2013年7月3日水曜日

コン・ティキ

(Kon-Tiki)

 一九四七年、ノルウェーの人類学者トール・ヘイエルダールは、「ポリネシア人の南米インディオ起源説」を実証する為に、一五〇〇年前と同じ仕様で作られた筏(いかだ)船〈コン・ティキ号〉で、ペルーから南太平洋のツアモツ諸島までの約八〇〇〇キロに及ぶ距離の航海をやり遂げた──と云う、史実に基づく感動の海洋冒険物語です。

 勿論、本作はノルウェー映画(正確にはノルウェー・イギリス・デンマーク・ドイツの合作)。
 今年(2013年・第85回)のアカデミー賞に於いて、外国語映画賞のノミネートに残った五本のうちの一本となりました(他に、ゴールデングローブ賞の外国語映画賞にもノミネートされていました)。受賞は逸しましたが──『愛、アムール』が相手じゃねえ──、ノルウェー映画史上最高の制作費をかけたと云う大作は伊達ではありませんね。

 近年のノルウェー映画は大したものです。昨年も『ヘッドハンター』(2011年)なんて傑作を観てしまいましたし。他にも『孤島の王』(2010年)や、『トロール・ハンター』(同年)も忘れ難い。
 但し、どれもこれも、監督や俳優さん達に馴染みがないのが玉に瑕。本作に於きましても、知っている名前が少ないデス。

 監督は、ヨアヒム・ローニングとエスペン・サンドベリ。
 主演のトール役が、ポール・スヴェーレ・ハーゲン。
 トールの妻、リヴ役が、アグネス・キッテルセン。
 以下、〈コン・ティキ号〉の乗組員達は、アンドレス・バースモ・クリスティアンセン、グスタフ・スカルスガルド、オッド・マグナス・ウィリアムソン、トビアス・サンテルマン、ヤーコプ・オフテブロ。
 すいません。さっぱり存じませんです(汗)。

 辛うじて、グスタフ・スカルスガルドだけは名前に聞き覚えがあります。何と云いましても、「北欧の名優」ステラン・スカルスガルドと同じ苗字ですし。親子のようです。
 ステランさんの息子では、『メランコリア』(2011年)や『バトルシップ』(2012年)に出演していたアレクサンダー・スカルスガルドは存じておりましたが、グスタフは弟であるそうな。
 親父も兄貴も俳優か。よし、これでスカルスガルド一家は一通りカバー出来たか。いや、まだ三男のビル・スカルスガルドが残っているのか。

 それはさておき、〈コン・ティキ号〉の航海は世界的に有名ですね。この航海の様子を著したトール・ヘイエルダールの著作はベストセラーとなり、航海中に撮影した記録映像は長編ドキュメンタリー映画としてアカデミー賞まで受賞したそうな(1951年)。
 私も子供の頃に本のことは聞いた憶えがあります。確か小学生の頃に、『コンチキ号漂流記』を読めと──昭和の頃は「コンチキ」と表記されておりました──、課題図書の一冊に挙げられていたのでした。でも読まなかったけどね。
 うーむ。今からでも遅くないか。本作を観ると、ちょっと読みたくなってきますね。今なら、『コンティキ号探検記』として出版されております。

 やはり「コンチキ」より「コン・ティキ」の方がカッコイイわな。昔は子供心に「コンチキ」なんて名前は胡散臭く感じられたものでした。
 しかし「コン・ティキ」と表記されても、変わった名前であることは変わりない。
 いや、「ティキ」は判りますよ。ハワイのシンボルとして存じています。「ティキ像」と云えばハワイ。ハワイに行ったことはありませんが、スパリゾートハワイアンズの土産物売場でティキ像のミニチュアを買ったこともあります。
 では「コン」とはなんぞや。

 本作の劇中でも名称については言及されておりませんでしたが、「コン・ティキ」とはひと繋がりの単語で、インカ帝国の神ビラコチャ様の別名であるそうな。なんだ。〈ビラコチャ号〉なら判り易かったのに。
 それにしても片やハワイ、こなたインカで、似たような名前が使われているあたり、トール・ヘイエルダールの学説も尤もなものであると、ちょっと肯いてしまいました。
 そうかー。ハワイを始め、太平洋の文化はインカ帝国からもたらされたのかぁ……。

 でも実際の所、現代の民族学ではDNAの調査等により、ポリネシア人はアジア起源である方が定説なのだそうです。
 本作では、序盤にそのように「ポリネシア人アジア起源説」が唱えられており、ヘイエルダールがそれに異を唱える場面がありました。そして南米起源であることを実証しようと、〈コン・ティキ号〉で太平洋に乗り出すわけで、航海が成功し、一般常識を覆す学説が証明されたと思ったのデスが……。
 また元に戻ってしまったのか。でも人種的にはアジア起源でも、文化が南米から伝えられたこともアリだと信じたい。
 そしてまた、学説が覆されようが〈コン・ティキ号〉の航海が偉業であることに変わりはない。今でもオスロの「コン・ティキ博物館」には、実物の〈コン・ティキ号〉が展示されているそうで、それはちょっと観てみたいですねえ。

 本作は〈コン・ティキ号〉の航海だけに焦点を当てたものでは無く、トール・ヘイエルダールの為人を説明する為に、序盤から少年時代や、人類学者として奥さんと一緒にポリネシアでフィールドワークをしている時代なども描かれております。
 きちんと「アジア起源説」に違和感を覚える過程があるので判り易いです。
 そして、船の無かった時代でも、筏で海を渡ることが出来たはずだと考える。古代人にとって、海は障壁ではなく、道だったのだ。

