2014年2月7日金曜日

アメリカン・ハッスル

(American Hustle)

 七〇年代にアメリカで起きた収賄事件「アブスキャム事件」を基にしたサスペンス映画です。冒頭に「実話を含む物語である」旨が宣言されますが、完全な実話に乗っ取っているわけではなく、一部脚色が施されているようです。
 悪徳政治家を検挙するために、FBIがオイルマネー絡みの架空の投資会社をでっち上げて贈賄を持ちかけると云う大筋はそのままで、FBI捜査官がプロの詐欺師を活用するのもその通りか(人物名は変えてありますが)。しかしマフィア絡みだったとか云うのはどうなんでしょね。原作に当たるノンフィクション小説は未読なので、そのあたりはいまいちよく判りません。

 本作の監督はデヴィッド・O・ラッセル。『ザ・ファイターズ』(2010年)、『世界にひとつのプレイブック』(2012年)と、近年の監督作品が軒並みアカデミー賞にノミネートされまくりの大監督ですねえ。
 正直、『スリー・キングス』(1999年)の頃はこれほどの大物になるとは思いませんでした。
 本作もまた、今年(2014年・第86回)アカデミー賞に同年最多の一〇部門ノミネートを果たしております。クリスチャン・ベールやジェニファー・ローレンスは、前述のラッセル監督作品でアカデミー賞を受賞しておりますが、監督御本人は前二作では監督賞を逃しておりますので、本作で三度目の正直となりますでしょうか。
 個人的には監督賞は『ゼロ・グラビティ』(2013年)のアルフォンソ・キュアロン監督に獲って戴きたいのですが(いや、ホントは『キャプテン・フィリップス』のポール・グリーングラス監督推しなんだけどノミネートされてないし……)。

 それよりもクリスチャン・ベールやジェニファー・ローレンスがまたオスカーを受賞してもおかしくはないです。
 本作はクリスチャン・ベール、エイミー・アダムス、ブラッドリー・クーパー、ジェニファー・ローレンスと、『ザ・ファイターズ』と『世界にひとつのプレイブック』に出演した人達が集まっておりますので、俳優に対するアカデミー賞──主演男優賞、主演女優賞、助演男優賞、助演女優賞──に各一名ずつノミネートされていると云う、演技派揃いの逸品です。
 他にもジェレミー・レナーも出演しておりますし、ゲスト出演的にロバート・デ・ニーロまで顔出ししてくれております。なんと豪華な。
 ラッセル監督も、前二作がアカデミー賞ノミネートは多数あれども、監督賞も作品賞も逸しておりますので、何やら総力を挙げて勝負に出ているような感がいたします。
 音楽も『世界にひとつのプレイブック』に続いてダニー・エルフマンですし。

 当初、題名を聞いたときは「何かのリメイク作品かしら」とも思ったのデスが、本作は歴としたオリジナル脚本です。
 でも昔、似たような題名のものがあったのでは……と、つらつら考えロバート・アルドリッチ監督の『ハッスル』(1975年)を思い出しました。バート・レイノルズとカトリーヌ・ドヌーヴ主演の刑事ドラマ。本作とはまったく何の繋がりもありませんでしたね(汗)。
 詐欺師、ペテン師の登場するコンゲーム映画としては、名作『スティング』(1973年)を筆頭に、『ペテン師とサギ師/だまされてリビエラ』(1988年)やら、『グリフターズ/詐欺師たち』(1990年)やら、『コンフィデンス』(2002年)やらと思い浮かぶところですが(他にも多数ありますが)、「犯罪捜査に詐欺師を使う」と云うのはありそうでなかったでしょうか(泥棒を使うとか、似たようなものは思いつきますが)。
 『ミッション : インポッシブル』は騙しのテクニックが売りですが、あれも詐欺師ではないか。

