2014年3月19日水曜日

LIFE!

(The Secret Life of Walter Mitty)

 本作は随分前から劇場で予告編が流され、当初は「シークレット・ライフ・オブ・ウォルター・ミティ(仮)」なんて安易なカタカナ題名で紹介されておりましたが、公開される前にはすっきりと『LIFE!』に縮められてしまいました。
 仮題がややこしかったので気がつきませんでしたが、これはジェームズ・サーバーの短編小説『虹をつかむ男』を映画化した作品でした。
 原作小説の翻訳題名の方を採用して戴きたかったところですが、邦画で山田洋次監督の『虹をつかむ男』(1996年)があるから無理だったのでしょうか(西田敏行主演で作品的には何の関係もありませんが)。

 ジェームズ・サーバーの原作短編の方は早川書房の異色作家短編集の一冊に収録されており、全巻揃えているので存じておりました(新装版の方ですが)。最近、文庫化もされましたし。SF者の嗜みですよね。
 この短編小説はかつて、ダニー・ケイ主演で『虹を掴む男』(1947年)として映画されておりますので、本作はリメイク作品と云うことになります。もっともさすがに私も旧作を観たことはないのですが。
 和田誠氏の軽妙なイラストと解説が楽しいエッセイ集、『お楽しみはこれからだ』(文藝春秋)で紹介されていたので記憶に残っております。映画の名セリフをネタにしたエッセイですが、ここで和田誠氏が『虹を掴む男』の中の名セリフとして紹介していたのが……。

 「ポケタ・ポケタ・ポケタ」

 本当に名セリフなのか。旧作を観ていないので何とも云えませぬが、原作短編の方にもちゃんとその言葉は載っております。ジェームズ・サーバーがそう書いている。
 これは珍妙な擬音でして、主人公には車のエンジン音がそのように聞こえており、そこから戦闘機パイロットになる白昼夢に突入していきます。ダニー・ケイも劇中で「ポケタ・ポケタ・ポケタ」と口走り、それがラストのオチに巧く使われていたそうですが……。
 果たしてリメイク作品である本作でもこれは使われるのだろうかと、気になっておりました。
 ベン・スティラーも、ダニー・ケイに倣って「ポケタ・ポケタ・ポケタ」……とは云いませんでしたね。全然。

 と云うか、どの辺りがジェームズ・サーバーの原作に準拠しているのかと思うくらい、壮大かつ感動的な作品に仕上がっておりました。あの短い短編小説をここまで膨らませるとは。
 とにかく脚本のスティーブン・コンラッドが盛って盛って盛りまくっております。
 原作の方では、冴えない中年男ウォルター・ミティ氏が奥さんとショッピングセンターに買い物に行くだけと云う実に単純なストーリーだったのに。その道中、ウォルターは戦闘機パイロット、天才的外科医、銃殺前の死刑囚等になる白昼夢を見る。読み終わるのに一〇分とかからない程の短編小説だったのに。
 「冴えない中年男が現実逃避して白昼夢を見る」と云う基本設定だけを抜き出して、あとはもうオリジナルと云って良いでしょう。主人公は既婚者ですら無い。映画にするなら独身にして、ラブストーリー展開を交えた方がいいと云う判断でしょうか(ダニー・ケイ版もそうだったらしいですし)。

 余談になりますが、私が『虹をつかむ男』を知ったのは、パロディ作品からでした。
 幼少時、NHKが放送していた海外ドラマ『虹をつかむネコ』なるTVシリーズを観ておったのです。主人公の弱虫ネコが様々な困難に遭遇する度に、白昼夢を見て、夢から覚めるとそれをヒントに困難を克服すると云うのが基本的なストーリー。現実部分は動物を使った実写で、白昼夢になるとアニメになります。
 他愛の無いコメディ番組でしたが、主人公のネコの吹替を広川太一郎が演じていたので、忘れられないものになりました。ああ、懐かしい。白石冬美もレギュラーでしたねえ……などと云っても若い人には判らんネタですね。

