カルテット! 人生のオペラハウス』(2012年)では引退したオペラ歌手でしたが、本作ではドワーフ的強烈メイクで誰だか判りませんでした。しかしさすがは〈鉄の足〉の異名を取るだけあって、ドワーフの中でも偉丈夫として描かれています。ガンダルフ曰く、「トーリンに輪を掛けた分からず屋」だそうな。

 他にも〈ラスガレンの白い石〉なんてアイテムも登場します。第一作のプロローグで、トーリンの祖父スロール王が、エルフのスランドゥイル王(リー・ペイス)に引渡しを拒んだ宝石ですが、最初から通して観ていても忘れてしまうくらい扱いが小さかったのに、本作になって急にクローズアップされても咄嗟に思い出せませんデス。
 しかも「エルフの家宝」以外の説明はないので、何故それがそこにあるのかが判らない。まぁ、全部説明してしまうと、エルフとドワーフの不仲はドワーフ側に非があったことを白状してしまうようなものですし、前作までは悪党のように描かれていたスランドゥイル王にもそれなりの言い分があることになるのですが。
 この辺はブルーレイ化された際のエクステンデッド・エディションで補完されるのでしょうか。

 実は本作ではスランドゥイル王とレゴラスの親子関係にも割とスポットを当てておりまして、劇中でレゴラスが「父は亡くなった母のことを何も語ってくれない」とこぼしております。
 〈ラスガレンの白い石〉についてもう少し説明があれば、レゴラスの母上にもリンクする設定ですし(実は母の形見でもある)、スランドゥイル王の印象も随分と上方修正されることになると思うのですが……。ちょっと惜しいですね。
 結局、エルフもドワーフも、どっちもどっちなのか。

 総じて、原作の『ホビットの冒険』には出てこないけれど、後年になってトールキン先生が追補していった設定を積極的に取り入れようとして、『ホビット』三部作は『LOTR』三部作よりもちょっと散漫な作りになっているような印象を受けます。まぁ、追補するべき設定がテンコ盛りなので仕方がないのか。
 本来のストーリーにツギハギするので、地理的にかなりかけ離れた場所の出来事がすぐ近くにあるかのように感じられたり、強引に『LOTR』に繋げようとしてムリヤリ感漂う演出になってしまうところも無きにしも非ずです。

 だからドル・グルドゥアで虜囚となったガンダルフの顛末についても語られます。原作では間接的に語られているところまで直接的に映像化しようとは、ピージャクの追補魂が暴走しておりますね。
 実ははなれ山での出来事よりも、ドル・グルドゥアでの出来事の方が重要な感じです。ガンダルフを救う為にサルマン、ガラドリエル(ケイト・ブランシェット)、エルロンド(ヒューゴ・ウィーヴィング)が突入して大立ち回りを演じたり、遂に死人使いが正体を現しサウロンの〈炎の眼〉が顕現したりします。
 今回はガラドリエル様がほぼ無敵で、お一人でサウロンを退けたりします。奥方様、怖いッ。
 かくしてサウロンはドル・グルドゥアを追われ、モルドールに退散したと云う次第です。ここに『LOTR』でのサルマンの裏切りの予兆が現れておりますが、本筋にはあまり関係ない事件ではあります。
 それに前日譚として、そこで決着させるわけにはいかないのが辛いところです。

 本筋の〈五軍の戦い〉については、予想以上の大合戦シーンとなり、さすがの大迫力です。個人的にはトロールによる攻城部隊が気に入りました。
 トーリンも自力で正気を取り戻し、ドワーフ組も活躍するのですが、やっぱりレゴラスの見せ場の方に目が奪われてしまうのはやむを得ないか。もう、どんどんレゴラスが超人化していくようで笑ってしまいます。
 ラダガスト(シルヴェスター・マッコイ)も鷲の援軍を連れて救援に現れる場面で見せ場がありますし、ビヨルンさんも再登場して、三部作のクライマックスとしては抜かりなし。
 そしてフィーリ(ディーン・オゴーマン)とキーリ(エイデン・ターナー)の討ち死に続き(タウリエンの悲恋も予想通りですが、やはり哀しい)、トーリンとアゾグの因縁にも決着が付くわけですが、合戦終了後の処理についてはちょっと駆け足になったのが残念でした。
 まぁ、ビルボ(マーティン・フリーマン)もこれ以上、はなれ山に長居するわけにも行かないのでしょうが、トーリン亡き後のエレボールはダインが継承するあたりまでは描いて戴きたかった。
 バーリン翁(ケン・ストット)を始めとする生き残ったドワーフ組との別れのシーンも、割とあっさりしておりましたね。特にバーリン翁は、あそこが生前最後の登場シーンになるのかと思うと、別れ難いものを感じます。

 更に本作は、三部作のラストなのでエピローグにも尺を割いて、ビルボがホビット庄に帰還するところまで描かれております。帰還の旅はかなり端折っておりましたが。
 そして最後に再び老ビルボ(イアン・ホルム)の登場となり、『LOTR』第一作の冒頭へと繋がっていくワケで、本作を観終わるとまた『旅の仲間』が観たくなってしまいます。これではいつまでもループから抜け出せないですねえ。
 全作、エクステンディッド・エディションで耐久マラソン視聴するのは……無謀か。

 ところで、ライフワークとも云うべき仕事を終えてしまったピージャクは今後どうするつもりなんですかね。
 やはりこれからもトールキン原作小説専任映画化監督として頑張って戴きたいものです。まだ『指輪物語』の追補編に幾つかエピソードも残っているし、『シルマリリオン』だってあるじゃなイカ。




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