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2014年11月16日日曜日

イコライザー

(The Equalizer)

 デンゼル・ワシントン主演のサスペンス・アクション映画です。やっぱり『フライト』(2013年)なんかの社会派人間ドラマに出演しているより、こっちの方が断然いいです(アカデミー賞は獲れないかも知れませんが)。
 昼間はホームセンターの温厚な従業員、夜はどんな仕事もたったの一九秒で完遂する裏稼業の仕事人──と云う設定が予告編で散々流されておりましたが、ちょっと誇張されておりますね。「どんな仕事」でもでは無かったな。それに「裏稼業の仕事人」と云う訳でも無かったデス。
 世間に紛れて平和に暮らそうとしている謎の男──その正体は劇中で明らかになりますが──が、ひょんなことからトラブルに巻き込まれ、己の技能を駆使してたった一人で大きな組織に立ち向かい、最終的に「裏稼業の仕事人」に落ち着くまでの顛末が語られると云う趣向でした。

 なんかシリーズものの第一話のような印象だなあと思っておりましたら、本作は本当にTVドラマの映画化作品でした。
 エドワード・ウッドワード主演のドラマ『ザ・シークレット・ハンター』(1984~1989年)の映画化だそうで、日本でも九〇年代に放送されていたそうですが、寡聞にして存じませんでした。
 主演のエドワード・ウッドワードはカルト映画『ウィッカーマン』(1973年)くらいしか存じませんデス。いや、エドガー・ライト監督の『ホット・ファズ/俺たちスーパーポリスメン!』(2007年)にも出演しておりましたか。
 TVシリーズでは最初から主人公は仕事人だそうですが、本作では「主人公は如何にしてその道に進んだか」が描かれるという筋書きで、あわよくば続編制作も睨んでおるのでしょうか。

 ストーリーや設定に目新しいところはなくて、限りなくドコカデミタ感が付きまとっておりますが、デンゼル・ワシントンの燻し銀の演技が素晴らしいのでまったく気になりませんです。実に丁寧に演出されているので重厚な雰囲気もたっぷり味わえます。また、伏線をきちんと回収する手際もお見事でした。
 しかし逆に丁寧すぎるので、デンゼルさんが動き始めるまでの序盤がもたついているようにも思われますが、それはあの予告編の所為ですね。主人公は最初は仕事人では無いので、すぐに活動するようなことはしません。
 最初の内は平穏に暮らそうとしている様子や、とらえどころのない経歴などで伏線を敷いておき、謎めいた主人公の紹介に割と尺を使っております。

 本作の監督はアントワーン・フークア。『ザ・シューター/極大射程』(2006年)や『エンド・オブ・ホワイトハウス』(2013年)などの監督で、私の好きな監督の一人です。『キング・アーサー』(2004年)だけはちょっとアレでしたが。
 デンゼルさんがシドニー・ポワチエに次いでアカデミー主演男優賞を受賞した黒人俳優になったのは、フークア監督の『トレーニング デイ』(2001年)でしたね。相性がよろしいようで。

 音楽はハリー・グレッグソン=ウィリアムズで、アクション・ゲーム『メタルギアソリッド』シリーズの音楽が有名ですが、『カウボーイ & エイリアン』(2011年)や『トータル・リコール』(2012年)も担当しておりますね。
 割と社会派ぽい題材で渋いストーリーになりつつも、アクション映画らしいスコアのおかげで必要以上に暗くならずに済んでいたように思われました。本作は画面と音楽のバランス取れていて、なかなかいい感じです。

