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2013年6月26日水曜日

攻殻機動隊 ARISE

border:1 Ghost Pain

 士郎正宗の『攻殻機動隊』をアニメ化した作品の中では、押井守が監督した劇場版二作よりも、神山健治によるTVシリーズの方が好みであります。原作の方はもう続きは……無理でしょうか。
 ともあれ、本作は〈押井攻殻〉でも、〈神山攻殻〉でもない、また新しい攻殻機動隊のシリーズです。言うなれば〈黄瀬攻殻〉。

 本作は、全四話のミニシリーズを劇場でイベント公開していこうと云う企画のようで、その第一話に当たります。最近はこの手の企画が増えましたねえ。
 ミニシリーズでありますので、一作あたりの上映時間も六〇分前後(本作は59分)のようです。新海誠監督の『言の葉の庭』(2013年)とか、牧原亮太郎監督の『ハル』(同年)とかと同じく、中編アニメの劇場公開も最近は多くなりました。

 黄瀬和哉が総監督となり、各話毎に異なる監督が付くようです。第一話である本作の監督は、むらた雅彦です。劇場版『NARUTO』シリーズはスルーしておりますが、本作のアクション描写はしっかりしているように見受けられました。
 脚本とシリーズ構成は、冲方丁です。時代劇からまたSFに戻って来られたようで嬉しいデス。『マルドゥック・スクランブル』の続編はまだかなー。

 本作は過去のシリーズの続編ではなくて、前日譚になっております。まぁ、草薙素子少佐が電脳の海に去ってしまわれた後は、ストーリーが続けられませんか。出来たとしても、公安9課の物語ではなくなりますし、前日譚になるのはやむを得ないとは思いマス。
 でも個人的には、前日譚はよほど巧くやらないと面白くならないと思います。制約が多いし、かなり辻褄合わせに終始しなければならないところもありますからね。無視すれば無視したで、また色々とツッコミ入れられるし、あまりいいことは無さそうな気がします。

 そのあたりの冲方丁の処理の手腕はどうでしょうか。観る前から期待半分、心配半分と云ったところでした。お願いだから、リドリー・スコット監督の『プロメテウス』(2012年)のようにはならないでくれ、せめてサム・ライミ監督の『オズ はじまりの戦い』(2013年)くらいで……。

 前日譚なので、登場するキャラクターにも新キャラが多く、そうでないとイカンとも思うのですが、旧作のキャラクターも一緒に登場します。
 本作は攻殻機動隊設立前の公安9課が遭遇した事件が描かれ、如何にして我々の知る公安9課になっていったか、と云うストーリーにもなるそうなので、全四話完結後には〈神山攻殻〉に繋がるようになっていないとマズいですね。
 したがいまして、将来的に9課のメンバーになる連中が、まだ警視庁の刑事だったり、軍人だったりして登場してくれます。

 でも配役が一新されています。同じキャラでも、旧シリーズとはまるで違う配役です。この配役に違和感を感じる方も少なくないのでは。
 草薙素子役が、田中敦子から坂本真綾になっているのは、どうでしょう。旧作では、坂本真綾が演じた場面もありましたから、ちょっとは納得できるか(いや、でもあれは若い頃じゃなくて義体を変えたからだし)。
 違和感を感じない演技なのが嬉しいデスが、あの髪型だけは違和感が……(汗)。
 一方、公安9課の荒巻大輔役が、塾一久です。まぁ、サル部長は大木民夫だったり、阪脩だったりしておりますから、シリーズ毎に変わっても許容できますか。外見もほとんど同じ。

 しかし(個人的に)定番の、大塚明夫=バトーと、山寺宏一=トグサが、ガラリと変わりました。本作では、バトー役は松田健一郎、トグサ役は新垣樽助です。
 あれ。新垣樽助と云えば、神山健治監督の『攻殻機動隊SSS』(2011年)のヒガキ役では。
 パズ役も小野塚貴志から、上田燿司に。
 全体的に声が若返っているような印象です。まぁ、時代が一番古いわけですから。
 今回はイシカワ、サイトー、ボーマといった連中までは登場しません。

 使用される電脳多脚戦車は、本作では〈フチコマ〉でもなく、〈タチコマ〉でもなく、〈ロジコマ〉と呼ばれております。新型……ではなくて、時代が遡るからこちらの方が旧型になるのか。〈タチコマ〉の前半分だけといったデザインです。
 搭載される人工知能の声は、玉川紗己子ボイスではなく、沢城みゆきボイス。しかも最初は喋れなかったところを、素子が改造して、ようやく喋れるようになるという旧式っぷりです。
 バグがあるのか、動作の随所に「馬がいななく」ような仕草が入るのが笑えます。

 また、音楽が変わっているのも、作品の印象が変わる要因ですね。
 〈押井攻殻〉の川井憲次、〈神山攻殻〉の菅野よう子とも違い、〈黄瀬攻殻〉はコーネリアス(小山田圭吾)です。テクノポップ調のOPとEDが入るのが新鮮な感じ。印象としては、菅野よう子の方に近いでしょうか。

