2013年6月1日土曜日

リアル

 ~ 完全なる首長竜の日 ~

 乾緑郎のSFミステリ小説、『完全なる首長竜の日』が黒沢清監督によって映画化されました。原作の方は第九回(2010年)「このミステリーがすごい!」大賞を受賞しました。同コンテストで満場一致による大賞受賞作は、海堂尊の『チームバチスタの栄光』以来(2005年)であるそうな。
 「このミス」大賞受賞作品の映画化というと、今年は利重剛監督の『さよならドビュッシー』(2013年)もありました。あちらは音楽ミステリでしたね。

 個人的にはこれをミステリ小説と呼ぶのは如何なものかと思うところです。これはSFだろう。
 でも「SF」と銘打つと、売れるものも売れなくなるらしい。なんと理不尽な。
 SFでもミステリになれるのは、アイザック・アシモフの作品を挙げるまでもないことです。要はちゃんと作品にルールを設けて、そのルールに則ってストーリーが描けていれば良いわけで、本作でもちゃんとそこは押さえられております。

 本作に於けるSF設定は実はひとつだけ。「センシング」と呼ばれる最新医療技術のみ。
 脳をスキャンし、会話に拠らず、他者の意識とコミュニケート出来ると云う技術で、近いうちに実現化できそうな代物です。機械的なテレパシーですね。
 センシング装置のビジュアルが普通の医療機械のように見えるようデザインされているのが巧いです。一般的な病院の処置室に置いてあっても違和感なし。

 自殺未遂によって昏睡状態に陥った恋人(綾瀬はるか)の意識に潜行し、自殺の動機を突き止めようと云うのが大筋です。原因を特定して問題を解決しなければ、目覚めた後でも再発の怖れもある。
 今のところは誰にでもセンシングが出来るワケではなく、患者の意識との相性の問題があったりして、恋人である主人公(佐藤健)が最適であると説明されます。
 原作では姉弟と云う設定でしたが、恋人と云う設定に変えられているそうです(原作の方は未読でして……)。おかげで本作は恋愛映画としての側面も描かれることになりました。映画としては、こちらの方が受けますね。

 他人の精神世界と接触して情報を得ようと云う設定が、ターセム・シン監督の『ザ・セル』(2000年)を思わせますね。でも対象である綾瀬はるかはサイコキラーではありませんので、「馬の輪切り」なんてショッキング映像は本作にはありませんです(アレは強烈でした……)。
 むしろ、クリストファー・ノーラン監督の『インセプション』(2010年)を思わせます。
 いずれにしても個人の精神世界ですから、リアルなようでいて、非現実的な描写が突然現れてくるところもお約束。夢の中ですから、ナンデモアリ。
 精神世界の中で現実と同じように生活している患者に、「ここは君の意識の中なんだよ」なんて語りかける場面は、『トータル・リコール』(2012年)を彷彿といたします。

 佐藤健は『るろうに剣心』(2012年)の剣客役から一転して、アクション抜きで謎解きに奔走する青年の役です。今回はかなり押さえた落ち着いた役ですね。
 綾瀬はるかは昨年(2012年)は、出演作が『ホタルノヒカリ』、『あなたへ』、『ひみつのアッコちゃん』と、連続して公開されておりましたが、どれもこれもスルーしてしまいました(面目ない)。最後に観た出演作は『インシテミル』(2010年)だったか。

 主演の佐藤健と綾瀬はるか以外に、中谷美紀、オダギリジョー、染谷将太、小泉今日子らが出演しております。
 個人的にオダギリジョーと佐藤健のツーショットが拝めたのが嬉しいデス。わーい。仮面ライダーのクウガと電王だ。夢の中なのだから、変身も可能だろうと思いマスが、本作はシリアス作品ですので、そんなファンサービスはありません。
 オダギリジョーは雑誌編集者の役。実は綾瀬はるかは漫画家であると云う設定で、連載中に入院してしまい、連載は一時中断されたままになっている。
 オダギリジョーは『舟を編む』(2013年)でも編集者の役を演じておりましたが、なんか似ていますわ。

 仮面ライダーが二人も出演している所為か、ロケ地も東映の特撮ものでよく使われる見慣れた廃工場が使われたりしております(どう見ても茨城県某所のあそこでしょう)。
 今回は廃園になったレジャーランドの一角という設定で背景に登場しますが、あまりレジャーランドぽくないのは御愛敬でしょうか。
 まぁ、精神世界の風景ですから、あまり合理的でなくてもいいのか。
 主人公達はとある離島──ロケ地は八丈島──で少年少女時代を過ごし、そこにレジャーランドが建設されて、やがて不景気になって廃園となり、破壊された環境だけが残ったと云うのがトラウマになっているので、精神世界内では生活しているマンションの外から、地続きで故郷の島に繋がっていると云う不思議な風景になっています。

