2014年6月6日金曜日

グランド・ブダペスト・ホテル

(The Grand Budapest Hotel)

 ウェス・アンダーソン制作・脚本・監督によるコメディタッチのミステリ映画です。イマイチ確信が持てませぬが、ミステリ映画……だよな。
 なかなか断定しづらいのは、アンダーソン監督独特の演出が炸裂し、非常に奇妙な味わいに仕上がっているからです。毎度の事ながら、この雰囲気は癖になりますね。

 そして豪華すぎる出演陣。予告編の段階から、レイフ・ファインズを筆頭に、ジュード・ロウ、エイドリアン・ブロディ、ウィレム・デフォー、ティルダ・スウィントン、ジェフ・ゴールドブラム、ハーヴェイ・カイテル、エドワート・ノートン、ビル・マーレイ、オーウェン・ウィルソン等々と、何故にそんなに豪華なのかと不思議に思えるほどです。これも監督の人徳なのか。他にも、シアーシャ・ローナンや、トム・ウィルキンソンもいます。
 ビル・マーレイなんかは、もはや常連と化しておりますし、前作『ムーンライズ・キングダム』(2012年)から続けて出演している方もおられます。
 音楽もアレキサンドル・デスプラが、ここ数作連続して担当しておりますし。

 ただ、あまりに豪華な出演陣も、レイフ・ファインズのように全員が出ずっぱりというわけではありません。半分以上はチョイ役というか、カメオ出演に近く、どこで誰がひょいと顔を出すのかを観るだけでも楽しいです。
 とは云え、顔を出した瞬間に、すぐにそれと判るかと云われると、甚だ心許ない。
 素顔に近い役で登場する人はいいですよ。トム・ウィルキンソンとか、ジュード・ロウあたりは、出番が少ないとは云え、物語の語り手ですし、大袈裟なメイクの必要は無いです。ビル・マーレイのように、どんな役でもビル・マーレイにしか見えない人もいいでしょう。
 問題は、出番が少ない上に誰だかよく判らないメイクをしている人。

 それは、ティルダ・スウィントン。
 アンダーソン監督の前作『ムーンライズ・キングダム』では児童福祉委員の役でしたが、それほど過剰なメイクではありませんでした。ジム・ジャームッシュ監督の『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』(2013年)でも、吸血鬼役ではありましたが色白になった程度。
 やはりポン・ジュノ監督のSF映画『スノーピアサー』(2013年)からか。『スノーピアサー』も大概でしたが、本作のティルダ・スウィントンも、指摘してもらわないと「え。あれ、ティルダ・スウィントンだったの?」と云われかねないほどの化けっぷりです。

 他にも、ジェフ・ゴールドブラムや、ウィレム・デフォーのように、それなりに出番はあるのに、よく判らない人相になっている人もいます。
 本作を何気なく鑑賞しているだけだと、どこでどんな有名俳優が出演していたか見逃してしまい、そんなに豪華な配役だったかしらなどと大ボケかますことになりかねないので注意が必要です。どうにもアンダーソン監督にからかわれているような気がしてなりません。

 本作の構造からして、妙に入り組んだ入れ子構造になっていて、そこまで凝った作りにしなくてもいいのではと云いたくなるのですが、これがアンダーソン監督のコダワリなのでしょう。
 主たるストーリーは、一九三〇年代の東欧を舞台に、有名ホテルのコンシェルジュが富豪の遺産相続絡みの殺人事件に巻き込まれると云うものですが、それを語る手法が凝りまくり。

 まずは現代(だろう多分)。
 東欧の架空の国ズブロフカ共和国のとある墓地に、国民的有名作家の墓がある。名前は不明ですが、墓碑に銅像が付いているので、相当に有名な作家なのでしょう。
 一人の少女が、その作家を偲びながら銅像の前で、作家の著作を読み始めると、場面はその作品の中に移行します。
 そこで作家本人(トム・ウィルキンソン)が登場し、その作品が執筆された一九八五年まで時代が遡る。カメラ目線のトム・ウィルキンソンが「これから語る物語は、私が直に聞いた実話に基づくものである」と前置きして、語り始める。
 すると更に時代は一九六八年に遡り、若かりし日の作家(ジュード・ロウ)がグランド・ブダペスト・ホテルに投宿したときの記憶が語られていきます。そこで若き作家はホテルのオーナー(F・マーリー・エイブラハム)と知己になり、ホテルにまつわる興味深いエピソードを聞く。
 それはまだそのオーナーが駆け出しのベルボーイとしてホテルに雇われていた頃の、一九三二年に端を発する出来事で……。

 作家が何十年も前に聞いた伝聞を、本に書いて回想している場面を、読者が読んでいる、と云う入れ子構造。ホテルのオーナーの回想と、それを聞いた作家の回想と云う、二重の回想になっています。
 そこまで複雑にする必要があるのかしら。
 本作のメインはそのオーナー、F・マーリー・エイブラハムがジュード・ロウに語る物語になります。F・マーリー・エイブラハムも、駆け出しベルボーイ時代になると、トニー・レヴォローリに若返ります。
 そしてトニー・レヴォローリが師事した、当時のグランド・ブダペスト・ホテルを切り回していた伝説のコンシェルジュこそが、レイフ・ファインズ。
 又聞きの上に、数十年の時間経過を二回挟んでいるので、ますます不確かでファンタスティックなストーリーになりました。

 本筋は、このレイフ・ファインズとトニー・レヴォローリが巻き込まれる事件になりますが、元がトム・ウィルキンソンが書いた小説でもあるので、全体が章立てられています。全部で五つの章に分けられ、幕間には聞き手であるジュード・ロウの場面に戻ってきたりもします。
 最終的には、書き手であるトム・ウィルキンソンまで戻ってきて物語が締めくくられ、更に墓前で著作を読む少女の姿を映しつつエンドクレジットと云う形式です(だからトム・ウィルキンソンの出番は最初と最後だけ)。

