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2013年4月4日木曜日

パラノーマン/ブライス・ホローの謎 (3D)

(ParaNorman)

 本作もまた、今年(2013年・第85回)のアカデミー賞において長編アニメーション部門にノミネートされていた作品の一つです。
 しかしどの作品も3DなCGか人形アニメなんですね。フツーの2Dアニメは、もう日本以外では製作されないのか。
 ともあれ、これで『ザ・パイレーツ! バンド・オブ・ミスフィッツ』を除く四作品──『メリダとおそろしの森』、『フランケンウィニー』、『シュガー・ラッシュ』と本作──を観たわけですが(『ザ・パイレーツ!』は公開されないのかな。面白そうなのに)、ますます『メリダ~』が受賞したことが不可解です。
 個人的には『シュガー~』>本作>『メリダ~』>『フランケン~』 と云う感じなのですが。

 本作は『フランケンウィニー』と同じく、人形を使用したストップモーション・アニメです。ジャンルが、ちょっとホラーなファンタジーと云うのも一緒。
 本作の製作会社のライカと云うのは、『コララインとボタンの魔女』(2009年)も製作しております。人形の動かし方とか雰囲気に似たものを感じますが、映像的には『コラライン~』よりも更に進化しているように見受けられます。
 監督はサム・フェルとクリス・バトラーの共同監督。クリスの方は脚本も手掛けており、『コラライン~』や『コープス・ブライド』(2005年)ではストーリーボードを担当していたそうです。本作がクリスの初監督作品か。

 死者を視ることが出来る霊能力少年ノーマン──好きで視ているわけではなく、体質らしい──を主人公にして、アメリカ東部の小さな田舎街ブライスホローが〈魔女の呪い〉と、ゾンビ達に襲われる事件を描く、実にB級ホラー映画ライクな一篇です。
 定番な演出が随所に見受けられるのもお約束ですね。しかしそれをストップモーションの人形アニメで再現しているところに、マニアックなものを感じます。これは手間かけて作ってますよ。

 本作はアニメではありますが、日本語吹替版での上映がなく、字幕版のみと云う、ちょっと不遇な扱いの公開でした。3D上映なのに字幕版しかないのも、少し煩わしいです。
 本作は出来も良いし、もっと拡大公開してもらいたいのですが。ホラーっぽいからか避けられたのでしょうか。しかし『フランケンウィニー』だって、ホラーだったのに。監督にネームバリューがないからか。
 まぁ、演じたオリジナルの役者さんの声が聞けるのはいいのですが。

 主人公ノーマンの声を演じているのが、コディ・スミット=マクフィーくん。『ザ・ロード』(2009年)では、ヴィゴ・モーテンセンの息子の役を演じ、『モールス』(2010年)では、クロエ・グレース・モレッツと共演していた、あの少年ですね。
 主人公をイジメる悪童の声が、クリストファー・ミンツ=プラッセでした。『キック・アス』(2010年)のレッドミストではないか。『フライトナイト/恐怖の夜』(2011年)でもお見かけしましたし、この手のジャンルものには馴染みのある方ですね。
 他にもケイシー・アフレックや、ジョン・グッドマンが出演しておられます。

 主人公はホラー映画好きの少年であり、自宅の居間でTVのホラー劇場を観ていると云う冒頭の展開からして、テッパンです。ちゃんと観ている劇中劇も、人形アニメで動いています。
 背後のソファに座って編み物をしているお婆ちゃんに、ストーリーを解説してあげたりしておりますが、実はお婆ちゃんは既に亡くなっており、家族の誰にも視ることが出来ない。
 「もう、お婆ちゃんは死んだんだ」と説教されても、視えてしまうのだから仕方がない。

 登校途中でも、誰も居ない路上でノーマンは様々な霊に挨拶していきます。街中、至るところにゴーストがおり、結構フレンドリーな連中らしいと云うのがユーモラスです。
 ゴーストは「死後も心残りのある人達」であり、安心すると成仏するらしい。
 これらのゴーストも人形ですが、映像としては半透明に透けて見えています。手間かけて合成していますね。またCGによる効果も凝っています。

 『コラライン~』のメイキングによると、人形の表情を変える為に、顔面のパーツを取替ながら撮影するので、本来のキャラクターは顔面にパーツの継ぎ目が見えるそうな。完成した映像は、CG処理で継ぎ目を消しているそうで、本作でもこの手法が用いられているのでしょう。
 キャラクターのくるくる変わる表情が見事です。

 しかし当然、霊なんぞと会話しているとクラスメイトからは気味悪がられ、ハブにされる。のみならず悪童共からはからかいの対象にされ、嫌がらせを受け続けている。ノーマンが内向的な性格になってしまうのも宜なるかな。
 味方をしてくれるのはメタボな親友ニールのみ(イジメられるのは相身互いか)。