 それにしても昏睡中でも、意識の中では締切に追われて漫画を描き続けていると云うのが、やるせない。そりゃ職業病だ。
 そんなに描きたいなら、さっさと目を覚まして描けば良いのに、そうはしたくないらしい。そのあたりに謎があるらしく、綾瀬はるかは佐藤健に「小学生の頃に描いた首長竜の絵が見たい」などと無理難題を吹きかける。
 どうやらその「首長竜の絵」を見つけてくれば、昏睡から覚めてくれるように思われます。

 センシングも一度だけではなく、二度、三度と繰り返されます。
 佐藤健は現実と精神世界の間を行き来しながら、首長竜の謎を追っていくと云う趣向です。
 劇中では中谷美紀が演じる女医さんがセンシングの副作用について説明してくれます。相手の精神世界から帰還してきた者には、時折、脳にイメージの残滓のようなものが刷り込まれ、それが後になって現実の中にも見えたりするとか。
 佐藤健も、現実世界に帰ってきたのに、綾瀬はるかの精神世界で見たものがフラッシュバックするように出現するのを目撃し、次第に不安定になっていきます。虚構と現実の境目が次第にぼやけていくと云うのは、なかなかスリリングな演出です。

 特に綾瀬はるかが描いているのが、女流漫画家には珍しい劇画タッチの作品で、連続猟奇殺人鬼を扱ったサスペンスホラーだったりするので、尚のこと気色悪い。
 精神世界の中で、猟奇殺人の犠牲者となった無惨な死体が不意にマンション内に出現したりするのを目撃し(漫画家のイメージ喚起力は凄いデスね)、センシングが終了したあとでもまた同じものを見たりする。
 果たして本当にセンシングは終わったのか。実はまだ続いていて、自分は虚構の中にいるのではないか。観ているとそんな疑念が湧いてきたりするのが、フィリップ・K・ディックの作品のようです。

 他にも佐藤健は「ずぶ濡れの少年」の幻覚を見るようになる。無言で恨みがましく立ち尽くしてこちらを見ているのが不気味です。この少年は何者なのか。
 「首長竜の絵」の件と併せて考えると、少年時代の離島で過ごした時期に秘密が隠されているように思われ、絵を探すために佐藤健は故郷の島へと帰省する。

 実は本作は「自殺の動機が何だったのか」を探るミステリではありません。そもそも自殺ではなかったと云うことが途中で明かされる。単なる事故──それもちょっとマヌケなことが原因で──であり、昏睡状態が続いているのは、別なところに理由がある。
 問題はもっと根深いところにあり、それを象徴するのが「首長竜の絵」であり、「ずぶ濡れの少年」のイメージであったりします。
 自分でも忘れていた遠い過去の出来事とは何だったのか。

 後半になると状況は二転、三転し、現実だと信じていた世界が、実は精神世界だったとか、夢を見ているのは本当は誰なのかとか、驚愕の真相が語られたりするのですが……。
 個人的には、この手の展開をどんでん返しとは云いたくありませんです。
 レオナルド・ディカプリオ主演の作品で云うと、本作は『インセプション』と云うよりも、『シャッター アイランド』(2010年)の方に近いように思われます。

 そもそもの主人公の主観の方が間違っていました、と云うネタはあまり好みではありません。これを繰り返すと、好きなだけどんでん返しを行うことが出来る上に、真実かどうかも判らなくなっていくからです。
 うーむ。そこまで意地悪なことを云う必要はないか。本作が力作であるのは確かですし。
 真相が明らかになった後も、それでストーリーが終わるワケではなく、そこから本質的なトラウマの克服に向けたクライマックスも用意されています。
 そして恋人達の愛の力でこれを克服すると云うお約束も、しっかり守ってくれます。

 しかし「少年時代の不幸な事故」が「ずぶ濡れの少年」となり、トラブルの原因となった「あるアイテム」が「首長竜」のイメージになるのはいいとしても、それだけで終わってしまったのが、ちょっと物足りない感じです。
 首長竜だけでなく、連載中の漫画に登場する猟奇殺人鬼にも登場してもらいたかったなぁ、とか。首長竜も、もうちょっと凶悪に描いても良かったのでは、とか。
 特に首長竜のツブラな目があまり獰猛には感じられず、もっと『ジュラシック・パーク』(1993年)並みにドカーンと……と云うのは予算の都合上、難しいデスか。
 それに、罪の意識としてはもうひとつ、「自然環境を破壊してしまったレジャーランド」の問題が残っていると思われるのですが……。そこまではフォローされなかったのが残念でした。




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