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2013年5月1日水曜日

HK 変態仮面

(HENTAI KAMEN)

 全米図書館協会に寄せられたクレームによると、二〇一二年の「図書館の書棚から除外して欲しい書籍」ナンバーワンは、デイブ・ピルキー著の児童文学『スーパーヒーロー・パンツマン(“Captain Underpants”)』シリーズであるそうです。官能小説よりも父兄からの苦情件数が多いというのが凄い(徳間書店から翻訳が刊行されております)。
 しかし「パンツ一丁で悪と戦うヒーロー」を描いた物語がそれほどに不評であるなら、「パンティを被って悪と戦うヒーロー」はどれほど不評になることか(何処の国も似たようなものか)。
 でもアメリカのスーパーヒーローは、伝統的に「タイツを穿いて戦う」ものなのに、パンツではイカンのか。ちょっと不思議デス。

 本作は、あんど慶周のコミック『究極!! 変態仮面』の実写映画化作品です。週刊少年ジャンプ連載時にちょっと目にした記憶がありますが、よもやこれが映画化される日が来ようとは。
 監督・脚本は福田雄一。TVドラマの方の仕事が多いようですが、映画としての監督作品には『大洗にも星はふるなり』(2009年)とか、『コドモ警察』(2013年)なんてのがあります。『逆境ナイン』(2005年)の脚本もこの人か。
 でも、どれもスルーしておりまして、本作が初めて観る福田雄一監督作品になりました。

 女性のパンティを頭に被ることで、超人的能力を発揮するヒーローを描いたコミックスですが、本作の製作発表時に、あの小栗旬が映画化を熱望していたと報じられていたので、てっきり小栗旬が主演するのかと、長いこと誤解しておりました。
 小栗旬だったらスゴかったろうなぁ。やっぱり周囲が引き留めたのでしょうか。でも出演していたら、きっとノリノリで演じてくれたろうに。残念。
 でも小栗旬は脚本協力として名を連ねております。そんなに好きだったのか……。

 代わりと云ってはナンですが、本作の主演は鈴木亮平です。小栗旬が監督した『シュアリー・サムデイ』(2010年)にも出演しておりますし、その縁で呼ばれたのでしょうか。
 本作鑑賞前までは、小栗旬の代役ぽいイメージでしたが、鑑賞後は考えを改めました。
 鈴木亮平、頑張ってます。特にあの肉体美。コミックのビジュアル再現度も相当なものです。
 本作の主演を引き受けた鈴木亮平の勇気には敬意を表したいデス。本作を機に今後はもっと活躍して戴きたい。既に次回作として実写版『ガッチャマン』が決まっておりますね(でも、ミミズクの竜かぁ)。
 そしてヒロイン役が清水富美加です。個人的には『仮面ライダーフォーゼ』のユウキ役でお馴染みです。「宇宙キターッ」

 それほどアダルトな描写があるワケではないのに(いや、SMシーンもありますけど)、年齢制限(PG-12)が付けられております。
 問題なのはセクシーな描写ではなく、下品な下ネタの部分ですかね。
 『TED テッド』(2012年)と似たり寄ったりか。でもあっちは可愛いクマちゃんで見た目を誤魔化せますが、こっちはそうはイカン。
 これほどまでに男性の股間がアップになる映画は観たことありませんデス。男尻も頻繁に映ります。

 原作はちょっと囓った程度ですので、ストーリーがどこまで忠実なのかは判りませんが、変態仮面が誕生する経緯は、わりと忠実であるように思われました。
 正義を愛する強面の拳法部員(でも弱い)、色丞狂介(判り易いが、スゴいネーミングだなあ)は、ある日、強盗の人質立て籠もり事件に遭遇する。人質になっているのは、想いを寄せるクラスメイト姫野愛子(清水富美加)。
 愛子を助けようと現場に忍び込んだ狂介は、正体を隠す為にマスクを被ろうとして、間違って女性用パンティを被ってしまった。
 強引です。強引極まりない展開ですが、ここに突っ込んでいてはハナシが進みませんね。

 しかしそれがきっかけとなり、正義のヒーロー「変態仮面」に覚醒する狂介(こちらもストレートすぎるネーミングが清々しいデス)。変態行為による脳の活性化が超人パワーをもたらすという説明ナレーションがワザとらしい(特撮番組にはアリガチね)。
 鈴木亮平の「顔を隠して身体隠さぬ」スタイルが素晴らしいです。しかもあの肉体美で、クネクネ動く変態フォームもきちんと再現してくれます。気色悪いが、素晴らしい。その上、声だけは落ち着いたヒーロー声なのがギャップありすぎ。

 変身後の、「パンティを被った顔面」はコミックのビジュアルを再現する為にマスクとして表現されております。あの三角形のツリ目は普通のメイクでは再現できんか(白目だし)。
 何となく、目の形がスパイダーマンぽい造形だなぁと思っておりましたが、確信犯でした。
 本作のオープニングクレジットは、モロにサム・ライミ監督の『スパイダーマン』(2002年)のパロディです。タイトルデザインには、「蜘蛛の糸」や「蜘蛛の巣」の代わりに「レース」と「網タイツ」のシルエットが使用されております。心なしか、音楽も似ているような……。
 とりあえず、ダニー・エルフマンとカイル・クーパーには全力で謝罪して戴きたいッ。

