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2013年6月2日日曜日

体脂肪計タニタの社員食堂

 

 ヘルスメーター等の健康計測機器メーカーである株式会社タニタが、自社の社員食堂のレシピ本を出版し、それが二〇一一年のベストセラーになり、翌年にはそのレシピに載ったメニューを出してくれるレストランが東京丸の内にオープンしたと云うニュースには覚えがあるところです。
 「丸の内タニタ食堂」にはいつか行ってみたいものだと思いつつも、まだ足を運んでおりませんが、その前に今度はそれが映画化されました。
 レシピ本の映画化というのも変わった話です。劇中に登場するメニューはすべて実在のレシピであるそうな。

 しかし、レシピは実在のものでも、ストーリーの方は若干──と云うか、かなり──脚色されておるようです。そりゃそうか。
 「タニタの社員はほぼ全員が肥満であった」なんて設定からして無茶ですわな(笑)。
 本作は、映画が一本丸ごとタニタのCMのようでもあります(少なくとも社名は売れたか)。
 劇中では自社製品であるヘルスメーターの他にも、金芽米やら、リケンのノンオイルドレッシングやら、実在の商品がさりげなく(いや、かなりあざとく)登場して、宣伝されておりました。でもこういうCMは嫌いじゃないです。
 実在の球団が登場するスポーツ映画とかもありますし。

 本作は、肥満社員達が社運をかけたダイエットに挑むと云うコメディー映画です。
 落ちこぼれ達が奮起して頑張ると云う、大筋は黄金のパターンですが、なかなか面白く、好ましい佳作に仕上がっております。

 監督は李闘士男。『デトロイト・メタル・シティ』(2008年)や、『てぃだかんかん/海とサンゴと小さな奇跡』(2010年)の監督さんですが、今までスルーしておりました。
 TVの仕事の方が多い方らしく、本作も……実は映画と云うよりもTVドラマのような雰囲気でありました。いかにも低予算な映画ですし。

 出演している俳優達もあまり映画では主演を張る方々ではない(そもそも私があまり邦画を観ない所為でもありますが)。
 主演である栄養士を演じているのが優香です。すいません、『輪廻』(2005年)もスルーしてます。でも『ももへの手紙』(2012年)は観ました。アニメでしたが。
 あと知っている俳優と云えば、草刈正雄くらいか。老けてもダンディなタニタの社長です。
 それからチョイ役で壇蜜が出演しておりました。セクシーすぎる看護婦の役(笑)。

 でもメインとなるのは、メタボな副社長役の浜野謙太を筆頭に、体脂肪率四〇%超えの肥満社員役である宮崎吐夢、草野イニ、小林きな子の四名。
 浜野謙太は、先日観ました『リアル/完全なる首長竜の日』(2013年)にも出演しておられますが、警察官役なので印象薄いデス。
 タニタの社員の中に、例外的に肥満ではない双子の美人OLがおりまして、これがCMで時々お見かけする松岡恵望子と松岡璃奈子の姉妹でした(でもさっぱり見分けつきません)。

 さて、タニタと云えば世界初の体脂肪計を開発したメーカーでありますが、劇中ではまだそれほど知名度が高くないと云う設定になっています。画期的新製品の発表会も近いと云うのに営業成績は伸び悩んでいる。原因は何か。
 そりゃ、メタボな営業マンの売り込む健康機器──しかもヘルスメーター──で「太りすぎ、痩せすぎを管理しましょう」と云われても説得力ゼロですわな。
 社員の健康診断を実施すれば、ほぼ皆メタボ。副社長に至っては生活習慣病の発症まであと僅か。余命五年だねとまで云われる始末。

 序盤で描かれる副社長のヘタレっぷりが突き抜けております。威厳のカケラも無く、何の決断も出来ず、ただヘラヘラ笑みを浮かべているだけでは社員から軽く見られても仕方が無い。
 例え社長の息子であっても副社長の存在は薄い。思いあまって辞表を出そうとすれば、父親である社長には受理してもらえず、逆に一喝される始末。
 ところがその社長が突然、過労で倒れてしまう。

 新製品発表会を三ヶ月後に控え、有効なアピールはないものかと、頼りない副社長がひねり出したのが全社一丸となって取り組むダイエット作戦。自分を含めた肥満社員が、発表会の席上でどれほどスリムになったかをアピールすれば、新製品のイメージアップにも繋がるはずだ。
 意外にもこの提案は支持され、大々的なダイエット・キャンペーンが決定される。
 新聞広告にもその旨が告知され、入院中の社長がベッドでそれを読んでしかめ面をしております。果たしてそんなダイエットが巧く行くものか。

 そこで偶然、副社長と再会するのが優香です。副社長とは高校時代の同窓──かつては同じ駅弁研究会に在籍していた──であったが、当時の「ポッチャリさん」の面影は微塵も無い。
 ダイエットに成功してスリムになった優花は、栄養士の資格を取得し、就職活動中。
 即座に副社長は、ダイエットの指導要員としてタニタへの就職を打診する。

