2013年8月18日日曜日

愛さえあれば

(Den skaldede frisor)

 陽光きらめく南イタリアを舞台にしたユーモア・タッチの恋愛映画です。でも監督はデンマークのスサンネ・ビア。実は本作はデンマーク映画です。
 最近、デンマーク映画づいております。先日も『ロイヤル・アフェア/愛と欲望の王宮』(2012年)を観たばかりですし。
 それにしてもスサンネ・ビア監督と云えばシリアス作品の監督と云うイメージの強いお方でしたが──『未来を生きる君たちへ』(2010年)が強烈すぎたか──、ラブコメも撮るのか。
 いや、そんなに笑えるコメディではありませんでしたね。ロマンティック・コメディくらいか。

 主演はピアース・ブロスナンとトリーヌ・ディルホム。
 トリーヌ・ディルホムは、『未来を生きる君たちへ』にも出演しておられましたが、その相手役が五代目ジェームズ・ボンドとはちょっと意表を突かれました。
 ピアース・ブロスナンが出演するとなると、ロマンティック・コメディと云われても違和感がありません。でもジェームズ・ボンドも今や六代目に代替わりしている今、ブロスナンも若干、老けておられます。うーむ。ブロスナンが初老の男性役かぁ。

 本作では、ブロスナンは仕事一筋の実業家の役です。デンマーク在住のイギリス人と云う設定で、劇中でも英語を喋っております。ブロスナンの経営する会社では社員も皆、英語(やはり外資系企業だからか)。本作は、劇中では英語とデンマーク語が飛び交っております(イタリア語も少し)。
 ブロスナンは奥さんを亡くしてもう長く、企業経営に没頭して、一人息子とは長いこと連絡も取っていない。その息子から南イタリアで挙式すると云う連絡が届く。

 ちなみに、ブロスナンの会社は野菜や青果物といった生鮮食品の輸入を取り扱う企業であり、イタリア産のレモンから始めて、ブロスナンが一代で築いたと云う設定です。
 劇中では、このレモンが大きく扱われ、タイトルバックにもレモンイエローの色が印象的に使われておりました。また、南イタリアが主な舞台であるので、オープニングから名曲「ザッツ・アモーレ(That's Amore)」が流れております(ディーン・マーティンではないけど)。

 一方、トリーヌ・ディルホムの方は長らく乳癌を患い、過酷な闘病生活が続いた美容師の役です。抗ガン剤治療の為、頭髪が抜け落ちてウィッグを着用している姿が痛々しいです。医者との会話では病巣の切除手術も行われたらしい。
 しかし苦労の甲斐あって治療も一段落(まだ完治したかどうかは定かでは無い)。娘が近く南イタリアで挙式すると報せを寄こしており、夫婦揃って出席するのを楽しみにしている。
 が、家に戻ってみれば、亭主は若い愛人と浮気の真っ最中。これはショックでしょう。開き直る亭主の言動も許せませんです。結局、トリーヌは一人で南イタリアに向かうことになる。
 ちなみにこの亭主役は『未来を生きる君たちへ』にも出演していたキム・ボドニア。ポール・ジアマッティ似のオヤジ俳優です(いい面構えだ)。

 挙式する予定の若いカップルが、ブロスナンとトリーヌの息子と娘であるのは明白ですね。
 そして傷心のトリーヌと、人生を楽しむことを忘れてしまったブロスナンが、南イタリアで双方の家族として対面し、次第に惹かれ合っていく──と云うストーリーが容易く予想できるテッパン展開です。
 しかし南イタリアが舞台で、娘の結婚式で、ピアース・ブロスナンが出演すると云うと、どこかで見たようなシチュエーションです。本作はアバの歌曲抜きの、スサンネ・ビア版『マンマ・ミーア!』といった趣です。

 南イタリアを舞台にした映画は背景が美しいので、それだけで出来が三割増しくらいに感じられます。本作でも、若いカップルが挙式する味わい深い家屋と、窓の外に広がる一面のレモン畑と云うビジュアルが素晴らしいです。
 設定上、ここはブロスナンが起業した最初の場所であり、かつて暮らしていた家であったことになっています。果樹園に囲まれた庭で披露宴のパーティが行われるのもイイ感じです。
 アマンダ・セイフライド主演の『ジュリエットからの手紙』(2010年)の一場面を思い出します(フランコ・ネロとヴァネッサ・レッドグレイヴのパーティの場面ね)。

 本作は序盤と終盤に少しコペンハーゲンでの出来事が描かれるだけで、あとは全て南イタリアの風光明媚な背景を楽しむことが出来ます。歴史ある街の景観や、海岸の風景も美しい。
 本作の舞台は南イタリアのソレントと云う街。よく映画の舞台になるトスカーナ地方からもう少し南に下ったナポリ近郊の海沿いの街です(ナポリ湾に面している)。よくは存じませんでしたが、近くにはアマルフィ海岸もあると云うから、そりゃ美しい筈か。
 しかし自然は美しいが、人間関係はそうでもない。

 招待を受けた双方の家族がやって来るわけで、新婦側には親戚はいないが、新郎側には騒がしい親類が付いてくる。ブロスナンの亡き妻の妹という叔母さんが、なかなかけたたましい人です。どこの親類縁者の中にも一人くらいいそうなお喋りで仕切り屋なオバチャン。
 この叔母さんを演じているのはデンマークの人間国宝級女優パプリカ・スティーン……だそうですが、存じませんでした。すんません(汗)。