 まずは文豪マーク・トウェインの名言──人生で一番大事な日はふたつある。生まれた日と、生まれた理由が判った日である──の引用から始まります。
 冒頭から本作は主人公が「生まれた理由」、即ち天職を見つけるまでが描かれることが暗示されております。
 ボストンの街の朝の風景から始まり、とあるアパートの中で出勤の支度をするデンゼルさんが描写されますが、殺風景な部屋の様子や、ヘルシーな朝食のメニューなどに、必要以上にストイックな男であることが推察されます。あまりにも几帳面すぎる描写にも、ちょっと偏執的なものを感じてしまいます。
 職場のメタボな同僚のダイエットを手伝い、くじけそうな同僚を叱咤激励してトレーニングに励むあたりにも意志の強さが伺えますが、ホームセンターに就職する以前の職業については嘘くさい冗談でお茶を濁しているあたりが実に怪しい。

 一日が終わり、帰宅してもお一人様の寂しい食事で、孤独をもてあまして近所のダイナーに出かけていく。深夜のダイナーの常連であり、同じ時間に顔を合わせる娼婦とも言葉を交わしますが、非常に礼儀正しく控えめです。
 ここで登場する歌手志望の娼婦役を演じているのが、クロエ・グレース・モレッツ(以下、クロエたん)。とうとうクロエたんがサスペンス映画でコールガールの役を演じるまでに成長したことに、ちょっとビックリしました。最初はちょっとケバい化粧にダルそうな演技で誰だか判りませんでしたが。
 クロエたんはロシアからの移民であり、歌手デビューを夢見つつも、日々の生活に身を売って暮らしていると云う、なかなか切ない役どころです。デンゼルさんは職の貴賤で差別すること無く、「人はなりたいものになれるのだ」と励ましている。
 本作に恋愛要素は皆無です。実にストイックなデンゼルさん。

 都会の片隅で孤独に暮らす者同士の共感が描かれますが、そこでヒューマン・ドラマには流れません。
 クロエたんは質の悪いロシア・マフィアの組織から抜け出せず、ヤクザ者からぞんざいに扱われ、売春を強制されている。抵抗すると女でも容赦なく殴りつけるヤクザ者に厳しい視線を向けるデンゼルさん。
 すぐに助けに行くのかと思いきや、割と悩んで葛藤するあたりがちょっと丁寧すぎますでしょうか。予告編では、あっという間にロシア・マフィアのアジトに乗り込んでいくようでしたが、かなり展開が端折られていたようです。
 翌晩、ダイナーの主人からクロエたんが入院していると聞いて見舞いに行き、ひどい怪我の様子を目の当たりにして、娼婦仲間の女性から事情を訊いても、まだ行動に移さない。数日悩み、悶々とするデンゼルさん。ちょっともどかしいです。

 余談ですが、本作はソニー・ピクチャーズ制作なので、劇中に登場するIT機器は全部SONY製でした。クロエたんもデンゼルさんもロシア人共も、みんなエクスペリア大好きなのが笑えます。勿論、登場するノートPCはVAIOです。本作はSONY製のVAIOが映る最後の洋画かも。

 そしていよいよ意を決して売春組織のボスがいる高級クラブに出かけていくわけですが、ここでも最初は金銭で解決しようとして、自分の身銭を切って足抜けさせようとするデンゼルさん。勿論、ヤクザ共がそんなことに応じる筈も無く、交渉は決裂するわけですが、そこまで来て遂に腹を括ります。実力行使は最後の最後と云う姿勢までもストイック。
 実はこの時点まで、デンゼルさんがそんなに凄腕であるとは伏せられているので、いきなり五人のヤクザ者を秒殺してしまう展開に、予告編を見ていない人はビックリでしょう(そんな人がいるのか)。

 しかしこれで一件落着とはならず、ロシアの上部組織から強面の殺し屋が派遣されてくる。本作は、ボストンを舞台にデンゼルさんとロシア・マフィアとの暗闘を描くのが本筋です。
 このモスクワから来た男を演じているのが、マートン・ソーカス。『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズではエルフの王ケレボルン役でしたが、『ドリームハウス』(2011年)や『ノア/約束の舟』(2014年)なんかでもお見かけしますね。
 ロシアのヤクザ者らしく、全身にタトゥー入れまくりで凄みを効かせております。

