2013年12月19日木曜日

47 RONIN

(47 RONIN)

 かつてジョン・フランケンハイマー監督、ロバート・デ・ニーロ、ジャン・レノ主演の『RONIN』(1987年)の劇中で、赤穂浪士について触れられたセリフを思い出します。
 「君は四七士を知っているかね(“Do you know 47 RONIN ?”)」
 冷戦終結により用済みとなって、解雇されてしまった各国諜報部員達を、主君を失った武士──浪人──になぞらえると云うサスペンス・アクション映画でしたが、あまり『忠臣蔵』とは関係なかったですねえ。仇討ちとかもしなかったし(でもカーチェイスの場面だけは凄かった!)。
 ストーリーに仇討ちを取り込んで、デ・ニーロをもっと大石内蔵助ぽく描ければ面白かった……のかなあ。

 『RONIN』の劇中では「赤穂浪士の吉良邸討ち入りの場面」をフィギュアで再現したジオラマなんかも登場しておりましたが、なんだか時代考証そっちのけのトンデモなジオラマでした。
 しかしどうやら、そのイメージは欧米人に共通しているらしいと云うのが、本作で明らかになったように思われます。いや、トンデモさでは本作の方が上か。
 なにしろ今度は単なる例え話では無く、そのものズバリの『忠臣蔵』の映画化ですからね。
 日本じゃ毎年のように年末は『忠臣蔵』がドラマ化されたり映画化されたりしておりましたが、とうとう洋画で製作されるか。
 しかもキアヌ・リーヴス主演。

 観る前から、既に相当の覚悟を求められているような作品です。いやもう、予告編を見ただけでも、トンデモない作品だという雰囲気はヒシヒシと伝わって参ります。どこが時代劇なのかよく判りません。
 数年前から製作が始まったことだけは報じられておりましたが、紆余曲折の末やっと公開されました。
 その間にキアヌ・リーヴス自身の浮き沈みの方が話題になったりしまして、一時は肉の塊のように激太りしたキアヌも(あのヴァル・キルマーより凄い肥え方でした!)、本作公開前に来日したときには元通りになっていました。いやぁ、俳優の肉体改造って凄まじい。

 本作は、流行りの3D上映もあるCG特撮テンコ盛りのアクション・ファンタジー大作です。3D上映の際には日本語吹替版も用意されている。
 でも私が観たのは2D・字幕版でしたが。
 しかしこの字幕版もまた興味深い。字幕が戸田奈津子によるものであるのはいいのですが(大作映画にベテラン翻訳者ですからね)、字幕に監修が付いている。
 本作の字幕監修は、作家の冲方丁です。へえ。SF作家として馴染み深いが、世間的には時代劇作家である方が印象深いからなのでしょうか。

 どこまでが監修によるものなのかは判りませんが、劇中では極力、台詞を時代劇用語に置き換えているように見受けられました。
 「ショーグン」と云っていても、字幕では「上様」になっているし。字幕だけ読んでいる分には、まったく普通の時代劇のようであります(読むだけならね)。
 でも耳に飛び込んでくる単語は「ロード・アサノ」だとか「ロード・キラ」だとか、違和感バリバリな単語が多くて、吹替版より笑えそうな気がします。両方、見比べたいところですね。
 英語劇だから仕方ないとしても、台詞の端々に「サムライ」だとか、「セップク」だとか、「テング」だとか聞こえてくるのも可笑しさを倍増してくれます。

 日本を舞台にした物語なので、日本人の俳優が多数出演しているのは有り難いです。皆さん、英語劇でも自然に演じておられます。実にお見事。
 まずは大石内蔵助役が、真田広之です。『ウルヴァリン : SAMURAI 』(2013年)に続いて本作でも日本刀での立ち回りを見せてくれます。
 敵役の吉良上野介役が、浅野忠信。「浅野」なのに「吉良」役か。こちらも『バトルシップ』(2012年)以降も洋画への出演が増えてますね。『マイティ・ソー』シリーズにも登場してくれてますし。