 詐欺師が登場する映画は、大抵の場合はマッチョなアクション映画にはなりませんですね。暴力に訴えることなく、華麗な頭脳プレイで相手を欺くのが痛快なので、脚本の出来がよくないとハナシになりません。ついでに観客の目も欺き、最後にあっと云わせてくれるとなお良し。
 本作でもクリスチャン・ベールとエイミー・アダムスが美術商になりすまして贋作を売って荒稼ぎする場面はありますが、特に騙しのテクニックが華麗であるわけではないです。地道に稼ぐ描写はリアルではありますが、それほど面白くもありません。
 やはり実話ベースだと奇想天外な技は使えないでしょうか。
 逆に、クリスチャン・ベールがあまりにも所帯じみて冴えない風貌であるのが情けないです。メタボな上に頭髪も薄く、不自然な九一分けが痛々しい。

 クリスチャン・ベールはエイミー・アダムスを相棒にして贋作詐欺で生計を立てる詐欺師ですが、副業としてクリーニング店も営んでいます。いや、本業がクリーニング屋で、儲からないから詐欺もやっているのか。
 エイミーとは仕事上の付き合いを超えて愛し合うリア充な関係ですが(爆発しろ!)、ちゃんと正妻がいてジェニファー・ローレンスの尻に敷かれまくっている。ジェニファー自身は詐欺師というわけではなさそうですが、本職の詐欺師である亭主を口で言い負かすほどに、舌が回って屁理屈を捏ねまくる姿が笑えます。
 エレガントな愛人とビッチな正妻に挟まれている図と云うのは、あまり羨ましいとは云えません(でも爆発しろ!)。

 カモを相手にしているときは自信たっぷりに喋っているクリスチャンが、ジェニファーの前ではタジタジになる。クリスチャン自身もこんな女房には辟易しており、離婚はしたいが、さりとて愛する息子の親権は奪われたくないので離婚に踏み切れないでいると云う状況。
 華麗なる詐欺師と呼ぶにはほど遠い冴えない男ですが、人間心理の隙を突く弁舌と頭の回転だけはそれなりです。
 本作では、あのクリスチャン・ベールがブヨブヨのメタボ腹をさらす姿が映りますが、特殊メイクではなさそうです。あの脂肪は自前でしょう。作品によってはマッチョになったり、ガリガリに痩せたり、自在に体型を操っているのがお見事でした。

 クリスチャンとエイミーのコンビに目を付けるのが、FBI捜査官のブラッドリー・クーパー。
 あるときFBIの囮捜査に引っかかり、刑務所送りになりたくなければ協力しろと強要される。愛人と国外への高飛びも考えたが、息子を放ってはおけず(正妻はどうでもいいが)、やむなくブラッドリーの捜査に協力する羽目に。
 目標はアトランティックシティの再開発で大儲けを企む悪徳市長のジェレミー・レナー。こいつを検挙するために、クリスチャンの腕を借りて収賄の現行犯で逮捕しようという目論見です。
 ジェレミーが支援者たちに演説するのを、傍で見ていたクリスチャンが感心する場面が面白いです。所詮、政治家も詐欺師も同類だと皮肉っているようですが、政治家は自分の嘘を自分でも信じ込んでいるらしい。プロの詐欺師よりもタチが悪いと、唖然とするクリスチャンが笑えました。

 さて当初、ブラッドリーはナイスガイな捜査官に見えますが、相当に押しが強い上に我も強く、FBI局内でも上司から煙たがられている。詐欺師を使った囮捜査に上司がOKを出していないのに、それを無視して勝手に計画を進めようとしたりします。
 計画の為に費用がかさもうとゴリ押しする態度は、あまり好きには慣れませんです。部下には欲しくないタイプですね。上司へのリスペクトもまるでない。
 クリスチャンの痛々しい九一分けを馬鹿にするくせに、自分は自宅で頭にカーラー巻きまくりだったりするのが笑えます。パンチパーマへのコダワリが涙ぐましいデス。

 本作は、登場人物達の髪型やファッションといった風俗描写に七〇年代な趣が見受けられて、なかなか興味深いデス。ジェレミー・レナーのヘアスタイルもイカします。
 劇中に流れる音楽も、デューク・エリントンを始めとする歌曲が懐かしい。LP盤のレコードなんて、もう見なくなりましたねえ。ミラーボールがキラキラなディスコとか、イカニモ七〇年代。
 台詞の上でもジミー・カーター大統領の政策をけなしたり、前任のニクソン大統領とベトナム戦争にも言及したりしております。