 西暦二〇二七年。第四次非核大戦の終結から一年後のニューポートシティが舞台です。このあたりは士郎正宗の諸作品では共通の歴史設定ですね。
 兵器売買で収賄容疑を掛けられたマムロ中佐なる人物が何者かに射殺される事件が発生し、当局の捜査を受ける前に埋葬される。公安9課が墓地から故人の電脳を回収しようとしているところで、故人の無実を信じる草薙素子と遭遇する場面から幕開けです。
 荒巻と素子の初対面のシーンであるのが面白い。最初はちょっと敵対的です。

 第一話は、素子の恩人でもあり、高潔で知られたマムロ中佐の潔白を証明し、併せて攻殻機動隊のメンバーになる連中が徐々に素子と関係を持っていく過程が描かれます。
 新浜署のトグサ刑事は、とある娼婦殺害事件を追って。
 レンジャー部隊のバトーは、政府高官警護で爆殺された同僚の仇を討つ為に。
 陸軍警察のパズは、兵器密売事件を探る潜入捜査官として。
 各人の追う事件は、すべてマムロ中佐殺害事件の別の側面であり、それが次第にひとつに収束していきます。

 とは云え、事件はそれほど複雑ではありません。海外ドラマの刑事モノのような展開──五〇分一話完結式のスタイル──でありますから、割と早い段階で陰謀の存在が露見し、素子やトグサ達は命を狙われ始めます。
 敵が使用するのは、少女の姿を模した殺人ロボット。人間そっくりで、格闘プログラムがインストールされているようですが、最後には標的に抱きついて自爆する仕様らしく、〈自走地雷〉と呼ばれています。女の子を「地雷」呼ばわりか。

 更に、電脳に侵入して対象の記憶を改ざんするやっかいなウィルスの存在も明らかになる。
 〈ファイア・スターター〉と呼ばれるウィルスによって、素子の記憶が実は改ざんされていることが判明し、虚構と現実の境界が崩れ始めるのが怖ろしいです。明らかに劇場版『攻殻機動隊/Ghost in the Shell』(1995年)に繋がるような設定が見受けられます。
 全体として、〈押井攻殻〉と〈神山攻殻〉の、いいとこ取りを狙っているような演出です。
 また、「あの草薙素子」が、まんまと敵の策略にハマって裏をかかれたり、一杯食わされたりしているのも興味深い。まだ少し未熟な頃の主人公と云うワケですね。

 劇中では、素子がウィルスの影響を受けて、ありもしない幼少時の記憶に悩まされたりしておりますが、〈神山攻殻〉の素子の設定とは少し食い違いがあるようです。これは本シリーズ独自の設定らしく、敢えて旧作とは異なる設定にしてあるらしい(素子が全身義体化された年齢に食い違いが)。
 まぁ、「個人の記憶」が現代よりもずっとあやふやな時代のストーリーですから、どこまでが真実なのかは、もはや藪の中ですねえ。

 紆余曲折ありまして、マムロ中佐の潔白は証明され、素子は古巣の陸軍501部隊と決別します。バトーやパズが追っていた事件も一件落着。
 マムロ中佐が死後も素子の身を気遣っていたことまで判明し、無機質でハードなSFに、泣かせる人情話が挿入されるのがいい感じです。世の中、まだ捨てたモノじゃないですねえ。
 そして、かねてからの希望通り陸軍を除隊し、自由の身になる素子の前に現れる荒巻。
 公安9課では、今後必要となるであろう攻性部隊の創設を目論んでいる……と聞かされますが、まだ荒巻の部下になる気はない様子です。
 電脳戦エキスパートのコンサルタントととして、などと口説かれていますが、まだまだ。

 但し、荒巻はひとつ有益な助言を与えます。全身が国家の資産だったサイボーグが、完全に自由の身分を得るのは大変難しい。だから「本気で独立するなら、己の部隊を持つがいい。規定では、最小構成人数は指揮官一名、部下六名だ」と。
 ラストシーンは高層ビルの屋上から、ニューポートシティのビル街を眺めている素子の姿です。これも旧作へのオマージュですねえ。
 「六名か……。さて、誰をスカウトしようかしら」

 と、云うところで次回に続く。第二話「Ghost Whisper」は、今年の十一月末公開予定。
 次なる事件で、まだ未登場のイシカワやサイトー達も素子と関わり合いを持つことになるのでしょうか。謎のウィルス〈ファイア・スターター〉が再び事件に絡んでくるようでもあります。
 少し間が空きますが、楽しみに待ちたいと思いマス。

 ところで以前にも、日産のコンセプトカーが『攻殻機動隊SSS』の劇中に登場したりしておりましたが、本作ではマイクロソフトとコラボしたようで、タブレットPC「Surface」が劇中に登場します(ほんの一瞬ですが)。ちゃんと薄型の感圧式キーボードも付いています(色は水色)。
 しかし二〇二七年は平成三九年ですよ。素子さんは随分と古いものをお使いなのか。OSのバージョンは何かな。
 上映前に、「Surface」とのコラボPVも流されます。PVではバリバリに「Surface」を使っておりましたが、二話以降ではもっと使用されたりするのでしょうか(笑)。




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 イシカワ役は、仲野裕から、檀臣幸に(『仮面ライダーW』の井坂さんだ)。
 サイトー役は、大川透から、中國卓郎に。
 ボーマ役は、山口太郎から、中井和哉に。

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