 女優陣も負けてません。菊地凛子が吉良上野介に使える妖術使いの魔女役です。うーむ。このあたりからファンタジー色が濃厚になってきます。やはり悪の領主には妖術使いが付いていないとイカンのでしょうか。ちょっと西洋ぽい構図が見えてしまいますね。
 でも菊地凛子は実に妖艶な魔女を演じてくれております。『パシフィック・リム』(2013年)よりこちらの方が目立っています(悪役の方が目立ちますし)。
 この魔女が「清水一学」的なポジションだったのかしら。
 そして「妖艶な魔女」がいれば、「清楚なお姫様」もまた登場しなければなりません。
 柴咲コウが浅野内匠頭の愛娘、ミカ姫を演じております。内匠頭に娘がいたと云う設定で、まず大方の日本人は眉をひそめちゃいますね。

 でも、基本的に野郎ばかりの『忠臣蔵』を、中世日本のラブストーリーにするには、これが手っ取り早い。勿論、キアヌ・リーヴスとの身分違いの恋に身を焦がし、吉良上野介との意に沿わぬ婚礼に抵抗し、助けを求めるお姫様です。
 一応、時代劇かつラブストーリーなフォーマットに則っているとは云え、『忠臣蔵』でソレをするのか。クラクラする設定変更ですわ。日本人には出来ないことですねえ。

 この他、浅野内匠頭役が田中泯です。『外事警察/その男に騙されるな』(2012年)では核爆弾を作っちゃう科学者でしたが、やはり時代劇が似合います。
 将軍徳川綱吉役が、ケイリー=ヒロユキ・タガワ。どう見ても「綱吉」と云うよりも「家康」をイメージしたような役作りでしたが、ショーグン・トクガワと云えば家康の方が外国の方には馴染み深いのでしょうか。
 徳川綱吉を出すなら、柳沢吉保もセットで出して戴きたかったところですが、そのあたりは整理されてしまっております。

 まぁ、赤穂浪士も四七人全員に出番があるわけではないですし、仕方ないか。一応、「ホリベ」とか、「ハラ」とか、「イソガイ」とか赤穂浪士の名前が呼ばれたりしますが、あまり堀部安兵衛や原宗右衛門らしくは見えません(と云うか、誰が誰やら)。でもイソガイは磯貝十郎左衛門らしく、ちゃんと情報収集する役目を仰せつかったりしておりました。
 大石内蔵助の息子もちゃんと「チカラ」と呼ばれます。ちなみにこの主税役は赤西仁でした。
 まあ、中には「バショウ」なんて名前の浪士もいますし(字幕ではちゃんと「芭蕉」と表記されます)、スモートリのようなメタボなローニンも見受けられました。なんか外国人的日本観の最大公約数的イメージで構成されているようです。
 うーむ。やはりハイクを読むサムライならバショウなんですかね。大高源吾では判らんか。

 キアヌ・リーヴスは英国人水夫と日本人女性の間に生まれた混血児という設定で、捨て子だった頃に赤穂山中(どこだよ)に住まう天狗に拾われ、幼少時より天狗に武芸を習ったという、牛若丸みたいな役どころです。
 混血として差別を受けながらも、剣の腕は滅法強い。妖術混じりの剣を振るいながらも、その技は人前で披露せずに隠している。奥ゆかしいですね。

 キアヌの育ての親である天狗を演じているのが伊川東吾でした。『モネ・ゲーム』(2012年)では日本人ビジネスマン役でカラオケを歌ったりしておりましたが、本作では元の人相が判らないくらいの特殊メイクで天狗になっております。
 この天狗、人間と云うよりも、鳥の顔をした妖怪といったイメージで、やはり「カラス天狗」をリアルに表現しようとしたのでしょうか。でも衣装が黄色い僧衣なのがミスマッチ。「仏教僧」と「修験者」の区別が付いていない感じでした。