 実はこの街ブライス・ホローは、三〇〇年前まで魔女狩りが行われており、あちこちに魔女にちなんだ像や、看板が見て取れます。魔女で町興ししているようにも見受けられます。
 学芸会の演し物も、街の歴史にちなんだ魔女裁判の劇(伏線ですねえ)。
 そこへ母方の叔父さん(これがジョン・グッドマン)が現れる。ノーマンに霊能力があるのは、母方の血筋からのようです。
 叔父さんのキャラ造形がジョン・グッドマンをモデルにしているのが笑えます(似てるわ)。

 実は叔父さんは健康を害していて、余命僅かであると自覚しているらしい。今まで〈魔女の呪い〉から人知れず街を守ってきたが、もはやこれ以上、自分には続けることが出来ない。
 甥のノーマンを後継者に指名しようとして、息絶える。死んだ後も霊となって現れてくれるのはいいのですが、ノーマンが引き受けたことに安心して、肝心なことを何も教えることなく成仏してしまう。ウッカリにも程がある。

 詳しいことを何も教えられないまま、〈魔女の呪い〉から街を守る為に奮闘するノーマンだが、教えられた儀式は中途半端で不完全だったらしく、かつて〈魔女の呪い〉を受けて死んだと云う、三〇〇年前の七体の死人がゾンビとなって甦ってしまう。
 親友ニール、悪童アルヴィンも巻き込んで、ノーマンは街を救う為に奔走する羽目に。

 大人達の知らないところで、子供達だけが危機に立ち向かう図式になるあたり、雰囲気的にはロバート・ゼメキスが製作したCGアニメ『モンスター・ハウス』(2006年)の人形アニメ版といったようにも感じられます。
 あるいはスピルバーグ製作の『グーニーズ』(1985年)にも連なる系譜というか。

 このまま放置すれば、〈魔女の呪い〉によって町が滅ぼされると云う。事態を打開するには「魔女の墓」の前で、ある本を読まねばならないが、肝心の墓がどこにあるのか判らない。手掛かりを求めてノーマン達は市役所に向かう。古い記録を当たれば、何か判るかも知れない。
 しかし時既に遅く、町外れで甦ったゾンビ達はブライスホローの中心市街に到達していた。

 当然、一大パニックになるのかと思いきや、街の住民が反撃に転じる展開に意表を突かれました。それどころか、人間側がゾンビを狩り始める。手に手に猟銃やら松明やら持って集結する住民達がコワイ。
 ゾンビの方が人間から逃れようと慌てふためくあたりまでは、まだユーモラスでしたが、次第に状況はアブなくなってくる。どう見ても人間側の方が凶暴で残酷です。
 「正義は我にあり」と狂信し、暴徒化する住民から逃れようと、ゾンビ達も市役所に逃げ込んでくる。

 見た目は怖ろしいモンスター達が、実は人間から迫害される可哀想な存在だった──と云うのが、クライヴ・バーカー原作・監督・脚本の『ミディアン』(1990年)のようです。
 実は、本作はマイノリティを容認しない不寛容と云う、人間の醜い部分を訴える内容になっております。「自分と違う」ことが「怖い」からと云って、他者を排斥するのは如何なものか(それをホラー映画で語っちゃうのが巧いですね)。
 ゾンビ達と対峙したノーマンは、三〇〇年前に本当は何があったのかを知ることになる。

 かつてノーマンと同じく霊視能力を持った幼い少女を、ブライスホローの住民は異端視し、遂には魔女裁判にかけて処刑してしまったのだった。七人のゾンビは、そのときの裁判の判事と陪審であり、恨みを呑んで死んだ少女から「永遠に人から迫害される呪い」を受けていたのだ。
 実は魔女の方が可哀想で、街を滅ぼそうとする動機に正当性があったという事実。自分の境遇と重なるところが多く、同情してしまうノーマン(少女の苗字が、ノーマンの母方の姓であるので、遠い親戚に当たるのか)。
 そして三〇〇年間、叔父さんを始め何人もの「守り手」が街を守り続けていたのだが、根本的な解決には至らず、毎年の儀式でお茶を濁し続けていたことにノーマンは気付く。
 ノーマンは歴代の「守り手」がやったことのない、魔女の恨みを根本的に取り除く方法を試みようとする。

 大筋の脚本はよく出来ているのですが、最終決戦の地となる「魔女の墓」の場所が、クライマックス前にあっさり判ってしまうのが、ミステリとしてはちょっと弱かったように感じられました。せっかく市役所で古い記録まで漁っていたのに、それは役に立たなかったのがイマイチ。
 ここがしっかりしていたら、私の評価は『シュガー・ラッシュ』より上になったでしょうに。
 ただ、暴徒と化した町民からノーマンを守ろうと、それまで彼を邪険にしていた家族が結束する場面は感動的でした。お姉ちゃん、いいとこあるじゃなイカ。

 魔女のCGエフェクトも迫力ありますし、ストップモーション・アニメとは思えぬほどダイナミックなクライマックス描写は凄いデス(しかも哀しい)。
 そしてノーマンの決死の尽力により、遂に少女の魂は平安を取り戻し、呪いを受けていたゾンビ達も成仏する。
 ノーマンは家族との絆を取り戻し、一件落着となる心温まるハッピーエンドでありました。
 個人的には『フランケンウィニー』よりも本作をお薦めしたいです。




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