 序盤がゆっくりしておりましたが、中盤からは次第に加速し、坂道を転がり落ちるようにデンゼルさんも実力を行使することに躊躇いが無くなっていきます。一度外れてしまったタガは元には戻らないのか。
 チンピラのレジ強盗やら、街の汚職警官共やらを実力で懲らしめていくうちに、ロシア・マフィアもデンゼルさんの正体を探り始め、やがて正面からの対決へと雪崩れ込んでいく。
 だが、デンゼルさんの正体を探ろうとしたマフィア共は壁にぶち当たる。記録に残る経歴は巧妙に擬装されていて、さっぱり尻尾が掴めない。奴は一体、何者なのか。
 ものすごーくドコカデミタ感が漂って参りますね。もう、主演がスティーヴン・セガールでも違和感の無い展開です。「イコライザー」の前に「沈黙の」と付けてもOK。
 実はまったく同じネタで、デンゼルさんは元CIAの凄腕エージェントだったのだあッ。そんな安直な。

 ロシア・マフィアに対抗するため、CIA時代の上司の手を借りに行くデンゼルさん。ここで登場する引退した上司夫婦がビル・プルマンとメリッサ・レオでした。
 ビル・プルマンと云えば、 『インデペンデンス・デイ』(1996年)の熱血大統領役でイメージが固定されてしまっているので、近年の老けたビル・ブルマンには意表を突かれました。『サベイランス』(2008年)とか、『キラー・インサイド・ミー』(2011年)とかスルーしておりまして。
 ちょっとマーティン・シーンを思わせる老け方です。
 メリッサ・レオの方は、フークア監督の『エンド・オブ・ホワイトハウス』(2013年)でもお見かけしましたし、『オブリビオン』(同年)や『プリズナーズ』(同年)にも出演しておりますね。老けても凛々しいオバさまです。

 CIAのコネから得た情報で、マフィアの拠点がどんどん潰されていく。CIAを甘く見てるとひどい目に遭いますね。やるとなったらド派手な爆破も躊躇わないデンゼルさん。もう容赦なし。
 逆にマートン・ソーカスの方が組織の中での立場が危うくなる。追い詰められたマートンはホームセンターの同僚達を人質にして罠に掛けようとしますが、更にその上を行くデンゼルさん。
 クライマックスは職場であるホームセンターを舞台に、数を頼んだ殺し屋共を一人また一人と血祭りに上げていく。手近な日用品が殺しの道具に転用されるのもドコカデミタ感たっぷり。
 序盤のホームセンターの描写や、同僚のトレーニング場面が伏線になっているのも巧い。

 そして遂にマートンを倒し、そこで終わるのかと思いきや、とことんヤッてしまうデンゼルさんは更にモスクワにまで出向いていき、組織の完全壊滅までやらかします。
 エピローグでは殺し放題。もはやデンゼル無双。
 かくして天職を見出したデンゼルさんは、無敵の自警団になると云う次第。チャールズ・ブロンソンとスティーヴン・セガールを足して二で割ったような感じです。リーアム・ニーソンも混じってますか。

 ところで、本作では最後まで題名の『イコライザー』については言及されません。
 本来は音響機器の名称であり、音声信号を調節して音質の補正や改善を行うものですが、それが転じて本作では主人公が「社会のイコライザー」になろうとするのだろうと推察されますが、なんか判りにくいです。
 あまり内容とは関係なさそうな題名ですが、元ネタのTVシリーズからして “The Equalizer” なので仕方ないか。
 とりあえずデンゼルさんがラストシーンでネットに告知を打つ「追い詰められた人達へ。助けになります」と云う文言も、TVシリーズを踏襲しているそうな。
 いっそ、本作も邦題を『ザ・シークレット・ハンター』にした方が通りが良かったのでは(ますます意味不明の題名ですが)。




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