2013年7月14日日曜日

モンスターズ・ユニバーシティ

(Monsters University)

 ピクサーがディズニーの完全子会社になってからは続編製作にもあまり抵抗がなくなったようです。それまでは『トイ・ストーリー2』(2000年)くらいしかなかったのに、『トイ・ストーリー3』(2010年)、『カーズ2』(2011年)に続いて、『モンスターズ・インク』(2002年)の続編──と云うか、前日譚──が製作されました。
 更にこの先も『カーズ』(2006年)のスピンアウト長編『プレーンズ』やら、『ファインディング・ニモ』(2003年)の続編やらが控えているそうです。楽しみなところもありますが、続編ばかりになるのも如何なものかと思ってしまいますねえ(と、思っていたら、ピクサー内部でも続編製作はしばらく抑制することになったとか)。

 それはそれとして、観る前までは割と本作について批判的でしたが、観た後にはちょっと気が変わりました。やはり腐ってもピクサーですね。「前作よりもつまらない続編」は作りません。
 「良いストーリーがなければ、続編は作らない」という信念を標榜しているだけのことはあります。確かに、本作は第一作と同じく面白いです。

 本作は前日譚ですので、マイクとサリーの学生時代が描かれます。あの大企業の花形スターだった名コンビも、最初に知り合った頃は仲が悪くて未熟であったと云うのが面白いデス。
 まず「真逆のシチュエーション」を描いて、そこから出発するのが前日譚としては手堅い筋運びです。
 各キャラの若い頃が描かれていきますが、声優さん達は前作と同じ。
 とりあえず最初は字幕版で鑑賞いたしました。後日、ブルーレイがリリースされた暁には、日本語吹替オンリーの再生になるのは目に見えておりますので(うちのムスメらが承知しないし)、英語で喋るマイクとサリーがちょっと新鮮でした(笑)。

 マイク役は、ビリー・クリスタル。サリー役も、ジョン・グッドマン。ランドール役も、スティーヴ・ブシェミです。
 日本語吹替でも田中裕二、石塚英彦、青山穣がそのままであるのは、当然ですね。
 他にも、前作に登場したキャラが、本作にもチラチラ顔見せしてくれるのが嬉しいデス。
 セリフは無くても〈モンスターズ・インク〉のウォーターヌース社長がチラ見せ登場してくれたり(まだ頭髪がある)とか、人間界追放前のイエティさん(ジョン・ラッツェンバーガーはピクサー作品皆勤賞の記録更新です)とか、子供検疫局(CDA)のナンバーワンも登場してくれます(防護服姿でも見間違えようのないインパクトが素晴らしい)。
 しかし新キャラである、大学の学長役がヘレン・ミレンであるのが特に印象深い。絵もそうですが、声も貫禄充分な凄みを利かせてくれております。

 前作ではマイクとサリーのコンビのうちでも、主役はサリーの方でしたが、本作ではマイクの方にスポットが当たっております。
 幼い頃から〈怖がらせ屋〉に憧れ、「最高の〈怖がらせ屋〉になるには、モンスターズ・ユニバーシティに行くことだ」と云うアドバイスを受けて、遂に入学。真面目で、努力家で、目標に向かって情熱を燃やし続けるマイク。
 唯一の欠点は、見た目がまるっきり「怖くない」こと(ギョロ目ちゃんですし)。
 果たして情熱と努力は、才能の欠落を埋めることが出来るのか……。

 前日譚でありますし、『モンスターズ・インク』の方で先に「社会人になってからのマイク」がどうであるかが描かれているので、お判りですよね。
 これは最初から「夢破れること」が前提のストーリーなのです。なんと哀しい。
 どんなに頑張っても、マイクは〈怖がらせ屋〉になることは出来ない。サリーの相棒として、サポート役に徹することを自任するようになるまでが描かれるわけで、「信じれば夢は叶う」と云うアリガチな夢と希望の物語ではないのがビターです(大人が観ると身につまされるかも)。

 でもだからこそ本作は、自分の能力の限界を知り、現実と妥協し、それでも幸福を見いだすことは出来るのだという、非常に力強い結末になるので、『モンスターズ・インク』よりも本作の方が感動的でしょうか(大人受けはしますよね)。
 物語のスケールとしては、前作よりもこぢんまりしているのはやむを得ません。前日譚で、先にスケール大きな大冒険を描かくワケにはいかないのが辛いところです。しかしストーリーの内容が深いです。
 そしてシビアなテーマを内包しながらも、観ている間は笑って楽しく過ごせる脚本であるのが素晴らしいです。続編なのに傑作ですわ。

 一方、サリーの方も問題を抱えています。
 それが、サリーの実家「サリバン家」は、過去何人もの優れた〈怖がらせ屋〉を輩出した名家であると云う追加設定。自他共に〈怖がらせ屋〉になることが当然と思われて、それなりに才能も最初から持ち合わせている。
 したがってサリーは、努力しないグータラで、才能をひけらかすイヤな奴として登場します。しかし神童も成長すれば只の人になる。
 大学生になって初めて、サリーは先天的な才能だけではどうしようもない壁にブチ当たる(怖がらせ方もワンパターンですし)。