 まぁ、間違っているところにツッコミを入れていけばキリが無い。全編ツッコミ処のみ。
 衣装も髪型も、日本なのか中国なのかよく判らないデザインですし。
 背景もまた「絶対に日本じゃないよね」的に雄大な景観、奇抜な景観のオンパレード。吉良邸はもはや屋敷ではなく、巨大な暗黒城と化しております。
 「出島」なる場所も描かれ、「鎖国中でも南蛮人が出入り出来る港」であるのは正しいとしても、そこだけ『パイレーツ・オブ・カリビアン』かよと云いたくなる景観でした。ジョニー・デップがひょいと顔を出しても違和感ないくらいです。
 各々の場面の位置関係がまったく判らないというのも、日本人でなければ気にならないのでしょう。

 とりあえず色々と間違っているような『忠臣蔵』ですが、予算のかけ方は半端ではないと云うことは判ります。様々な背景となるセットはどれもこれもリアルで重厚。鎧兜や衣装も立派なものです。
 鎧兜については、浅野側のイメージカラーがレッド、吉良側のイメージカラーがブラックであると色分けされているのも判り易いですね。当然、将軍家のイメージカラーはゴールドです。
 ただまぁ……方向性を全力で間違えているだけ。

 日本人俳優がこれだけ大勢出演しながら、ここまで「間違った日本」が描かれているとは驚きデス。『ラストサムライ』(2003年)で、かなり日本のイメージも修正されたかに思えたのですが、ハリウッド的日本観は変わらないのでしょうか。
 誰も教えてあげなかったのか。それともカール・リンシュ監督が聞く耳持たなかったのか。
 あるいは、全部承知の上でのツッコミ待ちか。

 全部承知の上だと思えるのは、色々とヘンテコであるくせに、部分的に正しい描写も見受けられるからでして。切腹の作法とかは洋画とは思えないくらい、きちんとしているように見えました。
 でも作法がきちんとしている分、「そんなところで腹を切るの」と云いたくなる場面でもありまして……。
 基本的に「浅野内匠頭が吉良上野介を斬ろうと刃傷沙汰に及ぶ」とか、「内匠頭が切腹して、藩士達が仇討ちを誓う」といった展開は踏襲されています。ところどころ原典通りなのが、実にもどかしい。
 やはり「判って間違えている」のか。

 そしてクライマックスは当然、討ち入りです。ミカ姫と吉良上野介の婚礼を阻止せんとキアヌも参戦して暗黒吉良城に攻め入り、菊地凛子と壮絶に戦います。
 一方、真田広之と浅野忠信が一騎打ち。ここで真田広之には是非、陣太鼓を叩いて戴きたかったところですが、もはや太鼓なんて叩いている暇も無いくらい盛大なチャンバラが繰り広げられます。
 大石内蔵助が直々に吉良上野介を討ち取る、なかなかダイナミックな『忠臣蔵』でした。

 そしてラストは、やっぱり浪士達の切腹シーン。
 前夜にミカ姫と一夜の契りを交わした後、キアヌも真田広之らと並んで白装束となり、ちゃんと辞世の句も詠みました。英語の俳句なので、もうちょっと字幕には頑張って戴きたかったところですが、日本語吹替版では五七五になっているのでしょうか。
 ハリウッド俳優の切腹シーンというのは初めて観た気がします。
 切腹の瞬間だけは表情の方が映されて、腹に刃を突き立てるところはカメラに外されてしまうのは、ハリウッド的な表現規制でやむを得ないのか。もうちょっとリアルに効果音とか、血飛沫とか、付けて戴きたかったところです。ちょっと残念。

 とりあえず、「これが日本人の魂の物語である」というナレーションで終わるのですが、いやこれは観終わった後のツッコミ大会が楽しいものになりますねえ(笑)。




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