 更にトリーヌの亭主も遅れてやって来ますが、愛人を連れたままです。如何に「結婚式には花嫁の父が必要である」と云われても、愛人同伴とは非常識にも程がある。
 しかもこの愛人も面の皮が厚いのか、「もうじき自分も結婚する」などと吹聴するものだから、ブロスナン側の叔母さんにエサを与えているも同然な状態。

 招待客が集まってから挙式までの三日間、果たして無事に式は挙げられるのか。きっと結婚式は只では済むまい。そしてそのとき、双方の家族はどうなってしまうのか。
 ……と、かなり期待するところもあったのですが、予想したほどスラップスティックなコメディにはなりませんでした。もっと無茶苦茶になっても不思議では無いくらい、難儀な面子を揃えてくれたのですが、ストーリーはもっぱらブロスナンとトリーヌがメインで、その他の親戚一同にはあまり出番がありません。
 コメディではお馴染みのドタバタ出来そうな設定が色々あるのに、ちょっと勿体ない感じです。
 新郎のゲイ疑惑など、筋の運び具合によっては爆笑もののコメディにも出来たのに。

 やはりスサンネ・ビア監督の性分でしょうか。本作で描かれるのは、落ち着いた大人の恋愛模様なのです。
 まずは空港での第一印象のよろしくない出会いから始まり、ソレントへの道中、片時もケータイを手放さずにビジネス・トーク全開のブロスナンを見て、更に印象が悪くなっていくと云うのはお約束ですね。
 それでも果物の中ではレモンが好きと云う、意外な共通点を見いだして意気投合します。

 やがてブロスナンが妻を亡くした経緯を知り、悪かった第一印象も次第に上方修正されていく。これには風光明媚なソレントの景観も寄与しているようで、本作はちょっとした観光映画でもあります。
 また、トリーヌの方も自身の病歴を明かし、完治したわけでは無いことを告げる。実は最終検査の結果待ちで不安なところもある。頭髪が抜け落ちてしまっていることを知ってもドン引きしないブロスナンが男らしいです(他にも色々とショッキングなものを見るのですが)。

 そして親同士が親密になっていく過程が描かれていく一方で、結婚式の主役であるべき若いカップルの方に暗雲が立ちこめ始める。挙式を目前に控えて不安になる、と云うのはよくあるハナシですが、新郎のゲイ疑惑が実は疑惑ではなくなったのがシャレでは済みません。
 挙式の手伝いをしてくれる友達から、前夜のパーティで告白され──と云うか強引にキスされてしまい──ソッチの道に目覚めてしまう。
 元より、何となくそのケがあったのは新郎も自覚していたようですが、敢えて押さえ込んでいたようです。それが南イタリアの開放的な空気の中で開花してしまう。

 父子家庭の中で育ち──しかも父はビジネス一筋──、父親の気を引こうと優等生であり続けようとした息子の苦悩が語られ、当日の朝の土壇場になって息子の心情が吐露される。その中で父と子の絆も再確認される……のは感動的ですが、もはやこれはシリアスなドラマです。
 覚悟を決め、列席した親族一同の前で挙式のキャンセルが告げられます。何とも後味の悪い、白けた雰囲気のまま破談となります。
 こんな状況ではトリーヌとブロスナンの仲も進まず、その場は解散。あまりコメディとも云い難い雰囲気ですが、もはやこうなっては乾いた笑いしか出てきませんですかねえ。

 では、デンマークに戻ってから仕切り直すかというと、まだ紆余曲折が残っています。
 トリーヌは浮気した亭主から許しを請われて縒りを戻そうか迷ってしまう。しかしビジネスに戻ったブロスナンは息子の一件もあって仕事に没頭することが出来ず、何よりトリーヌのことが思い出されて仕事も虚しい。
 意を決してトリーヌの職場である美容院に出かけていき、遂に告白するも、その場でOKはもらえず。一旦は失意のまま、ソレントのレモン果樹園に独りで帰るブロスナンです。

 普通、他の従業員や客が隣で聞いているのに──ワクワクしながら聞き耳立てているのが映画的ですねえ──告白するなどと云うシチュエーションでは、その場でOK、そのままハッピーエンドに雪崩れ込むのがお約束だと思ったのに。
 何事も大人の恋愛はすんなり行かないというのが本作の云わんとするところなのか。人生は色々と行きつ戻りつ、簡単ではないのは判りますが、どうにもロマンチック・コメディぽくありませんです。

 ヒロインが決心するのがちょっと遅いのではないかとの誹りは免れない気がします。浮気者の亭主に、元の鞘に戻ったと安心させてからひっくり返してやるのは痛快ではありますが、意地悪が過ぎるでしょうか。
 結局、病院からの検査結果が届いたことを契機に家を出て行くトリーヌ。そのままソレントへ戻ると果樹園ではブロスナンが地道に働いています。以前のように非人間的に働くマシーンのような様子はもうない。
 美しい海岸を眺めながら、二人して抱き合って座る。
 「残された時間が一〇分でも三〇年でも、気持ちは変わらないよ」と告げてブロスナンは検査結果の入った封筒を開封します。結果は──

 トリーヌの癌は再発したのか、完治したのか、それはもはや重要ではありませんですね。
 再び流れる名曲「ザッツ・アモーレ」と共にエンディング。中盤までのコメディ要素は必要無かったのではと思うくらいロマンチックなエンディングでした。


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