 さて、本作はベン・スティラーが制作、監督、主演と三役こなす大作映画となっております。ベン・スティラー監督作品としては『トロピック・サンダー/史上最低の作戦』(2008年)以来となりますでしょうか。
 共演はクリステン・ウィグ、アダム・スコット、パットン・オズワルトと、割とコメディ系の俳優さんが多く見受けられますが、それらに混じって、ショーン・ペンとシャーリー・マクレーンも出演しております。ショーン・ペンは予告編にも登場していたので存じておりましたが、シャーリー・マクレーンが登場したときには意表を突かれました。本作ではベン・スティラーの母親役として、なかなかの存在感を放っております。
 息子が色々と人生に煮詰まっているのを尻目にマイペースなお婆ちゃんでした。

 ベン・スティラー演じる主人公ウォルター・ミティ氏は、原作からは随分とイメージが変わりました。「冴えない男」であると云う点だけはそのままですが。冒頭から、単調かつ無味乾燥な日常を送っております。実に判り易い。
 ベンの職場も大胆に設定が変更され、グラフ雑誌『LIFE』編集部になりました。『LIFE』がまだ存続していたとは驚きました。あの雑誌、かなり以前に休刊になったのでは……。これは映画用に改編された歴史であるらしく、「『LIFE』が休刊にならなかった世界」であるようです。
 原題の “The Secret Life ~” に引っかけた設定ですね。だから邦題も『LIFE!』なのか。
 ベンはここで編集部のネガフィルム管理部門に勤めております。華やかな編集部とはまったく違う、昏く陰気な倉庫のような部屋で、大量のネガフィルムに囲まれている。謹厳実直だけが取り柄の冴えない男の職場です。

 尤も、劇中ではこのライフ社にも遂に終わりが訪れる。企業買収が行われ、『LIFE』も次が最終号である旨が宣言されます。
 リストラの危機に直面するわけですが、この期に及んでもヘタレのベンは想いを寄せる編集部のクリステン・ウィグには告白できないでいる。
 この序盤のシーンで何回か、ベンが白昼夢を見る場面があり、冴えない男が突如として火災現場で活躍したり、鷹を連れた冒険家になったりします。ほぼ原作に忠実な描写です(職業は変更されていますが)。
 覇気の無いベンが突如としてワイルドかつ威勢が良くなるギャップが笑いを誘っており、職場の嫌みな上司の胸ぐらをつかんでダイナミックに非現実的な戦闘に突入していく様子が迫力のCG特撮で披露されたりします。
 ほとんど意味なしのアクションシーンに力入れすぎです(素晴らしいデスね)。

 このまま現実と白昼夢を交互に繰り返していくのかと思われましたが、序盤を過ぎたらオリジナルな展開に突入します。
 『LIFE』最終号用に、社を代表する写真家から自分の最高傑作であるとメモ書きが添えられたフィルムが届くものの、送られてきたフィルムには肝心な部分に欠落があり、どんな写真なのかまったく判らない。編集部からは早く現像しろと矢の催促。
 長年、フィルム保管庫に勤めてきたベンとしては、「ネガを紛失した」とはどうしても言い出せなく、ひょっとして写真家自身が発送し忘れているのではないかと云う可能性に一縷の望みを託して写真家を探す旅に出る。

 この写真家をショーン・ペンが演じております。本作はほぼ「ショーンペンを探すベン・スティラーの冒険行」が主に語られるという趣向です。
 送られてきたフィルムの他のコマに映っていた断片的な画像を手掛かりに、世界中を旅する冒険写真家を追って、まずは北極圏グリーンランドに、更にアイスランドから、アフガニスタン経由でヒマラヤまでつづく長い長い冒険行となる。
 基本設定が「白昼夢を見る男の物語」であるので、これは全編が壮大なベンの夢なのでは無いかと考えておりました。最初から、夢オチ前提のストーリーですし。