 しかし実証実験の為に出資先を探すが、誰も「南米起源説」を信じてくれない。ナショナル・ジオグラフィック社に出向いて訴えるも、鼻で笑われてしまう。
 資金調達に行き詰まりながらも、何とか筏の建造を進めようと悪戦苦闘するヘイエルダール。乗組員を募っても、死ぬのがオチだと誰も応じてくれない。
 当時は第二次大戦後であるので、太平洋上で船が撃沈されたり、戦闘機が海に墜落したりして、九死に一生を得た人が多く、そんな人達からすれば、筏で南太平洋を横断するなんぞ、正気の沙汰ではなかったというのがリアルです。

 それでも諦めないヘイエルダールの元に、次第に人が集まってくる。仲間集めに個性的な連中が応じて来るのは、お約束のパターンですね。
 出来れば五人全員が、個別にヘイエルダールの元に集う展開にして戴きたかったところですが、諸般の事情か、事実にそぐわなかったのか、ちょっと端折られているのが残念でした。
 最後の難関、資金調達もペルー大統領への面会で何とか解決。
 「ペルー人がポリネシアを発見したと証明したい」と云った途端に、大統領の目の色が変わるのが笑えました。

 かくして仲間達と共に「死ぬかも知れない航海」にヘイエルダールは赴くわけですが、ノルウェーにいる奥さんと子供達は放置してしまうのがイカンですね。冒険か、家庭かの二者択一。
 これがフィクションなら、「漢のロマン」を判ってあげられる奥さんであってもいいのでしょうが、現実は厳しいのがビターです。

 出航してからは、登場人物は六名のみ。あとはひたすらに、海ばかり。
 そもそも航行能力のない筏なので、「航海」と呼べるものでは無く、海流に乗った「漂流」と云うのが正しい。
 ポリネシアに向かう為には、南太平洋海流に乗らねばならないのに、ペルーを出てからは、西へ向かわず次第に赤道方向──ガラパゴス方面──に流されていく。ガラパゴス諸島近海は複雑な海流が渦を巻いていて、〈コン・ティキ号〉のような筏はひとたまりもない、と云うのが不安を煽ります。

 後半は『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』(2012年)のように海上での漂流ドラマが続きます。
 夜光虫の光る海とか、発光する深海魚とか、トビウオとか、クジラの群れとか、サメの襲撃とか、ネタとしては『ライフ・オブ・パイ』とほぼ同じ。
 本作は実話に基づくリアル路線ですが、海洋の驚異もきちんと描かれておりました。
 本作に登場するサメは結構、迫力あります。ホオジロも怖いが、ジンベエもコワイ!

 夜の美しい海原と星空も、CGの表現が冴え渡っているのが見事です。
 特に〈コン・ティキ号〉を真上から捉えたショットから、カメラが宇宙まで引いていき、湾曲する地球の向こうに太陽が輝き、更に天の川へとパンして、月を捉え、そしてまた大気圏から〈コン・ティキ号〉までカメラが降りていくワンカットのシーンが素晴らしいです(ちょっとヤリスギ)。
 本作は可能な限り、海上で実物を使ってロケしているそうですが、エンドクレジットで表示されるVFX関係のスタッフの数も半端なく多いです。

 リアル指向で、必要以上に劇的にならない演出ですので、航海中のドラマとしては、それほど極限状態ギリギリまで追い詰められることがなかったのが、ちょっと物足りないところではありました。
 進路は変わらず、無線機は不調、筏の材木は水を吸って重くなり始め、アクシデントから材木もバラけそうに見える。

 多少、イライラして乗組員の関係がギスギスすることはありましたが、これが殺し合いに発展するとか、発狂寸前まで追い詰められるとか、そこまでは行きません。
 困難な航海であることに違いはないのですが、せめて誰かが壮絶に殴り合うくらいの危機があっても良かったように思えます。ヘイエルダールの航海日誌に書かれていないことは出来ないのか。
 ロープだけでは不安だから、金属製のワイヤーで材木を固定しようという提案を、ヘイエルダールが拒否するあたりは割と面白かったのですが。
 先人の知恵のみで辿り着けると信じている人と、常識に囚われている人の差がハッキリと現れていました(それを覆す為の航海なのに)。

 しかし精神的な緊張がピークに達したとき、遂に〈コン・ティキ号〉は南太平洋海流に乗って、西へ向かって進み始める。
 ドラマとしても、そこを乗り越えるところで一件落着です。本作では、一〇〇日に及ぶ航海の、前半部分は詳細に描かれていますが、後半はかなり省略されています。
 西へ向かい始めたら、あとはツアモツ諸島に到着するまで端折られてしまいました。
 クライマックスは最後の難所、ラロイア環礁越え。柔らかい材木なんぞカミソリの如く切り裂く鋭い環礁を、〈コン・ティキ号〉は如何に乗り切るのか。

 そして遂にツアモツ諸島に到着、と云うか漂着、と云うか何だか座礁したようにも見えますが、全員が無事に上陸できてハッピーエンド。
 一〇〇日の航海で、全員が髭も剃らずにむさ苦しくなっていますが、ノルウェー人なので、何やらヴァイキングのような風貌になっている(子孫ですし)。

 当時の記録映像風に、モノクロの音声なし映像で到着後の様子が描かれているのが面白く、お約束ですが「その後の乗組員達の人生」が一人ずつ語られていきます。
 人間側のドラマとしては若干、弱い部分もありますが、それを補って余りある太平洋の雄大な景観は一見の価値ありでしょう。
 ヨハン・セーデルクヴィストのポリネシア風の楽曲を交えた音楽も力強く、感動的でした。




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