 かくして角突き合っていたマイクとサリーは期末試験でそろって学長の不興を買ってしまい、〈怖がらせ学部〉から追い出される。この学部で学位を取得しないと、当然のことに〈怖がらせ屋〉にはなれないワケで、お先真っ暗な二人です。
 しかしマイクに起死回生の妙案が浮かぶ。それが大学内で毎年開催される学生クラブ対抗の「怖がらせ大会」での優勝。
 学長と賭けをして、優勝すれば学部への復帰を認めてもらえることに。しかし反対に、優勝できなければ、学部どころか大学を退学することになる。

 アメリカの青春映画で時々見かける、大学内での学生クラブという奴が本作でも描かれております。クラブと云うか、サークルと云うか、学生寮でもあります。
 よくある「優等生だけで構成された学生クラブ」と「劣等生ばかりの学生クラブ」の図が判り易いです。ジョン・ランディス監督で、ジョン・ベルーシが主演した『アニマル・ハウス』(1978年)なんてコメディ映画も思い出しました(若き日のケヴィン・ベーコンの姿もありましたねえ)。
 そういえば『ハリー・ポッター』シリーズでも、〈グリフィンドール〉とか、〈スリザリン〉なんて寮対抗の試合が描かれておりましたが、海外の青春ものにはありがちなネタなのか。

 学内の誰もが憧れ、メンバーになれることを夢見るエリート集団〈ロアー・オメガ・ロアー〉を放逐されたサリーは、マイクの所属する〈ウーズマ・カッパ〉に転がり込むことになり、落ちこぼれ共と大会優勝を目指すことになる。
 この〈ウーズマ・カッパ〉のメンバーがまた個性的で、マイクに輪をかけて「怖くない」モンスターばかりなのが笑えます。マザコン野郎がいるのもお約束ですねえ。
 余談ですが、予告編では「マイクが寝ている間にミラーボールにされてしまう」と云う、如何にも学生がやらかしそうなイタズラについて描かれておりましたが、本編ではそんな場面はありませんです。本筋にそぐわない展開だからカットされてしまったのか。

 後半は、落ちこぼれチームが「怖がらせ大会」を一回戦、二回線と勝ち進んでいく様子が描かれ、お約束とは云え、なかなか楽しい展開です。グタグタだったチームワークも、一念発起してからは結束も固くなり、各人の特殊な才能を駆使して、難関をクリアしていく。
 役に立たないと思われていた特技がきちんと活かされていく伏線の張り方が巧い。
 そして最初は六つあった学生クラブも、どんどん脱落していき、遂には〈ロアー・オメガ・ロアー〉と〈ウーズマ・カッパ〉の決勝戦にもつれ込む。
 決勝戦での勝負が、『モンスターズ・インク』でも描かれていた、「子供部屋シミュレーション」であるのが笑えます。

 ここまで来ると優勝するのがお約束ですが、そんなハッピーエンドで終わる筈も無い。
 実は最後の最後で試合の判定に不正が行われていたことが判り、仲間を信じ切れなかったサリーの裏切りが明らかになる。おかげで優勝カップは返上、仲間の信頼も失い、どん底に突き落とされるサリーの姿が哀しいです。
 更に希望を打ち砕かれたマイクは自棄を起こし、構内で研究中だった試作品の「人間界へのドア」をくぐってしまう。人間界からの汚染を防ぐ為、システムの接続を切るよう命じる学長の前で、サリーはマイクを救いに自らもドアをくぐって人間界に。

 案の定、人間の子供にさっぱり怖がられず、絶望するマイクを見つけて、モンスター界へ帰還しようとするサリーですが、システムの接続を切られて望みを絶たれます。
 ドアを再接続するには「大量の人間の悲鳴エネルギー」が必要だと判るものの、二人だけでそれを成し遂げねばならない。折しも、通報を受けた警察が現場に到着し、万事休す。
 子供すら怖がらせることが出来ないモンスターに、大人を怖がらせることが出来るのか。
 名コンビが誕生する瞬間がクライマックスです。ワンパターンの吠え声しか出せないサリーと、頭脳は明晰だが実践できないマイクの二人三脚が奇跡を起こす。
 ホラー映画を地で行く「恐怖を盛り上げる演出」が愉快でした。

 しかしモンスター界へ無事に帰還できたからと云って、退学処分は免れないと云うのが厳しい。学長も二人の才能を認めはしますが、危険な行為を侵したことは看過できない。ここで御都合主義に流されない脚本に感心いたしました。
 和解した学生クラブのメンバーに別れを告げて、二人は大学を去る。さてどうするか……。
 と云うところで、新聞に大企業の求人広告を見つけます。どこの会社かは云わずもがな。

 マイクとサリーは大学中退で「モンスターズ・インク」に就職していたと云うのが意外でした。しかも最初は「怖がらせ屋」でも何でもない、単なる郵便係。
 それでもポジティブで前向きなマイクに元気づけられます。悲観しても始まらないし、憧れの会社に就職できたのだから何をクヨクヨする必要があるか。今は郵便係だが、いつか必ず「怖がらせ課」に配属されてみせる。

 エンディングはランディ・ニューマンの軽快な劇伴に乗せて、社内で出世していくマイクとサリーの様子が断片的に描かれていきます。郵便係から、今度は清掃係に、そして社内食堂の厨房にと、次第に目的の部署に近づいていく二人。
 あの花形スター・コンビには、実は長い下積みの時代があったのだと云う、ある意味当たり前の事実が披露されるだけなのですが、本作を観てから『モンスターズ・インク』を観ると何気ない描写にも感慨深いものがあります(この時期だけでももう一本製作出来るのでは)。
 後付けでここまで出来るとは大したものデス。やっぱり腐ってもピクサーです。




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