 ズブロフカ共和国と架空の名前で呼ばれておりますが、ホテルの名前には「ブダペスト」と実在の地名が冠せられているので、多分ハンガリーのことでしょうか。
 劇中では三〇年代の豪華絢爛たるグランドホテルの内装と、六〇年代の共産主義国家になって寂れてしまったホテルの内装が描かれて、同じ場所でも時代の変遷を感じさせる背景美術が見事です。
 また三〇年代の時代背景として、来たるべき戦争の予兆も描かれていたりします。

 そして、レイフ・ファインズが演じる伝説のコンシェルジュ、ムッシュ・グスタヴの物腰の柔らかさと有能なホストぶりが実に優雅です。こんなに優雅なレイフ・ファインズを見たのは初めて。
 まぁ、今までは『ハリポタ』シリーズのヴォルデモート卿とか、ギリシャ神話の冥王ハデスとか、はたまた英国諜報部の部長なんて役が続いておりましたので、レイフ・ファインズと云えば「堅い役」とか「暗い役」といったイメージでした。それが本作ではニコニコと笑みを絶やさず、パステルカラーの衣装に身を包み、優雅で華麗な立ち居振る舞いでホテルを訪れる上客達をおもてなししております。

 ムッシュ・グスタヴ目当てにグランド・ブダペスト・ホテルを訪れる上客も多い中、一番の上得意は大富豪であるマダムD(ティルダ・スウィントンですよー)。劇中では御年八四歳と、相当な年齢のようですが、グスタヴに懸想し熱烈に愛を囁いております。なんかコワイ。
 そのマダムDがあるとき、居城で事故死したと報じられる(ティルダ・スウィントンなのに出番が短いッ)。マダムの遺言により、遺産の中でも特に高価な名画「林檎を持つ少年」はグスタヴに譲られることになるが、その直後にグスタヴにマダム殺害の嫌疑がかけられる。
 これは何者かの陰謀か──。
 
 マダムの死は実は殺人であり、真犯人が他にいるわけですが、そもそも本格ミステリではありませんので、もう登場人物達を見ているとバレバレであるのが逆に楽しいです。
 怪しさが爆発しているのが、マダムの息子ドミトリ役のエイドリアン・ブロディ。見るからに強欲そうで、財産相続を狙った犯行であるのが明白です。しかも手下に「自称・私立探偵」なウィレム・デフォーを従え、これがまた強面で荒事専門な悪党面。
 皆さん、悪役でもノリノリで楽しそうに演じておられます。総じてウェス・アンダーソン監督作品では、俳優が皆、楽しそうです。演じている役の背後に俳優自身が透けて見えますね。

 事件の真相を知るマダムの執事(マチュー・アマルリック)の謎の失踪。殺人容疑で逮捕されてしまったグスタヴは、身の潔白を証明するために脱獄し、失踪した執事を見つけようとする。
 警戒厳重な刑務所で知り合う牢名主のような囚人がハーヴェイ・カイテルだったり、脱獄したレイフ・ファインズを追ってくる憲兵隊の隊長がエドワード・ノートンだったりします。
 更に、師匠の脱獄に手を貸すトニー・レヴォローリの恋人役でシアーシャ・ローナンも登場しております。いつもながら可愛いシアーシャ・ローナンが、本作で作るケーキもまたプリティです。

 しかしそもそも、ストーリーが語られるより先に、六〇年代のグランド・ブダペスト・ホテルのロビーに、名画「林檎を持つ少年」が飾られているのをジュード・ロウが見ていたりしますので、事件の解決がハッピーエンドのうちに終わるのだろうとは、容易に想像がついたりします。
 本作は事件の真相よりも、解決までの奇想天外な紆余曲折の方が見どころであります。

 エドワード・ノートン隊長の追跡を振り切り、邪魔者の口封じに追ってくるウィレム・デフォーをかわしつつ、姿を消したマチュー・アマルリックを探すレイフ・ファインズとトニー・レヴォローリ。
 しかし、如何に伝説のコンシェルジュと云えど、雲をつかむような捜索には手も足も出ないのでは(探偵には素人同然ですし)と思われたところで、思わぬ助っ人が登場します。
 実は欧州各地の有名ホテルのコンシェルジュ達は、密かに秘密結社を結成していたのであった。レイフ・ファインズのピンチに、各国有名ホテルのコンシェルジュ達が連絡を取り合い、情報を収集して手を回してくれる場面はなかなか楽しいです。
 ここで各ホテルのコンシェルジュとしてチョイ役で登場する俳優の中に、ビル・マーレイもいたりします。

 善人の命を狙う悪漢と、そのあとから駆けつけてくる憲兵隊と、てんやわんやの大騒ぎに銃撃戦まで展開し、主人公は恋人と一緒に高所からぶら下がって危機一髪。何やら非常に懐かしいサスペンス映画を観る思いがいたしました。
 ヒッチコックばりのサスペンスも、アンダーソン監督流に処理されるとナンカ可笑しいです。銃撃戦もどこかほのぼのしていますねえ。

 大団円の末、事件は解決。万事ハッピーエンド……なのですが、そもそも何十年も昔の回想でありますし、その後の戦争勃発と云う暗い世相もありますし、決してハッピーなままと云うことは無いのが、ちょっとだけビターです。
 「え。そんなところで命を落としちゃうんですか」的にアッサリとその後が語られ、やがて関係者は皆この世を去り、それを記した作家も亡くなり、一冊の本だけが残る。
 どこまでが事実でどこからがファンタジーだったのか、煙に巻かれたように終わってしまう不思議な幕切れでありました。




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