 だから劇中で変態仮面が、月夜のビル街をSMのロープを繰り出して、スイングして渡っていく場面なんかが挿入されております。変態だがカッコいい。
 しかし如何に『スパイダーマン』を模しても、予算のケタが格段に落ちてしまうのは仕方ない。
 本作はもうバリバリのVシネマ的クォリティです(と云うか、Vシネそのもの)。低予算B級映画。
 縄で相手を瞬時に亀甲縛りにする場面もありますが、なんか縛りがユルくて興醒めなカットがあるのも哀しい。

 そこを俳優達の「濃い演技」でカバーしようと云う演出ですが、幸いにして芸達者が揃いました。これはこれで、見事なくらいです。
 舞台やTVで活躍されているコメディ俳優が多い(一部、お笑い芸人もいます)ですが、皆さんそろって芸風が濃い。演技がクドい。説明台詞も多すぎ。
 逆にそれで世界観が統一されているようにすら見受けられます。

 本作は後半からは、学園ドラマの方向にストーリーがシフトします。街を守るよりも、学園を守る方に焦点が移っていく。
 実は、主人公達の通う高校の敷地には莫大な埋蔵金が隠されており、それを狙う悪党が学園制圧を目論んでいたのだ。この悪の黒幕がムロツヨシ。
 そして学園を守る変態仮面を倒す為に、次々と刺客が送り込まれる。その名も、真面目仮面、さわやか仮面、男気仮面、ほそマッチョ仮面……。
 『秘密戦隊ゴレンジャー』のギャグ並みにユルユルな悪との、対決しているのだか、コントしているのだか判らない展開です(いや、コントだろう、コレ)。
 劇場内は始終、どこかからクスクス笑いが漏れておりましたが、あれは苦笑だったか。

 本作は爆笑するよりも、苦笑と失笑が連発されるコメディです。でも多分、ビデオリリースされた後、自宅で一人で鑑賞しても詰まらないだけでしょう。大人数で突っ込みながらの鑑賞をお奨めします。
 その点、劇場での鑑賞は「金払って観ている分、笑わないと損だ」みたいな空気もありまして、妙に客受けが良かったように思いマス。

 片端から刺客を倒していく変態仮面に業を煮やしたムロツヨシが送り込む最大の敵が、ニセ変態仮面。ヒーローの偽物が現れると云うのは、定番展開ですね。
 変態の格好をすることに抵抗がある主人公が、もう変身するのはやめようと決意したところに現れ、公序良俗を乱す変態行為を繰り広げる(スカートめくり千人斬りって……)。
 地に落ちた変態仮面の評判を取り戻す為──いや、別に取り戻さなくてもイイと思うのデスが、ヒロインが憧れているので仕方ない──再び、パンティを手にして戦いを挑む主人公。お約束です。

 ここでニセ変態仮面を演じているのは安田顕です。北海道出身の舞台俳優で、TVのバラエティにもよく出演されているそうですが、存じませんでした。でも、この人、スゴいです。
 「もう一人の変態仮面」を演じるので、鈴木亮平と同じ格好をするワケですが、こちらの方が変態ちっく。いや、本物の変態です。
 Wiki先生に教えて戴きますと、安田顕は「脱ぐことが大好き」であるとか、別名「ヌーディスト安田」であるとか、「やってはいけないことをやってしまう男」と呼ばれているそうで、思わず納得しました。
 もう天晴れなほどの変態。見事としか云いようが無い演技です(ホントに演技なのか?)。

 あまりのアブノーマルさに、偽物に敗れ去る変態仮面。でも負けた方がノーマルに近いわけだから、喜ぶべきか。
 だが学園に危機が迫り、愛子の身にも危険が及び、再び狂介は立ち上がる。
 「ノーマルじゃ助けられないなどと誰が決めた」「より変態である方が強いなどと云う法則は無い」と、ある意味、当たり前の真理に気付いて最終決戦に臨みます。

 本作は随所に、あまりにもバカバカしいことを大真面目に口にしたり、実行に移すことで笑いを誘う演出が炸裂しております。シュールなコメディ映画です。
 最終決戦でも、アクションは真面目にやっています。殺陣の振付も見事です。少ない予算ながらも、CGのエフェクトもきっちり入りますし、製作体制は真摯なものです。
 でも男二人が尻丸出しで、互いに股間を相手の顔に押しつけようと戦う図と云うのは……。

 全体としては仮面ライダーと同じく、石ノ森章太郎の描く「異形のヒーロー」路線であり、特撮ヒーローものへのオマージュに溢れた作品ですが、やはりビジュアルがアブノーマル過ぎるか。
 キャッチコピーの「愛子ちゃん、どうか俺の闘う姿を見ないで欲しい」も、これだけならシリアスなのですがねえ。
 他にも「世界の為だ。キミのパンティを、俺に……くれッ」なんて台詞もあります。本人は大真面目に口にしております。一応、「愛の力で敵を倒して、世界を救う」描写にはなっていて、それなりに感動的……かも知れません。
 エンドクレジットの演出が、これまた『スパイダーマン2』(2004年)のパロディ……なのかな。でも変態仮面を「日本のスパイダーマン」と呼ぶことについては如何なものか。そりゃあんまりだ。




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