 驚いたことに、すべて現実でした。白昼夢を見ては現実逃避する冴えない男が、切羽詰まった挙げ句、壮大な冒険旅行に出るのが本筋。
 「事実は小説よりも奇なり」を地で行くファンタジー展開に、やがてベン・スティラーは変貌を遂げ、白昼夢に頼らずに雄々しく人生に立ち向かう男になるのであった……。
 実に感動的なストーリーですが、ここまで来るともはや『虹をつかむ男』の面影がさっぱりありませんです。逆に、序盤にあったお笑いの白昼夢展開が妙に浮いてしまっております。
 あまりに序盤のファンタジーがリアルに描かれ、それはそれで見事なので、冒険の旅に出たベンが行く先々で出遭う様々な事件との区別がつかなくなってしまいました。
 だからきっとラストシーンで、ベンは社のフィルム保管庫から一歩も出ていないとか云う夢オチになるのだろうと予想していたのですが。
 テリー・ギリアム監督じゃあるまいし、そんな『未来世紀ブラジル』(1985年)的なオチではイカンですか。

 しかし白昼夢にしろ、現実にしろ、ストーリーとしては世界を廻る冒険が描かれるので、撮影もちゃんとそこでロケする必要があります。
 本作には、雄大かつ美しい大自然──グリーンランドやアイスランドの景観に始まり、北海の海原、火山の大噴火、果てはヒマラヤに棲息する幻のユキヒョウに至るまで──がテンコ盛りです。観光映画としても見どころ満載でしょう(滅多に行けないところまで行きますし)。

 音楽的にも本作は色々と聴き所が多いです。シオドア・シャピロの印象的なメインテーマに始まり、過去のヒット曲が随所で効果的に使われていたりします。
 個人的に一番の聴き所は、グリーンランドから北海の漁船に荷物を届けるヘリコプターに、ベンが意を決して飛び乗る場面にかかる曲。
 これがデヴィッド・ボウイの「スペイス・オデティ」でした。劇中では「トム少佐の歌」と呼ばれておりました。あの浮遊感溢れるメロディと歌詞が本作一番の聴き所でありましょう。
 SF者には忘れ難い名曲です。

 また、ライフ社の社是が劇中に何度か引用され、それがストーリーのテーマにも繋がっているという演出が巧いです。
 曰く、「世界を見よう/危険でも立ち向かおう/それが人生(ライフ)の目的だから」。
 これをベン・スティラーがまったくその通りに実践していくようになるのがお見事でした。時々、この文言が背景の中に何度か登場してきます。社是がビルの壁や、道路に書かれていたりします。
 ナニやらグラフィックデザイナーのソウル・バスにオマージュを捧げたようなビジュアルでした。
 本作はオープニングのクレジットからして、『ウェスト・サイド物語』(1961年)を思わせる「背景の中に書かれたクレジット」が楽しいデス。最近ではCGを使うと簡単なんですね。

 艱難辛苦の末に、ベンは写真家ショーンの所在を突き止めて追いつくが、探し求めたフィルムのネガはそこにはなかった。失意の末に帰国するベンですが、あきらめたところで思いがけないところからフィルムが発見される。メーテルリンクの『青い鳥』のようです。
 そして無事に発行される『LIFE』最終号。探し求めたネガの中身を確認すること無く提出してしまったベンは、最終号が発売されてからそれを目にして唖然とする。

 華やかな編集部とはほど遠い、地味なフィルム保管庫の仕事も、ちゃんと評価してくれる人がいると云うラストシーンが爽やかです。冴えない人生も実はそんなに捨てたものでは無いですね。
 人生、何が幸いするか判らない(特にスケボーについては)と云う部分も、観る人に希望を与えてくれるでしょう。
 劇中で描かれた旅先の景観が今一度、エンドクレジットと共に流れていく演出も楽しい、感動のファンタジー大作でした。
 でもやっぱりベン・スティラーには「ポケタ・ポケタ・ポケタ」と云ってもらいたかったデス。




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