2013年4月3日水曜日

シュガー・ラッシュ

(Wreck-It Ralph)

 今年(2013年・第85回)のアカデミー賞長編アニメーション部門にノミネートされておりましたディズニー製作のCGアニメーションであります。
 残念ながら受賞はピクサー製作の『メリダとおそろしの森』でしたが、本作鑑賞後、この受賞については如何なものかと思わざるを得ませんデス。どっちか選べと云われたら、私は迷わず本作の方を選ぶでしょう。
 ピクサー・アニメとディズニー・アニメを見比べて、ディズニーの方がいいと云ってしまうなど、おかしいのではないかと自分でも思うのですが、ジョン・ラセターが製作総指揮を務めておりますので、もはやピクサーとディズニーの違いがなくなっているのでしょうか。

 実は最初は本作がそれほど素晴らしいとは思えませんでした。コンピュータ・ゲームのパロディみたいな場面ばかり予告編で流されておりましたから。
 私も『ストリートファイター II 』は好きでしたが、ザンギエフがグループセラピーで喋っている場面に違和感アリアリで(隣にはベガやクッパもいるしな)。ディズニーともあろう大御所が、日本のゲームのパロディを取り込むなんぞしてエエんかいな、なんて考えておりました。

 だから当初の目当ては、同時上映される短編アニメ『紙ひこうき(“PAPERMAN”)』の方でした。たった七分しかない作品ですが、こちらは同年のアカデミー賞短編アニメーション部門の受賞作です。
 こちらはもう、期待に違わぬ出来映えで、手書きの2Dアニメ──のように見えますが、CG作品か──的ビジュアルに、ほぼモノクロ、かつ台詞なしの無言劇で進行する実にロマンチックな作品でした。
 本作は『塔の上のラプンツェル』(2010年)等でアニメーターを務めたジョン・カースの初監督作品です。まったくの無言ではなく、若干の言葉にならない声があって、監督自身が演じていたりします。
 通勤途中の駅で出会った男女が繰り広げる寸劇ですが、青年の側の悪戦苦闘が笑える一篇でした。都会のビルの谷間を乱舞する紙飛行機の群れがファンタスティックでありました。

 さて、それで『シュガー・ラッシュ』の方は……。
 まったく期待せずに見始めて、脚本の見事さに感心してしまいました。
 コンピュータ・ゲームの内部の世界を描く──と云うと、ディズニーの映画では実写作品として『トロン』(1982年)がありますが、本作はその正統な発展形といった趣です。本作があれば、もう『トロン : レガシー』(2010年)については忘れても良いのではないかと思えるくらい(いや忘れよう)。
 第85回アカデミー賞アニメーション部門は長編も短編もディズニー作品でよかったのに。ダブルで受賞すると差し障りでもあるんですかね。

 監督は『ザ・シンプソンズ』等で監督を務めてきたリッチ・ムーア。TVアニメの監督として、エミー賞やアニー賞の受賞歴がある方だそうですが、私は『ザ・シンプソンズ』はほとんど観ておりませんデス。
 どちらかと云うと『ザ・シンプソンズ』より、『フューチュラマ』と云うSFアニメの方を観てみたい(なんかネビュラ賞にもノミネートされたそうですし)。
 脚本はフィル・ジョンストンと云う方で、コメディ映画の脚本を何作か書いておられますが、観たこと無いです(そもそも日本未公開作ばかり)。唯一、『バッドトリップ! 消えたNO.1セールスマンと史上最悪の代理出張』(2011年)がビデオスルーされてリリースおります。見るからにお馬鹿なコメディ映画のようですが……。タイトルだけ見て敬遠するのは止めた方が良いのかしら。

 コンピュータ・ゲーム内部の世界を描くところが『トロン』のようですが、ゲームの中にいるキャラクター達が、人間が居なくなってから夜な夜な勝手に動き始め、ゲーム機間で交流したりしていると云うのが、デジタル式の『トイ・ストーリー』(1995年)みたいでもあります。
 その中で、三〇年もゲームセンターに鎮座している古株のゲームがあった。8ビットのレトロな描写が実に懐かしい。

 本作に登場するメインのゲームはオリジナルですが、一緒に登場するゲームはどこかで見たゲームばかり。日本のゲームは海外でも人気があると云うのがよく判ります。
 セガやら、ニンテンドーやら、カプコンやら……。
 劇中では、「上上下下左右左右BA」と云う、あの有名すぎるコマンドも披露されます。ゲームのキャラクターがゲーム・システムにも干渉できると云うメタ描写まであります。
 実は本作には、現代日本の風俗なども結構、リスペクトされ取り込まれております。嬉しいデスね。主題歌がAKB48と云うのも日本版だけではないのか。

 冒頭は、そんなゲームの世界で、各ゲームから悪役を演じるキャラクター達が一堂に会してグループセラピーをしているところから始まります。そこで本作の主人公ラルフが自己紹介を兼ねて自分のことを語る場面が、キャラクターの紹介や所属するゲーム設定の説明も兼ねており、なかなか巧い展開です。
 ザンギエフもここに登場して自己紹介し、「俺はザンギエフ。悪役だ」と自己紹介しております。「悪役だからって、悪い奴ばかりとは限らないだろう」って、それはその通りなのですが……。

