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2013年12月31日火曜日

魔女っこ姉妹のヨヨとネネ

(Magical Sisters Yoyo & Nene)

 ひらりん作のコミック、『のろい屋しまい』の劇場版アニメ化作品です。てっきりオリジナルの企画と思っておりました。不勉強でした。
 非常に緻密な設定を、一〇〇分と云う手頃な尺の中にこれでもかと詰め込んだ、実に中身の濃い長編アニメーションでありました。
 本作の人気が出て、アニメもシリーズ化されればいいのに。続編も是非。

 これを機会に原作コミックスも少し読んでみました(三冊ほどありますが、まだ最初の方しか読めてません)。映画化された為か、新装版が近日発売だとか。もう少し待てば良かったか。他にも絵本や児童文学にもノベライズ(?)されております。
 とりあえず原作からして、非常に中身の濃い作品であったと云うことだけは判りました。少ない頁数に複雑な設定を詰め込んでおられます。
 何しろ、描き込みが緻密なので「ゆっくり読んで下さい」と云う作者直々の注意書きがあるくらいです。

 原作者ひらりんの名前は存じませんでしたが、作家の大塚英志の事務所に所属し、大塚英志原作のコミックのデザインを担当している方だとか。大塚英志原作だと、『魍魎戦記MADARA』とか『多重人格探偵サイコ』なんてのがありましたねえ(未読ですが)。でも『黒鷺死体宅配便』のシリーズは読んでますよ(ついでに『超鉄大帝テスラ』の続きをずーっと待っているのですが……)。
 アニメ化したのは ufotable(ユーフォーテーブル)。劇場版『空の境界』シリーズを制作したところですね。最新作の『空の境界/未来福音』(2013年)も観に行きましたので、原作についての知識は皆無でしたが、一定水準以上の出来ではあろうと期待しておりました。
 期待に違わぬ出来映えで非常に満足であります。

 前述のとおり、まったく何の予備知識も無く、劇場に足を運んだのは単にチラシの絵柄が好みであったと云う、非常に単純な理由でした。
 本作のキャラクターデザインは柴田由香。私が今まで観たことのあるアニメの幾つかに関わられておりますが、キャラクターデザインから総作画監督まで務めたのは本作が初めてでしょうか。
 やはり何を云うにしても、主人公のヨヨさんが可愛いです。
 監督は平尾隆之。『空の境界』シリーズの中では第五章「矛盾螺旋」(2008年)の監督さんですが、他はよく存じませんデス(汗)。

 とりあえず馴染み深いお約束──魔女はつば広の三角帽子に黒装束で、ホウキに乗って空を飛ぶ──に則って繰り広げられる冒頭部分のアクションだけでも、掴みはOKですね。
 パステルカラーのファンタスティックな世界の森の中で、巨大なぬいぐるみのようなモンスターと戦う魔女姉妹。
 詳しい事情はさっぱり判らないながらも、絵と動きで見せていく演出が巧いです。
 色々と判らないことはあるにしても──何故、姉のヨヨさんは、妹のネネちゃんより年下に見えるのかとか、カエルの従者は何者なのかとか──、とりあえずアクションの楽しさだけで引き込まれました。
 このアバンタイトルのアクション描写のみならず、本作は全編にわたって、キャラがよく動きます。感情表現も豊かだし、久しぶりにアニメらしいアニメを観た気になりました。

 冒頭で巨大化したぬいぐるみのようなモンスターを退治し、主役を紹介したところでオープニング。飛びだす絵本風の演出が凝っていて楽しいです。絵本風の演出であるのは、原作の冒頭にもそのような描写があるからで、本作のストーリーはオリジナルですが、背景設定等はかなり忠実にアニメ化されているように見受けられます。
 主役のヨヨさんからして、「絵本級大魔法使い」と名乗っております。絵本に載るくらい有名な魔法使いに与えられる呼称だそうで、その下がネネちゃんの「お手本級魔法使い」。上へ行くと「森の遺跡級」とか「終言級」などがあるそうな(笑)。

 さて、このファンタスティックな世界は「魔の国」と呼ばれております(「マの国」と書くと『聖戦士ダンバイン』のようだと云うのは、年寄りのアニメ者の戯言です)。ヨヨさんとネネちゃんの姉妹は森の中の、いかにもなツリーハウスで「のろい屋」を営業しております。
 「かけます解きますのろいや姉妹」と云うのがキャッチフレーズ。
 まぁ、やはり魔女ですから。「呪いをかけてナンボ」の稼業なのですね。

 まずは「行方不明の姉を探して欲しい」と云う依頼を請けたところで、おもむろに本筋の事件が始まります。
 森の中に突如として、近代化した高層建築物が降って湧く。木々に絡まれてキテレツにねじくれていますが、どう見ても高層マンションです。ファンタジー世界の住人には異質なもののようですが、観ている側には明かです。
 建物内を探索しようと足を踏み入れたヨヨさんは如何なる魔法によるものか、ねじれた空間を通り抜けて「現実世界」に現れる。
 ファンタスティックな「魔の国」と、リアルな現実世界の描写の対比が効いております。すぐに判りますが、場所は横浜近郊であるようです。劇中ではアクションの背景に中華街も登場しますし(聖地巡礼も容易に出来そうです)。

 魔法を信じない現実世界の少年と知り合い、更に奇怪な事件に巻き込まれていくヨヨさん。
 いきなり少年の両親がクラゲのような「人間でない奇怪な生き物」に姿を変えられてしまう。冒頭の描写があるので、奇怪な生き物が「魔の国」のモンスター風であるのが判り易いです。
 更に少年の友達数名もが、次々に姿を変えられていく事件へと発展し、どうやらスマートフォンで流行っている「願いごとを叶えてくれるアプリ」なるものが背後にあるらしい。
 ダウンロードすると液晶画面に魔方陣が描かれ、願いをかけると本当に願いが叶うようですが、その代償として姿を変えられてしまうと云う悪質なアプリです。