 回想シーンに登場する優花のメタボっぷりが笑えます。特殊メイクで付け足した二重顎が見事でした。多少、わざとらしいビジュアルではありますが、作品のイメージには合っています。本作はコメディですから、ちょっとわざとらしいくらいが丁度良いでしょう。
 優香に限らず、副社長役の浜野謙太や、メタボ社員達も特殊メイクのお世話になっておりますが、不自然なところはあまり見受けられませんでした。インタビュー記事等に拠ると、毎日撮影開始の数時間前からメイク室で準備せねばならなかったと云いますから、かなり苦労もされたようです。

 タニタの社員食堂に迎えられる優香ですが、こちらもすんなり歓迎されるわけではない。
 ダイエット食を社員食堂のメニューにするに当たっては、古参の厨房スタッフが作ってきた従前のメニューを否定しなければならないので、悪感情をもたれるのも仕方がない。おまけに優香は、ダイエットの理論は立派でも、料理の実技の方は赤点スレスレだったので、初めのうちの職場の風当たりが実にキツい。
 そこを持ち前の明るさで乗り越えていく優香です。ダイエットの進行状況と併せて、職場のスタッフが優香のことを評価しはじめて行く経過も描写されます。古参スタッフも悪い人ではないし、一生懸命頑張る者は認められるのであるというポジティヴな演出がいいですね(ちょっと御都合主義でしょうか)。

 しかし体脂肪率四〇%超えの肥満社員を、たった三ヶ月で三〇%以下にすると云う目標は果たして実行可能なのか。
 体脂肪率を一〇%減らすと云うことは、体重に換算すると一〇キロ以上は確実に減量しなければならない。しかも無理な方法でリバウンドを起こしては元も子もない。

 劇中では、一食平均七四〇キロカロリーとして、これを一食あたり五〇〇キロカロリーに抑えることで、三ヶ月後の一〇キロ減量は可能であるとされております。
 無論、余計な間食は厳禁です。食事中のアルコールも禁止。
 他にも「ゆっくり噛め」とか「野菜から食べろ」とか、具体的な指示が飛びます。
 同時に社屋の屋上にプランターを持ち込み、即席菜園を作ります。植物を育てることが、精神的にダイエットを支援することになるそうで、なかなか多角的にダイエットを指導していきます。
 そして劇中で登場する社員食堂のメニューが実に美味そうで、やはりこういうのを観ると食べてみたくなりますねえ。

 とは云え、社命でダイエットと云われましても、本当にそんなに巧くいくものでしょうか。劇中でも「ダイエットとはメンタルなものであるので、本人のモチベーションが重要である」とも語られております。
 そこを補うように肥満社員各員に降りかかる動機付けの演出が笑えました。

 例えば、宮崎吐夢の営業マンは、小学生の娘から嫌われはじめている。
 パパには学校の行事に来てもらいたくない。太ったパパを友達に見られたくない。
 年頃の女の子の、誠にご尤もな意見です。私もこれは肝に銘じておかねばなりません。うーむ。「肥えている」だけで、あれほどまでに嫌われてしまうものなのか。なんと怖ろしい……。

 一方、小林きな子のOLは、カレシの車に乗車が困難になると云う、更に切実な現実が待ち受けています。車種がポルシェであるのも乗りづらい原因ですね。高級車は乗り手の体型も選ぶようです。
 カレシから「せめて助手席に納まるようになってくれ」と懇願される。

 各人がダイエットに取り組まざるを得ないような状況が出来し、社運をかけたダイエット作戦は進行していきます。
 この手のストーリーだと、初めのうちは順調でも、やがて壁にぶち当たる事になるのはお約束でしょう。本作の脚本もきっちりお約束を踏襲しております。そしてそれをまた創意工夫で乗り越えていきます。
 カレーが好物で、「カレーを食べないと死ぬ」とまで云う社員の為に、低カロリーのダイエット・カレーを考案します。これもまた美味そうです。
 だが、二ヶ月が経つ頃に最大の試練が待ち受けていた。

 ダイエットを開始して二ヶ月くらいすると、「停滞期」なるものがやってくるそうな。飢餓状態に対する防衛本能が発動するそうで、精神的にも不安定になる。ここが踏ん張り処です。
 順調に減り続けていた体重も伸び悩み、「たかが食べ物で、何故こんなに苦しまねばならないのか」なんて台詞も飛び出してくる。
 そして遂にダイエットが原因で自殺未遂の騒ぎまでが発生し、ダイエット・キャンペーンは中止の危機に直面する。

 あわやすべては水の泡かと思われてからの、副社長の一念発起の姿が涙ぐましいです。ヘタレ男子が再生する姿は、見た目はカッコ悪いが、男の本質はそこではない。
 ダイエットは人の生き様にも影響を及ぼすもののようです。
 お約束的展開ではありますが、プロジェクトの中止は回避され、副社長のステイタスも回復するクライマックスは、それなりに感動的でした。専務役の酒向芳が印象的です。

 その後の発表会が好評であるのは、もはや当然のハッピーエンド。
 タニタ食堂のメニューを紹介しながら流れていくエンドクレジットもお約束の、後味爽やかなライト感覚のヒューマンコメディでした。




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