 はて。『ストリートファイター II 』のザンギエフって、悪役でしたかしら(海外では悪役設定らしい)。
 ニンテンドーと一緒に、カプコンのゲームも登場させられるなら、『バイオハザード』シリーズのウェスカーとかも登場させてもらいたかったデス。どっちかと云うと、ザンギエフの台詞はウェスカーくらいの悪党が口にする方がインパクトありそうな気がするのですが……。
 善人のウェスカーと云うのも、想像できんか。

 もはやレトロと呼ばれても人気のゲームである「フィックス・イット・フェリックス」の悪役ラルフは、自分の役割にウンザリしていた。ゲーム内では、他のキャラクターから爪弾きにされ、三〇周年を祝うパーティにも呼ばれない。
 もう元のゲームから居なくなってしまおうかとも考えている。このあたりの会話にもちゃんと伏線が張られているのが巧いです。

 ゲームの主人公フィックスが毎回、メダルを授与されるのを見て、ラルフは自分もメダルが欲しい、メダルがあれば他のキャラクターの仲間に入れてもらえるだろうと考える。メダルがヒーローの証であり、悪役は決して手に入れられないものと云う設定は判り易いですね。
 ゲームの勝者にメダルを授与する別のゲームに侵入し、メダルを失敬してこようと考えたまでは良かったが……。

 本作で登場する主なゲームは三つあります。
 まずラルフが属するレトロな「フィックス・イット・フェリックス」。
 メダルを奪おうと乗り込んでいくのが、「ヒーローズ・デューティ」なる一人称視点のシューテング・ゲームの世界。設定がモロにSF戦争もの。
 そして、首尾良くメダルを奪ったはいいが、アクシデントから迷い込んでしまうファンタジーなレースゲームの世界が「シュガー・ラッシュ」。

 各ゲームのキャラクターが、頭身も、デザインも全然合っていないのが笑えます。解像度が高いというのも、ゲームのキャラクターには褒め言葉らしい。
 実は四つ目の世界として、各ゲーム機の筐体をつなぐ〈セントラル・ステーション〉なる世界があって、ここがハブの役目を果たしているわけですが、各ゲーム世界からやって来た、頭身も様々、デザインも様々なキャラクターが行き交っている描写が、実にSFっぽい。
 エイリアンの行き交う中継ステーションと云った趣です。どこかで見たようなキャラもチラチラ映っておりますし。

 「シュガー・ラッシュ」の世界で、ラルフはバグ持ちのキャラクター、ヴァネロペと出会う。こまっしゃくれて生意気な上にテンション高い女の子なので、相手にするのは疲れそうですが。
 始めはムカついていたラルフですが、ヴァネロペもまた孤独だと知った時点で怒りが消え、友情を深めていくようになる展開がいい感じデス。根は素直な女の子が、不遇な境遇から精一杯、虚勢を張って生きていたと判るあたりで、もうすべて許そう……と云う気になるのは男だけでしょうか(笑)。

 ゲームに登場できないキャラクターが何故、存在しているのか。何とかレースに登場したいと頑張るヴァネロペとラルフは、やがて「シュガー・ラッシュ」のシステムに裏に隠された陰謀に突き当たる。同時に、ラルフが「ヒーローズ・デューティ」の世界から連れてきてしまった悪質なモンスターが大増殖し、「シュガー・ラッシュ」の世界に破局が迫りつつあった。
 ラルフを連れ戻しに来たフェリックスと、「ヒーローズ・デューティ」世界のカルホーン軍曹までも巻き込み、事態は世界消滅の危機に直面する。
 余談ながら、本作に於けるカルホーン軍曹は実にイイ女です。キャラの造形が出色ですわ。
 
 そして御都合主義に走ることなく、様々なゲーム上の設定を駆使する脚本が素晴らしいです。複雑な設定をよくここまで活用できたものだと感心してしまいます。張り巡らした伏線と、その回収がキッチリ行われております。
 更に、目先の奇抜さに頼らない、王道を行く「友情と自己犠牲の物語」が感動を呼びますね。
 本作は「仕事に疲れて、自分を見失っていた男」が、再び生きる活力を取り戻すまでの物語でもあります。
 馬鹿らしいと思っていたセラピーの標語が、最後に本当に意味を持ってくる。

 ラストはこれ以上ないくらいのハッピーエンド(ディズニー作品ですし)。八方丸く収まる大団円は、観ていて実に爽快です。
 本作はお子様よりも、ある程度の年齢の「疲れたオヤジ」にこそ、観て戴きたいものです。
 「ヒーローになるのに、メダルなんか必要無かった」とか、「俺はもう幸せだ。仕事に責任がある。悪役で居るのも悪くない」と語るラルフの姿に、私も力を分けてもらいました。

● 追記
 本作は日本語吹替版で鑑賞いたしました(と云うか、他に選択肢がなかった)。字幕版の上映も増やしていただきたかったデス。
 いや、主演の山寺宏一には何の問題もありませぬが、どうせDVDで再生するときは日本語吹替オンリーになりますし。ラルフ役のジョン・C・ライリーが主演の映画は少ないのに。いや、近年は『おとなのけんか』(2011年)という傑作がありましたか。
 それに吹替版では、ベガ役は楠大典、ザンギエフ役は広田みのるでしたが、やはりここは内海賢二とか玄田哲章を配役していただきたかったデス。そうだ玄田哲章ならベガもザンギエフも一人二役でOKだったのに(笑)。




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