 謎のアプリの流通と並行して、現実世界から建築物が消失するという事件が頻発し始め、それが「魔の国」の森に次々に降って湧いていく。
 次第に「魔の国」が現実世界に侵食されていくようでもあり、両方の世界で大騒ぎになり始める。
 これがヨヨさんが最初に依頼を請けた「行方不明になったある魔女」の事件とリンクしているようだと云うのが、判り易い伏線です。
 一方、「魔の国」では現実世界からの建築物の襲来が侵略行為であると断定され、超強力な大戦艦〈ハロウィンパーティ MkII〉の出動が決定される。異世界間の戦争になるまで僅かな猶予しかない。
 果たしてヨヨさんは二つの世界を救うべく事件を解決できるのか。

 シリアスな事件が進行していきながらも、ファンタジー世界の住人であるヨヨさんが現実世界で遭遇するカルチャーギャップが随所に盛り込まれ、笑いを誘っております。でも、お湯を注いで作るヤキソバは魔法ではありません……。
 また、ヨヨさんの髪の色が、いかにもアニメぽいグリーンであるのにも理由があったりして。
 かと思えば、基本的に「人の死」が理解できないヨヨさんが──「魔の国」では滅多に人は死なないので──、現実世界で否応なく死に対面して泣き崩れる場面などもあり、緩急つけた演出であるのはお見事でした。ヤキソバは魔法ではないが、救急救命士の技術が「魔法のようだ!」と云うのは、よく判りますね。

 主役のヨヨさんを演じているのは、諸星すみれ。最近、幾つかのアニメでよく目にするようになりました。
 ディズニーの『シュガー・ラッシュ』(2013年)のヴァネロペ役(吹替版)でも馴染み深いです。
 妹のネネちゃん役が加隈亜衣です。一瞬、元〈モーニング娘。〉の加護亜依かと読み間違えました。まったくの別人ですね(紛らわしいデス)。こちらもまだ新人声優なのか。
 うーむ。歳のせいかだんだん声優さんの名前に馴染みが薄くなっていく。
 しかし、あまり馴染みがないとは云え、演技の方では違和感ありませんです。フツーのアニメとして視聴できます。芸能人や新人声優を起用するとビミョーに浮いてしまうアニメもありますが、本作はそんなのではありませんデス。

 周囲には、沢城みゆき、櫻井孝宏といった安定した方々が配役されております。中川翔子の名前も見受けられます。しょこたんはヨヨさんの使い魔のネコ(ようなナニカ)の役でした。
 出番の少ないカエル従者の役に子安武人がおります。原作の方ではイケメンの騎士として登場し、呪いを受けてカエルにされるエピソードもあるのですが、本作では最初から最後まで、ただのカエルです。
 脇役にベテランを配する当たり、シリーズ化も狙っているのでしょうか。是非ともTVシリーズ化して、子安武人には活躍していただきたい。
 また、本田貴子、氷上恭子といった方々にも、もっと出番が欲しかった……。

 しかし題名に『魔女っこ姉妹のヨヨとネネ』とある割に、姉のヨヨさんばかりが活躍し、妹のネネちゃんには出番があまり無かったのが、ちょっと不満でありました。
 大体、現実世界に転移してしまうのはヨヨさんだけであり、ネネちゃんとは水晶玉を介して連絡を取りながら事件を解明していく展開ではあるものの、ネネちゃんが直接事件に介入できるわけではない。
 二つの世界の危機を、姉妹が双方から協力して解決する筋だともっと良かったのに。そこが残念と云えば残念です。
 濃密な設定を駆使しながら、スピーディにテンポ良くストーリーが進行していくのはいいけれど、やはり尺が一〇〇分という限りある長さですので、描き足りないところが出てきてしまうのは仕方ないところはありましょうか。観ている最中には気になるものでもありせんが。

 やがてヨヨさんは、行方不明になった魔女が現実世界で辿った経緯を知り、事件の原因を突き止めるわけですが、そこには最初から悪意など存在しなかったと云う展開なのがいいです。
 悪意など無くても、予期しなかった不幸な事故は起きるものである。
 「願いを叶えるアプリ」も、善意から生じたものだったのに、作成者が予想しなかった使われ方をした為に悪影響を生じてしまう。どんな願いごとも、自分勝手なものばかりでは、それは呪いと同義であると云うのが怖ろしい。
 しかし人間達の利己的な欲望が暴走した結果が事件の原因であるとは云え、その解決もまた人間の心にあると云う描写がいいですね。危機に際して他者を思いやる心がヨヨさんのピンチを救う展開になるのが感動的でした。
 見知らぬ人々が助けあう美しい場面が、近年の災害での出来事を想起させる巧い演出です。

 「魔の国」に帰れなくなった魔女が願った、「我が子に自分の故郷を一目見せてやりたい」と云う願いもラストで成就され、戦争も回避されて、大団円のハッピーエンド。ヨヨさんも無事に「魔の国」に帰還します。
 エンディング主題歌に小松未可子の「虹の約束」を流しつつ、エピローグが断片的に紹介されていきます。

 本作単体でも充分に満足できる出来映えではありますが、原作のコミックスにもあるエピソードをもっと観てみたいものであります。
 繰り返しますが是非、シリーズ化を。子安武人のカエルにもっと出番をッ。




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