 そしてクリスチャンのペテン計画が図に当たりそうになると、どんどん欲が出てくるブラッドリーです。
 政治家のみならず、名だたるマフィアの幹部までが計画に釣れそうになって、だんだんと見境なく熱くなっていく。地道な詐欺で満足しているクリスチャンの目からすると、相当に危うい。マフィアを相手にして只で済むわけがないのに、ブラッドリーは聞く耳持たず、「政治家もマフィアも一網打尽」などと云う夢を描いています。
 ここでマフィアのドン役でロバート・デ・ニーロが登場して、クリスチャン・ベールが冷や汗をかく場面があります。デ・ニーロの出番は多くはありませんが、さすがの貫禄です(マフィア役が板に付きすぎ)。
 但し、用意した偽物の「アラブの大富豪」の正体がばれそうになる下りで、ちょっと御都合主義的な展開も感じました(偽物なのにアラビア語を喋れたりして)。

 ブラッドリーとデ・ニーロの板挟みになる一方で、エイミーとジェニファーとの板挟みにもなり、公私にわたって追い詰められていくクリスチャン。
 その上、仕事上での騙し合いだけでなく、男女間の騙し合い、化かし合いがドラマに入ってきて、こちらの方でも抜き差しならなくなっていきます。
 次第にエイミーがブラッドリーに惚れていくような態度を見せ始め、気が気ではないのに、ジェレミー・レナーを嵌めるためのパーティ会場には妻のジェニファーを連れて行かねばならない。パーティ会場で正妻と愛人が対峙する場面は、FBIの計画よりも冷や冷やします。
 二人の女優の目の演技が素晴らしいデス。火花散ってますよ。

 個人的には、ジェニファー・ローレンスの演技が印象的でした。見た目に何か考えがあるのではと思わせて、実はまったく愚かなビッチです。
 パーティ会場で知り合ったマフィアの関係者に、亭主の仕事についてペラペラ喋りまくる場面には呆気にとられました。そこまで空気読めない愚か者ではなかろう、これは高度に戦略的なクリスチャンのペテン計画の一環なのだ……と思ったら、全然そうじゃなくて本当に計画が破綻を来してしまう。慌てふためくクリスチャンの図がおかしいというか、可哀想というか。
 亭主の命まで危険に晒しているのに、あっけらかんと「アタシ、何も悪いことしてないわよ」的に開き直る図太い神経には殺意さえ覚えますね(笑)。

 マフィアにネタバレして殺されそうになり、生と死の境目ギリギリのところでクリスチャンに起死回生の妙案が閃く。追い詰められないと本気になれない人です。
 それがどんな妙案だったのかと云うのが、クライマックスで明らかになるのですが、これがちょっと予想外の展開でした。それまでずっとブラッドリーの計画に沿って進行していたので、その線で行くのかと思い込んでいましたが、別にクリスチャンはそこまでFBIに肩入れするつもりもなかったですね。
 ふたを開けてみれば、何もかもがクリスチャンとエイミーにとって都合良く運ぶ展開に落ち着き、ブラッドリーの「一斉検挙のドリーム」は霧散してしまう。まぁ、現実はそこまで都合良くありません。
 おまけに、今まで蔑ろにしていた上司にいいところを掠われて、ブラッドリーもまた一杯食わされたオチになります。それも自業自得と云うべきでしょう。
 現実的な解決策であり、引っかける相手だったジェレミー・レナーに対して抱いていた友情はもはや壊れて元には戻らない(そりゃそうだ)。
 若干、ビターな結末ではありますが、クリスチャンの境遇的にはビッチ妻との離婚、愛人との復縁、息子の親権確保と、ほぼ望み通りになるのが巧いです(この結末は現実とは異なる映画オリジナルだとか)。

 総じて、登場する俳優達の見事な演技合戦が見物ではありますが、ストーリー的にはそれほど痛快と云うわけでもなかったでしょうか。
 リアルなストーリーが元では、そこまで期待してはイカンか。『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(2013年)のようにハイテンションではない分、ちょっと結末のインパクトに欠けるような気がいたします。役者の演技には文句の付けようもないのは確かなのですが。




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